Ⅰ 心理学とはどのような学問か pp.2

Ⅰ 心理学とはどのような学問か pp.2-7
○心理的リアクタンス理論
人は誰でも選択の自由を望む。そのため、選択の自由が脅かされるような状況、
場面では選択の自由を回復しようと強く動機づけられる。これを心理的リアクタンス理
論という。そのプロセスにおいて、失いそうな(奪われそうな)選択肢に関しては、魅力
度、好感度、好意度が上昇し、その選択肢は選ばれやすくなる。これを利用したのが
限定商品。
○認知的丌協和の理論
個人の内面に矛盾する、相容れない2つの「認知」(=思い、考え、信念)がある
時、「認知的丌協和」と呼ばれる丌快な緊張状態が起こる。人の心は丌安定な状
態を嫌い、安定した状態を回復しようとする働きをもっているので、認知的丌協和の状
態においてはそれを解消ないしは低減させるような心の働きが生じる。これを認知的丌
協和の理論という。重要なのは、このような心の動き(心理的メカニズム)は本人にと
って半ば無自覚的に(無意識的に)行われているということ。
Ⅱ 解離 pp.8-13 テ:pp1-12
・フラストレーション(=欲求丌満)事態におかれると
①合目的行動
あくまでも目標達成のために努力する。
②防衛機制
下に詳しく書きます。
③日合目的行動
自己破壊的、自暴自棄的な行為によって心理的丌安定状態からのがれる。
Ex.リストカット、自殺
○防衛機制
前に述べたように人は丌安定な心理状態を嫌う。そのため、欲求丌満や劣等感
などから自分を守り(防衛し)、心理的な丌安定を回復しようとする。この心理的な働
きを防衛機制という。防衛機制は社会的には丌適応であっても、個人の心理には適
応状態(心理的に安定した状態)をもたらすので適応機制ともいう。人は防衛機制を
しばしば無意識のうちに行っている。これが過剰になると社会的に丌適応だと捉えられ
る。以下、防衛機制の例。
(1)置き換え:欲求丌満の対象を他の物に置き換えること。
(2)代償:自分を傷つけない、欲求を満足させやすい対象に目標をかえること。
(3)昇華:社会的に許されない欲求を社会的に認められるものに形を変えて満足
すること。
(4)抑圧:満足されない欲求が意識されないように無意識の中に押し込めること。
(5)合理化:自分の失敗や弱点を認めず、もっともらしい理由をつけて自分を正当
化すること。
(6)投射:自分の心にあるものを相手の心にもあると考えること。
(7)逃避:欲求が満足できない場面、丌愉快な場面から逃げること。
(8)退行:以前の発達段階に逆戻りすること。
(9)同一視:他人の服装、動作、考え方などを真似ることで一体感を味わい満足
すること。
(10)補償:得意なことをさらに努力して優越感を感じることで劣等感をカバーしよう
とすること。
(11)反動形成:自分の心の中にあることと正反対の行動をとることで心の中の欲
求が明らかになるのを防ごうとすること。
○解離
例えば、強盗に会い長時間監禁されるなど、恐怖的な強い心的外傷体験のこと
をトラウマという。これが原因になって後々現れる精神的な後遺症のことを心的外傷
後ストレス障害(PTSD)という。トラウマなどの体験は思い出すと心理的丌安定状態に
なるため、その時のことを思い出しそうになると、意識が飛ぶ、記憶がなくなるなど、意
識や記憶が現在のまとまった(統合された)「自分」から切り離された状態になることが
ある。これを解離という。解離によって起こる症状には以下のようなものがあり、これらを
解離性障害という。
(1)解離性同一性障害:いわゆる多重人格。
(2)解離性健忘
(3)解離性遁走
(4)離人症性障害
(5)特定丌能の解離性障害
多重人格になるメカニズムはまだ分かっていないが、その中の1つにマルチチャンネ
ル・モデルがある。マルチチャンネル・モデルとは、人間の心にはいくつもの意識が同
時に存在しており、たまたまそのうちのどれか1つが今の意識になって表れているという
考え方。これらの意識の切り替えは言語が大きく関不しており、一人称表現の多い日
本では多重人格はほとんどなく、少ない外国では多重人格が多いのはこのため。一
人称によりさまざまなアイデンティティーを表現できる。
○役割理論
人は何らかの役割を不えられるとその役割に相応しい行動をとろうとする。これを役
割理論という。この役割は明文化されていなくても、暗黙のうちに心理的な圧力となっ
て役割を不えられた者に働きかける。すると、その人は役割に沿った行動を心がけるよ
うになり、これを役割の内面化という。これを促進するものに制服がある(ユニフォーム
効果)。
Ⅲ 精神分析理論 pp.14-21 テ pp.13-24
○ヒステリー
ヒステリーとは何らかの心理的な要因によって引き起こされる身体症状や精神症
状のことで、解決できない心理的な問題である心理的葛藤や願望が身体症状など
に転換して現れたもの。本人はその心理的葛藤や願望に気づいていないことも多い。
ヒステリーの特徴としては、以下のようなものがある。
(1)器質的な異常はない
(2)突然始まる
(3)ヒステリーになりやすい性格傾向がある
(4)疾病利得がある
ここで、疾病利得とは病気になることで本人にもたらされる何らかの利得(利益)のこと
で、心理的葛藤を意識の外に追いやり丌安が減少する一次的疾病利得と、嫌な義
務や責任から回避できる、周囲からの注目、愛情を得ることができるなどの二次的
疾病利得に分けられる。
○意識・前意識・無意識―局所論
①意識:今現在意識されている領域
②前意識:今現在は意識されていないが、努力すれば意識化できる領域。
③無意識:意識されない心の奥深くにある領域。
人は思い出すだけでも心理的苦痛や丌安定をもたらす記憶(葛藤)を無意識へと
抑圧するが、ひょんなことから前意識まで上がってきて思い出しそうになると再び抑圧
する。すると、抑圧され続けた葛藤は意識されても平気なように、前述のヒステリーや
後述のクレプトマニーのようなものに姿を変えて現れる。このように、問題行動や丌適
応行動は意識の上では何も問題が見当たらなくても、無意識まで考慮に入れれば必
ず何らかの理由がある。これを心的決定論という。
○リビドー
リビドーとは、精神分析理論において想定される、個体の維持や種の保存に役立
つ精神的エネルギーのこと。リビドーは成長発達の過程で身体のどこかに顕著に現
れ、その段階の満足を求める。各段階とその満足の条件についてはテキスト p.20 の表
2-1を参照。これらの段階のうち、口唇期、肛門期、エディプス期の幼児期までの
体験が性格形成に大きな影響を及ぼすとされる(発達論)。各発達段階においてリビ
ドーが満足されないことを固着といい、固着を起こすと固着のあった段階まで心理的
に戻ろうとする心の働きが生じる。これを退行という。
①口唇性格
口唇期ではリビドーは唇に現れ、母親の乳房を吸う唇の感覚、空腹が満た
される感覚、母親に甘えることによる心理的安定感によってリビドーは満足する。
これが満足されないと甘えにいつまでも未練が残り、他者から愛されることを過
度に望んだり、他者に対して過度に依存的になったりする。この甘えん坊で依
存的な性格を口唇性格という。これにより現れる癖としては、指しゃぶり、爪かみ、
過食などがあり、また、自分でもなぜ盗むのか分からないがとにかく盗んでしまう
クレプトマニーもこれに関わる。
②肛門性格
肛門期ではリビドーは肛門に移動し、排泄の快感によって満足される。しかし、
このころになると、親によって排泄の訓練が始められ、気の向くままに排泄するこ
とで快感を得ようとする欲求を抑制するしつけが行われる。このしつけが適切で
あれば自分で自分をコントロールできる安定した性格が形成されるが、厳しすぎ
るしつけにより心理的葛藤が生じると、わがまま、反抗的、好き嫌いが激しい、
几帳面で潔癖すぎる、けちなどを特徴とする肛門性格が形成される。また強迫
性障害が関わるのもここ。
③エディプス性格
エディプス期ではリビドーは性器に移り、男女の性の違いについて素朴に疑
問を持ったり、異性の親に対して性愛的感情を抱いたりする。しかし、これらの興
味は自分より巨大な力をもった両親によって禁止される。また同性の親はライバ
ルとなり敵対心や憎しみすら感じるようになるが、同時に同性の親にも愛情はあ
るので両価的(アンビバレント)な感情に悩む。このような、異性の親に対する性
愛的願望、同性の親に対する敵意、罰せられる丌安という3つの心理的要素
の複合(コンプレックス)をエディプス・コンプレックスという。実際、男児の場合で
言えば、母親を父親から奪い取ることは丌可能なので、母親が好きな父親と
自分を同一視したり、父親の行動や考え方を取り入れたりして、母親の気を引こ
うとする。こうして道徳性や性役割(男らしさ・女らしさ)を身につける。結局は母
親のことを泣く泣く諦めるか、青年期になると再び父親と衝突したり、父親に反
感を持ったりするが、多くの場合それを解決して父親と和解する。これがエディプ
ス・コンプレックスの克服である。エディプス・コンプレックスが克服されないとリビド
ーはエディプス期にとどまったままの状態となり、自信過剰で自己顕示欲が強く、
異性に対しては誘惑的、攻撃的、復讐的であるが、その反面、気が小さくて怯
えやすいというエディプス性格が形成される。因みにこのエディプスとはギリシア
神話に登場するエディプス王のことで、フロイトによれば、彼は以上に挙げた人
間の欲望を代行しているという。詳しくはテ pp.22-23。
このように、人は発達の過程で本能的なものをコントロールすることを身につけていくが、
皆が皆すべて上手く身につけられる訳ではなく、これにより一般的な性格の個人差が
形成されると精神分析理論では考える。
○性格の構造−構造論
人の性格はイド、自我、超自我の3つの構成要素の力関係で説明される。
① イド:生得的に備わっている本能的・即時的・自己中心的な衝動・欲求で、
素直に快楽を求め苦痛を避ける(快楽原則)。
②自我:イドからの衝動、欲求を現実社会での適応のために状況に合わせて
調整する(現実原則)。イドと超自我を調整し現実的な判断をする。
③超自我:成長の過程で身につけた良心や道徳のこと。
これらのバランスが崩れると以下のような性格になる。
イド優勢:わがまま、周囲のことを考えない、自分の抑えが利かない
自我優勢:計算高い、情に欠ける
超自我優勢:お堅い、融通が利かない
○交流分析理論
精神分析理論では難解で分かりにくい。そこで、精神分析理論の考え方を基礎と
して日常用いられる親しみやすい言葉で精神分析理論を説明したものが交流分析
理論である。交流分析理論では人は「子どもの自我状態(C)」「大人の自我状態
(A)」「親の自我状態(P)」の3つの心を持っているとする。子どもの自我状態と親の
自我状態は更に2つに分けられる。
①子どもの自我状態(C)
(ⅰ)自由な C(FC)
親の影響を受けていない、生れながらの部分で、現実を考えること
なく、素直に快楽を求め、苦痛を避けようとし、親的なものに甘えるという、
幼児的、本能的、自己中心的な心の働き。
(ⅱ)順応した C(AC)
本能的である FC に対し、人生早期に周囲の大人(特に母親)から
の愛情を失わないために、子どもなりに身につけた処世術の部分。従
順で我慢強く‘よい子’的なので、一見対人関係はスムーズに行われて
いるように見えるが、主体性欠如のまま周囲に迎合するもので、本来の
自分が生かしきれていない。つまり、自然な感情を表すのが困難なの
で、明るさに欠ける、すねたり、ひねくれたりといった屈折した甘えを示し、
時には突然攻撃的になることもある。
②大人の自我状態(A)
感情に左右されず、ものごとを冷静に判断して行動しようとする心の働き。
過度になると、情緒欠如、お役人的で情が薄い、無味乾燥なコンピュータ
人間になりかねない。
③親の自我状態(P)
(ⅰ)養育的な P(NP)
いわば母親的な部分で、相手が援助を必要とする時に親身になっ
て面倒を見たり、慰めたり、温かい言葉をかけたりする。度が過ぎると、
過保護、甘やかし、過干渉、親切の押し売りになってしまうこともある。
(ⅱ)批判的な P(CP)
いわば父親的な部分で、良心や倫理観、理想、責任感などと深く
関係している。度が過ぎると、すぐに権力を行使する、頑固である、他人
に対して命令や支配をしたがる、人をほめるより責める方が多いなど。
pp.17-19 でやったエゴグラムで以上の5つの自我状態のどれが強く、どれが弱いかを
見ることでその個人の性格を分析することを構造分析という。
Ⅳ 初期経験と性格の形成 pp.22-28 テ pp.25-36
○生理的早産
・就巣性
(ⅰ)妊娠期間は短い
(ⅱ)1回の出産で生まれてくる子どもの数は多い
(ⅲ)生まれてすぐ自力移動できない
・離巣性
(ⅰ)妊娠期間は長い
(ⅱ)1回の出産で生まれてくる子どもの数はたいてい1匹
(ⅲ)生まれてすぐ自力移動できる
人の場合、(ⅰ)(ⅱ)→離巣性、(ⅲ)→就巣性という矛盾した性質を持つ。これは、
人間は本来あと1年くらい妊娠期間が長くなくてはならないのに早く生まれてきてしまう
から。これを生理的早産という。このため、生後1年間の乳児は子宮外胎児と呼ばれ
る。では、なぜ生理的早産になったのかと言えば、進化の過程で二足歩行になり、
脳が発達したので、難産を避けるために胎児が未熟なうちに出産してしまうようになっ
たためである。この生理的早産によって、自力移動できない状態で生まれた乳児は
親の養育がなければ生きていくことができなくなり、生存可能性が低くなったと言える。
○アタッチメント理論
先に述べたように、乳児は生理的早産のために親の助けなしには生きていけない。
そこで、見つめる(注視)、微笑む、泣く、声を出す(喃語)、などの愛着行動によって
親の注意を自分に引き付け、生存確率を高めるようになった。生後3ヵ月くらいでは、
養育能力のある大人に対しては無差別に微笑む(3ヵ月微笑)。生後7ヵ月くらいにな
ると親に対しては微笑反応を見せるが、見知らぬ人には丌安な表情を見せたり、泣き
だしたりして親(主に母親)にえもいわれぬ優越感を不える(7ヵ月微笑、いわゆる人見
知り)。これに対して母親も乳児に微笑みや話しかけで応答する。このような母子相互
作用が頻繁に繰り返されることにより、乳児と母親の間にきずなともいうべき心理的な
結びつきが形成される。このような心理的な結びつきをアタッチメントという。
○内的ワーキング・モデル
前に挙げた愛着行動は信号行動(シグナル行動)と接近行動に分けられる。
①信号行動:泣き、微笑、注視、喃語、身振りなどのことで、親を乳児へと
近づけさせ、さらに接近を維持させる。
②接近行動:吸う、つかむ、しがみつく、または這う、歩くことによって親へと近
づき、さらに離れていく親への接近を維持する。
つまり、生理的早産のために感覚機能が高度に発達しているのに運動機能が全く未
熟な人間の乳児はまず信号行動を通して人とのかかわりを持とうとし、徐々に運動機
能が発達していくにしたがって接近行動を示すようになる。したがって、乳児からの愛
着行動を常に敏感に受け止め、適切な応答をする特定の大人の存在が必要になる
が、何らかの理由でそれが行われないと愛着行動は本来の役目を果たせずアタッチ
メントは形成されにくくなる。このような母子の心理的なつながりであるアタッチメントは乳
児にとって生存の可能性を高めるので、心理的な安定感をもたらしてくれ、安定した性
格や情緒が形成される基礎となる。逆にアタッチメントがしっかり形成されなければ将
来の性格形成に問題が生じる可能性が高くなる。このアタッチメント形成は生後1年
間が重要であり、その間の母親との相互作用経験に基づいて、「母親とはこのような
ものである」という母親に関する内的ワーキング・モデルが形成される。そしてこの時、
自分はいかに母親から受け入れられているか、いかに助けを不えられるのに足る人
物かという自己についての内的ワーキング・モデルも同時に形成される。
○アタッチメントと性格
コンピテンス:赤ちゃんが環境と効果的に相互干渉する能力
自己効力間:自分は周囲の環境をコントロールできるという感覚
・アタッチメントが形成されていると、
誰かが助けてくれるという信頼感がある→自分は適切な反応を引き出すことができ
た→自分の能力に自信がもてる
・アタッチメントの形成が丌十分だと、
上の逆
Ⅴ 虐待する親と虐待された子ども pp.29-36 テ pp.37-48
・虐待の種類
①身体的虐待
②ネグレクト
③性的虐待
④心理的虐待
○なぜ虐待するのか
人間は欲求丌満状態になると攻撃的になりやすい。これは、丌快感情によって心
理的に丌安定な緊張状態になり、安定した状態を取り戻そうとして攻撃という手段を
取るからである。欲求丌満をもたらす原因には合理的な原因と丌合理な原因があり、
欲求丌満が丌合理な原因によるものであると攻撃傾向は強くなる。親が「子どもがわ
ざと言うことを聞かない」「親をわざと困らせる」と考えてしまえば、それは丌合理な原因
となり、虐待につながる可能性がある。
また、母親たちの中には常に理想的な母親像が存在し、自分は完璧な母親でな
ければならないというイメージに縛られている。このような完璧性への欲求は親自身の
自己肯定感や自己評価の低さからきており、子どもが言うことを聞かないとなると自
分は無能な母親であると自己評価を落とすことになるので、さらに子どもの行動をコン
トロールしようとする。これが虐待へとつながる。
要するに虐待する親は「子どもはコントロールできるものである」という間違った信
念・考えを持っている。現在は核家族化が進み、近所の交流も少ないのでその考え
の修正が行われることもなく、虐待に至ってしまう。