X - 安部公輔 ( Kousuke ABE )

数理統計学 II
(数理統計の基礎 II)
7 回目 — 部分空間への正射影 —
安部公輔
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内容
ベクトル空間の基底
部分空間への正射影
正規直交基底および Schmidt の直交化法
Keywords
基底,正規直交基底,直交化法,正射影
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おさらい
ベクトル空間 X
和とスカラー倍で閉じた集合.
x, y ∈ X なら ax + by ∈ X.
典型例は RN .
内積 x, y
抽象的なベクトルに拡張したもの.
x, y = 0 なら x と y は直交しているという.
N
xi yi .
典型例は x, y ∈ RN に対して x, y =
i=1
ノルム x
ベクトルの長さに相当.この講義では x = x, x だけ考
える.
N
N
典型例は x ∈ R に対して x = x2 .
i
i=1
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おさらい:部分空間
X はベクトル空間とする.
その部分集合 V ⊂ X がそれ自身ベクトル空間になっているとき,
V は X の部分ベクトル空間であると言う.
V ⊂X
x, y ∈ V =⇒ x + y ∈ V
x ∈ V =⇒ ax ∈ V
原点を通る直線や平面の一般化になっている.
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部分空間: 原点を通る直線
x+y
V
y
x
O
和とスカラー倍で閉じている.
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部分空間: 原点を通る平面
x+y
V
y
x
O
やはり和とスカラー倍で閉じている.
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部分空間の例
RN の直線や平面.
R2 の(原点を通る)直線: ax + by = 0.
R3 の(原点を通る)平面: ax + by + cz = 0.
一般に,斉次線型(一次)方程式で定義される集合.
C n = {n 回連続的微分可能な関数全て } とすると,x, y ∈ C n
なら ax + by ∈ C n だからそれぞれがベクトル空間.
C 0 ⊃ C 1 ⊃ C 2 ⊃ · · · ⊃ C n ⊃ · · · という部分空間の列が得
られる. .
2
d x
2
x ∈ C m 2 = −kx を満たす は C 2 の部分空間.
dt
(実は 2 次元の部分空間)
Sobolev (ソボレフ)空間.細かい話は省略せざるをえない.
偏微分方程式論などを真面目に勉強すると出てくる.
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直線の媒介変数(パラメータ)表示
v ∈ RN (v = 0) を一つ固定して,V = {tv | t ∈ R} という集合を
考えると Rn の部分空間になる.
実際
x = tv, y = sv なら x + y = tv + sv = (t + s)v であり,
t + s は当然実数だから x + y ∈ V .
x = tv なら実数 α について αx = (αt)v で αt は実数だから
V の定義を満たしており αx ∈ V .
v を V の方向ベクトルという.
以下の事実は容易に解る.
パラメータ t を介することで V は R と同一視できる.
方向ベクトルは一意ではない.
(実数 p = 0 なら pv も V の方向ベクトルになる.
)
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原点を通る平面は?
v, w ∈ RN (v, w = 0, v = kw) を固定して
V = {sv + tw | s, t ∈ R} という集合を考えると,直線の場合と
同様に
x, y ∈ V なら x + y ∈ V
x ∈ V なら αx ∈ V
が示されるので, RN の部分ベクトル空間になっている.
一般化を考える
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Spaned subspace
x1 , x2 , · · · , xn ∈ RN としたとき
Span[x1 , x2 , · · · , xn ]
= {a1 x1 + a2 x2 + · · · + an xn | a1 , · · · , an ∈ R}
と定めれば部分空間になる.これを x1 , x2 , · · · , xn が張る部分空間
という.例えば
1
e1 = 0 なら Span[e1 ] ⊂ R2 はいわゆる x 軸
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
0
e1 = ⎝0⎠ , e2 = ⎝1⎠ なら Span[e1, e2] ⊂ R3 はいわゆる
0
0
x-y 平面
場合によっては無駄なベクトルが存在する.除去して必要最低限な
数にした方がすっきりする. → next page
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ベクトル空間の基底
x1 , x2 , · · · , xn が以下の条件を満たすとき,一次独立であるという.
ベクトルの一次独立性
a1 x1 + a2 x2 + · · · + an xn = 0 となるのは
a1 = a2 = · · · = an = 0 となるときに限る.
◎ 全てのベクトルの方向が本質的に異なることを意味する.
さらに次の条件を満たすとき,基底であるという.
ベクトル空間の基底
x1 , x2 , · · · , xN は一次独立であり,任意の x ∈ X に対して
a1 x1 + a2 x2 + · · · + aN xN = x となる係数が存在する.
◎
◎
◎
X 全体を無駄無くカバーしていることを意味する.
基底であれば,係数は一意に決まる.
(座標として扱える.
)
基底をなすベクトルの本数=次元 と定義する.
上の状況なら dim X = N . (無限次元もある.
)
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正規直交基底
ベクトル空間 X の元 e1 , e2 , · · · , eN が以下の条件を満たすとき,
正規直交基底 (orthonormal basis) であるという.
e1 , e2 , · · · ,eN は X の基底.
1 i=j
ei , ej =
(長さ 1 で互いに直交している)
0 i = j
1
0
2
R における e1 =
, e2 =
や,
0
1
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
0
0
R3 における e1 = ⎝0⎠, e2 = ⎝1⎠, e3 = ⎝0⎠ の一般化.
0
0
1
1
1
1
1
例えば, e1 = √ 1 , e2 = √ −1
も R2 の正規直交
2
2
基底.
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成分表示とは?
x1
R のベクトル x =
の各成分は何者か?
x
2
1
0
e1 =
, e2 =
とおけば,それぞれ
0
1
2
x1 = x, e1 , x2 = x, e2 であり,
x = x, e1 e1 + x, e2 e2
になっている.
成分とは,どれだけ各基底方向に向いているかを表す.
正規直交基底の場合,内積をとるだけで求まる.
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図示すると
x = x, e1 e1 + x, e2 e2
x, e2 e2
e2
e1
x, e1 e1
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部分空間への正射影と正規直交基底での展開
V ⊂ X は部分空間とする.
x ∈ X に対して x
ˆ ⊥ (x − x
ˆ) となる x
ˆ ∈ V がただ一つ存在
する.これを正射影という.
v ∈ V で x − v が最小になるのは v = x
ˆ のとき.
e1 , e2 , · · · , en が V の正規直交基底であれば,
x
ˆ=
n
x, ei ei
i=1
が成り立つ.実際
ˆ
x, x − x
ˆ = ˆ
x, x − ˆ
x, x
ˆ
n
n
=
x, ei 2 −
x, ei 2 = 0
i=1
i=1
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イメージ
V
x
x−x
ˆ
x
ˆ
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ノルムが最小になること
(x − x
ˆ) ⊥ V であり x
ˆ − v ∈ V であることに注意すると次のよう
にして確認できる.
x − v2 = x − x
ˆ+x
ˆ − v2
= x − x
ˆ, x − x
ˆ + 2x − x
ˆ, x
ˆ − v + ˆ
x − v, x
ˆ − v
x − v2
= x − x
ˆ2 + 0 + ˆ
これが最小になるのは ˆ
x − v2 が最小になるとき,すなわち
v=x
ˆ のときである.
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Schmidt の直交化法
V = Span[v1 , v2 , · · · , vn ] の正規直交基底をどう作るか?
v1
e1 =
v1 f2
f2 = v2 − v2 , e1 e1 , e2 =
f2 f3
f3 = v3 − v3 , e1 e1 − v3 , e2 e2 , e3 =
f3 ..
.
fk = vk −
k−1
vk , ei ei ,
i=1
ek =
fk
fk によって帰納的に ei (i = 1, 2, · · · , n) を求めると,正規直交基底
)
になる.
(e1 , e2 , e2 , e3 などを計算してみよ.
これを Schmidt の直交化法という.
(なお, fi = 0 となったら,
独立な成分を含まない事を意味するから vi は無視する.
)
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イメージ (e2 )
v2
v2
f2
v1
v1
e2
v2 , e1 e1
e1
e1
f2 = v2 − v2 , e1 e1 で v2 のうち e1 と垂直な成分を抜き出し,
f2
e2 =
で単位ベクトル化する.
f2 19 / 23
イメージ (e3 )
v3
e3
v3 , e1 e1
f3
v3 , e2 e2
v3 , e1 e1 + v3 , e2 e2
e1 成分と e2 成分を引くことで,これらと垂直な成分を抜き出して
から単位ベクトル化.
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例題
⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎛ ⎞
2
3
5
v1 = ⎝0⎠, v2 = ⎝4⎠, v3 = ⎝6⎠ に対して Schmidt の直交化法
0
0
7
を適用し,正規直交化せよ.
⎛ ⎞
⎛ ⎞
1
0
(この場合は,理解できていれば一瞬で e1 = ⎝0⎠, e2 = ⎝1⎠,
0
0
⎛ ⎞
0
e3 = ⎝0⎠ とわかる. )
1
注意
v の順番が変わると結果も変わる.(v2 と v3 を入れ替えて計算
してみよ.)
このことなども絡み,大きなサイズの問題を数値計算するとき
に問題になることがある.
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最小二乗法
⎛
⎞
⎛
⎞
⎛
⎞
x1
y1
yˆ1
⎜ ⎟
⎜ ⎟
⎜ ⎟
x = ⎝ ... ⎠ , y = ⎝ ... ⎠ , yˆ = ⎝ ... ⎠ ∈ RN とすれば,誤差ベク
xN
yN
yˆN
トルは e = y − y
ˆ.
yˆ = bx + a ∈ Span[1, x] だから
最小二乗法 =
N
e2i = e2 の最小化
i=1
= y ∈ RN の Span[1, x] への正射影を導出
次回,重回帰分析と合わせて整理する.
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イメージ
Span[1, x]
y
e
yˆ = a1 + bx
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