x x (t) x(t) = A − Bx x (t) x(t) = −A + By(t), y (t) y(t) = C − Dx (t) (t),y (t

数学の世界 C 講義メモ(7 月 2 日)
今回の授業は準備不足だった.原因ははっきりしていて,理解してほしいところと事実として知っておいて
ほしいところの区別が曖昧になってしまったことだ.この講義では概念の意味を大事にすることを重視してい
るが,微分の意味は直観的にしか捉えられない.その中でいろいろな工夫をしたいと思っているがまだ不十分
だった.この講義メモで少し補いたいと思っている.
1. 変化率が時刻とともにかわるような現象を捉えよう.
前回の講義では変化率一定の現象が指数関数で表せることを中心に解説した.しかし,変化率は環境
とともに変化するのが普通だ.生物の個体数の増加率も,個体数が多くなれば過密の要素が加わるので
増加率は当然減少する.そのような現象を微分方程式の立場からどう考えればいいのかが今日の主たる
話題だ.
2. ロジスティック方程式
もっとも単純な場合が,変化率が x の 1 次関数になっている場合だ.単位時間当たりの変化率は
x′ (t)/x(t) なので
x′ (t)
= A − Bx
x(t)
と記述できる.この微分方程式は数学 III の知識だけで解けるが,ここでは解説しない.解の具体的表
示と,数式処理ソフト(マセマティカ)による解のグラフの様子のみ紹介した.
このようにある種の現象を数学のモデルによって説明することは多くの分野で行われている.もちろ
ん単純化しすぎていて実際の現象とはかけ離れたものになっていることは否めないが,それでもその現
象の本質的な理解につながる可能性がある.
3. 被食者・捕食者モデル
X と Y の 2 種類の生物がいる閉じた生態系を考えよう.まず生物 X が Y を餌として捕食する状
況を考える.X の個体数 x(t) の増加率は,Y の個体数の y(t) に影響を受ける.逆もまたしかりな
ので
x′ (t)
= −A + By(t),
x(t)
y ′ (t)
= C − Dx(t)
y(t)
と変化率を表すことにする.y が極めて少ないときは x は減少するはずなので A > 0 としてよい.ま
た y の増加とともに x の変化率は大きくなるはずなので B > 0 も自然な仮定だ.いっぽう x が極め
て少ないときは Y を捕食するものがいないので y(t) は増加する.また x が増えるにしたがって y の
増加率は低下するはずだ.よって C > 0, D > 0 も自然な仮定だ.
この方程式の解の様子は (x(t), y(t)) を座標平面上の点と考えることにより,次のように考察するこ
とができる.ただし講義の説明は分かりづらかったと思うので要点を箇条書きしておく.
• 時刻 t での位置を座標平面上の点とみなすので,時の流れによる状態の変化は座標平面内の曲線上
を移動する点を表す.(x′ (t), y ′ (t)) はその移動の接ベクトル(速度ベクトル)である.
• x(t), y(t) はそれぞれ X, Y の個体数なので正である.状態の変化を表す曲線は座標平面の第 1 象
限のみに現れる.そこで第 1 象限を 2 直線 y = A/B と x = C/D で 4 分割する.
• 4 分割された右上の部分では x′ (t) = (−A + By)x > 0, y ′ (t) = (C − Dy)x < 0 である.曲線は時
がたつにつれ右下に動いていく.これをそれぞれの部分で行う.
x′ (t) = (−A + by)x
y ′ (t) = (C − Dx)y
曲線の移動方向
右上
正
負
右下
右下
負
負
左下
左上
正
正
右上
左下
負
正
左上
• この考察により曲線の様子がおぼろげながら浮かび上がってくる.実際,数式処理ソフトを使えば
より具体的な移動の様子が見えてくる(図 9).
ポイントは X, Y とも増加と減少を繰り返すことだ.ピークが少しずれていることも分かる.
4. 生存競争モデル
二つの生物種 X, Y が同一の餌を求めて競争関係にあるとしよう.このとき X, Y の増加はそれぞれ
の変化率を引き下げるように働く.そこで,x(t), y(t) の変化率を x, y の 1 次式として表してみること
にする.
x′ (t)
= A − Bx − Cy,
x(t)
y ′ (t)
= D − Ex − F y,
y(t)
A, B, C, D, E, F たちは正
この解の様子は,直線 A − Bx − Cy = 0 と D − Ex − F y = 0 の位置関係で大きく変わってくる.
講義では 2 直線が交わっているとして二つの様子を前項で述べた方法で観察した.またプリントにはマ
セマティカを利用した曲線の様子を紹介した(図 10,図 11).これを見ると図 10 では一方の種は絶滅
し,図 11 では両者が共存したまま安定な状態に至る.このような単純なモデルでも,少しの状況の変
化で結果が劇的に変わることが観察できるだろう.
5. 以上の議論のまとめ
変化率が時が経つにつれて変わってくるような現象を考察したが,どれも 1 次式というもっとも簡単
な関数を利用した.それでも,変化率一定の現象よりもはるかに複雑な現象が現れる.微分方程式の解
についてのより深い考察は高度な数学知識が必要だが,解を観察するだけなら数式処理ソフトを使えば
よい.そして解の様子からより深い現象の理解を得ることが可能になる.微分の応用の幅広さを感じ
取ってほしい.
6. ケプラーの法則
ニュートンは微分積分を導入し,それを使って万有引力の法則からケプラーの法則を導き出すという
画期的な仕事を行った.微分積分の誕生をめぐるもっとも重大な出来事として,ぜひ解説したいと思っ
ている.今回の講義ではケプラーの法則の内容の説明を行った.これはティコ・ブラーエの膨大な観測
結果をケプラーが単純な法則としてまとめたものだ.惑星の軌道が楕円であることなど,それまでの
常識(それまでは惑星の軌道は円だと思われていた)を覆す内容だった.特に第 3 法則については 27
ページの表にまとめている.第 3 法則の意味をこの表から理解してほしい.