電気・電子の基礎知識

電気・電子の基礎知識
第166回 プッシュプル回路
<プッシュプル回路1>
I1
はき出し
電流
vo
I2
吸い込み
電流
RL
1つのトランジスタで構成したエミッタ・フォロワ回路
では、負荷が重くなると出力信号波形がクリップしてし
まいます(第131回資料参照)
。
回路166-1は、この欠点を改善する為にトランジス
タのエミッタ側の負荷抵抗をエミッタ・フォロワ回路に
交換したプッシュプル・エミッタ・フォロワと呼ばれる
ものです。
上側のNPNトランジスタQ1が負荷RLに電流をはき
出し(プッシュ)
、下側のPNPトランジスタQ2が電流
を吸い込む(プル)ことからプッシュプルと言います。
回路166-1
波形166-1は回路166-1に50Ωの負荷を接続したときの入出力波形です。
比較的大きい±25[mA]の電流を取り出していますが、出力波形voがクリップしていないことが分かります。
しかし、出力波形を見ると、中央付近で正弦波の上側と下側がつながっていない部分があります(赤矢印の部分)
。
これをクロスオーバー歪み(スイッチング歪み)と言います。
波形166-1
e1
vo
I1
I2
:
(e1、vo測定モード:AC)
(I1、I2測定モード:DC)
RL=50[Ω]
e1=10[kHz] 20[μs/div]
ch1(緑色(e1)) :2[V/div]
ch2(ピンク(vo)) :1[V/div]
ch3(黄色(I1)) :20[mA/div]
ch4(水色(I2)) :20[mA/div]
e1=2[V]
vo=1.24[V]
I1=24.7[mA]
I2=25.2[mA]
I1≒I2≒vo/RL
この歪みが発生する原因は、トランジスタのバイアス方法にあります。
この回路では2つのトランジスタのベースが共通接続されていて、ベース電位が同じである為、入力信号が0[V]付近の時は、
ベース-エミッタ間に電位差がないのでベース電流が流れません。
つまり、トランジスタは2つとも動作していない状態(カットオフ)になります。
そして、入力信号がベース端子に加わっても、各トランジスタはベース-エミッタ間に0.7[V]より高い電圧が加わるまで
動作しません。
この為、回路166-1では出力波形の中央に±0.7[V]の不感帯が出来てしまいます。
しかし、この形式の回路は入力信号が無い時は2つのトランジスタがカットオフしているので、この時の電流が0になり、
トランジスタが発熱しないというメリットがあります(回路の効率が良いと言えます)
。
波形166-1を見ると、トランジスタQ1にはe1(vo)が正の期間に電流I1が流れ、トランジスタQ2にはe1
(vo)が負の期間に電流I2が流れている事が分かります。
<プッシュプル回路2>
I1
vo
RL
I2
回路166-2は回路166-1のスイッチング歪みを
改善したものです。各トランジスタのベースにダイオー
ドで0.7[V]のオフセット(ダイオードの順方向電圧降
下)をかけて、トランジスタの不感帯を取り除いたもの
です。
波形166-2は、この回路に50Ωの負荷を接続した
ときの入出力波形です。これを見ると、voのスイッチ
ング歪みが改善されていることが分かります。
この回路では無信号時にトランジスタのベース-エミッ
タ間のダイオードがONとOFFの境目の状態となって
いる為、トランジスタに電流はほとんど流れません。
従って、無信号時のトランジスタの発熱はほとんどあり
ません。
回路166-2
波形166-2
e1
vo
I1
I2
:
(e1、vo測定モード:AC)
(I1、I2測定モード:DC)
RL=50[Ω]
e1=10[kHz] 20[μs/div]
ch1(緑色(e1)) :2[V/div]
ch2(ピンク(vo)) :2[V/div]
ch3(黄色(I1)) :20[mA/div]
ch4(水色(I2)) :20[mA/div]
e1=2[V]
vo=1.86[V]
I1=37.0[mA]
I2=38.0[mA]
I1≒I2≒vo/RL
<プッシュプル回路3>
I1
vo
RL
回路166-3は回路166-2を2電源化し
たものです。2電源化する事によって入力端子と
出力端子の直流電位を0[V]にしています。
入出力の結合コンデンサを取り去る事が出来る
為、直流信号を扱うことが出来ます。
この形式の回路ではインピーダンスの低い負荷
をスイッチング歪み無しに効率よく駆動する事
が出来ます。
波形166-3は、この回路に50[Ω]の負荷を
接続したときの入出力波形です。
I2
回路166-3
波形166-3
e1
vo
I1
I2
:
(e1、vo測定モード:DC)
(I1、I2測定モード:DC)
RL=50[Ω]
e1=10[kHz] 20[μs/div]
ch1(緑色(e1)) :2[V/div]
ch2(ピンク(vo)) :2[V/div]
ch3(黄色(I1)) :20[mA/div]
ch4(水色(I2)) :20[mA/div]
e1=2[V]
vo=1.88[V]
I1=37.6[mA]
I2=37.6[mA]
I1≒I2≒vo/RL
*
この回路を設計する際は、出力電流に見合ったトランジスタで、特性の揃ったNPNとPNPのトランジスタ(コンプリ
メンタリ・ペアのトランジスタ)を使用するようにします。そしてR1、R2の抵抗にはトランジスタのベース電流
(最大出力電流の1/hfe)より充分に大きい電流を流すようにします。
*
この回路では、正負の電源電圧V1とV2の絶対値が違うと入出力端子の直流電位は0[V]にはなりません。
また、使用している2本のダイオードの順方向電圧VFが違うと、その差も入力端子に現れます。
従って、この回路は直流信号を正確に扱わなければならないような用途には不向きであると言えます。
回路図の作成には Circuit Viewer を使用しました。
(C)2014 年 5 月
OKA 工学院
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