mx (t) = - GMm r2 r = l 1 + e cos θ

数学の世界 C 講義メモ(7 月 9 日)
1. 前回の講義の補足
問 22 の解説については前回の講義メモのその 2 をみること.また 2 種の生物の作る生態系の考察に
ついては前回の講義メモを参考にすること.
2. ケプラーの法則とニュートンの仮説
ケプラーの法則は p.25 に記述されている.第 1 法則については問題ないが,第 2 法則の内容につい
ては図に書いて理解すべきだ.第 3 法則は楕円の長半径が長軸の長さの半分であることを注意すればよ
い.これはティコ・ブラーエの観測結果からケプラーがまとめたものである.
万有引力はあらゆる 2 つの物質に働く力である.正確には p.25 の記述を見ること.運動方程式は力
の大きさと加速度と質量の積が等しいことを主張する.これらはニュートンの提唱した仮説である.こ
の仮説から 2 つの天体のみを考える時,運動は
mx′′ (t) = −
GM m
r2
という微分方程式で記述されることになる.なお,この方程式を考える際には,質量の大きな天体は動
かないと仮定し,その中心を原点として記述する.p.26 冒頭では地球上での物体の落下運動を考えて
いるので,地球の中心を原点に,M を地球の質量にしている.本来の太陽系での天体の運動を考える
際は,原点は太陽(の中心),M は太陽の質量である.
実際の太陽系は多数の天体からなるので 2 つの天体のみ考えるのでは不完全である.しかし,太陽か
らの力が圧倒的に大きいので 2 つ考えればほぼ正確に運動の様子を捉えることができる.2 つの天体の
みを考える問題を 2 体問題という.3 つ以上の天体を考えることは多体問題という.2 体問題の解はテ
キストにも記述してあり,数学 III レベルの数学知識で解けるが多体問題は積分計算では解を求められ
ない.コンピューターを利用した数値計算などが必要になる.
仮説は現実の現象を説明できて初めて価値を持つ.ニュートンの偉大さは,単純な 2 つの仮説から 2
体問題を解くことによってケプラーの法則を導き出したことだ.これはケプラーの考察の対象である
5 つの天体(水星,金星,火星,木星,土星)だけではなく,他の天体や地球と月の関係にも使える.
ニュートンの仮説が宇宙の天体の運動を記述するもっとも基本的な法則として認識された.
3. ケプラーの第 3 法則について
2 体問題のための微分方程式は極座標を使って考察する.詳しい内容をテキストに記述しているので
興味のある人は読んでほしい.講義では具体的な解き方の解説は行わない.
焦点を原点において楕円の方程式は極座標により
r=
l
1 + e cos θ
で記述される.この e を離心率という.e = 0 の時は円,0 < e < 1 の時が楕円である.なお e = 1 の
ときは放物線,e > 1 の時は双曲線である.良く彗星の軌道について,この彗星は 2 度と太陽の近くに
戻ってこないという話を聞くが,これは彗星の軌道が e ≧ 1 の場合に相当するためである.軌道の観
測から e の値は決定できる.
0 < e < 1 の場合 r の最大は θ = π のときで
l
1−e ,最小は
θ = 0 のときで
l
1+e
である.これを中
心が太陽の場合は遠日点,近日点とよび,地球の場合は遠地点,近地点とよぶ.長軸の長さはこの 2 点
の距離で与えられるので長半径は
1
2
(
l
l
+
1+e 1−e
)
=
l
1 − e2
となる.微分方程式から得られる結論は公転周期を T とおいて
4π 2
T =
GM
2
(
l
1 − e2
)3
である.太陽系での天体の軌道では M は太陽の質量なので全天体に共通なのでケプラーの第 3 法則が
示されたことになる.ただしこの比例定数は,長さの単位と時間の単位をどう取るかによって値が変わ
る.太陽系で距離の単位を AU(天文単位),時間の単位を年にすれば,地球軌道での比例定数は 1 で
ある.だから他の天体でも 1 になる.
なお,人工衛星の軌道など地球を回る天体の運動を考える際には M は地球の質量になる.比例定数
は太陽系の場合と変わってくる.これについては問 24 を与えているが,以下に解答例を記述しておく.
4. 問 24 の解答例
月の公転周期は 655.72 時間,静止衛星の公転周期は 23.93 時間である.静止衛星までの距離を a,月
までの距離(月軌道の長半径)を b とすればケプラーの第 3 法則により
a
=
b
√
3
23.932
≒ 0.11
655.722
ISS の公転周期は 1.5 時間,地球の中心からの距離は 400 + 20000/π ≒ 6766km なので
a
=
6766
√
3
23.932
≒ 6.34
1.52
より a ≒ 42878km である.静止衛星の高度はこれから地球の半径を引けばよいので約 36500km にな
る.Wikipdeia によれば実際の距離は 35786km だが,ほぼ等しいといっていいだろう.
静止衛星軌道の高度は決まっている.また静止衛星としての役割を果たすためには赤道面内の軌道で
なくてはならない.静止衛星軌道は一つの円周上にしかありえず,その過密が問題になっている.
なお,1 日の長さは地球の自転周期だけではなく太陽との位置関係をこめて決められている.1 年は
365 日だが,その間に太陽の周りを 1 周するため 366 回自転する.地球の自転周期は 1 日より短く,静
止衛星の公転周期もそれに合わせて決める必要がある.