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幾何学概論 A 演習 レポート問題
(2014/5/26 提示,締切 2014/6/23)
担当:見村 万佐人
提出締め切りは 6/23 の 演習開始時 です.それを過ぎてからの提出は一切認めません.内
容は対称群の符号の復習・逆関数・陰関数の定理の復習・およびその多様体バージョン・部
分多様体・正則値定理です.
本問題は演習のウェブサイト
http://www.math.tohoku.ac.jp/ mimura/geoma14-j.html
にファイルを載せるので,5/26 の演習時に来ることの出来なかった友達がいる場合は,こ
のことを教えてあげてください.
レポートは A4 片面で一枚目に氏名・学籍番号を記入し,二枚以上にわたる場合にはホチ
キスで綴じて提出してください.問題 1, 2, 4, 5, 6 は必須の問題,問題 3 は解くことが推
奨される問題です.
[対称群の符号]
後々の内容(高次の微分形式)の定義で不可欠である,
「置換とその符号」の復習をする.
n を 2 以上の自然数とする.n 点集合 Tn := {1, 2, . . . , n} とおく.n 次対称群 Sym(n)
(他に,ドイツ文字の “S”を用いて,Sn のように書いたりする.
)を以下で定義する:
• 集合としては,Sym(n) := {ρ : Tn → Tn : Tn から Tn 自身への集合としての全単射 }.
• 算法は写像の合成:つまり,ρ1 , ρ2 ∈ Sym(n) に対し,“ρ1 ρ2 ” は ρ1 ◦ ρ2 のこと.
• 単位元 e は idTn (Tn 上の恒等写像).
Sym(n) の元 ρ を n 次の置換と言う.しばしば ρ は Tn の各元 1, 2, . . . , n の行先を並べて
(
)
1
2
···
n
ρ=
…(☆)
ρ(1) ρ(2) · · · ρ(n)
のように書かれる.Tn の元のうち 2 元だけを入れ替え他を元を動かさない置換を互換とい
い,i, j ∈ Tn ,i ̸= j なる 2 元を入れ替える互換を (ij) のようにかく(つまり,
(☆)の表記
を用いると,一般の i ̸= j に関して
(
)
1 2 ··· i ··· j ··· n − 1 n
(ij) =
1 2 ··· j ··· i ··· n − 1 n
である).置換の積は合成として定義する.例えば,互換 (13) と (23) の積は,
(
)(
) (
)
1 2 3
1 2 3
1 2 3
(13)(23) =
=
3 2 1
1 3 2
3 1 2
である(例えば 1 は 1 → 1 → 3 のように,2 は 2 → 3 → 1 のように移る.合成なので,
「右
から順番にかけていく」ことに注意しよう).
このとき,次のことを示すことができる.
n 次の互換全体の集合を S とおくとき, ⟨S⟩ = Sym(n) である
(つまり,互換全体の集合 S は Sym(n) の生成集合である).
1
証明は,置換 σ に対し,あみだくじのようにして σ を表すことで行なうことができる.
例えば,次の図を例として納得してほしい.
※ 任意の互換 π に対し π −1 = π である.従って上で互換の積を考えればよい(互換の逆元
を考える必要はない).
例.
(
1 2 3 4 5
5 1 2 4 3
)
=(15)(34)(25)(35)(45).
いよいよ対称群の符号写像の定義を復習する.置換 σ ∈ Sym(n) の符号 sign(σ) を,以下
のように “定義”する.
sign : Sym(n) → {±1};
{
+1, σ を互換の積で表したとき,必要な互換の個数が偶数のとき,
sign(σ) =
−1, σ を互換の積で表したとき,必要な互換の個数が奇数のとき,
※ 気づいた人もいると思うが,これは定義になっていない.それは,
σ を互換の積で表す方法は一通りではなく,個数の偶奇が変わる可能性がある
からである.実は(個数そのものは変わりうるが)偶奇は表し方に依らない ことが証明でき
る.こうして,晴れて上の “定義”はちゃんと well-defined なものになるのである.興味が
ある人は「差積」を用いた証明をチャレンジ問題 7 にしておくので,証明を試みてほしい.
[逆関数・陰関数の定理]
m, n ≥ 1 とする.U ⊆ Rm = {(x1 , . . . , x, )} を空でない開集合,f : U → Rn を C ∞ 写像
とする.f を成分ごとに (f1 , . . . , fn ) とかくことにしよう.このとき,p ∈ U でのヤコビ行
列 (Jf )p とは,n × m 行列

∂f1
∂x1 (p)
···

..
..

.
.
∂fn
∂x1 (p) · · ·
∂f1
∂xm (p)
..
.



∂fn
∂xm (p)
のことであった.(Jf )p を Jfp と略記することもある.
特に m = n のとき,上の行列は n 次正方行列で,その行列式 det(Jf )p を p でのヤコビ
アンといったのであった.このとき,以下の 2 定理が知られていたのであった:
2
定理 A. (逆関数の定理)
m = n であるような上記の状況で,p ∈ U でヤコビアンが 0 でないとき,p の開近傍
U0 ⊆ U で,以下をみたすものが存在する:
「f |U0 : U0 → f (U0 ) が C ∞ 級微分同相である.
」
※ 「」部は,f |U0 が単射であり,かつ,その逆写像 f (U0 ) → U0 も C ∞ 級写像であるこ
とを意味する.
定理 B. (陰関数の定理)
m, n ≥ 1 とする.U を Rm × Rn の空でない開集合とし,f1 , . . . , fn を U 上で定義された
n 個の(実数値)C ∞ 級関数とする.f : U → Rn を (x, y) ∈ U (x ∈ Rm , y ∈ Rn )に対し,
f ((x, y)) = (f1 (x, y), . . . , fn (x, y)) ∈ Rn
m
とおく.一点 p = (a, b) ∈ U を固定したとき,Rna := ({a} × Rn ) ∩ U , Rm
b := (R × {b}) ∩ U
n
とおく(本当は “Ra ∩ U ”のように書くべきだろうが略記する).以下,次の条件を満たす
と仮定する:
det(J(f |Rna )b ) ̸= 0.
※ f |Rna は {a} × Rn (≈ Rn ) の開集合 ({a} × Rn ) ∩ U から Rn への写像なので,その
y = b でのヤコビ行列は n 次正方行列で,そのヤコビアンが定義できることに注意せよ(x
は a で固定しているから,“p でのヤコビアン”ということの実質的な意味は y = b でのヤ
コビアンということである).
f (p) = f ((a, b)) =: c ∈ Rn とおく.このとき,a の Rm 内での開近傍 V ,b の Rn 内で
の開近傍 W (で V × W ⊆ U となるもの)と C ∞ 級写像 ϕ : V → W が存在して,以下の
(i), (ii) をともに満たす:
(i) 任意の (x, y) ∈ V × W に対し,
f (x, y) = c ⇔ y = ϕ(x).
特に,ϕ(a) = b である.
(ii) 任意の x ∈ V に対し,det(J(f |Rnx )ϕ(x) ) ̸= 0 であり,かつ,
(Jϕ)x = −(J(f |Rnx )ϕ(x) )−1 J(f |Rm
)x
ϕ(x)
が成り立つ.
特に,(Jϕ)a = −(J(f |Rnb )a )−1 J(f |Rm
) が成り立つ.ここで,Rnx := ({x} × Rn ) ∩ U ,
a b
m
Rm
y := (R × {y}) ∩ U である.
※ 上式の左辺は Rm の開集合から Rn への写像のヤコビ行列であるので,n × m 行
列である.右辺は n × n 行列(の逆行列で再び n × n 行列)と n × m 行列の積なの
で,サイズも問題なく合っている.
陰関数定理の方は文章だけだとわかりにくいかもしれないが,以下の図を参照してほしい.
イメージとしては,
「f (x, y) = c という方程式(具体的には,f1 (x, y) = c1 , f2 (x, y) = c2 ,
. . . , fn (x, y) = cn という,n 本の連立方程式である)が det(J(f |Rn a )b ) ̸= 0 を満たすとき,
3
p = (a, b) の十分小さいまわりでは x について(C ∞ 級で)解ける」ということを意味して
いる.
※ 逆関数定理から比較的容易に陰関数定理を示すことができる.新しい写像
F : U → Rm × Rn ; F ((x, y)) := (x, f (x, y))
(x ∈ Rm , y ∈ Rn )を用いて,興味のある人は証明をしてほしい.
[多様体版の陰関数の定理(単射版・全射版)]
以下では C ∞ 級多様体の間の可微分写像 f : M → N を局所座標表示して,そのヤコビ
行列を考える.ここで行なっていることは,
f の微分 (df )p : Tp M → Tf (p) N を局所座標から定まる基底で表現行列表示をしている
のであった(第 6 回の演習の内容を復習せよ).
※ 線型変換が単射であるか・全射であるかやそのランクは,それぞれ表現表列表示に依らない
ことに注意しよう.
可微分多様体では局所的には(局所座標を用いて)ユークリッド空間と同じように微分が
できたのであった.ユークリッド空間の場合と同様にして,以下の「多様体版の逆関数の定
理」
・
「多様体版の陰関数の定理」が成り立つ.詳細は例えば松本幸夫「多様体の基礎」の 10
章にある.以下,局所座標が「C ∞ 級で整合する」ということを以下で定義する.
定義 1. C ∞ 級多様体 (M, S) に対し,M の新しい座標近傍 (U, ϕ)(局所座標 (U ; x1 , . . . , xm )
とかこう)が S と C ∞ 級で整合するとは,U との共通部分が空でない任意の座標近傍に対
し,(U ; x1 , . . . , xm ) とその局所座標との間の両方向の座標変換がどちらも C ∞ 級であるこ
とをいう.
別の言い方をすると,
S に (U ; x1 , . . . , xm ) を加えてできる座標近傍系も,S と C ∞ 級同値な C ∞ 級座標近傍系である
ということである.C ∞ 級多様体において同値な座標近傍系は全て同一視するのであったか
ら,この (U, ϕ) を加えた座標近傍系はもとのものと同一視できる.
この定義の上で,多様体における「陰関数の定理(単射版)」
・
「陰関数の定理(全射版)」
はそれぞれ以下のように記述できる.
4
定理 C. (陰関数の定理(単射版))
(M, S) を m 次元,(N, T ) を n 次元 C ∞ 級多様体とし,f : M → N を C ∞ 級写像とす
る.p ∈ M とし,点 p での f の微分 (df )p : Tp M → Tf (p) N が単射であるとする.このと
き,
(S と C ∞ 級で整合するような)p ∈ M のまわりでの任意の局所座標 (x1 , . . . , xm ) に対
し,T と C ∞ 級で整合するような f (p) ∈ N のまわりでの(新しくとってきた)局所座標
が存在して,以下を満たす:
「f : M → N の,p のまわりの局所座標 (x1 , . . . , xm ) と
f (p) ∈ N のまわりでの局所座標 (y1 , . . . , yn ) に関する局所座標表示は
f
(x1 , . . . , xm ) 7→ (x1 , . . . , xm , 0, . . . , 0)
とかける.
」
※ 微分写像が単射であることから,有限次元ベクトル空間の間の次元の比較をして
m≤n
であることに注意せよ.m = n のときは,上での “0, . . . , 0” に当たる部分はない.
定理 D. (陰関数の定理(全射版))
(M, S) を m 次元,(N, T ) を n 次元 C ∞ 級多様体とし,f : M → N を C ∞ 級写像とす
る.p ∈ M とし,点 p での f の微分 (df )p : Tp M → Tf (p) N が全射であるとする.このと
き,
(T と C ∞ 級で整合するような)f (p) ∈ N のまわりでの任意の局所座標 (Vp ; y1 , . . . , yn )
に対し,S と C ∞ 級で整合するような p ∈ M のまわりでの(新しくとってきた)局所座標
(Up ; x1 , . . . , xm ) が存在して,f (Up ) ⊆ Vp かつ,以下を満たすようにできる:
「f : M → N の,p のまわりの局所座標 (x1 , . . . , xm ) と
f (p) ∈ N のまわりでの局所座標 (y1 , . . . , yn ) に関する局所座標表示は
f
(x1 , . . . xm−n , xm−n+1 , . . . , xm ) 7→ (xm−n+1 , . . . , xm )
とかける.
」
※ 微分写像が全射であることから,有限次元ベクトル空間の間の次元の比較をして
m≥n
であることに注意せよ.また,上の写像は
“後ろから n 成分までへの射影をしている”
ということである.
それぞれの主張はわかりにくいかもしれない.以下に図を描いておくので,図で雰囲気を
つかんでもらいたい.
5
6
レポート問題
問題 1. (本問は必ず解くこと.)
(1) n ≥ 3 とし,以下の 2 元 ρ1 , ρ2 ∈ Sym(n) をとる:
(
1 2 3 ···
ρ1 = (12), ρ2 =
2 3 4 ···
n−1 n
n
1
)
.
積 ρ1 ρ2 および ρ2 ρ1 を計算し,
(☆)のようにして答えよ.
※ これより,n ≥ 3 に対し,Sym(n) は非可換群であることがわかる.一方,Sym(2) ≃
Z/2Z である.
(2) 符号写像の well-definedness を認めるとき,符号写像 sign が準同型写像であること,つ
まり,
任意の σ1 , σ2 ∈ Sym(n) に対し,sign(σ1 σ2 ) = sign(σ1 )sign(σ2 )
であることを確認せよ.ここで {±1} には掛け算により(可換乗法)群の構造を入れて
いる.特に,
sign(σ −1 ) = sign(σ)(∈ {±1})
である.
(3) 次の置換の符号を求めよ.
(
)
1 2 3
(a) σ1 =
,
2 3 1
(
)
0 1 2 3
(b) σ2 =
,
1 2 3 0
(
)
1 2 3 5
(c) σ3 =
,
5 3 2 1
(
)
♠ ♢ ♡ ♣ 2
(d) σ4 =
(ただし,これらの 5 元はすべて異なる元を指してい
♡ 2 ♠ ♢ ♣
るとする).
(ヒント:2 ページ目で行なった「あみだくじを用いて,置換を互換の積で表した」方
法を思い出そう.必要な互換の個数(の偶奇)だけを知りたければどうすればよいだろ
うか.
)
問題 2. (本問は必ず解くこと.)
(1) n = 2 のときの逆関数定理の主張を改めて述べよ.ただし,(Jf )p のような記号や「ヤ
コビ行列」
・
「ヤコビアン」などの用語は使わず,偏導関数などを用いて具体的に書くこ
と(行列式の記号 det は用いてよい).
「微分同相」などの言葉も用いず記述すること.
(2) C ∞ 級関数 f : R2 → R2 を以下で定義する:
f ((x1 , x2 )) := (x31 − 3x1 x22 , 3x21 x2 − x32 ).
p ̸= (0, 0) であるとき,p の十分小さな開近傍上で,f の C ∞ 級の逆写像が存在するこ
とを示せ.
7
問題 3. (本問は解くことが推奨されている.)U を Rn の開集合,f : U → Rn を C ∞ 関
数で,以下をみたすものとする:
「任意の p ∈ U に対し, det((Jf )p ) ̸= 0.
」
このとき f (U ) も Rn の開集合であることを示せ.
問題 4. (本問は必ず解くこと.)C ∞ 関数 f1 , f2 , f3 : R5 → R を以下で定義する:
f1 (x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ) := x1 + x2 + x3 + x4 + x5 ,
f2 (x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ) := x21 + x22 + x23 + x24 + x25 ,
1
f3 (x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ) := e 3 x1 − ex2 + ex3 + ex4 − ex5 .
このとき,連立方程式
f1 (x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ) = 6,
f2 (x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ) = 12,
f3 (x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ) = 1
は p = (3, 1, 0, 1, 1) の十分小さい開近傍で (x1 , x2 ) について C ∞ 級で解ける,つまり,
「(x1 , x2 ) = (3, 1) の R2 内での開近傍 V と C ∞ 関数 ϕ1 : V → R, ϕ2 : V → R, ϕ3 : V → R
が存在して,V 上で
(x3 , x4 , x5 ) = (ϕ1 (x1 , x2 ), ϕ2 (x1 , x2 ), ϕ3 (x1 , x2 ))
が上記の連立方程式の解となる」ことを示せ.
さらに,ϕ1 , ϕ2 , ϕ3 をまとめて
ϕ : V → R3 ; ϕ(x) := (ϕ1 (x), ϕ2 (x), ϕ3 (x))
とおくとき,ヤコビ行列 (Jϕ)(3,1) を求めよ(行列のサイズにも注意せよ).
問題 5. (本問は必ず解くこと.)S 2 には「半球に分割」することによる C ∞ 級座標近傍
系 S = {(Ui± , ϕ±
i )}i=1,2,3 をとることができた.以下の写像
f : S 2 → R3 ;
(x, y, z) 7→ (x, 2y, 3z)
− −
+ +
を考える.R3 に入っている標準的な座標を (r, s, t) とし,(U1+ , ϕ+
1 ),(U1 , ϕ1 ),(U2 , ϕ2 ),
− −
+ +
− −
(U2 , ϕ2 ),(U3 , ϕ3 ),(U3 , ϕ3 ) の局所座標をそれぞれ (x1 , y1 ),(x2 , y2 ),(x3 , y3 ),(x4 , y4 ),
(x5 , y5 ),(x6 , y6 ) とおく.
(1) 上の各座標近傍の定義を,値域・局所座標を与える式とその逆変換も含めて書き下せ.
(2) 任意の p ∈ S 2 に対して,(df )p : Tp S 2 → Tf (p) R3 は単射であること,座標近傍系 S を
利用してを示せ.
(ヒント:p のいる場所に応じて場合分けをして,f を局所座標表示してその微分をヤ
コビ行列で局所座標表示せよ.
)
8
(3) 陰関数定理(単射版)から各 p と p を含む座標近傍 (Up , xp1 , xp2 )(ここでは U1+ , . . . , U3−
のどれかとする)に対し,(r, s, t) と C ∞ 級で整合するような f (p) ∈ R3 のまわりでの
(新しくとってきた)局所座標 (Rp , Sp , Tp ) が存在して,以下の「条件」を満たす:
p
p
「f : M → N の,p のまわりの局所座標 (x1 , x2 ) と
f (p) ∈ N のまわりでの局所座標 (Rp , Sp , Tp ) に関する局所座標表示は
f
(xp1 , xp2 ) 7→ (xp1 , , xp2 , 0)
とかける.
」
実際に上の「条件」を満たす (Rp , Sp , Tp ) を,p が U1+ , . . . , U3− のどれに属しているかに
応じて場合分けしてそれぞれの場合に構成し,確かにもとの R3 の座標 (r, s, t) と C ∞
級で整合していることを確かめよ.
※ つまり,
「p ∈ (U1+ , x1 , y1 ) のときは (Rp , Sp , Tp ) = · · · およびその定義されている範
囲は · · · 」のように解答せよ(他の 5 つの場合も同様である).
(ヒント:像 f (S 2 ) の式は
s2 t2
+
=1
4
9
である.あとは,上の「条件」を満たすことから (Rp , Sp , Tp ) のうち 2 成分はほぼ決
まってしまうので,R3 のもとの (r, s, t) 座標と C ∞ 級で整合するように残り一つの座
標(とこの局所座標の定義域)を決めよう.第 8 回のプリントでの部分多様体の議論が
参考になるはずである.
)
r2 +
問題 6. (本問は必ず解くこと.)S 2 には「立体射影」による C ∞ 級座標近傍系 T =
{(Vj , ψj )}j=1,2 をとることができた.j = 1, 2 について,(Vj , ψj ) による局所座標をそれぞ
れ (Xj , Yj ) とかこう.C ∞ 級関数
f : S 2 → R2 ;
(x, y, z) 7→ (x, y)
を考える.
(1) (V1 , ψ1 ; X1 , Y1 ),(V2 , ψ2 ; X2 , Y2 ) の定義を,値域・局所座標を与える式とその逆変換も
含めて書き下せ.
(2) 「p での微分 (df )p : Tp S 2 → Tf (p) R2 が全射でない」ような p ∈ S 2 の集合を Crit(f )
でかく.座標近傍系 T を利用してこの集合を求めよ.
(ヒント:まず p が (V1 ; X1 , Y1 ) の範囲にいるときを考えよう.このとき,f を (X1 , Y1 )
で局所座標表示し,微分をヤコビ行列で局所座標表示しよう.これが全射でないのはど
のようなときだろうか.因数分解できるようにうまく計算して議論しよう以上ができた
ら,今度は p が (V2 ; X2 , Y2 ) の範囲にいるときも考えてみよう.
)
(3) R2 \ f (Crit(f )) を求め,図示せよ.
9
※ 以下はチャレンジ問題である.興味のある人はこちらにもチャレンジしてほしい.
問題 # 7. (1) 符号写像の代わりに,“準同型写像” ϕ : Sym(n) → Z/3Z(= {0, 1, 2})(Z/3Z
には加法群としての構造が入っている)を,“ϕ(σ) :=σ を互換の積で表したときの,必
要な互換の個数を 3 で割った余り” と “定義”した気になったとする.
この ϕ は実はそもそも well-defined ではない(上の “定義”には全く意味がない).そ
のことを例を挙げて説明せよ.
(2) n 個の不定元 X1 , . . . , Xn をとる.差積と呼ばれる X1 , . . . , Xn の(整数係数)多項式
を次で定義する:
∆ := Πk<l,k∈Tn ,l∈Tn (Xk − Xl ).
一般に,X1 , . . . , Xn の多項式 F = F (X1 , . . . , Xn ) と置換 ρ ∈ Sym(n) に対し,X1 , . . . , Xn
の多項式 ρ · F を
(ρ · F )(X1 , . . . , Xn ) := F (Xρ(1) , . . . , Xρ(n) )
と定義する.
この ∆ を用いて,符号写像 sign : Sym(n) → {±1} が well-defined であることを示せ.
問題 # 8. 本問はプリントの問題 VII.4 である.目標は以下の定理を証明することであった.
定理 E. (コンパクト多様体の埋め込み定理)
M を n 次元 C ∞ 級コンパクト多様体とする.このとき,十分大きな次元 N = NM が存
在し(以前のプリントでは N を別の多様体を表すのに用いていたが,ここでは N は自然
数を表していることに注意せよ),以下が成り立つ:
「ある C ∞ 級写像 ι : M → RN が存在し,次の 3 条件を全て満たす:
(i) 任意の点 p ∈ M に対し,ι の p での微分 (dι)p : Tp M → Tι(p) RN は単射である;
(ii) ι は単射である;
(iii) ι を像への写像 M → ι(M )(⊆ RN ) と思ったとき,これが同相写像である(ι(M ) に
は RN の部分集合としての相対位相が入っている).
」
※ 第 8 回の演習で扱ったように,これらの条件を満たすとき,ι は(正則な)埋め込みで
あるといったのであった.
定理 E を証明しよう.M を n 次元 C ∞ 級コンパクト多様体とし,{(Uα , ϕα )}α を M の
級座標近傍系とする.M はコンパクトであるから,{Uα }α の有限部分被覆が存在する.
番号付けを適当にいじってその有限部分被覆に対応する座標近傍系を {(Uj , ϕj )}kj=1 とおく.
ここで「コンパクト多様体の 1 の分割」
(第 7 回演習を参照せよ)を用いて,{Uj }kj=1 に
従属する M 上の 1 の分割 {fj }kj=1 をとることができる.最後に N := (n + 1)k として写
像 ι : M → RN を
C∞
ι(p) := (f1 (p), . . . , fk (p); f1 (p)ϕ1 (p), . . . , fk (p)ϕk (p))
のように “定義”したとする.
※ 最初の k 個はそれぞれ 1 次元,残りの k 個はそれぞれ n 次元であることに注意せよ.
また,fj (p) ∈ R, ϕj (p) ∈ Rn であるので,これらの積とは Rn 内のベクトルの実数倍で表
される点のことを表している.
以下,この ι が well-defined かつ条件を満たすことを示そう.
10
(1) 各 ϕj は Uj (⊆ M ) 上でしか定義されていないことに注意せよ.これに注意して,上の
ι が well-defined であることを示せ.
(2) ι が C ∞ 級であることを示せ.
(3) 定理の条件 (ii),つまり ι が単射であることを示せ.
(4) 定理の条件 (iii),つまり ι を M → ι(M )(⊆ RN ) とみたとき,これが同相写像である
ことを示せ.
(5) 定理の条件 (i),つまり任意の p ∈ M に対し,(dι)p : Tp M → Tι(p) RN が単射であるこ
とを示せ.
以上により定理 E は示された.
問題 # 9. (1) 空でない位相空間 X が連結であることの定義を述べよ.
(2) M をコンパクト C ∞ 級多様体,N を連結な C ∞ 級多様体とする.C ∞ 級写像 f : M → N
が以下の条件を満たすとする:
任意の p ∈ M において,(df )p : Tp M → Tf (p) N は全射である.
このとき,f は全射であることを示せ.
(3) (2) の主張は M がコンパクトでないときには正しくない.反例を挙げよ(できるだけ
簡単な例が望ましい).
問題 # 10. M, N を C ∞ 級多様体,f : M → N を C ∞ 級写像とする.このとき,p ∈ M
が f の臨界点であるとは微分 (df )p : Tp M → Tf (p) N が全射で ない ことをいい,q ∈ N が
臨界値であるとは逆像 f −1 (q) に臨界点が存在することをいった.q ∈ N が正則値であると
は q が臨界値でないことをいったのであった.この定義から,特に逆像が空集合であるよ
うな点 q ∈ N は正則値であることに注意せよ(以上のことについては,詳しくは第 9 回の
プリントを参照せよ).
M を n 次元 C ∞ 級 コンパクト 多様体とし,N を 同じ次元(つまり n 次元)の C ∞ 級
多様体とする.f : M → N を C ∞ 級写像とし,q ∈ N を正則値とする.q の逆像 f −1 (q)
について,以下の問いに答えよ.
(i) 今,f −1 (q) ̸= ∅ であると仮定する.このとき,
実は f −1 (q) は有限個の点からなる集合である
ことを示そう.
(1) p ∈ f −1 (q) をとるとき,p の近傍 Up と q の近傍 Vp が存在し,f |Up : Up → Vp
は単射となっていることを示せ.
したがって,f −1 (q) ⊆ M は離散的である,つまり,任意の p ∈ f −1 (q) に対して,
ある p の開近傍 Up が存在して,
f −1 (q) ∩ Up = {p}
とできる(この条件は別な言い方をすれば,f −1 (q) に M からの相対位相を入れ
ときに入る位相が離散位相である,ということである).
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(2) f −1 (q) ⊆ M は有限集合であることを示せ.
(ヒント:f −1 (N \ {q}) はどんな集合か.なお,コンパクト空間の離散集合は
一般にそれだけでは有限集合とは限らない ことに注意して解答せよ.
)
f −1 (q) = ∅ の場合と併せて,
f −1 (q) は高々有限集合であり, 元の個数を話題にすることができる
ことがわかる.
(ii) 問題 6 の C ∞ 級写像
f : S 2 → R2 ; f ((x, y, z)) := (x, y)
は本項の条件を満たす.この場合において,f の各正則値 q ∈ R2 において,逆像
f −1 (q) の個数を調べよ.
(iii) 実は,以下のことが成り立つ:
「q ∈ N を正則値とすると,q の正則値だけならなる開近傍 V ⊆ M が存在し,V で
r 7→ #f −1 (r) は定数である(つまり,#f −1 (r) = #f −1 (q)).
」
別な言い方をすると,
#f −1 (r) は,正則値だけを動いている限りは局所的に定数である
証明に入ろう.
(1) f (M ) ⊆ N は N の閉集合である.なぜだろうか.
(ヒント:M はコンパクトであった.
)
これより,N \ f (M ) は N の開集合なので,#f −1 (q) = 0 のときは題意を満た
すことがわかる.よって以下 #f −1 (q) > 0 のときを扱う.k := #f −1 (q) > 0 と
おき,f −1 (q) の元を p1 , . . . , pk ∈ M とおく.p1 , . . . , pk は f の正則点であり,
dim M = dim N であるから,陰関数の定理よりこれらの点のまわりでは f は局
所的に同相を与えている.U1 , . . . , Uk ⊆ M をそれぞれ p1 , . . . , pk の,この「f が
同相を与える」ような開近傍たちとし,
V1 , . . . , Vk ⊆ N を f でのそれぞれの像と
∪
する.K := M \ i=1 Uk とする.
(2) f (K) は N の閉集合である.なぜだろうか.
(3) 最後に,
k
k
∩
∩
V :=
Vk − f (K)(:=
Vk ∩ (N \ f (K))) ⊆ N
i=1
i=1
とおく.V が q の開近傍であることを示せ.
(4) r ∈ V に対し,#f −1 (r) = k(= #f −1 (q)) であることを示せ.
以上により,対応 N ∋ r 7→ #f −1 (r) ∈ Z≥0 が,正則値のまわりで局所的に定数であ
ることが示された.
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※ (ii) で見たように,一般には N ∋ r 7→ #f −1 (r) ∈ Z≥0 は正則値のまわりで局所的に定
数ではあるが,f の正則値の集合全体での定数関数とはなっていない.しかし,その偶奇の
みを取り出すと
N ∋ r 7→ #f −1 (r) mod 2 ∈ Z/2Z
は N の正則値の集合全体での定数関数となっている ことが示せる.f の臨界値も含めると
だめであることは (ii) の例から分かる.この話は「C ∞ 級写像度」という概念の定義の始ま
り(上で定義したのは「C ∞ 級 mod 2 写像度」である)である.興味がある人はミルナー
著「微分トポロジー講義」を参照してほしい.
問題 # 11. n ≥ 2 を固定する.Mn (R) を Rn と同一視し,C ∞ 級多様体の構造を入れる.
n 次実一般線型群を
GL(n, R) := {A ∈ Mn (R) : detA ∈ R× }
2
で定め(R× = R \ {0} である),これは Mn (R) の n2 次元(正則)部分多様体となったの
であった(開部分多様体だからである).
(1) n 次直交群を
O(n) := {A ∈ Mn (R) : t AA = At A = In }
で定める.ここで In は n 次単位行列,A ∈ Mn (R) に対して t A は A の転置行列で
ある.
※ det(t A) であるので,A ∈ O(n) のとき detA ∈ {±1} である.従って特に O(n) ⊆
GL(n, R) である.
※ 実は,Rn の有限次元性から,
O(n) = {A ∈ Mn (R) : t AA = In }
であることが証明できる.以下の問題を解く上ではこのことを用いてよい.
O(n) が GL(n, R) の(正則)部分多様体であることを示し,部分多様体としての次元
を求めよ.
(ヒント:プリントの問 IX.3.
)
(2) さらに,特殊直交群を
SO(n) := {A ∈ On (R) : detA = 1}
で定める.SO(n) が GL(n, R) の(正則)部分多様体であることを示し,部分多様体と
しての次元を求めよ.
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