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セルラーニュ←ラルネットワークによる肝臓病の診断
葦
忠・真田
明・山田
充
ZhongZHANG,AkiraSANADAandMitsuruYAMADA
キーワード
ニューラルネットワーク/診断/肝臓病/信号解析
NeuralNetwork/Diagnosis/LiverDiseases/SignalAna・1ysis
KEYWORDS
要
旨
本研究では,3倍出力関数を有するセルラニューラルネットワーク(CNN)を用いて肝臓病の診断を試みた・
本手法による肝臓ガン,慢性肝炎および肝硬変の平均診断率が70%であ.り,3層の階層型ニューラルネット
ワーク(NN)を用いた場合などとの比較においてもその優位性が確認できた・
1,まえがき
セルラーニューラルネットワーク(CellularNeuTal
NetwoれCNN)は連想記憶媒体として優れた性能を
有することがLiuとMichell)により報告されて以来,
文字認識2),肝臓病の診断3)およびテクスチャー識
別4)など様々な分野での分類問題に応用され,注目
されている.
CNNは構成要素であるセルが電子回路で簡単に
実現できることや各セルが近傍のセルとのみ結合し
ている点からハードウェア化が容易である等の特徴
がある5).また,CNNにおいて,各セルの状態は周
囲セルの状態の影響を受けながら微分方程式系で変
化し,システムの漸近安定平衡点(以下,平衡点と呼
ぶ)に収束する性質,すなわち自己想起機能を持って
いる.本研究ではCNN■の自己想起機能を利用し3
値出力関数を有したCNNを用いて肝臓病の診断を
図19×9のCNNとそのγ=2近傍
き詳㍉拘は次式であらわされる・
試みる.
2,
笥*拘=∑∑ン榊)紬,伸
CNNの構築
(2)
CNNは1988年,ChuaとYang5)によって提案
され,図1に示すようなセルと呼ばれる単純なアナ
近傍セルにおける制御変数からの影響を表す項gゴゴ*
ログ回路をマトリクス状に配置したものであるJ図
中の五行,ブ列のセルはそのセルの近傍とのみ連結さ
u五Jについても同様に定義される・出力関数眺ブは図
2に示すような状態句の区分線形関数であるため,
れ,各セルに記憶される状態はその影響を受けなが
式(1)は各線形領域において線形微分方程式となる・
議論を簡単にするため,制御入力を勒=0とし,
ら次の微分方程式系で変化する.
式(1)で与えられた〃=77-×m個のセルの微分方程
(1)
諾宣ブ=-㌶査J+端サ毎+gブJ*明+ムゴ
(1≦五≦m,1≦ブ≦乃)
ここで訂炉叫は(盲,ブ)セルにおけるそれぞれ状態
式を一括してベクトルの形式で表現すると,
壷=一語+ry+∫
変数,制御入力を表し,J£ブは開催をあらわしている・
拘,みは(盲,ゴ)セル近傍のセルからの出力及び入
(3)
となる.ただし,諾は状態ベクトルで,yは出力ベ
入されたものである.図1に示されるように(盲,J)
クトルである・rは結合係数行列(N行,N列)であ
り,∫は開催ベクトルである・成分が+1〉-1(2値出
力),または+1,0,」(3値出力)である守個のベク
セルかち㍗個離れた近傍セルまでの影響を受けると
トルα1,α2,…,α9が与えられたとき,CNNを構築
力の影響をあらわす結合係数行列である.演算記号
*は近傍セルからの結合を簡潔に表現するために導
ー14-
要素以外の植が重要であるので,須木およびGよ
り㌣近傍に属しない0要素を除いた次の間係式(10)
を得る.
田
(10)
ヱ芸=t;Gr
-0.8-0.3
/0
図2
ここでGrは行列Gより点番目のセルの近傍に属
しないセルとの結合要素を取り除いたものである.ま
ト
0.3
0.8
ズ‖
リ
た,Z芸,ま㍍ま行ベクトル釣行わより同様にた番目のセ
皿
ルのγ近傍に属しないセルとの結合要素を取り除い
たものである・式(10)において行列Grは一般に正
方形列ではないため,ま芸は特異債分解6)を用いて次
3値出力関数の例
式のように与えられる.
するにはこれらを記憶ベクトルとして持つr,∫を
ま芸=Z芸甘[入]
定めればよいことになる.ここで,Liu&h4icIlell)
の方法に従って次のように仮定する
1/2と/㌻(11)
ただし,同一1/2は[Gr〕rGγの固有値の平方根か
β乞=∬α豆
(4)
らなる対角行列の逆行列であり,打た,1克は次式を満
たす単位直交行列である.
ただし,∬は平衡点の位置に関するパラメータで,
Gr=軋[入]1/2げ
出力関数の特性に左右されるものである.ベクトル
β盲が式(3)の平衡点での状態ベクトルであるとする
と,(墨はその時の出力になる・この時,式(3)は次
のようになる.
この解は,
10)の解の中でノルム6)最」
近傍のセルからの情報
えられる.
)に従って∫も求められ
-β1十rα1+∫=0
-β2+rα2+∫=0
(5)
このように設計したCNNは,理論的に記憶パ
ターンがシステムの微分方程式系の各安定平衡点に
対応し,初期パターンにより最適な記憶パターンを
想起する,すなわち微分方程式系の最適解の安定平
衡点に状態がとどまるようなネットワークである.
-β9+rα9+∫=0
ここで,行列G,Zを
〉
G=(α1-α9,α2-αダ,…,α9-1-α9)
Z=(β1-β9,β2-β。,‥・,β守一1-β曾)
(6)
とする・式(5)においてそれぞれの式とα9に関する
最後の式との差をとり,式(6)の行列表示を用いる
ことにより,次式が得られる.
ご=■r(7
(7)
3.肝臓病診断
血液検査などの項目は"低一正常一高"や"正常一
過剰一大きい過剰"というような,3レベルで検査結
果を表すことが多い.例えば,検査項目であるγ-
GTPは0∼50Ⅰロ/Jが正常範囲であるが,50∼100
Ⅰロ/Jとなると軽度超過,100Ⅰロ/J以上となると重度
超過という病状が診断される.また,ChEは正常範
囲が200∼400IU/Jであり,これより高いと脂肪肝,
低いと肝炎の可能性が高いと診断される.
そこで,血液検査の各項目を-1,0,1の3レベル
∫=β9一丁α曾
(8)
ここで,式(7)を満たす結合係数行列rを求め
に分け,図3に示した4×5のCNNを考えると,健
康体,急性肝炎,肝臓ガン,慢性肝炎および肝硬変の
るための煩雑で規模の大きな行列計算を避けるため,
典型的なパターンが得られる.また,表1に示すよ
CNN内のた番目セル(点=ケー(五-1)+J)について
のみ着目する・その満たすべき条件式(7)は次式と
うに各血液検査項目の結果を-1,0,1の3値レベル
に変換する関数を与える.変換後のある患者のデー
なる.
タを4×5の初期パターンとしてCNNに入力し連想
zた=わG
(9)
させて得られたパターンは,CNNに記憶された.
表2に示すのはCNNによる診断結果である.患
ただし,Zたは行列Zのた行ベクトルである.ま克は
者データについては,CNNに記憶させた5種類のパ
行列rのた行ベクトル,すなわちたセルにおける結
ターン,健康体(Pl),急性肝炎(P2),肝臓ガン(P3),
慢性肝炎(P4)および肝硬変(P5)に対してそれぞれ
合係数行列の各行要素と0要素を並べた行ベクトル
である.0要素以外の値を持つものは7--近傍,すな
わちγ個離れた近傍セルまで接続しているものであ
50人分を用いた.例えば,表のP3行,P4列におけ
る1の意味はP3に属する患者の1名がP4に判別さ
る・式(9)を満たすべクトルtんの決定において,0
ー15-
表1
BUN
q.ニ(ヰ一敗0)n2・0
GTP
AFP
句=
qコ=
.-∵\
q二=(q・3,96旭7占
qs=00
Alb
UrA
q8コ
ALP
AFP
CbE
11√=
媚‰。
q。=q,
恥止
GpT
′ⅠI
M
Dも追
詑ポ叫舶
PLt
一h息Jげ.d
0)/125.0
-:、・二:
0)佗0.0
加=
椅0_功/0.5
qll=
q12ニ!0巨( 90.0)
亀=
表2
スケール変換の関数
ヨbodUr組NiLとO宮地
Liveでdiヨea3eヨ
肝臓病の診断結果
γ・GluLamア17msp甲はta5e
瓜pba・1F抽prot飢n
Albumin
No七hing
ロrkA瓜d
All【血8pho5Pha.t8S
創pha・1Febprot血
Chohnesヒe【且Se
pl包もeLeも
ーもblヨ止i亡ubiム
Glut血pymⅦe℃ransamina5e
Iこ・TもごしLゴ
工.D宜
GOT
GOT′GpT
董薫静事由
GOT/Gpで
ql。≡q川
No.
Pl
P2
P3
PIHealLhPer≦10n
60
60
P2AcuヒeHepahh8
60
P31てepatoma
60
95
P4ChronicHepahヒi9
60
3
P5LiverC止rho由ヨ
60
P4
P6
Othe王・
60
Eightraho%
0
100
100
巳 ロ
70
40
2
6
80
4
30
Ⅰ6
60
ロ
0
13
LQudneArmop申h七色se
mr8Cもちairubin
ql甘二qlT/q12
8、.=0.0
L㌍ht8Dehydro卵□aS8
GI山血0Ⅹdo鼠ee也〇T柑nS甜rl血色se
このようにして得られた結果,健康体および急性肝炎
f払血00EGOT払GpT
R且hoo【GOTbGPT
王寸○血inす
の平均診断率が96%′,肝臓ガン,慢性肝炎および肝
硬変の平均診断率が61%であった.この結果により,
本論文で検討した肝臓病の診断において提案手法の
8UN
挿¶
U上人
Åu
TⅦl
GFT
LDH
GOT
ÅFP
優位性が確認できた.一方,本研究と同様なCNNを
AFp
ALb
0沌
¶
APL
用いて肝臓病の診断を行っ_た研究3)も報告されてい
PLt
るが,自己想起機能の検討が十分ではないことから,
D】州
慧 慧
50%の診断率にとどまっている.
判別できない患者については,やはり検査項目の
欠落や異常値の存在などが多く,CNNによる自己想
PIHealtbyPerson」陀Acu【eHepa山is
起が記憶パターンに収束することができなかった.こ
れらの患者の判別が今後の課題となる.
P3Hep鑑Oma
P4CbfO血CHepa【itis
図3
論
4.結
P5L主verCi血osis
以上,3値出力関数を持つCNNを肝概病の診断
肝臓病のパターン
に応用し,その有用性を確認した.その結果、肝臓
ガン,慢性肝炎および肝硬変の平均診断率が70%と
れたことを示している∴また,Plに属する患者は
なり,本手法の有効性が確認された.
すべてPlに正しく判別され,P4に属する患者の3
参考文献
人がP3に判別されていることがわかる.〉〉Other"列
Michel,A・N・,IEEETrans・Cir-
1)Liu,D・and
cuits&Syst・,CAS-40(1993),pp・119-121・
忠,金川明弘,高橋浩光,桑
2)川畑洋昭,章
木
宏,電子情報通信学会論文誌(A),J78-A,
12(1995),pp.1618-1626・
3)Kanagawa,A・,Kawabata,H・andTakahashi,
にある数値はPl∼P5のいずれにも属せず,判別で
きない患者の数である.表2からわかるように,健
康体および急性肝炎の診断率が100%に達した.ま
た,肝贋ガン,慢性肝炎および肝硬変の平均診断率
が70%に達した.
診断率について,3層の階層型NNを用いて比
H.,IEICE
較実験を行った.階層型NNの入力層のユニットは
nans.on
Fundamentals,E79-A,
10(1996),pp.16581663.
押個とした.中間層のユニット数は試行錯誤の結果
4)Szianyi,rr・andCsapodi,M・,ComputerVision
and王mageUnderstanding,7ト3(1998),PP255-
40に設定し,出力層のユニットは5個としてそれぞ
れ5種類の肝臓病に対応する.学習は誤差逆伝播法
270.
(ErrofBack-PfOpagation)を用い,教師データは図
3に示した典型的なパターンのデータを用いた.な
5)Chua,L・0・andYangL・,IEEETrans・Circuits
&Sysも・,CAS-35(1988),pp・1257-1272・
Applicar
andits
6)Strang,G・,LinearAlgebra
tions,Academic
Press,Inc・NewYork(1976)
お,学習は教師データと出力値との平均二乗誤差が
0.005以下になるまで繰り返した.診断結果の判別に
坤口昌哉監訳:線形代数とその応凰産業図書
ついて,出力ユニウトの出力値が0.8以上であれば
そのユニットに対応する病名を診断結果とし,出力
値が0.8以下であればそれを不確実な診断とした.
(1994)】・
---1し;----l