園芸施設の屋根を利用した太陽光発電

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島根大学生物資源科学部研究報告
第14号
園芸施設の屋根を利用した太陽光発電
谷野
緒
章(地域開発科学科)
・門脇正行(農業生産学科)
言
1
0
8.
1m2 であった.屋根面におけるパイプの総投影面積
園芸施設で得られる太陽光を太陽電池(photovoltaics;
1% であった.そ
は5.
6m2 であり,屋根面の表面積の5.
以下,PV と略記)を用いて電力に変換すれば,環境制御
7
れに対し,PV1−PV4 の4枚の PV の受光素子総面積は1.
装置の電力源として利用できる可能性がある.ハウスの
5% であった.PV
m2 であり,屋根部分の表面積の1.
屋根に PV を設置することは発電の観点からは有望である
によりハウス内の作物へ到達する日射が遮られる量はパ
が,作物へ到達する日射をPVが遮る結果となる.したがっ
イプによるものよりも少なく,しかも最北端に PV を設置
て,作物生育への影響を最小限に留めつつ必要な発電エ
したため,ハウス内の作物へ到達する直達光が遮られる
ネルギーを得るためには,その PV の設置位置および配向
可能性は無かった.
の熟慮が必要である.例えば南北棟ハウスに PV を配置す
2.ハウスに設置した PV の発電シミュレーション
る場合,作物への影の影響を最小とするために,北端屋
太陽高度を α,PV の傾斜角を β,太陽方位角を ΨS,PV
根面に配置する方法が直感的に想定される.しかしなが
法線の方位角を ΨP,時角を ω,直達光と PV 法線がなす角
ら,南北棟屋根面に PV を設置することでどの程度のエネ
(入射角) を γ とした.角度は全てラジアンとした.α
ルギーが得られるかは不明である.そこで本研究では南
および β はそれぞれ,水平面を0rad とし,水平面よりも
北棟ハウスに PV を取付ける場合の設置位置および配向と
上側を正,下側を負とした.ΨS および ΨP の符号は,真南
発電量の関係を明らかにするために,実験及びシミュレー
を0rad とし,西側を正,東側を負とした.また,ω の符
ションを行った.
号は,太陽の南中時を0rad,午前中を負,午後を正とし
た.
方
法
1.異なる傾斜角度で南北棟ハウスに設置した PV の発電
エネルギー測定
試験用南北棟ハウス(間口5.
4m,奥行1
8.
0m,高さ
3.
3m)は南北から7.
0
3°傾いていた.ハウス被覆資材は
農 PO(0.
1
5mm)であった.作物への影の影響を最小と
するために,ハウスの屋根面北端にハウスの形状に沿う
α を次式から算出した.
0
,
1
.!
1
.)1
.%",
/1),
/1%,
/1("
#$+
ここで,)は計測地点の緯度(3
5.
5°
N=0.
6
2
0rad)
,δ
は太陽赤緯であり次式を用いて算出した.
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%
*
'
%
&
'
(
!
'#1
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' "-"
&
)
(
$
*
#
(2)
(2)式で,n は1月1日を1とする日数である.また,ω
ようにアーチ型に4枚のアモルファスシリコン PV を配置
は次式により算出した.
.被覆資材内側に PV 受光面を上空に向け
した(PV1−PV4)
%"
($ ' !
$!*!$
$
%
てこれらの PV を貼り付けた.PV1 および PV2 は屋根東面
(1)
(3)
に,PV3 および PV4 は西面に配置した.PV1 および PV3 の
ここで,LAT は local apparent time(hour)である.ΨS
受光面が水平面となす角を2
0°とした.PV1 および PV3 の
は次式から算出した.
下端に,PV 受光面と水平面のなす角が2
8°となるように
PV2 および PV4 をそれぞれ配置した.使用した PV の大き
さは,受光素子部分の短辺が4
1
2mm,長辺が8
3
2mm
である.被覆材を含めた PV の厚さは1mm,質量は0.
4
2
kg であり,フレキシブルである.PV の定格最大出力は
2
4W,エネルギー変換効率は7% である.1kW/m2 の光
1
.#1
.)!1
.%
0
,
,
/1!
") $+
"
,
/1#,
/1)
(4)
(4)式で,ω<0の場合には ΨS<0とするため−1を乗じ
た.これより,γ は,
3
21
.#,
/1$",
/1#1
.$,
/1!
&$+0
") !"("
,
,
.
1
(5)
照射条件で最大出力を与える PV の動作点は8
0V,0.
3A
(直達
と求められる.次に法線面直達日射量 IND(W/m2)
7
0Ω
である.そこで,PV1−PV4 の出力端子にそれぞれ2
光に垂直な面で受ける日射量)を次式により求めた.
3A)の抵抗 R を接続して抵抗の両端の電圧 E
(=8
0V/0.
を計測し,出力を E2/R から求めた.試験ハウスの屋根部
分(地上1.
8m よりも上の部分,妻面は除く)の表面積は
!%
#
&" $#
'/
(6)
3
6
7W/m2)
,p は大気透過率,AM は相
IO は太陽定数(1
学部長裁量経費によるプロジェクト成果報告
61
対エアマスである.α%0の場合には,IND=0とした.こ
このハウスが南北から7.
0
3°ずれており,西側屋根面が,
れらの数値を用いて,以下の式から水平面直達日射量 IDH
若干南向きとなっていたためである.Ψp が等しく,β
2
2
(W/m )および水平面散乱日射量 IS(W/m )を求めた.
(
*"
$
"# $$
&" ,
(7)
(
*"!
#!+!% "
$
',
$
($
$!
#!#
%)
+'*+"
!
(8)
が異なる2枚の PV の発電エネルギー比は,PV2 と PV1 で
9
2と,β の小さ
は1.
0
1とほぼ等しく,PV4 と PV3 では0.
い PV3 の発電エネルギーの方が多くなった.
シミュレーションによって PV が最適動作点で発電した
場合の発電エネルギーの予測を行なった.p の値は0.
7
0,
IDH および IS の和から水平面全天日射量 IHT(W/m )を求
τ の値は0.
6
7とした.これらは全日快晴日の場合の予測
めた.IHT も,α%0の場合の値は全て0とした.傾斜面全
値である.η は公称値の7% とした.月毎に比較すると,7
2
2
2
,
天日射量 IT(W/m )は,傾斜面直達日射量 ITD(W/m )
2
,地面からの反射成分 ITρ
傾斜面散乱日射量 ITS (W/m )
2
(W/m )の和である.これらはそれぞれ次のように与え
られる.ρ は地面からの反射率で,0.
2
0とした.
+,$
$
)" $$
&" &
間で最大であった.最も発電エネルギーが少なかったの
は1
2月の1
8.
1MJ で,7月の3
2% となった.全ての PV
において7月の発電エネルギーが最大,1
2月の発電エネ
(9)
#"&
+,#"
$
(!
$
)( $
$
#!&
+,#"
%#$#) !
$
)% $
$
6.
9MJ となり,年
月に PV1−PV4 の総発電エネルギーが5
(1
0)
ルギーが最小であった.年間の PV1−PV4 の積算発電エネ
ルギーを比較すると,最も発電エネルギーが多かったの
1
9.
4MJ,最も発電エネルギーが少なかったの
は PV3 の1
0
9.
0MJ であった.
は PV2 の1
(1
1)
本研究では,南北棟に PV を取り付ける場合について,
&9
$'
'
0°の場合には ITD=0とした.また,α%0の場合には
実験およびシミュレーションで発電エネルギーの解析を
3
4
4
ITS = ITρ=0とした.最後に,IT に PV の面積 Spv(=0.
行った.南北棟の屋根面に PV を設置する場合には天頂付
,エネルギー変換効率 η(%)および被覆資材の透過
m)
近(低傾斜角)での設置が発電に有利であることが示さ
率 τ を乗じ,PV1枚の出力 Ppv(W)を算出した.
れた.そこで,南北棟の東屋根面への PV 装着を想定し
2
PV の法線方向が東向きの場合に β を変数として発電エネ
結果および考察
ルギーを計算した.いずれの季節でも PV を水平に設置す
PV1−PV4 のピーク時出力は9月には2
2−2
3W,冬期には
る場合が最大の発電エネルギーを与えた.いずれの β
5W 程度であった.1日の発電の推移は,ハウス屋根
1
0−1
でも冬に発電エネルギーが小さく夏に発電エネルギーが
面東側に配置した PV2 が午前中最も早くピークとなり,
大きかった.夏期には β=9
0°の PV の発電エネルギーは
その直後に PV1 の出力がピークとなった.午後になると
β=0°それの1/3であった.β が小さいほど夏と冬の発電
太陽が西に移動し,PV3,PV4 の順で出力がピークとなっ
エネルギーの差が大きかった.
た.1日の発電エネルギーは PV3 で最大となった.また,
屋根面西側に配置した PV3 および PV4 の発電エネルギー
謝辞
が,同じ傾斜角で屋根面東側に配置した PV1 および PV2
津文人氏,山口大学の田中俊彦教授からご協力いただい
の発電エネルギーよりもそれぞれ多かった.この理由は,
た.
本研究の実施にあたり島根県の野田修司博士,石