定義 可換環であって,0 以外のすべての元が単数 (積に関する逆元が

体
定義 可換環であって,0 以外のすべての元が単数 (積に関する逆元が存在するような
元) であるものを体 (field) という.
例 Q, R, C は体である.これらを有理数体,実数体,複素数体という.また,素数 p
に対して Z/pZ は p 個の元からなる体である.体 K の元を係数とする 1 変数 x の有理式
全部の集合
{ f (x)
}
K(x) =
f (x), g(x) ∈ K[x], g(x) ̸= 0
g(x)
も体である.K(x) を K 上の 1 変数有理関数体 (rational function field) という.
定義 K と F が体で K ⊂ F であるとき,K を F の部分体 (subfield) といい,F を K
の拡大体 (extension field) という.
F が K の拡大体のとき,F は体 K 上のベクトル空間になる.その次元を [F : K] で表
し,F の K 上の拡大次数 (degree of the field extension K ⊂ F ) という.
[F : K] が有限のとき,F は K の有限次拡大体 (finite extension field) という.特に
[F : K] = n のとき,n 次拡大という.[F : K] = ∞ のとき,F は K の無限次拡大体
(infinite extension field) という.
K ⊂ E ⊂ F を満たす体 E を,K と F の中間体 (intermediate field) という.
[F : K] = [F : E][E : K]
が成り立つ.
例 [C : R] = 2, [R : Q] = ∞
注意 K が体ならば,K のイデアルは自明なもの,すなわち {0} と K だけである.実
際,I ̸= {0} を K のイデアルとする.0 ̸= a ∈ I をとると,1 = a−1 a ∈ I となるので,
I = K である.
0 ̸= a ∈ K, b ∈ K について ab = 0 とすると,0 = a−1 ab = b となるので,K は 0 以外
の零因子をもたない.
定義 K と K ′ を体とする.写像 f : K −→ K ′ が環の準同型のとき,f を体の準同型
という.
補題 f : K −→ K ′ を体の準同型とすると,次の (1), (2) のいずれか一方が成り立つ.
(1) f (a) = 0 for all a ∈ K
(2) f は単射
実際,Ker f は K のイデアルだから Ker f = K または Ker f = {0} である.
K を体とし,K の積に関する単位元をここでは 1K で表すことにする.
φ(n) = ( n の符号) × ( |n| 個の 1K の和)
1
により定義される写像 φ : Z −→ K は,環の準同型である.よって,環の準同型定理に
より Z/ Ker φ ∼
= Im φ が成り立つ.Ker φ は Z のイデアルだから,1 個の元で生成される.
その生成元を a ≥ 0 とおく.Ker φ = (a) = aZ.Im φ ⊂ K は 0 以外の零因子をもたない
ので,a = 0 (すなわち Ker φ = {0}) であるか,または a は素数である.この a を体 K の
標数 (characteristic) という.
体 K の標数が 0 ならば φ は単射であり,K は Z と同型な部分環をもつ.1K の何個の
和をとっても 0 にはならない.一方,体 K の標数が素数 p のときは,K は Z/pZ と同型
な部分体をもつ.1K の p 個の和は 0 になる.
体 K の元の個数が有限のとき,K を有限体という.有限体 K の標数はある素数 p で
あり,K は Z/pZ と同型な部分体上のベクトル空間となる.その次元を n とすると,K の
元の個数は pn である.このような体は,同型を除いて一意的に存在する.元の個数が pn
の体を GF (pn ) で表すことがある.
無限個の元からなる体を無限体という.無限体の標数は,0 のときと素数のときがある.
定義 F を K の拡大体とし,S を F の部分集合とする.K と S を含むような F の部
分体のうち最小のものを K 上 S で生成される部分体,または K に S を添加して得られる
部分体といい,K(S) で表す.S = {α1 , . . . , αn } のときは,K(S) を K(α1 , . . . , αn ) のよう
にも書く.特に S = {α} が 1 個の元からなるとき,K(α) を単純拡大 (simple extension)
という.
K(α1 , . . . , αn ) は
{ f (α , . . . , α )
}
1
n
f (x1 , . . . , xn ), g(x1 , . . . , xn ) ∈ K[x1 , . . . , xn ], g(α1 , . . . , αn ) ̸= 0
g(α1 , . . . , αn )
f (α1 , . . . , αn )
は K(α1 , . . . , αn ) に含まれるが,このような形の F の元
g(α1 , . . . , αn )
全部の集合は和,差,積,商に関して閉じているので F の部分体である.
√ √
√
√
例 Q( √2, √
−1) = Q( √
2 + √−1) が成り立つので,これは単純拡大である.実際,明
らかに Q( 2 + −1) ⊂ Q( 2, −1) であるが,
に等しい.実際,
√
√
√
√
3
2 − −1 = √
∈ Q( 2 + −1)
√
2 + −1
√ √
√
√ √
√
√
√
だから
Q( 2, −1) = Q( 2√+ √−1) である.
√ √2, −1
√ .よって,
√ ∈ Q( 2 + −1)
√
{1, 2, −1, −2} は Q 上の Q( 2, −1) の基底で,拡大次数は [Q( 2, −1) : Q] = 4
である.
√ √
√
√
√ √
同様に,Q( 2, 3) = Q( 2 + 3) は単純拡大で,[Q( 2, 3) : Q] = 4 である.
定義 F を K の拡大体とし,α ∈ F とする.f (α) = 0 となる K の元を係数とする多項式
0 ̸= f (x) ∈ K[x] が存在するとき,α は K 上代数的 (algebraic) であるという.K 上代数的で
ないとき,K 上超越的 (transcendental) であるという.α ∈ K ならば,f (x) = x−α ∈ K[x]
について f (α) = 0 なので,K の元はすべて K 上代数的である.
Q 上代数的な複素数を代数的数 (algebraic number) といい,Q 上超越的な複素数を超
越数 (transcendental number) という.
√
√
例 f (x) = x2 − 2 ∈ Q[x]√について f ( 2) = 0√
なので, 2 は代数的数である.f (x) =
+
x2 + 1 ∈ Q[x] について f ( −1) = 0 なので, −1 は代数的数である.ω = cos 2π
n
2
√
−1 sin 2π
は,f (x) = xn − 1 ∈ Q[x] について f (ω) = 0 を満たすので,代数的数である.
n
√
一方,e, π, 2 2 などは超越数である.
代数的数全部の集合は可算無限集合であり,超越数全部の集合は非可算無限集合なの
で,超越数の方が代数的数より比較にならないほどたくさんあるが,具体的に知られてい
る超越数はわずかである.
F を K の拡大体とし,α ∈ F とする.f (x) ∈ K[x] に対して,x に α を代入して得ら
れる F の元 f (α) を対応させる K[x] から F への写像を ψ とおく.
ψ : K[x] −→ F ;
f (x) −→ f (α)
ψ(f (x) + g(x)) = ψ(f (x)) + ψ(g(x)), ψ(f (x)g(x)) = ψ(f (x))ψ(g(x)), ψ(1) = 1 が成り立
つので,ψ は環の準同型である.ψ の像 Im ψ = {f (α) | f (x) ∈ K[x]} を,K[α] で表す.
α ∈ F が K 上代数的ならば,ψ の核 Ker ψ = {f (x) ∈ K[x] | f (α) = 0} は多項式環
K[x] のイデアルで,{0} ではない.Ker ψ に含まれる 0 以外の多項式のうち次数が最小の
ものを h(x) とおくと,Ker ψ は h(x) で生成されるイデアルなので,(h(x)) = K[x]h(x) と
表すことができる.h(x) の最高次数の項の係数は 1 とすれば,このような h(x) は α に対
して一意的に定まる.h(x) は K[x] において既約である.h(x) を α の K 上の最小多項式
(minimal polynomial) または既約多項式 (irreducible polynomial) という.Ker ψ = (h(x))
で Im ψ = K[α] だから,環の準同型定理により ψ は環の同型
ψ : K[x]/(h(x)) −→ K[α] ;
f (x) = f (x) + (h(x)) −→ f (α)
を引き起こす.h(x) は K[x] において既約だから,K[x]/(h(x)) は体である.よって K[α]
も体であり,したがって K(α) = K[α] である.
h(x) = xn +an−1 xn−1 +· · ·+a1 x+a0 (ai ∈ K) とすると,{1, x, . . . , xn−1 } は K[x]/(h(x))
の K 上の基底なので,{1, α, . . . , αn−1 } は K[α] の K 上の基底である.h(α) = 0 だから,
αn = −an−1 αn−1 − · · · − a1 α − a0 であることに注意する.
以上の議論により,次の定理が得られた.
定理 F を K の拡大体とし,α ∈ F とする.
(1) α ∈ F が K 上代数的ならば,K(α) = K[α] であり,α の K 上の最小多項式を
h(x) とするとこれは K[x]/(h(x)) と同型である.K(α) = K[α] ∼
= K[x]/(h(x)).多項式
n−1
h(x) の次数を n とすると,{1, α, . . . , α } は K[α] の K 上の基底である.特に拡大次数
は [K[α] : K] = n である.
(2) α ∈ F が K 上超越的ならば,K(α) は 1 変数有理関数体 K(x) と同型である.
K(α) ∼
= K(x).
√
√
例
2 の√
Q 上の最小多項式は x2 − 2 で, −1 の Q 上の最小多項式は x2 + 1 である.
+ −1 sin 2π
は ω 3 − 1 = (ω − 1)(ω 2 + ω + 1) = 0 を満たすので,ω の Q 上の最
ω = cos 2π
3
3
√
√
小多項式は x2 + x + 1 である.よって,Q[ 2] ∼
= Q(x)/(x2 − 2), Q[ −1] ∼
= Q(x)/(x2 + 1),
Q[ω] ∼
= Q(x)/(x2 + x + 1) である.
3