血液凝固因子製剤 文献情報 NO.71 平成25年12月 1321.第 VIII 因子遺伝子(F8)変異と非重症血友病 A 患者でのインヒビター 発症 1322.Klippel-Trenaunay 症候群に合併した DIC に対する経口抗 Xa 薬治療 1323.von Willebrand 病における小腸血管異形成からの難治性出血に対する ダナゾール治療 1324.過多月経の診療 1325.血友病患者における腎疾患:病態と治療 1326.測定法の違いによる軽症血友病 A 診断の問題点 1327.治療歴のある慢性 ITP に対するエルトロンボパグ 3 年間投与 1328.先天性出血性素因を有する患者における HCV 感染の長期間経過観察 1329.年齢と止血能の関連について 1330.遺伝子組換え FVIIa/ アルブミン融合蛋白の安全性の薬物動態 1331.未診断の軽症血友病 B における軽外傷後の急性コンパートメント症候 群 公益財団法人 血液製剤調査機構 血液凝固因子製剤委員会 1332.血友病 B に対する遺伝子組換え第 IX 因子 /Fc 融合蛋白製剤の第 3 相試 験 1333.軽症血友病 A に対するデスモプレシン治療の効果と反応決定因子 1334.後天性血友病 A:2013 update 1335.グローバルテスト:PT、APTT の基礎と臨床 1336.「臨床に直結する血栓止血学」 編集:血液凝固因子製剤委員会 血液凝固因子製剤文献情報研究班 班長 金沢大学附属病院 高密度無菌治療部 朝倉英策 発行:公益財団法人 血液製剤調査機構・血液凝固因子製剤委員会 〒105-0011 東京都港区芝公園2-3-3 寺田ビル 5階 TEL 03(3438)4305,FAX 03(3437)4810 #1321 タ イ ト ル:第 VIII 因子遺伝子(F8)変異と非重症血友病 A 患者でのインヒビター発症 著 者 名:Eckhardt CL, et al. 雑 誌 名:Blood 122: 1954-1962, 2013. 【要旨】 非重症血友病 A 患者における第 VIII 因子インヒビターの発症は、出血傾向を悪化させ る重大な合併症である。 第 VIII 因子製剤の治療日数を考慮したデータがないために、インヒビター発症危険度 の高い患者の同定は困難であった。 INSIGHT 試験では、著者らは非重症血友病 A 患者(FVIII: 2 ∼40IU/dL)における F8変異とインヒビター発症の関連について検討した。 欧州とオーストラリアの14センターより非重症血友病 A 患者1,112例が登録された (70%の症例では遺伝子変異が同定済み)。 治療44,800日(患者 1 人あたりの治療日の中央値は24日)のなかで、1,112症例中59例 でインヒビターを発症した。 治療日中央値28日後に、累積で5.3%の発症率であった。 50治療日におけるインヒビターのリスクは6.7%であり、100治療日では13.3%にまで上 昇した。 全体でそれぞれ異なった F8ミスセンス変異214件のうち、19件ではインヒビターの発 症と関連していた。 以上、非重症血友病 A 患者における F8変異の同定は重要と考えられた。 #1322 タ イ ト ル:Klippel-Trenaunay 症候群に合併した DIC に対する経口抗 Xa 薬治療 著 者 名:Randrianarisoa E, et al. 雑 誌 名:Blood Coagul Fibrinolysis 24: 766-770, 2013. 【要旨】 Klippel-Trenaunay 症候群(KTS)は、リンパ管や血管の異形成で特徴付けられるま れな先天性疾患である。また、軟部組織や骨の発育障害をきたす。 臨床所見は多様性に富み、静脈の奇形のため DIC に起因する血栓塞栓症の危険が増大 する。 著者らは、深部静脈血栓症を繰り返し、消費性凝固障害のために致命的な出血をきた した KTS の 1 例を報告している。 また、新規経口抗凝固薬であるリバーロキサバン(抗 Xa の薬の一つ)による抗凝固 療法により長期的な管理に成功している。 < Klippel-Trenaunay 症候群> 1900年にフランスの Klippel とその弟子 Trenaunay の二人により初めて報告された。 患肢の骨軟部組織の過成長と低流量性の血管奇形を伴う疾患。 (三兆候) 1 )ポートワイン斑(port wine stain) 2 )静脈の異常(先天性静脈瘤・深部静脈形成不全:典型的には患肢の外側面に拡張し た異常血管がみられる) 3 )患肢の骨軟部組織の過成長による肥大 (合併症) 深部静脈血栓症、肺塞栓症、感染・敗血症、DIC、直腸出血・血尿 #1323 タ イ ト ル:von Willebrand 病における小腸血管異形成からの難治性出血に対するダナ ゾール治療 著 者 名:Botero JP, et al. 雑 誌 名:Blood Coagul Fibrinolysis 24: 884-886, 2013. 【要旨】 von Willebrand 病(VWD)では胃腸(GI)血管の異形成をきたすことがあり、慢性 GI 出血の原因となる。 従来の治療としては、von Willebrand 因子(VWF)補充療法、内視鏡的止血術、腸管 切除などが知られているが、必ずしも出血を減らすとは限らない。 著者らは、GI 出血に対して従来の治療が無効であった 3 症例を報告している。 ダナゾールによる治療を開始したところ、GI 出血は長期間にわたって減少し、赤血球 輸血量も減少した。 1 例では重篤な肝毒性が出現したために精査したところ、原発性胆汁性肝硬変を合併 していることが判明した。 従来の治療法が無効である VWD の血管異形成に起因する GI 出血に遭遇した際に、ダ ナゾールは考慮されて良いものと考えられた。 #1324 タ イ ト ル:過多月経の診療 著 者 名:Pai M, et al. 雑 誌 名:Br J Haematol 162: 721-729, 2013. 【要旨】 過多月経は臨床においてしばしば遭遇する。 女性の10∼35%は一生の間で過多月経の経験があるのに対して、過多月経の精査目的 に内科を受診する女性は 5 %に過ぎない。 産婦人科を受診する女性の15%は過多月経であり、出血性素因と関連して血液専門医 が診療にあたる機会も多い。 過多月経の原因としては局所性、全身性ともに多様であり、注意深い診察と検査が必 要である。 <過多月経の血液学的検査>(婦人科疾患を除いて) ⑴ 血算:貧血の有無、血小板数低下をきたす疾患の有無 ⑵ 血小板機能検査:血小板凝集能 ⑶ フェリチン:鉄欠乏性貧血の診断 ⑷ PT、APTT、フィブリノゲンなど:異常があれば凝固因子活性も測定 ⑸ VWF 抗原、VWF 活性、第 VIII 因子(必要があれば VWF マルチマー構造解析) (注 意)VWF レベルは月経周期の影響を受ける。エストロゲンレベルが高いと、VWF 値が上昇して VWD を見逃す懸念がある。VWF の測定はエストロゲン値が最低とな る月経周期 1 ∼ 4 日で行うのがよい。 #1325 タ イ ト ル:血友病患者における腎疾患:病態と治療 著 者 名:Esposito P, et al. 雑 誌 名:Eur J Haematol 91: 287-294, 2013. 【要旨】 血友病患者の予後と QOL は随分と改善したが、これは HCV や HIV に対する知識が深 まり治療選択肢が増えたことにもよる。 一方で、血友病患者には違った問題点も指摘されるようになってきた。特に、糖尿病、 高血圧症、癌などの年齢と関連した疾患や、慢性ウイルス感染症に伴う問題点である。 種々の慢性疾患の中でも、腎疾患に関しては特殊治療を必要とすることがあるために、 注意が必要である。実際、適切な腎疾患進行阻止治療やウイルス感染治療の選択、透析 方法の選択、シャント作成部位、透析時の処方などは、データがほとんどないために特 に複雑である。 著者らはこの総説のなかで、血友病患者の腎障害の病態(とくに血液製剤由来のウイ ルス感染症との関連)や、透析治療や腎移植治療とも関連した問題を含む腎治療につい て論じている。 <血友病患者における腎疾患の危険因子> ・高血圧症 ・糖尿病 ・高齢 ・HIV 感染症 ・HCV 感染症 ・薬物による腎毒性(抗ウイルス薬、抗生物質など) ・腎出血 #1326 タ イ ト ル:測定法の違いによる軽症血友病 A 診断の問題点 著 者 名:Bowyer AE, et al. 雑 誌 名:Haematologica 98: 1980-1987, 2013. 【要旨】 第 VIII 因子活性は、 1 段法、 2 段法、発色合成基質法の 3 つの方法で測定可能である。 軽症血友病 A 患者の多くは、どの測定法であっても同じ結果となる。しかし、約30%の 患者さんでは測定方法により異なった結果が得られる。 著者らは自施設において、測定法の違いにより差が出る症例がどの程度存在するかそ の頻度を検討した。 対象は軽症血友病 A:84症例である。 1 段法と 2 段法の間に 2 倍以上の差がある場合 を乖離例と定義した。 その結果、乖離例は31%にみられ、12%の例では 2 段法の方が低値であり、19%の例 では 1 段法の方が低値であった。 発色合成基質法は 2 段法に代わる適切な測定法であることが示された。 トロンボエラストメトリーは、血友病診断としては低感度であった。 較正自動トロンボグラフィーは、 2 段法や発色合成基質法の結果と一致した。 今日使用されているガイドラインでは軽症血友病 A の診断のための測定法を記載して いないため、 4 %の症例が 1 段法では血友病と診断されない。 血友病 A の可能性のある症例に遭遇したら、1 段法と発色合成基質法(または 2 段法) の両測定を行うべきである。 #1327 タ イ ト ル:治療歴のある慢性 ITP に対するエルトロンボパグ3年間投与 著 者 名:Katsutani S, et al. 雑 誌 名:Int J Hematol 98: 323-330, 2013. 【要旨】 エルトロンボパグ(E 薬)は、免疫性血小板減少症(ITP)に対して許可されたトロ ンボポエチン受容体作動薬である。 著者らは、E 薬 6 ヶ月間の初期臨床試験の終了した慢性 ITP の日本人患者19例につい て、 3 年間投与の安全性、忍容性、有効性について検討した。 患者は、初期臨床試験終了時の E 薬投与量(12.5, 25, 50mg)で 1 日 1 回の内服を継続 した。 血小板数 5 ∼20万 / μ L を維持できるように、E 薬投与量の調整や中断は主治医判断に 委ねられた。 主要評価項目は、E 薬長期間投与の安全性と忍容性である。 投与期間の中央値は27.5(9.9∼32.3)ヵ月間であった。 有害事象出現率は短期間投与時の初期臨床試験と同様であり、治療中断となった例は なかった。重篤な有害事象の報告は 9 件であった。 血小板数の中央値は、E 薬投与 1 週間後より上昇がみられはじめ、観察期間中 5 万 / μ L 以上を維持した。 出血事例は、治療開始 2 週間で63%から21%に低下して、その後も低いレベルが維持 された。 当初 ITP の他の治療も併用されていた15例のうち、10例では永続的に併用療法が不要 になったり 1 つ以上の治療薬が不要になった。 以上、日本人の慢性 ITP に対して E 薬の長期間投与は、安全で、忍容性と有効性が高 いと考えられた。 #1328 タ イ ト ル:先天性出血性素因を有する患者における HCV 感染の長期間経過観察 著 者 名:Fransen van de Putte DE, et al. 雑 誌 名:J Hepatol 60: 39-45, 2014. 【要旨】 著者らは先天性出血性素因患者(IBD)において、HCV 感染による肝関連有害事象の 長期問題追跡を行った。オランダおよび英国における HCV 感染 IBD:863症例を対象に 後方視的検討を行った。 HCV 感染からの追跡期間の中央値は31年であったが、30%の症例は35年超の観察期間 となった。 19%の症例では自然に HCV が消失したが、81%の症例では慢性 HCV 感染症となった。 慢性 HCV 感染症700症例のうち90例(13%)では末期肝疾患(ESLD)を発症した。 3 % では肝細胞癌(HCC)の診断がなされ、そのうち41%は最近 6 年間で発症した。 ESLD 発症の決定因子は、感染した年齢(HR:1.09、1 年毎に増加) 、HIV 重複感染(HR: 10.85)、アルコール多飲歴(HR:4.34)、抗ウイルス治療の成功(HR:0.14)であった。 現在も生存中の487症例のうち、49%では抗ウイルス療法が行われていなかった。 HCV に感染した IBD の相当数患者が30年以上の経過で ESLD を発症していた。HCC 発症も重大な問題である。 将来の ESLD 発症を抑制するために、伝統的な抗ウイルス療法も新しい抗ウイルス療 法も有効な選択肢になると考えられた。 #1329 タ イ ト ル:年齢と止血能の関連について 著 者 名:Attard C, et al. 雑 誌 名:J Thromb Haemost 11: 1850-1854, 2013. 【要旨】 新生児、小児、成人の間には止血能の差があると考えられている。成人の止血生理に 対する知識と比較して、新生児や小児における知識は不充分である。これまでに止血関 連蛋白を年齢毎に検討した報告はほとんどない。幼児や小児期の止血異常の予防、診断、 治療のためには、止血関連蛋白の年齢に伴う変動を理解しておく必要がある。 対象は健常人120例で、内訳は新生児(生後 1 日、 3 日) 、生後28日∼ 1 年、 1 ∼ 5 歳、 6 ∼10歳、11∼16歳、成人である。 検討した因子は、第 II、V、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、プラスミノゲン、プ ロテイン C、総&遊離型プロテイン S である。 これらのうち10蛋白については、新生児と成人間で有意に異なっており、この差異は 小児期間中継続していた。 以上、凝固関連蛋白の多くは年齢により変動するものと考えられた。 <論文から一部結果抜粋>生後 1 日、 3 日、 1 ∼ 5 歳、 6 ∼10歳、成人の順 VII(%):38, 42, 68, 72, 84(漸増) IX(%):25, 33, 48, 55, 66(同上) X(%):47, 57, 123, 121, 130(同上) PC(%):27, 30, 66, 70, 82(同上) ) 総 PS(%):10, 12, 33, 36, 50(同上) VIII(%) :102, 85, 94, 93, 84(不変) #1330 タ イ ト ル:遺伝子組換え FVIIa/ アルブミン融合蛋白の安全性の薬物動態 著 者 名:Golor G, et al. 雑 誌 名:J Thromb Haemost 11: 1977-1985, 2013. 【要旨】 血友病診療においてインヒビターの出現は最も重要な合併症である。遺伝子組換え活 性型第 VII 因子製剤(rFVIIa)がその際の止血治療薬として用いられてきたが、半減期 が短いという問題点があった。 著者らは、新しく開発された遺伝子組換え FVIIa/ アルブミン融合蛋白(rVIIa-FP)の 薬物動態と安全性を健常人男性(40人、 18∼35歳)で検討した。rVIIa-FP の 1 回投与量は、 140, 300, 500, 750, 1000μ g/kg またはプラセボの各群に振り分けられた。投与に先立っ て全員に、ビタミン K 拮抗薬による抗凝固療法(INR: 2 ∼ 3 )が行われた。 その結果、全ての投与量で rVIIa-FP の忍容性は優れており、重篤な有害事象はみられ なかった。 薬物に対する抗体出現者もなかった。 血中 FVIIa 活性の上昇は用量依存性であった。 rVIIa-FP の用量と無関係に半減期は一定であり、6.1∼9.7hr であった。最大用量の 1000μ g/kg では、FVIIa の半減期は8.5hr であった。クリアランスは7.62∼12.74ml/hr/ kg であった。 従来の rFVIIa と比較して、rVIIa-FP のクリアランスは低下しており、半減期は 3 ∼ 4 倍に延長するものと考えられた。 #1331 タ イ ト ル:未診断の軽症血友病 B における軽外傷後の急性コンパートメント症候群 著 者 名:Jones G, et al. 雑 誌 名:Lancet 382: 1678, 2013. 【要旨】 2013年 3 月に、25歳の男性が前日のサッカーで相手選手と空中衝突して右大腿を外傷 したということで来院した。打撲の跡は不明であったが、右大腿下部が腫脹しており、 膝関節の高度な可動域制限がみられた。骨折もなく一旦退院となった。 しかし、 5 日後に右大腿腫脹と疼痛の悪化および麻痺の出現のため再入院になった。 この時点で急性コンパートメント症候群が疑われた。Hb:8.0g/dl と低下しており、CT では血腫(2.27L)が確認された。緊急に筋膜切開術が行われたが、腫脹軽減のみられる までの 9 日間、切開部は開放状態であった。 また、一旦退院になったが 6 日後に大腿の再腫脹がみられ、切開創は、また開放状態 になった。患者は再入院となり、 2 回の血腫除去術や輸血が行われた。血液検査では APTT および第 VIII 因子は正常であったが第 IX 因子27.2%と低下していたため、軽症血 友病 B と診断された。 本症例では大腿腫脹軽減のために筋膜切開術を行ったことが、致命的出血と診断の遅 れにつながった。最近のシステマティックレビューでは、大腿のコンパートメント症候 群の21%は凝固異常を有していると報告されている。 以上、大腿のコンパートメント症候群に遭遇した場合には、筋膜切開術の前に凝固異 常の有無をチェックすべきと考えられた。 #1332 タ イ ト ル:血友病 B に対する遺伝子組換え第 IX 因子 /Fc 融合蛋白製剤の第 3 相試験 著 者 名:Powell JS, et al. 雑 誌 名:N Engl J Med 369: 2313-2323, 2013. 【要旨】 血友病 B 患者に対する製剤投与回数を減らす目的で、半減期の長い遺伝子組換え第 IX 因子 /Fc 融合蛋白製剤(rFIXFc)が開発された。 著者らは、治療歴のある重症血友病 B:123症例(全例12歳以上、FIX ≦ 2 %)を対象 に第 3 相試験を行った。 症例は 4 群に分類され、 1 群(用量調整群) :最初は rFIXFc 50IU/kg を週 1 回(投与 間隔は固定)の予防投与、 2 群(投与期間調整群):100 IU/kg(投与量は固定)を最初 は10日間毎から予防投与、 3 群:20∼100 IU/kg を出血時に投与、 4 群:周術期に投与、 とした。 その結果、遺伝子組換え第 IX 因子製剤(rFIX)と比較して、rFIXFc は半減期82.1hr と有意に延長していた。 年間出血率の中央値は、 1 、 2 、 3 群でそれぞれ3.0、1.4、17.7であった。 2 群では、53.8%の患者では投与間隔を14日以上にすることができた。 1 、 2 、 3 群ともに、出血エピソードの90.4%で 1 回静注で止血した。大手術時の止 血効果は全て「極めて良好」または「良好」と評価された。 インヒビターの出現は 1 例もみられなかった。 1 、 2 、 3 群での有害事象出現率は73.9%であり、重篤な有害事象は10.9%であった。 これらの有害事象は血友病一般でみられる率と同等であった。 rFIXFc を 1 ∼ 2 週間に 1 回の予防投与は、年間出血率を減らすものと考えられた。 #1333 タ イ ト ル:軽症血友病 A に対するデスモプレシン治療の効果と反応決定因子 著 者 名:Di Perna C, et al. 雑 誌 名:Semin Thromb Hemost 39: 732-739, 2013. 【要旨】 デスモプレシン(DDAVP)は軽症血友病 A の治療選択肢の一つと考えられているが、 反応率、反応型、効果決定因子など不明な点が多い。 著者らは自施設通院中の軽症血友病 A 全症例を対象に後方視的に検討した。 DDAVP 治療歴のあったのは75症例であり、そのうち57例(76%)は完全あるいは部 分的に反応した。 DDAVP の反応は患者の年齢と相関しており、反応例の年齢中央値は24歳、非反応例 は18歳であった。 また、プロモーター領域に変異のある10例は全員が非反応例であった。 第 VIII 因子活性の基礎値は、反応例で有意に低かった(反応例:0.14、非反応例:0.19IU/ mL)。この理由は、プロモーター領域に変異を有する非反応例は第 VIII 因子活性の基礎 値が高値のためであった。 12年間の経過観察期間中、出血のエピソード82/237回(35%)は27例の反応例で生じ、 DDAVP が246回投与されたが完全あるいは部分的有効率は92%(75/82)であった。 DDAVP の副作用はみられなかった。 以上、DDAVP は軽症血友病 A に対して治療または予防として安全かつ有効であり、 在宅治療も含めて普及させるべきと考えられた。 #1334 タ イ ト ル:後天性血友病 A:2013 update 著 者 名:Franchini M, et al. 雑 誌 名:Thromb Haemost 110: 1114-1120, 2013. 【要旨】 後天性血友病 A(AHA)は、第 VIII 因子に対する自己抗体が出現するまれではある が重症の出血傾向をきたす疾患である。 AHA の危険因子は、高齢、出産、悪性腫瘍、自己免疫疾患、ある種の薬物などである。 ただし、50%の症例は特発性である。 AHA の基礎疾患の治療とともに、急性出血の止血治療と第 VIII 因子抗体産生抑制の 治療が重要である。この総説では、疫学、診断、臨床的特徴、最新の治療法について論 じている。 <止血治療> • 第 1 選択(第 VIII 因子バイパス止血製剤) 1 )APCC:50∼100IU/kg、 8 ∼12hr 毎、最大200IU/kg/ 日 2 )rFVIIa:90∼120μ g/kg、 2 ∼ 3 hr 毎 • 第 2 選択:第 VIII 因子濃縮製剤、デスモプレシン、免疫吸着療法・血漿交換療法 <インヒビター除去治療> • 第 1 選択:プレドニン( 1 mg/kg/ 日、4 ∼ 6 週)単独またはシクロホスファミド(1.5 ∼2.0mg/kg/ 日、最大 5 週)との併用 • 第 2 選択:リツキシマブ(375mg/m2、週 1 回を 4 週間) 、アザチオプリン、シクロス ポリン、ミコフェノレート、ヴィンクリチン、第 VIII 因子による免疫寛容 療法 #1335 タ イ ト ル:グローバルテスト:PT、APTT の基礎と臨床 著 者 名:内場光浩 雑 誌 名:日本検査血液学会 14: 337-343, 2013. 【要旨】 PT および APTT はそれぞれ凝固外因系と内因系の反応を反映すると考えられている が、あくまでも試験管内の反応であり、生理的凝固反応の一側面しか反映していない。 診断のための検査としては、凝固因子欠損症のスクリーニングが、次いでインヒビター のスクリーニングが挙げられる。 特に APTT は、第 VII 因子欠損症を除く全ての凝固因子欠損症で延長するため、凝固 因子欠損症のスクリーニングに有用である。しかしながら、因子活性低下に対する感受 性は試薬によって大きく異なり、また因子によっても異なる。特に血友病保因者などの 軽∼中程度の低下症では、APTT は必ずしも異常値を示さない場合もある。 インヒビターを呈する疾患の中で頻度が高い疾患はループスアンチコアグラントであ るが、緊急度は後天性血友病の方がより高い。これらインヒビターの検出には混和試験 が有効であるものの、後天性血友病の場合は混和直後では検出されないこともあるため、 混和 2 時間後の測定が必要である。 一方治療方針決定の検査として、ヘパリンの指摘投与量の調整にAPTT が用いられ、数 多くの学会作成のガイドラインでもAPTTを1.5∼2.5倍が治療域であると記載されている。 しかしAPTTは試薬間差(施設間差)が大きくガイドラインの様に使用することは出来ない。 第 VIII 因子活性の低下とともに APTT は延長し、特に凝固因子活性が20%以下の患者 では51例中49例(96%)が基準値以上の延長を呈していた。この事実は血友病 A の患者 のスクリーニング検査としては APTT は充分使用に堪え得ると考えられる。しかしなが ら、VIII 因子活性が20∼60%の症例では26%(19例中 5 例)が APTT 基準値内の値を示 した。この事実は血友病 A の保因者などでは APTT が正常な値を示す症例も少なくなく、 保因者スクリーニングに APTT を使用する場合は注意が必要であることを示している。 第 IX 因子の低下にても APTT は延長し、因子活性が20%未満の症例のすべて( 5 例 中 5 例)で異常値を示したが、IX 因子活性が20∼60%の症例で APTT 異常値を示した のは33%( 9 例中 3 例)に過ぎなかった。したがって血友病 B の保因者のスクリーニン グは血友病 A の診断スクリーニング以上の注意が必要であると考えられる。 #1336 タ イ ト ル:「臨床に直結する血栓止血学」 著 者 名:朝倉英策編 雑 誌 名:中外医学社(平成25年10月発刊) 【要旨】(序より改変) 血栓止血学というと、どちらかといえば取っつきにくい領域と思われてきた。しかし、 実は決して難しい領域ではなく、いかに楽しく、一旦理解してしまえば記憶することも 少ないとても興味深い領域であることが本書を読めばわかる。 近年、出血性疾患、血栓性疾患ともに病態、検査・診断、治療の各面で新たな展開がみられ ている。薬剤も、新規経口抗凝固薬(ダビガトラン、リバーロキサバン、エドキサバン、アピキ サバン) 、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤、エクリズマブなどが次々と登場した。血栓止 血領域の臨床がかつてないくらい脚光を浴びている今、本書の果たす役割は大きいと思われる。 血栓止血学の基礎から詳細に論じた専門書や雑誌は多数あるが、本書はあくまでも「臨 床に直結する」を意識している。換言すると臨床に直結するとまではいえない基礎的事 項は思い切って割愛して、そのぶん臨床的な内容を充実させている。血栓止血の臨床を しみじみとわかっていただくための入門書である。 教科書的な基本知識にとどまらず、以下の内容を充実させている。 ・ここがコンサルトされやすい! ・ピットフォール ・お役立ち情報 ・症例紹介 血栓止血の臨床において凝血学的検査の適切な評価は最重要である。凝血学的検査を きわめれば、血栓止血の臨床の 8 割以上はきわめたといえるかもしれない。各疾患や薬 剤の章でも凝血学的検査の話は登場するが、まず検査の章を最初に組んであるのは、凝 血学的検査の重要性を認識しているためである。 想定している読者は血栓止血のエクスパートではなく、研修医、一般臨床医、血液専 門医(ただし血栓止血専門以外)、血液以外の専門医、臨床検査技師、薬剤師、医学生、 保健学科学生などである。
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