数理統計学 II (数理統計の基礎 II) 7 回目 — 部分空間への正射影 — 安部公輔 1 / 23 内容 ベクトル空間の基底 部分空間への正射影 正規直交基底および Schmidt の直交化法 Keywords 基底,正規直交基底,直交化法,正射影 2 / 23 おさらい ベクトル空間 X 和とスカラー倍で閉じた集合. x, y ∈ X なら ax + by ∈ X. 典型例は RN . 内積 x, y 抽象的なベクトルに拡張したもの. x, y = 0 なら x と y は直交しているという. N xi yi . 典型例は x, y ∈ RN に対して x, y = i=1 ノルム x ベクトルの長さに相当.この講義では x = x, x だけ考 える. N N 典型例は x ∈ R に対して x = x2 . i i=1 3 / 23 おさらい:部分空間 X はベクトル空間とする. その部分集合 V ⊂ X がそれ自身ベクトル空間になっているとき, V は X の部分ベクトル空間であると言う. V ⊂X x, y ∈ V =⇒ x + y ∈ V x ∈ V =⇒ ax ∈ V 原点を通る直線や平面の一般化になっている. 4 / 23 部分空間: 原点を通る直線 x+y V y x O 和とスカラー倍で閉じている. 5 / 23 部分空間: 原点を通る平面 x+y V y x O やはり和とスカラー倍で閉じている. 6 / 23 部分空間の例 RN の直線や平面. R2 の(原点を通る)直線: ax + by = 0. R3 の(原点を通る)平面: ax + by + cz = 0. 一般に,斉次線型(一次)方程式で定義される集合. C n = {n 回連続的微分可能な関数全て } とすると,x, y ∈ C n なら ax + by ∈ C n だからそれぞれがベクトル空間. C 0 ⊃ C 1 ⊃ C 2 ⊃ · · · ⊃ C n ⊃ · · · という部分空間の列が得 られる. . 2 d x 2 x ∈ C m 2 = −kx を満たす は C 2 の部分空間. dt (実は 2 次元の部分空間) Sobolev (ソボレフ)空間.細かい話は省略せざるをえない. 偏微分方程式論などを真面目に勉強すると出てくる. 7 / 23 直線の媒介変数(パラメータ)表示 v ∈ RN (v = 0) を一つ固定して,V = {tv | t ∈ R} という集合を 考えると Rn の部分空間になる. 実際 x = tv, y = sv なら x + y = tv + sv = (t + s)v であり, t + s は当然実数だから x + y ∈ V . x = tv なら実数 α について αx = (αt)v で αt は実数だから V の定義を満たしており αx ∈ V . v を V の方向ベクトルという. 以下の事実は容易に解る. パラメータ t を介することで V は R と同一視できる. 方向ベクトルは一意ではない. (実数 p = 0 なら pv も V の方向ベクトルになる. ) 8 / 23 原点を通る平面は? v, w ∈ RN (v, w = 0, v = kw) を固定して V = {sv + tw | s, t ∈ R} という集合を考えると,直線の場合と 同様に x, y ∈ V なら x + y ∈ V x ∈ V なら αx ∈ V が示されるので, RN の部分ベクトル空間になっている. 一般化を考える 9 / 23 Spaned subspace x1 , x2 , · · · , xn ∈ RN としたとき Span[x1 , x2 , · · · , xn ] = {a1 x1 + a2 x2 + · · · + an xn | a1 , · · · , an ∈ R} と定めれば部分空間になる.これを x1 , x2 , · · · , xn が張る部分空間 という.例えば 1 e1 = 0 なら Span[e1 ] ⊂ R2 はいわゆる x 軸 ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ 1 0 e1 = ⎝0⎠ , e2 = ⎝1⎠ なら Span[e1, e2] ⊂ R3 はいわゆる 0 0 x-y 平面 場合によっては無駄なベクトルが存在する.除去して必要最低限な 数にした方がすっきりする. → next page 10 / 23 ベクトル空間の基底 x1 , x2 , · · · , xn が以下の条件を満たすとき,一次独立であるという. ベクトルの一次独立性 a1 x1 + a2 x2 + · · · + an xn = 0 となるのは a1 = a2 = · · · = an = 0 となるときに限る. ◎ 全てのベクトルの方向が本質的に異なることを意味する. さらに次の条件を満たすとき,基底であるという. ベクトル空間の基底 x1 , x2 , · · · , xN は一次独立であり,任意の x ∈ X に対して a1 x1 + a2 x2 + · · · + aN xN = x となる係数が存在する. ◎ ◎ ◎ X 全体を無駄無くカバーしていることを意味する. 基底であれば,係数は一意に決まる. (座標として扱える. ) 基底をなすベクトルの本数=次元 と定義する. 上の状況なら dim X = N . (無限次元もある. ) 11 / 23 正規直交基底 ベクトル空間 X の元 e1 , e2 , · · · , eN が以下の条件を満たすとき, 正規直交基底 (orthonormal basis) であるという. e1 , e2 , · · · ,eN は X の基底. 1 i=j ei , ej = (長さ 1 で互いに直交している) 0 i = j 1 0 2 R における e1 = , e2 = や, 0 1 ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ 1 0 0 R3 における e1 = ⎝0⎠, e2 = ⎝1⎠, e3 = ⎝0⎠ の一般化. 0 0 1 1 1 1 1 例えば, e1 = √ 1 , e2 = √ −1 も R2 の正規直交 2 2 基底. 12 / 23 成分表示とは? x1 R のベクトル x = の各成分は何者か? x 2 1 0 e1 = , e2 = とおけば,それぞれ 0 1 2 x1 = x, e1 , x2 = x, e2 であり, x = x, e1 e1 + x, e2 e2 になっている. 成分とは,どれだけ各基底方向に向いているかを表す. 正規直交基底の場合,内積をとるだけで求まる. 13 / 23 図示すると x = x, e1 e1 + x, e2 e2 x, e2 e2 e2 e1 x, e1 e1 14 / 23 部分空間への正射影と正規直交基底での展開 V ⊂ X は部分空間とする. x ∈ X に対して x ˆ ⊥ (x − x ˆ) となる x ˆ ∈ V がただ一つ存在 する.これを正射影という. v ∈ V で x − v が最小になるのは v = x ˆ のとき. e1 , e2 , · · · , en が V の正規直交基底であれば, x ˆ= n x, ei ei i=1 が成り立つ.実際 ˆ x, x − x ˆ = ˆ x, x − ˆ x, x ˆ n n = x, ei 2 − x, ei 2 = 0 i=1 i=1 15 / 23 イメージ V x x−x ˆ x ˆ 16 / 23 ノルムが最小になること (x − x ˆ) ⊥ V であり x ˆ − v ∈ V であることに注意すると次のよう にして確認できる. x − v2 = x − x ˆ+x ˆ − v2 = x − x ˆ, x − x ˆ + 2x − x ˆ, x ˆ − v + ˆ x − v, x ˆ − v x − v2 = x − x ˆ2 + 0 + ˆ これが最小になるのは ˆ x − v2 が最小になるとき,すなわち v=x ˆ のときである. 17 / 23 Schmidt の直交化法 V = Span[v1 , v2 , · · · , vn ] の正規直交基底をどう作るか? v1 e1 = v1 f2 f2 = v2 − v2 , e1 e1 , e2 = f2 f3 f3 = v3 − v3 , e1 e1 − v3 , e2 e2 , e3 = f3 .. . fk = vk − k−1 vk , ei ei , i=1 ek = fk fk によって帰納的に ei (i = 1, 2, · · · , n) を求めると,正規直交基底 ) になる. (e1 , e2 , e2 , e3 などを計算してみよ. これを Schmidt の直交化法という. (なお, fi = 0 となったら, 独立な成分を含まない事を意味するから vi は無視する. ) 18 / 23 イメージ (e2 ) v2 v2 f2 v1 v1 e2 v2 , e1 e1 e1 e1 f2 = v2 − v2 , e1 e1 で v2 のうち e1 と垂直な成分を抜き出し, f2 e2 = で単位ベクトル化する. f2 19 / 23 イメージ (e3 ) v3 e3 v3 , e1 e1 f3 v3 , e2 e2 v3 , e1 e1 + v3 , e2 e2 e1 成分と e2 成分を引くことで,これらと垂直な成分を抜き出して から単位ベクトル化. 20 / 23 例題 ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ 2 3 5 v1 = ⎝0⎠, v2 = ⎝4⎠, v3 = ⎝6⎠ に対して Schmidt の直交化法 0 0 7 を適用し,正規直交化せよ. ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ 1 0 (この場合は,理解できていれば一瞬で e1 = ⎝0⎠, e2 = ⎝1⎠, 0 0 ⎛ ⎞ 0 e3 = ⎝0⎠ とわかる. ) 1 注意 v の順番が変わると結果も変わる.(v2 と v3 を入れ替えて計算 してみよ.) このことなども絡み,大きなサイズの問題を数値計算するとき に問題になることがある. 21 / 23 最小二乗法 ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ ⎛ ⎞ x1 y1 yˆ1 ⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟ x = ⎝ ... ⎠ , y = ⎝ ... ⎠ , yˆ = ⎝ ... ⎠ ∈ RN とすれば,誤差ベク xN yN yˆN トルは e = y − y ˆ. yˆ = bx + a ∈ Span[1, x] だから 最小二乗法 = N e2i = e2 の最小化 i=1 = y ∈ RN の Span[1, x] への正射影を導出 次回,重回帰分析と合わせて整理する. 22 / 23 イメージ Span[1, x] y e yˆ = a1 + bx 23 / 23
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