肢体不自由特別支援学校における外部専門家との連携のあり方に関する検討 学校教育専修 佐藤 2512002 孝史 Ⅰ はじめに 特別支援学校小学部・中学部学習指導要領には, 「児童又は生徒の障害の状態により,必 要に応じて,専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして,適切な指導 ができるようにするものとする」 (第七章第三の7)として,教員が教育活動を適切に行う ために,必要に応じて外部の専門家からの指導・助言を求めることが明記されている。特 に肢体不自由特別支援学校では,他の特別支援学校に比べて,児童生徒の障害の状態が重 度・重複化の割合が高く,個に応じた指導の充実を図るために,医師・看護師・理学療法 士や作業療法士,言語聴覚士等の外部専門家との連携がこれまで以上に求められている。 平成 20 年度から2年間,文部科学省による「PT(理学療法士) ・OT(作業療法士) ・S T(言語聴覚士)等の外部専門家を活用した指導方法等の改善に関する実践研究事業」が 実施され,以後PT・OT・ST等の外部専門家を活用する特別支援学校が多くなってき ている。 そこで,本研究では肢体不自由特別支援学校でのPT・OT・ST等の外部専門家活用 について①アンケート調査と②事例検討の2つの研究を通して,外部専門家を有効に活用 するためにはどのような点が重要かについて検討することとした。 Ⅱ 研究 1 全国肢体不自由特別支援学校における外部専門家活用に関するアンケート調査 1)対象と方法 平成 25 年 2 月,全国特別支援学校肢体不自由教育校長会に登録のある特別支援学校,分 校,分教室,合計 255 校の外部専門家の活用を担当している分掌主任または特別支援教育 コーディネーターを対象として,郵送によるアンケート調査を実施した。回答は,152 校 からあり,うち有効回答は 142 校であった(有効回答率 55.7%)。 2)結果 (1)PT・OT・ST等の外部専門家の活用状況について 有効回答 142 校中,PT・OT・ 表 1 PT・OT・STの職種による活用頻度 (n=110) ST等の外部専門家を活用している 学校は,110 校(77.5%)であった。 PT OT ST 週 2 回以上 8( 7.3) 6( 5.5) 4( 3.6) 週 1 回程度 10( 9.1) 6( 5.5) 5( 4.6) 月 2 回程度 12(10.9) 11(10.0) 4( 3.6) (85.5%),OT活用は 83 校(75.5%), 月 1 回程度 12(10.9) 11(10.0) 7( 6.4) ST活用は 82 校(74.5%)であり,職 年数回程度 54(49.1) 51(46.3) 65(59.1) 2( 1.8) 2( 1.8) 4( 3.6) 12(10.9) 23(20.9) 21(19.1) 職種別にみると,PT活用は 94 校 種の活用に大きな差はなかった。ま た活用頻度について表 1 に示した。 その他 活用していない ( )は割合を示す 「年数回程度」と答えた学校がPT 54 校(49.1%),OT51 校(46.3%),S T65 校(59.1%)であり,約半数の学校 では「年数回程度」の活用に留まって いることがわかった。PT・OT・S 表 2 PT・OT・ST活用の担当分掌部 (n=110) 60(校) 54.6(%) 17 15.5 14 12.7 6 5.4 13 11.8 自立活動部・自立活動課 等 支援部・地域支援部 等 研究部・研修部 等 教務部 その他 T活用における学校内の担当分掌部に 表 3 PT・OT・ST活用の具体的内容 (n=110) (複数選択) 96(校) 87.3(%) 78 70.9 54 49.1 38 34.5 6 5.5 10 9.1 授業参観と授業者(担任教師)への助言 ついては,自立活動部・自立活動課等,職員研修会の講師 名称に「自立活動」が付いている場合 ケースカンファレンスでの助言 アセスメントについての助言 が最も多く 60 校(54.6%)であった(表 校内委員会(外部専門家連携推進委員会など)への参加 その他 2)。次に,PT・OT・ST活用の具 体的内容について表 3 に示した。授業参観と授業者(担任教師)への助言で活用している 学校が 96 校(87.3%), 職員研修会の講師での活用が 78 校(70.9%)で共に7割以上を占めた。 (2) PT・OT・ST等の外部専門家活用の成果と課題 外部専門家活用の成果と課題について表 4 に示した。 「外部専門家の活用は,教員の専門 性の向上につながっていると感じている」 「外部専門家の活用は,指導方法の改善につなが っていると感じている」 「外部専門家は学校にとってなくてはならないと感じている」の3 項目について, 「とてもそう思う」 「そう思う」が 9 割近い学校で感じていることが示され た。その一方で「外部専門家の活用について学校での位置づけを明確にしていく必要があ る」 「外部専門家の活用のあり方には課題が多いと感じている」の2つに関して,約半数が 「とてもそう思う」 「そう思う」と回答していた。また, 「外部専門家をうまく活用するに は教師一人一人の意識を高めることが必要である」 「外部専門家をうまく活用するには外部 専門家と教師の間に入って調整する人(外部専門家活用担当者)の役割が大きいと感じて いる」の2つについて, 「とてもそう思う」「そう思う」が 9 割以上という非常に高い割合 を占めた。 表4 外部専門家活用の現状について (n=110) とても そう思う そう思う 外部専門家の活用は、教員の専門性の向上につながっていると感じている 50 (45.5) 54 (49.1) 外部専門家の活用は、指導方法等の改善につながっていると感じている 46 (41.8) 外部専門家は学校にとってなくてはならないと感じている 32 (29.1) 外部専門家の活用について学校での位置づけを明確にしていく必要がある そう 全く 思わない 思わない 未記入 3 ( 2.7) 0 (0.0) 3 (2.7) 61 (55.5) 0 ( 0.0) 0 (0.0) 3 (2.7) 65 (59.1) 10 ( 9.1) 0 (0.0) 3 (2.7) 28 (25.5) 54 (49.1) 22 (20.0) 2 (1.8) 4 (3.6) 外部専門家の活用のあり方には課題が多いと感じている 10 ( 9.1) 49 (44.6) 47 (42.7) 0 (0.0) 4 (3.6) 外部専門家をうまく活用するには教師一人一人の意識を高めることが必要である 46 (41.8) 59 (53.7) 2 ( 1.8) 0 (0.0) 3 (2.7) 48 (43.6) 51 (46.4) 8 ( 7.3) 0 (0.0) 3 (2.7) 外部専門家をうまく活用するには外部専門家と教師の間に入って調整する人(外 部専門家活用担当者)の役割が大きいと感じている 3)考察 本調査から,外部専門家活用は,教員の専門性の向上や指導方法等の改善につながって いると感じており,肢体不自由特別支援学校において外部専門家はなくてはならないと感 じていることが分かった。しかし,外部専門家活用において,学校での位置づけを明確に する必要性があることや課題が多いと感じている学校も半数程度あることも事実である。 そのような現状の中で外部専門家を有効に活用していくためには,教師一人一人の意識を 高め,外部専門家に相談してみようという動機付けを図る等,教師のニーズを掘り起こし ていくこと,さらに外部専門家の助言を咀嚼して教育の中に取り込んでいくために,外部 専門家と授業者(担任)をつなぐ役目を果たしていくキーパーソンが必要とされる。すな わち,コーディネーター役としての外部専門家活用担当者の存在と役割がなによりも重要 である。 2 肢体不自由特別支援学校(X校)における外部専門家(OT)活用の事例検討 1)X校の外部専門家活用の概要と対象児A児について X校は,隣接医療機関からの派遣によりPT・OT・STの外部専門家を活用して,学 習活動において児童生徒への姿勢や介助方法等について助言を得ることができるようにな った。実施手順として,自立活動部が窓口となり,担任等からの要望の聞き取りや相談用 紙へ記入の依頼,隣接医療機関へ連絡と日時の調整を行い実施している。 本事例のA児は,小学部 1 年生男子で障害名は脳性まひである。両下肢の麻痺により歩 行は難しく車いすを使用している。また,肩や肘,手首の緊張が強く,車いすの操作が困 難なため,介助にて移動している。ことばによるコミュニケーションは可能だが,知的な 遅れがある。入学当初は,母親からの日頃の食事についての聞き取りを参考に給食指導を 実施していたが, 担当教師は, これでよいのかと不安を感じながら給食指導を行っていた。 2)給食指導でのOT活用 6月にA児の担当教師からは「肘や手首の緊張が強いため,スプーンをうまく口に運ぶ ことが難しい。肘や手首の緊張の緩め方,適度な肘の高さなどを教えていただきたい。 」と の相談がなされた。校内の自立活動部が仲立ちとなり,隣接医療機関からOTにA児が実 際に給食を食べる場面を参観してもらった。助言として「右肘の下にタオルを入れて適度 な高さにすること」 , 「教師が手首を軽く握り,A児の手首を伸ばすようにすること」が挙 げられた。担当教師がこの助言を参考にすることで,A児の過緊張が緩和され,担当教師 の食事介助がスムーズに行えるようになった。 担当教師からの要望で2回目の参観を1ヶ月後に実施した。OTは,A児のヘッドコン トロールの問題とA児が自発的に手を動かそうとする意図を読み取り, 「頭が横に傾かない ようにすること」 , 「A児の手首を教師が中指で軽く押さえ,手首を内側にすること」を助 言した。これにより担当教師は児童の手の操作だけに気をとられ,A児の頭部が安定して いなかったことに気付くことができた。また,担当教師がA児の手首を軽く中指で押さえ るようにすることで,A児の自力での手の動きを促すことにつながった。 10 月に入り,自立活動部担当者がA児がスプーンで上手にすくうことができるようにな ってきた様子をみて,現在の様子をOTに知ってもらい,今後の改善点について相談して みることを担当教師に提案し,3回目の参観を実施した。OTからは,教師がスプーンを 口の手前で止めることで,A児が自分で頭を前傾させ,口をスプーンに近づけるように誘 導してはどうかとの助言がなされた。この助言で,担当教師はA児の自発的な口の動きを 引き出すことができた。 3)考察 本事例から外部専門家を有効に活用していくポイントとして3つあげることができる。 一つ目は,学校での児童生徒の様子を一緒に観る機会を確保し,同じ場面を共有して観察 できたことである。児童だけでなく支援や介助を行っている教師の活動も同時に見てもら うことで,どのように児童とかかわればよいのかについてより具体的で実際的な助言を得 ることができた。二つ目に支援の継続も重要である。1回だけでの参観や助言で終わるの ではなく,繰り返し継続したことが,教師の少ない支援で給食を食べられるようになり, さらにはA児自身が自分から給食を食べるようになる積極性を引き出すことにつながった。 三つ目に校内の自立活動部が積極的に教師と外部専門家の仲立ちを行ったことである。自 立活動部担当者が担当教師へ働きかけたことで,A児の給食指導の参観と支援の改善につ ながり,教師の指導力を高めることにつながっていった。教師のニーズを掘り起こし,外 部専門家と円滑に連携していくためには,この自立活動部のコーディネーターとしての役 割はとても重要といえる。 Ⅲ 総合考察 本研究から外部専門家を有効に活用するには2つのことがあげられる。 一つ目は, 「場」を共有し,同じ目的を目指すことである。子どもが実際に生活している 「場」を共有することで,立場は違うが同じ目線で子どもを中心にとらえることにつなが っていく。大川(2004)は,ICF(国際生活機能分類)の考えにふれながら, 「まひなどで 不自由なことがある時には,体の動きの問題だけを考えるのでなく, 「生きる」ことの全体 像をとらえる必要があること。そして,さまざまな職種の専門家がいる中で,得意な分野 や物の考え方も少しずつ違うのでそれぞれがバラバラの考えで接することがないように, 目標つまり「創ろうとしている新しい生活・人生」を共通認識とする必要がある」ことを 指摘している。教育と医療という異なる立場であるが,子どもを中心として,同じ目線で 捉えるためにも教師と外部専門家とでこの「場」を共有することが重要であり,そのこと で同じ支援の方向性を目指すことが可能になると考える。 二つ目のポイントとして,授業者(担任)と外部専門家の仲立ちの重要性があげられる。 医療機関と連携し,PT・OT・ST等の外部専門家を学校で活用する学校が拡大してき た中で,授業者(担任)と外部専門家の仲立ちとして,両者をつなげたり調整したりして いくコーディネーター役の教員の役割が非常に大きいと考える。障害の重度・重複化,多 様化が進む肢体不自由特別支援学校において,外部専門家の助言を得ていくことは必須で あるが,その助言を有効なものにしていくためには,教育と医療という立場の違いを認識 しながら,教員と外部専門家の仲立ちとなっていく人がいてはじめて達成される。分藤 (2010)は,肢体不自由教育独自の専門性の一つに「協調性」として,医師・看護師・PT・ OT・ST等の専門家の役割を知り,それらの専門家と協力的な連携が保てる能力を挙げ ている。今後,肢体不自由特別支援学校では,ますますこのような仲立ちとなる教員が, 求められることから,その養成や研修の充実が求められている。 【参考文献】 分藤賢之(2010):PT,OT,ST等の外部専門家との連携による自立活動の指導.特別支 援教育.36.24-27 文部科学省(2009):特別支援学校学習指導要領 大川弥生(2004):新しいリハビリテーション人間「復権」への挑戦 講談社
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