神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014 湿潤時の布帛のべたつき感の評価方法の検討 化学技術部 環境安全チーム 加 藤 三 貴 クールビズは社会にすっかり定着している.クールビズの商品群は吸水速乾性を謳っている商品が多いが,布帛 (ふはく)が濡れた時の不快感の中心はべたつき感であって,乾燥速度では無い.そこで,湿潤時の布帛のべたつ き感の評価方法を検討することにより,それらの商品群の快適感評価の検討を行った.布帛は厚さや織組織,編組 織により含水量が変わってしまうため,一定量の給水量でべたつき感を評価する方法と,最大の滑り抵抗を示すま での最大給水量で評価する方法の 2 つの方法を検討した.その結果,両者の方法ともべたつき感との相関性が高い ことがわかった. キーワード:布帛,濡れ,吸水量,べたつき感,快適性評価 1 はじめに ①濡れ広がり クールビズやウォームビズなど衣服による体温調整は, すっかり定着した感がある.ウォームビズは比較的どのよ うにすれば暖かく快適に衣服を着ることができるかが,わ ②恒率減少期間 かりやすいが,クールビズは意外と分りにくい.昔から言 われている,夏は麻素材がいいと言うのは,主に材料の持 つ熱伝導特性と通気性が寄与している.しかし,今のクー ルビズ素材は麻素材ではなく,ポリエステルなどの合成繊 ③減率減少期間 維がよく用いられている.これは,水分移動に伴う熱移動 特性が涼しさのポイントとなるためである.ところが,化 学繊維は水に濡れると,皮膚との間でべとつくため,不快 な繊維素材となってしまう.そこで,快適性評価の一部と 図 1 乾燥過程のモデル して,クールビズ素材のべとつき感の評価方法を検討する 表 1 試験対象試料 ことにした. 品名 厚さ(mm) 目付(g/m2) 官能評価 2 布帛の乾燥過程について 一般に布帛の乾燥過程は,①水が濡れて厚さ方向および 織物① 0.08 55.1 織物② 0.21 143 ニット① 0.51 170 べたつく ややべたつく べたつかない 面内方向へ広がる過程(繊維素材や加工剤の親水性に依存 する),②濡れ広がりが止まり,表面から水が蒸発してい がりを大きくするため,疎水性の素材を用いて毛管現象に く恒率減少期間(繊維素材に依存しない),③内部から表 より広がり面積を大きくするようなものも見受けられる. 面への水の移動が乾燥の律速となる減率乾燥期間(繊維素 3 べたつき感の評価に用いた試料 材や構造に依存する)の 3 つに分けられる(図1).吸水性 は,①の濡れ広がる過程を反映した特性であり,その拡散 べたつき感の評価に用いた試料を表 1 に示す.なお, した面積により②の恒率減少期間の勾配は決定されてしま 布帛の重さと同じ量の水を含ませて,前腕部を滑らせた時 う.そして,織組織や編組織,繊維素材の親水性,疎水性 の官能評価についても併せて表記した. などの特定により,③の減率減少期間は影響を受けてしま 4 業界法による評価方法 う.①の特性は繊維素材そのものの親水性の度合いや,疎 現在,業界で用いられている液滴を滴下した時の質量減 水性の繊維であっても繊維間の毛管現象による水の濡れ広 少速度を,初期量を 100 %として行った評価を行った. がりなどで変わってくる.最近のクールビズ素材は濡れ広 88 神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014 図 4 給水量に対する滑り抵抗の変化(織物②) 表 2 滑り抵抗の結果 図 2 各試料の経時変化に対織物する残留水分率 ② 品名 織物① 織物② ニット① 滑り抵抗 (N) 11.2 8.1 2.6 ③ 表 3 最大滑り抵抗を示す給水量 品名 織物① 織物② ニット① 最大滑り抵抗を示 す時の給水量(ml) 0.15 0.94 6.2 した.それぞれの測定結果を表 2 に示す.この評価での 順番は官能評価と同じであり,この値は,べたつき感の評 価として適切であると考えられる. 図 3 吸水速乾ニットの蒸散率に関する変動率 5.2 保水量に対する滑り抵抗の変化 それぞれの布帛の厚さや織,編組織の違いにより給水保 これは,それぞれの布帛に 0.5 mlの蒸留水を滴下し, 持量が異なる,もしくはアクリル板との界面に存在する水 その重量減少率を算出したものである(図 2). の量の変化により,滑り抵抗が異なる可能性があるため, これからも,乾燥速度が速いことが,必ずしも官能評 給水量を変化させながら,滑り抵抗を測定してみたところ, 価のべたつき感と相関があるとは言えないことがわかる. 以下のような結果が得られた(図 4).また,それぞれの また,布帛内での水分移動は②の恒率減少期間よりも 滑り抵抗の最大値を示す時の給水量は,以下の表のような 結果となった(表 3). ③の減率減少期間にその特定が反映されている.そこで③ の減率減少区間での評価が可能か検討したところ,残留水 この給水量の多い順番は,官能評価での順番を同じであ 分率の変動率が大きく,その期間での評価することが難し り,この方法による評価も適切であると考えられる. いことがわかった(図 3). 6 まとめ 5 べたつき感の評価方法 本報告は,クールビズに関する商品群のべたつき感を 5.1 定量吸水による滑り抵抗 実際の感覚に近い滑り抵抗の大小および,最大滑り抵抗を べとつき感を評価する方法として,アクリル板に布帛を 示す給水量により評価する方法を提案するものである. 置き,それに蒸留水を滴下して水平方向の滑り抵抗をデジ 吸水速乾素材は,乾燥速度が速い場合でもべとつき感 タルフォースゲージ(IMADA 社製,ZP-200N)により が大きい布帛もあり,一般的にイメージしている,乾燥が 測定した.その滑り抵抗を測定する条件を決めるため,試 速ければさらっとした感覚が得られるのではないかという 料長を 5 cm,10 cm,15 cm,試料幅を同様に 5 cm,10 考えに合わない例もあることが明らかとなった.いわば, cm,15 cm の組み合わせで試験条件を検討した結果,い 布帛に水が残っていても,その厚さによる給水保持量の量 cm2(試料幅 や形状などにより,皮膚との間の滑り抵抗が低くなるよう 10 cm,試料長 15 cm もしくは試料幅 15 cm,試料長 10 な布帛の設計が重要になることを示している.それらを適 cm)ときが,ばらつきが最小となったので,最適条件と 切に評価できる評価方法をつくる事により,より適切な商 した.なお,給水量は布帛の重量と同じ量の蒸留水を滴下 品開発の一助となるだろうと思われる. ずれの試料においても,重なり面積が 150 89
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