「普通学級に在籍する個別の支援ニーズのある児童と保護者への カウンセリングと教師へのコンサルテーション活動」 宍粟市立都多小学校 教諭 福 井 1 充 取組の内容・方法 平成20年度に取得した、学校心理士、日本カウンセリング学会認定カウンセラー、ガ イダンスカウンセラーの資格を活用して、生徒指導、教育相談、特別支援教育コーディネ ーターとして、主に発達障害のある児童、およびその保護者のカウンセリングにあたる。 また、特別支援教育と学校カウンセリングに関する勤務校内外の研修会の企画運営などを 通して、教師へのコンサルテーションを行った。 (1)児童・生徒、保護者へのカウンセリング 教育相談担当として学校生活への適応に困難をきたしている児童、およびその保護者 へのカウンセリングを行ってきた。特に発達障害の傾向があり、認知に特性がある児童 は、学校生活の中で人間関係のトラブルや学習上の困難に直面しやすく、不適応に陥り やすい。また、その保護者も心理的に支えていく必要があるケースが多い。実際の面接 場面では、心理的なサポートに加え、道具的なサポート(うまくやるためのスキルを考 え伝えていく)をすることも求められる。このため、技法としては「解決志向(ソリュ ーション・フォーカスト)アプローチ」を用いて面接を行っている。この6年間で担当 したケースは、14事例であり、そのうち2ケースは、子どもが高校生となった今も、 不定期でフォローアップ面接を継続している。 (2)教師へのコンサルテーション 教師へのコンサルテーション活動としては、特別支援教育や学級集団づくりの推進に かかる校内研修の実施と、宍粟市教育委員会の委託を受けた、自主研修講座「学校カウ ンセリング」の企画・運営に関わってきた。 ① 特別支援教育に関する校内研修 発達障害の傾向があり、個別の支援が必要な児童の認知の特性や学校生活への適応状 況を正しく理解し、より良い支援の方策を全職員で考えていくため、個別の指導計画を 用いて各学期に1回、年間3回の校内研修会を持っている。また、毎年夏季休業中には、 発達障害の正しい理解や支援のあり方についての校内研修会を行い、講師を務めている。 (別添資料1 平成25年度校内研修会資料) ② 学級集団づくりに関する校内研修 通常学級に在籍する発達障害のある児童の支援を考えていく上で、学級集団づくりが 基盤になることはいうまでもない。学級内に好ましい人間関係と、正しい規範意識(ル ール)が育った学級でこそ、特別支援教育も推進できると考えられる。すべての学年で、 より良い学級集団づくりを進めるために、担任教師へのコンサルテーションとして、以 下の二つの実践を行っている。 ア 「Q-U を活用した児童理解と学級集団づくり」 イ 「WOWW アプローチを用いた学級集団づくり」 「Q-U」については、各学期に1回、年間3回のアンケート調査を実施し、個々の児童 の学級適応の状態と集団づくりの進捗状況を客観的に捉え、介入の方策について話し合 っている。また、 「Q-U」から得られるデータの、被侵害得点に着目する中で、いじめの 早期発見、早期対応に取り組んでいる。 「WOWW アプローチ」 (別添資料2 校内研修会資料)とは、学級担任が行う授業に 第三者が介入し、担任教師を支援する複数指導の一方法である。発達障害のある児童が 在籍する学級の学習指導や、担任教師が学級集団づくりで苦戦している時に有効なグル ープカウンセリング技法である。勤務校では、特別支援員と養護教諭に介入者役を引き 受けてもらい、実践している。なお、上記二つの取組は、要請があれば市内他校にも講 師として出向き、その実践を広げる努力をしている。 ③ 自主研修講座「学校カウンセリング」の運営 平成20年度より、宍粟市教育研修所 自主研修講座「学校カウンセリング」の代表 者として、研修計画の立案、運営に関わっている。学校カウンセリングの技法について 学びたいという希望がある市内小中学校の教員が集まり、年間3回から4回のワークシ ョップ形式を中心とした研修会を行っている。なお、過年度の研修テーマは、下記のと おりである。 ・平成20年度 「学校で使えるリラクセーション技法」 ・平成21年度 「教師と子どものコミュニケーションを考える」 ・平成22年度 「児童・生徒理解に客観的な視点をもとう」 ・平成23年度 「Q-U を用いた児童・生徒理解の進め方」 ・平成24年度 「Q-U を用いた学級集団づくり(事例検討) 」(別添資料3) ・平成25年度 「学級集団づくりを進めるための学級担任の実務とスキル」 2 取組の成果 (1)学校生活への適応に困難をきたし、自己評価が低下している児童のカウンセリン グでは、落ち込んでいる気持ちにより添うタイプの技法より、自分の強みや努力でき ている点に焦点を当て、自信を回復することをねらったソリューションフォーカスト アプローチの技法が効果的であった。さらに面接の中で、周囲とうまくつながるスキ ルや学習方法について、児童とともに考えることで、児童は自分の認知上の特性や得 意・不得意について理解し、集団の中で自分の行動を変化させてみようという意欲を もつことができたと思われる。学級担任が、該当児童のカウンセリングと指導の両方 をになうことは負担が大きいが、この取組を継続すれば、学級担任は該当児童の集団 内での行動面での支援(スキルトレーニング)に重点的に取り組めるという利点があ ると思われる。 また、保護者へのカウンセリングにおいては、保護者の子育ての難しさやわが子の 将来への不安について語られることが多く、長期にわたっての継続支援が必要である ことを感じた。また、保護者が面接者に依存してしまう傾向が強いことも気になった。 児童の日々の学校生活における支援者は、あくまでも学級担任であることを伝え、面 接者は、学級担任と保護者が児童の適切な指導や支援を考えていくためのつなぎ役と しての立ち位置を心がけるとともに、保護者に対しては心理的な面の支援よりもコン サルテーションに力点を置くことが大切であるということに気づかせられた。 (2)教師へのコンサルテーション活動を実践する中で大切にしたことは、支援を要する 児童や学級集団へのアセスメント(実態把握)の進め方と、支援や介入の方策を児童 に関わる複数の援助者で考えていく、チーム支援の重要性を伝えることの二点である。 学校生活への適応に困難を感じている児童に向き合った場合、担任教師一人の視点で、 該当児童の置かれた状況や思いをとらえるのではなく、複数の目で、時には客観的な 手法も取り入れながら、多面的に児童の認知特性や適応上の困難、本人内外の援助資 源等をとらえていくことが大切である。正しい児童理解のないところに、適切な支援 は選択できない。また、実際の支援場面では、単独の教師の力量や経験知だけで、困 難な状況に対応することは不可能であり、該当児童に関わるすべての教師や家庭、地 域、関係機関との連携が必要であることは明らかである。教師へのコンサルテーショ ン活動ではこの視点に立ってアドバイスを出したり、研修を進めたりしていくことを 心がけている。 3 課題および今後の取組の方向 宍粟市内の小中学校の普通学級には、個別の支援を必要とする児童・生徒が多数在籍す る。しかし、個々の児童・生徒の援助ニーズは多様で、一人ひとりに合わせた適切な支援 体制を学校単位で組むことは容易ではないという現状がある。この課題に取り組むために は、それぞれの学校の生徒指導や教育相談の担当教師、特別支援教育コーディネーターの 力量を上げることはもちろんであるが、特別支援教育、特に発達障害がある児童・生徒に 関する正しい理解と支援のあり方について、市内各校の全教職員が、今以上に研修を深め ていくことが求められている。同時に、発達障害がある児童・生徒への心理的・道具的サ ポートはもとより、その保護者、関わっている担任教師へのコンサルテーション活動に学 校間を越えて取り組んでいける体制づくりも必要であると考えている。今後は、これまで の実践の中で蓄積した知見や成果をもとに、それらの活動を推進していくことに関わって いければと願っている。
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