Chapter 11

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
電気回路講義ノート
Author(s)
辻, 峰男
Citation
Issue Date
2014-04
URL
http://hdl.handle.net/10069/34606
Right
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第 11章 回路の諸定理
○
重ね合わせの理(superposition law)
電圧源や電流源が多く含まれる回路の解析を行う場合,全部の電源を一度に考えるのではなく,
一つ一つの電源について解を求め,最後に加え合わせるという方法である。その際,注目してい
る電源以外の電源は殺しておく必要があり,電圧源は短絡,電流源は開放する。
短絡
短絡




電圧  0 は短絡することで達成される。開放しても電圧は発生する。電池には,開放しても 1.5V
が出ている。もちろん,図のように実際に短絡してはいけない。

J
切る

開放
直流電流源と交流電流源は
同じ記号である。J は一定
の直流かフェーザ表示のい
ずれかである。本章は主とし
て後者を考える。
電流  0 は開放して線を切る(実際にはしないこと)ことで達成される。短絡しても J が流れる。
かさ
り
重 ね合わせの理 が使える回路は,一定の R, L, C , M から成る回路( 線形回路 )である。
R, L, C , M の値が電圧や電流で変化する場合,ダイオードやトランジスタを含む回路は非線形だ
どうさてん
きんぼう
から一般には使えない。しかし,トランジスタ増幅回路では,動作点の近傍で線形回路とみなし
て使っている。なお,電源は入力量だから直流と交流が混在してもよく,ひずみ波でも構わない。
○
テブナンの定理(Thévenin’s law)(等価電圧源定理ともいう)
1
端子 1  1 :開放されている(何もつながっていない)。
V0
回路網:電圧源や電流源, R, L, C , M より成る。
線形回路であればどんな回路でもよい。
1
Z0
V0 :開放電圧
1
端子 1  1 より回路網を見たときの等価回路
は左図のように書ける。 V0 は開放電圧だよ。
V0
へえ!こんなに簡単な回路で書けるんだ!
1
97
Z 0 の求め方を図に示す。
全ての電圧源を短絡(導線で置き換える)
I
1
Z0 
V
V
I
:全ての電源を殺し, 1  1
より見たインピーダンスが Z 0
1
全ての電流源を開放
(回路から省く)
1  1 に イ ン ピ ー ダ ン ス Z を つ な い だ 時 , 流 れ る 電 流 I は ,
I  V0 ( Z 0  Z ) となる。これをテブナンの定理という。テブナンの
定理の本質は“どんな複雑な回路も,電圧源と内部インピーダンス
Z0
I
V0
Z
Z 0 の直列回路として表現できる。”と言っている点にある。
○
ノートンの定理(Norton’s theorem) (等価電流源定理ともいう)
1
1
短絡したら
開放
状態
I 0 I が流れた。
0
1
1
回路網
回路網
端子 1  1 より見た等価回路は下図のように表せる。
今度は Z 0 が並列につながっている。
1
I 0 :短絡電流
I0
内部インピーダンス Z 0 はテブナンの定理
と同じであり,同様に求める。
Z0
1
1
1  1 にインピーダンス Z をつないだ時,端子 1  1 の電圧は,
I Z Z
I
V 0 0  0
但し, Y0  1 Z 0 , Y  1 Z
Z 0  Z Y0  Y
I0
Z0
V
Z
1
普通,この式をノートンの定理という。ノートンの定理の本質は,
“ある端子について,どんな複雑な回路も,電流源と内部インピーダンス Z 0 (または内部アドミ
タンス Y 0 )の並列回路として表現できる。”と言っている点にある。
次の 2 つの回路は V0  Z 0 I 0 が成立するとき,等価である。
Z0
1
1
等価

V0
I0
には V0 が発生する。(b)が等価とな
Z0
るためには,開放しているとき V0
1
(a)
(a) の 1,1’を開放している時,1,1’
1
(b)
98
が発生しないといけないので,(b)
より V0  Z 0 I 0 でなくてはならぬ。
テブナンの定理を重ね合わせの理より証明しよう。
※
N0
I 0
N 0 :電源を含んだ回路
V0 :開放電圧
Z
V0
Z :インピーダンス(負荷)

接続する。
Z0

N0
V0
※※
I が流れる。
Z
I
Z

電源を殺している。
 等価
V0
これが成立することがテブナンの定理
N0

V0
Z0
I
Z
上下の V0 は打ち消しあい,
無いのと同じである。
Z
V0

重ね合わせの理
これのみ殺す。
I
V
V , I  を求める。 V   V0 , I   0 とすると,
V  と下の電源 V0 が打ち消し合い, Z には電圧がか
からない。よって, I   0 となり,1,1’を開放した最
初の回路(※)の状態と同じで矛盾を生じない。故
Z
に, V   V0 , I   0

V0
これのみ生かす。
V0
I 
Z
Z に流れるを電流 I  とする。
重ね合わせの理より, I  I   I 
I   0 より, I   I である。
左の回路はテブナンの定理で証明したい回路
(※※)になっている。
99
ノートンの定理を重ね合わせの理より証明しよう。
※
短絡したら
I 0 が流れた。
N0
N 0 :電源を含んだ回路
I 0 :短絡電流
I0
Z
I
Z :インピーダンス
Z0

接続する!
Z
I0
Z0

I
V

等価
I
Z

I0
Z
V
これが成立する
ことがノートンの定理
I
I0

I0
上向きの I 0 と下向きの I 0 は
Z
V
打ち消しあい,無いのと同じ。
等価(重ね合わせの理)
N0
I  を求める。 I   0 とすると V   0 となり,
N 0 より短絡電流 I 0 が流れ,これが電流源 I 0
I
Z
I0
V
を通って流れると考えると,※の状態と同じ
であり,矛盾を生じない。よって, I   0
これのみ殺した。

,
重ね合わせの理より
I 
I0
Z
I  I   I 
I   0 より, I   I
V   ZI   ZI  V
V 
よって,ノートンの定理が成り立つ。
これのみ生かした。
100
〇
供給電力最大の法則 (maximum power-transfer theorem)
図の回路で, R で消費される電力が最大となるにはどのような条件が成立するか考えよう。
Z0  R 0  j X 0
E :電源電圧(一定)
Z 0  R0  jX 0 :電源の内部インピーダンス
I
Z R jX
E
(一定)
Z  R  jX
:可変インピーダンス
R で消費される電力を P とすると,
PR I
 R

I
2
2
E
 I 
( R0  R) 2  ( X 0  X ) 2
E
E
R0  R  j ( X 0  X )
2

R0 2  ( X 0  X ) 2
 2 R0  R
R
E
R0  R  j ( X 0  X )
E
( R0  R )2  ( X 0  X ) 2
(A) R , X 両者可変の場合
電力 P が最大となる条件は次式で与えられる。これを整合(impedance matching)という。
X   X0 , R  R0
Z  Z0
すなわち,
電源と負荷が整合しているとき,電源側と負荷側で消費される電力は等しい。
(B) R だけが可変の場合
電力 P が最大となる条件は次式で与えられる。
R  R0 2  ( X 0  X ) 2
j X を電源のインピーダンスに含めて考えると,負荷 R と電源側のインピーダンスの絶対
値が等しいとき電源から最大の電力を引き出すことができる。
上記の定理は,非常に応用範囲が広い。何故なら,どんな複雑な回路でもテブナンの定理を使う
と, Z 0 , E の直列回路で表現できるからである。
(例)(B)の応用例として,
R  R0 2  X 0 2  Z 0
jX 0
J
R0
のとき,電力は最大となる。
R0
R
JR0
101
jX 0
R
例題1
図の回路において重ね合わせの理を用いて電流 I を求めよ。
J
R
R
R
I
R
E1
E2
R
R
E3
(解) E1 に着目すると,
R
R
※導線と並列にある抵抗には電流が流れないか
R
I1
E1
ら,
I1  0
R
E2 に着目すると,
R
I2
R
E2
I3  
同様に, E3 に着目して
I2 
E2
R
E3
R
J に着目すると,
R
J
I4
I4  J
重ね合わせの理より
I  I1  I 2  I 3  I 4 
E2 E3

J
R
R
102
例題2
図の回路で,1  1 は開放状態にある。端子 1  1 より見た等価回路をテブナンの定理より
求めよ。また, 1  1 にインピーダンス Z をつないだ時の電流を求めよ。
I1
I 0
Z1
1
I2
E1
Z2
J
V0
1
(解)まず,開放電圧 V0 を求める。 I1 , I 2 を図のように定義すると,
J  I1  I 2
E1  Z1I1  V0
・・・・・①
V0  Z 2 I 2
・・・・・③
・・・・・②
③を①に代入して,
I1 
V0
J
Z2
②より, V0  E1  Z1I1  E1 
V0 
Z1
V0  JZ1
Z2
E1  JZ1
1  Z1 Z 2
・・・・・④
次に, 1  1 より見たインピーダンス Z 0 を求める。
Z1
電圧源短絡
1
図より,
Z0
Z2
J
Z0 
Z1Z 2
Z1  Z 2
・・・・⑤
1
電流源開放
従って,等価回路は次のように書ける。 V0 , Z 0 は④,⑤式
Z0
1
V0
1  1 に Z をつないだ時の電流 I は
V0
I
Z0  Z
1
103
例題3
図の回路で,端子 1  1 より見た等価回路をノートンの定理より求めよ。1  1 は開放状態
にある。また, 1  1 にインピーダンス Z の負荷をつないだとき,流れる電流を求めよ。
Z1
1
E1
Z2
J
1
(解)まず,短絡電流 I 0 を求める。
I1
Z1
短絡する。
I2
E1
図より, I 2  0
I0
Z2
J
, I1 
 I0  J 
E1
Z1
E1
Z1
・・・・・①
次に, 1  1 より見たインピーダンス Z 0 を求める。
Z1
1
電圧源短絡
Z0
Z2
J
Z0 
1
電流源開放
Z1Z 2
Z1  Z 2
・・・②
よって, 1  1 より見た等価回路 (A) は次のように書ける。 I 0 , Z 0 は①,②式。
また, 1  1 に Z をつないだ時の電流 I は等価回路 (B) より求まる。
I
1
Z0
I0
Z0  Z
I
I0
Z0
I0
Z0
1
(A)
(B)
104
Z
例題4
図の回路で 1,1’よりみた等価電圧源の回路をテブナンの定理より求めよ。1,1’は開放状態
にある。図で, k I 0 が流れる電流源は R0 に流れる電流 I 0 に比例して電流が変化する。
(解)
まず,開放電圧 V0 を求める。
図より, R に流れる電流は k I 0 だから
V0  R0 I 0  R k I 0
k I0
1
①
R
R0
J
J  k I0  I0
②
k I0
I0
1
①,②より
R0  k R
J
1 k
V0 
I
次に,1,1’よりみたインピーダンスを
求める。このとき電流源 J を開放して
1
R
I  k I '  I ' より
Z0 
V0
R0
R  R0
V
V


I (1  k )I '
1 k
kI'
V
I'
1
を得る。
よって,次の等価回路が得られる。
Z0
1
V0
1
*最初の回路の 1,1’にインピーダンス Z をつないで流れる電流を求め,等価回路の場合と比べよ。
(注意)
1,1’よりみたインピーダンス Z 0 を求める場合, k I ' の電流源を開放しないこと。図のよ
うに交流電源を 1,1’の右側にあるものとしてインピーダンスを求めるとよい。なお,上記のよう
にある枝の電流に比例する電流源はトランジスタの回路で見られる。
I
1
R
R0
kI'
V
I'
1
105
例題5
図の回路で, R で消費される電力が最大となるように R の値を定めよ。
jx
r
I
I'
 jX
R
E
(解)図のように, I , I  をとると,
 jX
 jXE
 jXE


 jRX R  jX
(r  jx)( R  jX )  jRX rR  xX  j ( xR  rX  RX )
r  jx 
R  jX
E
I 
I 
X E
(rR  xX ) 2  ( xR  rX  RX ) 2
R で消費される電力を P とすると,
P  R I 
RX 2 E
2
2
(rR  xX ) 2  ( xR  rX  RX ) 2
RX 2 E

2
R 2 (r 2  x 2  X 2  2 xX )  2 RrX 2  X 2 ( x 2  r 2 )
X2 E

2
R (r 2  x 2  X 2  2 xX )  2rX 2  X 2 ( x 2  r 2 ) / R
従って, R (r  x  X  2 xX ) 
2
2
R  X
2
X 2 ( x2  r 2 )
R
のとき, P は最大となる。
r 2  x2
r 2  ( x  X )2
(別解)テブナンの定理より R の両端から他の回路をみた等価回路を求める。
Z0
供給電力最大の法則より
R
E'
Z0 
(r  jx) jX
r  j( x  X )
R  Z0 
r  jx X
r  j( x  X )

X r 2  x2
r 2  ( x  X )2
のとき, P は最大となる。
( E  の計算はこの
こっちの方が
簡単だな。
場合不要)
106
問題1.図の回路で, R をつなぐとき, R に流れる電流をテブナンの定理より求めよ。
(答) 1,1 間の開放電圧
V0 
1,1 から見た抵抗 R0
求める電流
I
R2
E
R1  R2
R0 
1
R1R2
R1  R2
R1
V0
R2 E

R0  R R1R2  R ( R1  R2 )
R2
R
1
E
問題2.重ね合わせの理を用いて,図の回路の電流 I を求めよ。但し,交流電圧源,交流電流源
は同じ周波数で,それらのフェーザを図中に示している。 R1  R2  R3  R とする。
また, R1 で消費される電力 P を求めよ。
I
R3
R1
(答) I 
2 E1 E2 J


3R 3R 3
E2
J
R2
E1
,
P  R(
2 E1 E2 J 2

 ) (各回路の電力の和でない)
3R 3R 3
問題3.図の回路と等価な電源を電圧源及び電流源による各々について述べよ。但し,交流電
圧源,交流電流源は同じ周波数で,それらのフェーザを図中に示している。
R1
E
R2
J
(答)
R0
I0
V0
R0 
R1R2
R1  R2
V0 
R1R2
R2
J
E
R1  R2
R1  R2
107
R0
I0  J 
E
R1
問題4.図の回路と等価な電源を求めよ。但し,交流電圧源は全て同じ周波数で,それらのフェ
ーザを図中に示している。また, Y はアドミタンスを表す。
Y2    Yn
Y1
E2
E1
En
(答)ノートンの定理より
テブナンの定理より
Y0
I0
Y0
V0
Y0  Y1  Y2   Yn
I 0  Y1E1  Y2 E2   Yn En
V0  I 0 / Y0
(帆足-Millman の定理と呼ばれる)
問題5.図の回路と等価な電圧源による回路を求めよ。
Z0
(答)
Z1
Z2
Z3
Z4
V0
Z0 
E
V0 
Z Z
Z1Z 2
 3 4
Z1  Z 2 Z3  Z 4
Z 2 Z3  Z1Z 4
E
( Z1  Z 2 )( Z3  Z 4 )
問題6.図の回路で, R 2 で消費される電力が最大と
なる X 1 , X 2 の値を求めよ。ただし, R1  R 2
R1
1
jX 1
とする。 X 1 , X 2 のみ可変である。
 jX 2
(電源から R 2 に最大の電力が伝えられるような
jX 1 ,  j X 2 の回路を整合回路という。整合し
ていれば R 2 から左を見たインピーダンスも R 2 )
R2
1'
(答)1,1’から右を見たインピーダンスの実部と虚部が X 1 , X 2 によって変えられるから,供給電
力最大の法則(A)を適用する。 Z  Z 0
j X1 
( Z 0  R1 ) より
 jX 2 R2
 R1  ( R1  jX1 ) ( R2  jX 2 )   jX 2 R2
R2  jX 2
実部と虚部を等しいとおいて
X1  R1 ( R2  R1 ) , X 2  R2 R1 /( R2  R1 )
108