Conia-ene 反応を基盤とするシナトリン C1 の全合成 および新規テトラヒドロフラン合成法の開発 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 生命薬科学専攻 浦辺 郁也 [目的] 最近、当研究室では、種々のアルキニル-1,3-ジカルボニル化合物を触媒量 の In(OTf)3 とともにトルエン中で加熱すると、Conia-ene 反応が進行し、対応する環状 化合物が高収率で生成することを見出した。その反応に基づき、当研究室ではサリノ スポラミド A、ネオオキサゾロマイシン、オキサゾロマイシン A の全合成を達成した。 今回、発表者は、この反応の更なる合成化学的有用性を見出すため、シナトリン C1 の全合成研究に着手した。また、In(OTf)3 触媒 Conia-ene 反応を活用する天然物合成を 検討する中で O-H 挿入反応と Conia-ene 反応を同一系中で達成する形式的な[4+1]環化 付加反応を新たに見出し、反応の一般化するべく、その基質適応範囲を検討した。 [結果・考察] (1)シナトリン C1 の全合成 シナトリン類天然物は、1992 年に微生物 Circinotrichum falcatisporum RF-641 の培養 液から単離された置換クエン酸天然物であり、ホスホリパーゼ A2 阻害活性を持つ。 その合成にあたり、4 級不斉中心を 2 つ含む 3 連続不斉中心を持つ高度に置換したγラクトン部をいかに立体選択的に構築するかが鍵となる。 アルキン 1 より、ロジウム触媒を用いた O-H 挿入反応を行い、Conia-ene 反応前駆 体となるマロン酸誘導体 3 を合成した。Conia-ene 反応は触媒量の In(OTf)3 と DBU の 存在下、トルエン中加熱還流することにより高収率で進行し、テトラヒドロフラン環 4 を与えた。続いて、4 を PhB(OH)2 を用いるボロン酸エステル 5 を経由するジヒドロ キシ化に付すと、連続する 2 つの 4 級不斉中心を含むラクトン 6 が一挙に得られた。 6 のエステル部の還元、ジオールの保護によりラクトン 8 へ導き、DIBAL 還元に続く Wittig 反応で側鎖を伸長し、シナトリン類の基本炭素骨格を持つアルコール 9 を合成 した。 MeO2C OH N2 BnO CO2Me CO2Me 2 O BnO Rh2(OAc)4 (0.5 mol%), PhH, reflux 69% OBn CH2Cl2 BnO O CO2Me CO2Me O BnO B Ph O BnO BnO O BnO 7 OH DMP, TsOH acetone, reflux 82% BnO O then H2O2 80% OH BnO 1) LiOHaq, THF : H2O = 4 : 1 2) (COCl)2, DMF(10 mol%) CH2Cl2 3) NaBH4, THF : MeOH = 10 : 1 65% (dr = 4 :1) 6 O O MeO2C O O BnO O O O O 1) DIBAL, PhMe, -78 °C 2) n-BuLi, DMSO, 120 °C O BnO 8 Ph3P Br (CH2)8CH3 76% (E:Z =1:1) (CH2)7CH3 BnO O O BnO 9 Schame 1 O CO2Me CO2Me 4 5 HO BnO PhMe, reflux 94% OBn 3 1 OsO4 (10 mol%) NMO (2 eq) PhB(OH)2 (2 eq) In(OTf)3 (5.5 mol%) DBU (5.0 mol%) CO2Me O OH 次に 9 を t-ブチルエステル 10 へと変換後、オレフィンの水素化を伴った選択的な ベンジル基の除去、アルデヒドへの酸化、Baeyer-Villiger 酸化を経て 11 を得た。11 の ホルミル基の除去とラクトールの酸化を連続的に行い、ラクトン 12 へと変換した。 さらに、12 よりアセトニドを除去後、1 級水酸基を、t-ブチル基に変換し 13 を得、最 後にベンジル基と t-ブチル基の除去し、シナトリン C1 の全合成を達成した。 (CH2)7CH3 (CH2)7CH3 1) H2, Pd(OH)2, AcOEt 2) DMPI, NaHCO3, CH2Cl2 1) HClO4, THF 2) DMPI, NaHCO3, CH2Cl2 BnO O O O OH BnO BnO 3) NaClO2, NaHPO4 2-methyl-2-butene tBuOH : H 2O = 4 :1 NHiPr 4) i OtBu CH2Cl2 76% (CH2)10CH3 O O CO2tBu 1) HClO4, THF 2) DMPI, NaHCO3, CH2Cl2 O O 2) TPAP, NMO CH2Cl2, 4ÅMS 59% (5 stesp) O CO2tBu 10 (CH2)10CH3 1) K2CO3, MeOH O OHCO 3) mCPBA, NaHCO3 CH2Cl2 O O BnO PrN 9 BnO O 3) NaClO2, NaHPO4 2-methyl-2-butene tBuOH : H 2O = 4 :1 NHiPr 4) i O BnO CO2tBu PrN 12 11 OtBu CH2Cl2 76% (CH2)10CH3 O BnO O 1) H2, Pd(OH)2 MeOH CO2tBu 2) HCOOH 3) HPLC 39% OH CO2tBu 13 O CO2H O HO HO CO2H cinatrin C1 Schame 2 (2) 新規テトラヒドロフラン合成法の開発 発表者は Conia-ene 反応の基質となる 16 の合成を検討中、目的とする 16 は得られ ず、環化反応まで一挙に進行した生成物 17 が極めて低収率ながら生成することを見 出した。このような O-H 挿入反応と Conia-ene 反応からなるタンデム環化反応の前例 はないため、反応の一般化を検討した。 O O O O N2 14 Rh2(esp)2 (3 mol%) + PhH, 80 °C O O AcO O O O O AcO O O AcO 16 O O 17 (<10%) HO 15 Scahme 3 連続的 O-H 挿入/Conia-ene 反応を検討するにあたり、基質としてジアゾ化合物 18 と 10 当量のアルコール 19 を用い、ジクロロメタン中 1mol%の Rh2(esp)2 と 4Åモレキ ュラーシーブス、および 5mol%の Lewis 酸を加え検討を行うと(Table 1)、In(OTf)3 と ZnCl2 触媒を添加した条件において、環化体 21 が良好な収率で得られることを見出し た(entries 2, 3)。しかしながら、In(OTf)3 を用いた条件は基質適応性に乏しかったため、 ZnCl2 を用い entry 3 の条件についてさらに検討を深めた。その結果、ZnCl2 酸をジア ゾ化合物 18 対し 10 mol%、アルコール 19 を 1 当量加える条件が、最もよい収率を与 えた。(entry 4)。 Tabale 1 Screening of Lewis acids and optimization Rh2(esp)2 (1 mol%) Lewis acid OH COPh N2 COPh O 4Å MS CH2Cl2, rt CO2Me 19 18 O COPh CO2Me CO2Me 20 21 yield (%) entry Lewis acid (mol%) time (h) 1 none 72 80 4 2 In(OTf)3 (5 mol%) 3 0 93 3 ZnCl2 (5 mol%) 6 16 68 4a) ZnCl2 (10 mol%) 4 0 84 5b) ZnCl2 (20 mol%) 4 0 82 最適化した条件において、様々なジアゾジカルボニル化合物およびホモプロパルギ ルアルコールを用いて反応を検討した。その結果、種々のジアゾ化合物、アルコール において、良好な収率でテトラヒドロフラン体が得られることがわかった(Table 2)。 また、内部アセチレンを持つアルキノールの場合、E 体が選択的に生成することを確 見出した。ここにおいて、簡便なアトムエコノミーに優れた新たなテトラヒドロフラ ン合成法を開発することができた。 Table 2 Tamdem One-pot synthesis of Tetrahydrofurans R4 COR1 N2 O Rh2(esp)2 (1 mol%) ZnCl2 (10 mol%) OH R4 R R1 R2 CO2R2 COMe O CO2Me CO2Me CO2Me R R1 R2 4Å MS CH2Cl2, rt O COMe O COPh Pr O 23 (66%) COPh CO2Me 24 (80%) O COPh CO2Me O Me 25 (74%, dr = 1 : 1) O COPh COPh CO2Me CO2Me COMe Me 22 (70%) COPh O 3 3 Me 26 (75%) O COPh CO2Me CO2Me CO2Me Me 27 (82%, dr = 2.3 : 1) 28 (73%, dr = 4 : 1) 29 (86%, dr = 2.3 : 1) 30a) (95%) a) (CHCl)2 used as a solvent [基礎となった学術論文] 1. F. Urabe, S. Nagashima, K. Takahashi, J. Ishihara, S. Hatakeyama, J. Org. Chem. 2013, 78, 3847. 2. F. Urabe, S. Miyamoto, K. Takahashi, J. Ishihara, S. Hatakeyama, Org. Lett. accepted.
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