基礎量子化学 2014 年度前期 期末試験 番号( 2014/08/01 ) 氏名( ) [1]次の文を読んで,以下の問1および問 2 に答えよ。 Hückel(ヒュッケル)が 1931 年に提唱した一組 の近似(ヒュッケル近似)を使うことによって,炭 表1.ヘテロ原子のパラメータ 素原子の鎖に沿って単結合と二重結合が交互につな がっている共役分子のπ分子オービタルのエネルギ ーや分子オービタル関数(MO)を計算することがで きる。これをヒュッケル分子軌道法(HMO 法)という。 また,ヘテロ原子を含む場合も同じように計算で きるが,クーロン積分αおよび共鳴積分βのパラメ ータとして,それぞれのヘテロ原子に適したパラメ ータを用いる。ストライトウィーザーがまとめたパ ラメータを表1に示す。ここで,原子 X のクーロン積分αX は式(1),結合 XY の 2 O 1 C 共鳴積分βXY は式(2)で与えられる。αは炭素原子のクーロン積分,βは炭素-炭 素結合 C-C の共鳴積分である。 α X = α + aX × β (1) β XY = bXY × β (2) H H 図1.ホルムアルデヒド 問1 ホルムアルデヒドにヒュッケル分子軌道法を適用してエネルギーや分子オービタル関数を求めることが できる。ただし,ヘテロ原子である酸素原子を含むので,表1に示したパラメータを用いる必要がある。図1に 示すように,炭素原子を1,酸素原子を2とする。炭素原子の場合のクーロン積分はα,C-C 結合の共鳴積分 はβである。したがって,炭素原子1のクーロン積分α1 はαである。酸素原子は電子を1つしかπ結合に提供 & の値 1.0 を選べば良い。炭素原子1と酸 していないので酸素原子2のクーロン積分のパラメータαXとしては O 素原子2の結合は C=O 結合であるから共鳴積分のパラメータ bXY としては C=O の値 1.0 を選べば良い。これら の数値を用いると次のように書ける。 クーロン積分 炭素原子1 α1 = α クーロン積分 酸素原子2 α2 = α+ 1.0×β 共鳴積分 β2 = 1.0×β (1)ホルムアルデヒドの永年行列式を書け。 α−E β =0 β α +β −E (2)ホルムアルデヒドの共鳴構造式を書け。 各要素をβで割り x=(α-E)/βとおくと, x 1 1 x +1 =0 (3)永年行列式を解いて,ホルムアルデヒドの各πオービタルのエネルギーおよび,全π電子エネルギーを計 算せよ。なお, 5 = 2.236 x 1 である。 1 =0 x +1 E = α − βx x = 0.618, − 1.618 x2 + x −1= 0 −1± 1+ 4 2 ⎧ 0.618 x=⎨ ⎩− 1.618 ⎧α − 0.618β E=⎨ ⎩ α + 1.618 x x= 全π電子エネルギー = 2×(α+1.618β)=2α+3.236β 5 = 2.236 (4)ホルムアルデヒドのπ分子オービタル関数φ1 とφ2 を式(3)に示す(χ1,χ2 はそれぞれ炭素原子1および 酸素原子2の 2p 原子オービタルである) 。 φ1 = c11 χ1 + c21 χ 2 = 0.526 χ1 + 0.851χ 2 φ2 = c12 χ1 + c22 χ 2 = 0.851χ1 − 0.526 χ 2 (3) 炭素原子1および酸素原子2のπ電子密度を計算して図1の分子構造式に記入せよ。π電子密度はどちらの原 子の方が大きいか,またそれはなぜか,ホルムアルデヒドの共鳴構造式に基づいて説明せよ。 qa = [π電子密度 HOMO 1 q1 = ∑ 2c = 2c μ =1 2 1μ 2 11 nμ c μ ∑ μ =1 2 a ] 1 2 q2 = ∑ 2c22μ = 2c21 μ =1 = 2 × (0.5257 ) = 2 × (0.8506 ) = 0.5527 = 1.447 2 2 π電子密度は炭素原子で 0.55, 酸素原子で 1.45 であり, 酸素原子上にπ電子が多く集まっている。 共鳴構造式で 酸素原子上に負電荷が集まるのと一致する。 問2 図2にホルムアミドの分子構造式と各原子の番号を示す。ホルムアミドも O1 ホルムアルデヒドと同じように表1のヘテロ原子のパラメータを適用してヒュッ ケル分子軌道法を用いてエネルギー等を計算できる。 C (1)ホルムアミドの永年行列式を書け(解く必要はない) 。 α +β −E β 0 β α−E 0 .8 β =0 0 0 .8 β α + 1 .5 β − E 各要素をβで割り,x=(α-E)/βとおくと, (2)ホルムアミドの共鳴構造式を書け。 H 2 ・・ N3 H x +1 1 0 1 0 x 0.8 = 0 0.8 x + 1.5 図2.ホルムアミド H (3)ホルムアミドのπ分子オービタル関数φ1,φ2,φ3 および各エネルギーを式(4)に示す(χ1,χ2,χ3 は それぞれ酸素原子1,炭素原子2および窒素原子3の 2p 原子オービタルである) 。 φ1 = c11 χ1 + c21 χ 2 + c31 χ 3 = 0.502 χ1 + 0.499 χ 2 + 0.706 χ 3, E1 = α + 1.995β φ2 = c12 χ1 + c22 χ 2 + c32 χ 3 = 0.724 χ1 + 0.206 χ 2 − 0.659 χ 3, E 2 = α + 1.283β φ3 = c13 χ1 + c23 χ 2 + c33 χ 3 = 0.474 χ1 − 0.842 χ 2 + 0.259 χ 3, E3 = α − 0.778β (4) 酸素原子1,炭素原子2および窒素原子3のπ電子密度を計算して,図2の分子構造式に記入せよ。ホルムア ルデヒドとホルムアミドのπ電子密度を比べると,酸素原子のπ電子密度はどちらの分子の方が大きいか,また それはなぜか,ホルムアミドの共鳴構造式に基づいて説明せよ。 q1 = HOMO ∑ nμ c12μ = n1c112 + n2 c122 μ =1 = 2 × 0.502 + 2 × 0.724 2 q2 = 2 = 1.552 HOMO ∑ nμ c22μ = n1c212 + n2 c222 μ =1 = 2 × 0.499 + 2 × 0.206 2 q3 = 2 = 0.583 HOMO nμ c μ = n c ∑ μ =1 2 3 2 1 31 2 + n 2 c32 = 2 × 706 2 + 2 × 0.659 2 = 1.865 ホルムアルデヒドよりもホルムアミドの方が酸素原子のπ電子密度が大きい。ホルムアミドでは,共鳴構造式に示さ れているように、N 原子からも C=O へπ電子が流れているので酸素原子の電子密度が増えている。 (4)図3に示したエチレンの例にならって,ホルムアミドの分子軌道ダイヤ ψ 2 = 0.707 χ1 − 0.707 χ 2 α グラムを描け。 α −β α −β α +β φ3 = 0.474 χ1 − 0.842 χ 2 + 0.259 χ 3 図3.エチレンの分子軌道ダ α α +β φ2 = 0.724 χ1 + 0.206 χ 2 − 0.659 χ 3 α + 2β φ1 = 0.502 χ1 + 0.499 χ 2 + 0.706 χ 3 ψ 1 = 0.707 χ1 + 0.707 χ 2 E = α − 0 . 778 β E = α + 1 . 283 β イヤグラム E = α + 1 . 995 β [2]sp3 混成オービタルに関する以下の問1および問 2 に答えよ。 問1 sp3 混成オービタルとはどのようなものか説明せよ。 炭素原子の価電子は 2s22p2 であり、2つの結合を作るはずであるが,実際は 4 つの結合を作る.これは,2s 電子の 1 つが 2pz へ昇位したと考えれば,2s12px12py12pz1 となって,4 つの結合を説明できる.しかし、この 説明では,3つの C2p-H1s 結合と1つの C2s-H1s 結合ができることになるが,実際には 4 つの C-H 結合は 等価である.そこで,1 つの C2s オービタルと 3 つの C2p オービタルから4つの等価な sp3 混成オービタルが 作られると考える.これらの sp3 混成オービタルは炭素原子が中心にある正四面体の頂点方向を向いている. 問 2 メタン CH4,アンモニア NH3,水 H2O の分子構造は中心原子である炭素原子,窒素原子,酸素原子が sp3 混成オービタルをとっていると考えるとうまく説明できる。メタン CH4 の結合角∠ H-C-H は正四面体角 109.5°であるが,アンモニア NH3 の結合角∠ H-N-H は 107.8°,水 H2O の結合角∠ H-O-H は 104.5°と小 さくなることを電子対の反発の考え方から説明せよ。 メタンでは,結合電子対(bonded pair; bp)の反発のために,電子対が互いに最も遠ざかるような配置,すな わち正四面体の頂点方向に向かうので,結合角∠H-C-H は正四面体角 109.5°である.アンモニアでは非 共有電子対(lone pair; lp)が1つ,水では lp が2つある.電子対の反発は bp-bp<bp-lp<lp-lp の順に強く なるので,アンモニアでは正四面体角よりも少し小さくなって∠H-N-H は 107.8°,水ではさらに小さく なって∠H-O-H は 104.5°となる. [3]次の文を読み,表 2 の空欄①~⑧にあてはまる適当な数値または文字式を記入せよ。 水素型原子の 1 電子波動関数 Ψ (rθϕ ) は,次式のように 3 つの量子数 n,l,ml で定義される。 Ψ (rθϕ ) = NRn ,l (r )Yl ,m (θϕ ) ここで,N は規格化定数,Y は球面調和関数Yl ,m (θϕ ) = Θ l ,m (θ )Φ m (ϕ ) である。3 つの量子数の名称と取り得 る値は表 2 の通りである。また,表には4番目の量子数 ms も示してある。 表2.量子数 n,l,ml,ms の名称と取り得る値 記号 名称 取り得る値 n ① 主量子数 ② 1,2,3, ・・・ l ③ 方位(角運動量)量子数 ④ 0,1, ・・・,n-1 ml ⑤ 磁気量子数 ⑥ -l,-l+1, . ,l-1,l ms ⑦ スピン量子数 ⑧ +1/2,-1/2 [4]原子価結合法(VB 法)と分子軌道法(MO 法)について簡単に説明せよ。 [VB 法]VB 法では,原子が孤立した状態をほぼ保ちながら,互いに相互作用をおよぼしていると考える.それ ぞれの原子に局在した波動関数の重ね合わせで化学結合を考える.スピン対形成,σ結合・π結合や混成の考え 方が生まれた. メタン CH4 の sp3 エチレン C2H4 の sp2 混成オービタル 混成オービタル. 5つ 4つの等価なσ結 のσ結合と1つのπ 合 結合. [MO 法]MO 法は、原子における原子オービタル(AO)の概念を分子に拡張したものである。分子オービタルに おいては,電子は特定の結合に局在しているのではなく,分子全体にわたって拡がっている。MO は分子を構成 している原子の AO の1次結合で表す(LCAO-MO) 。 1s 1s 1s 原子オービタル 1s 分子オービタルσ1s 1s 水素分子 H2 の 結合性分子オービタルσ1s と σ1s σ1s* 反結合性分子オービタルσ1s*
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