演習問題1 及び 略解

微分積分学および演習Ⅱ 演習問題 1
2014 年度後期
工学部・未来科学部 1 年
担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教)
※レポートを提出したい人は、以下の注意点を守って提出して下さい。
(ⅰ) 必ず分かるところに学籍番号、学科、氏名を書いて下さい。
(ⅱ) A4 の紙を用いて、複数枚になる場合はホチキスや針無しステープラーで綴じて下さい。
(ⅲ) 提出期限は 9/30 (火), 10/2 (木) とします。
問題 1-1. (2 変数関数の極限Ⅰ)
以下の極限値が存在するかどうかを調べなさい。極限値が存在する場合にはその値を求め、極限値
が存在しない場合にはその理由を述べなさい。
(1)
(3)
x2 + 2xy − y 2
√
(x,y)→(0,0)
x2 + y 2
xy
lim
2
(x,y)→(0,0) x + y 2
lim
(2)
3x + y
(x,y)→(0,0) x − 2y
(4)
x3 y 2
(x,y)→(0,0) (x2 + y 2 )2
lim
lim
[ヒント] (講義の復習):
- 分母に x2 + y 2 という塊がある場合は、極座標変換 すると分かり易い (場合が多い)。
- 如何にも極限値を持たなさそうな場合は、近づけ方を変えてみて異なる値に収束すること
を観察する と良い (例えば直線 y = mx に沿って近づける、等)。
問題 1-2. (2 変数関数の極限Ⅱ)∗
2 変数関数
f (x, y) =
x5
x3 + y
について、以下の設問に答えなさい。
(1) xy 平面上の直線 y = mx (但し m は実数) に沿って (x, y) を (0, 0) に近づけたとき、m の値
によらず f (x, y) は 0 に収束することを証明しなさい。
(2) 極限値
lim
f (x, y) は存在しないことを証明しなさい。
(x,y)→(0,0)
[ヒント]
(2) 1 次関数ではなく、もっと高次の 関数 y = g(x) に沿って (0, 0) に近づけると、異なる値
に収束することが分かる。
(例えば分母と分子が「同じ」になる様に巧く y = g(x) を選ぶと......?)
1
【略解】
問題 1-1. [ヒント] で示された戦略に則って計算すれば良い。
(1) 極座標変換 x = r cos θ, y = r sin θ して計算すると
(r cos θ)2 + 2(r cos θ)(r sin θ) − (r sin θ)2
x2 + 2xy − y 2
√
√
= lim
r→0
(x,y)→(0,0)
(r cos θ)2 + (r sin θ)2
x2 + y 2
lim
r2 (cos2 θ + 2 cos θ sin θ − sin2 θ)
r→0
r
2
= lim r(cos θ + 2 cos θ sin θ − sin2 θ)
= lim
r→0
· · · (∗)
ここで、θ がどの様に変化しても r が 0 に近づけば (∗) は (θ の動き方に依らず) 0 に収束
する。
x2 + 2xy − y 2
√
= 0 となる。
(x,y)→(0,0)
x2 + y 2
(2) 直線 y = mx (但し m は実数) 上を (0, 0) に近づけた時の値を考えてみると、
よって 極限値は存在して、
lim
3x + mx
x(3 + m)
3+m
= lim
=
.
x→0 x − 2 · mx
x→0 x(1 − 2m)
1 − 2m
lim
この値は傾き m が変わると変化するので、(x, y) の (0, 0) への近づけ方を変えると収束する
値が変わってしまうことを表している。したがって 極限値は存在しない。
※ (2) は「極座標変換を用いる」方法でも極限値が存在しないことを示せます。
(3) 極座標変換 x = r cos θ, y = r sin θ して計算すると
lim
(x,y)→(0,0) x2
xy
(r cos θ)(r sin θ)
= lim
2
r→0
+y
(r cos θ)2 + (r sin θ)2
r2 cos θ sin θ
= lim
r→0
r2
= lim cos θ sin θ = cos θ sin θ.
r→0
この値は θ が変わると変化するので、(x, y) の (0, 0) への近づけ方を変えると収束する値が変
わってしまうことを表している。したがって 極限値は存在しない。
※ (3) は「直線 y = mx 上を (0, 0) に近づける」方法でも極限値が存在しないことを示せ
ます。
(4) 極座標変換 x = r cos θ, y = r sin θ して計算すると
x3 y 2
(r cos θ)3 (r sin θ)2
=
lim
r→0 ((r cos θ)2 + (r sin θ)2 )
(x,y)→(0,0) (x2 + y 2 )2
lim
r5 cos3 θ sin2 θ
r→0
r4
3
= lim r cos θ sin2 θ
= lim
r→0
· · · (∗∗)
ここで、θ がどの様に変化しても r が 0 に近づけば (∗∗) は (θ の動き方に依らず) 0 に収束
する。
x3 y 2
= 0 となる。
(x,y)→(0,0) (x2 + y 2 )2
よって 極限値は存在して、
lim
2
【解説】 2 変数関数の極限値を求める問題。一般に (2 変数の場合も含めた) 多変数関数の場合には、
点への「近づき方」が無限に ( それこそ星の数ほど ) 存在する ために、極限値を持つかどうかを判
定するだけでも 1 変数関数の場合と比べると遥かに難しいということは講義でも見て来た通りです。
ここでは比較的簡単に極限値を持つかどうかを判定出来る問題のみを扱いました。
(1), (4) は極座標変換を用いれば 0 に収束することは比較的簡単に確認出来ます。(2), (3) につい
ても、「如何にも極限値を持たなそう」であることは何となく感じられると思いますので、(x, y) の
(0, 0) への近づけ方を変えると収束値が異なってしまうことを確認すれば良いことになります。
基本的に良く出来ていたとは思いますが、レポートを添削していて気になった点が何箇所かありま
したのでまとめてコメントしておきます。
- 極座標変換を用いた際には、その旨をきちんと明記すること. 例えば (1) や (4) で、何の断り
もなく x = r cos θ, y = sin θ を代入して計算しているレポートがかなりありました。これは
レポートを見る人に対して 大変心証が悪いです。大学の数学では基本的に何を使って下さっ
ても構いませんが、どこでどのようなことを用いたのかが分かる様に説明を書く ことを常日
頃から心掛けて下さい (今の場合は「極座標変換 x = r cos θ, y = r sin θ を行うと」など)。
babababababababababababababababababab
このような「お小言」は、何も嫌がらせや憂さ晴らしで書いている訳ではありません。
誰が読んでも分かる様な適切な説明をつける ということは、これから皆さんが社会に出て
行く際にも非常に大切な能力であるからこそ、口を酸っぱくして注意しているのです。
例えば、将来皆さんが就職して商品の企画書を書かなければならない場面に遭遇したと
しましょう。そんなときに、もし「ジンオウガくらい誰でも知ってるだろう」と 勝手に思
い込んで、何の説明も無しに「ジンオウガのような外見の格好よさとインパクトを兼ね備え
たキャラクターこそが消費者のニーズである」などと企画書に書いたら、「そのジンなんた
らとは何だ!!」と一斉砲火を浴びることは火を見るよりも明らかです。ましてやプレゼンの
際にそんなことを突如口走ったら……。今ちょっと想像しただけでも背筋を冷たいものが
走りました。社会に出たら、「相手もどうせ分かっているだろうから説明を省略しても良い
だろう」等という考え方は 全く通用しなくなる のです*1 。
数学の答案作成は、そういった場面で 適切な説明を行う能力を身につける ための鍛錬の
場でもあります。レポートでも試験の答案でも、先ずは 書き上げたら もう一度読み直して、
独りよがりな説明になっていないか、誰が読んでも自分の言いたいことが伝わるか を確認
する ように心掛ける様にしましょう。慣れないうちは上手くいかず、レポートも添削 (ダ
メ出し) で真っ赤になって帰って来るかもしれません。しかし「論理的に説明する」能力
は、そんなことを何度も繰り返しているうちに自然と身に付いていくものです。直ぐに諦
めたりせずに、積極的にレポートに挑戦しましょう。
*1
ちなみに「ジンオウガ」とはモンスターハンターシリーズの人気モンスターのことだそうです。私はモンハンは全く
やったことはありません (Google 先生に教えていただきました)。
3
- 極限値を持たない場合には、その理由を簡潔に書くこと. これも先程のコメントと同様です。
(2) や (3) では、最終的に r を 0 に近づけると m や θ が残った式が出て来ると思います。し
たがって「極限値は持たない」という解答は全く正しいのですが、「何故この様な式が出て来
たら極限値を持たないのか」をきちんと説明しなければ、「(極限値を持たないことを) 自分が
正しく理解している」ということを人に伝えることは出来ません。とは言え、何もくどくどと
説明を書けば良いというわけでもありません。今回はただ「m や θ が動くと収束値が変わっ
てしまうから」と一言書けば、誰でも「あぁ、確かに極限値は存在していないな」と理解出来
るようになる筈です。先程も述べましたが、とにかく 誰が読んでも理解出来る様な答案の作
成 を心掛けるようにしましょう。
- 特定の近づけ方で同じ値に収束しても、極限値を持つことの説明にはならない. 若干名です
が、(1) や (4) で 「y = mx に沿って (0, 0) に近づけると m によらず 0 に収束するから極限
値は 0 である」とか、「x = 0, y = 0, y = x のどの直線に沿って (0, 0) に近づけても 0 に収
束するから極限値は 0 である」という答案が散見されましたが、これは大きな誤りです。講義
の際にも述べた様に、
「
f (x, y) が極限値を持つ」とは「(x, y) を どのようなルート
lim
(x,y)→(0,0)
を辿って (0, 0) に近づけても f (x, y) が同じ値に収束する」ことでしたから、上記の誤答の様
に 特別な近づけ方で 0 に収束したからと言って、本当に 0 に収束しているとは限らない の
です (例えば 問題 1-2. を考えてみよう)。したがって (1), (4) では先ず 0 に収束すると当た
りをつけて、極座標変換を用いて解答する必要があります。
※ 実際には 極座標変換をしたからといって何時でも上手くいくわけではありません (例えば 問
題 1-2. (2) は極座標変換しても全く上手くいきません)。この辺りの事情は非常に込み入っています
ので、この略解の末尾で【発展研究】 として解説することにしましょう。
問題 1-2.
(1) (x, y) を直線 y = mx に沿って (0, 0) に近づけた時の f (x, y) の値を計算すると
x5
.
x→0 x3 + mx
lim f (x, mx) = lim
x→0
ここで、m = 0 のときは
x5
x→0 x3
= lim x2 = 0.
lim f (x, mx) = lim
x→0
x→0
また、m ̸= 0 のときは
x5
x→0 x(x2 + m)
0
x4
=
= 0.
= lim
x→0 m + x2
m
lim f (x, mx) = lim
x→0
したがって何れの場合も f (x, y) は 0 に収束することが示された。
4
(2) (x, y) を 5 次関数 y = x5 − x3 に沿って (0, 0) に近づけた時の f (x, y) の値を計算すると、
x5
x→0 x3 + (x5 − x3 )
x5
= lim 5 = 1
x→0 x
lim f (x, x5 − x3 ) = lim
x→0
となり、(1) で求まった値とは異なる値に収束することが分かる。つまり (x, y) を (0, 0) に近づ
ける際の経路によって f (x, y) が収束する値が異なる場合があるので、極限値
lim
f (x, y)
(x,y)→(0,0)
は存在しない。
【解説】 2 変数関数の若干込み入った極限の問題。この問題では、「どんな傾きの直線 y = mx に
沿って (x, y) を (0, 0) に近づけても f (x, y) は 0 に収束する」のにも関わらず
lim
f (x, y) が
(x,y)→(0,0)
極限値を持たない という (いやらしい) 関数の例を考察してもらいました。この様な例に遭遇する
と、多変数関数の極限は難しい (!) ということが改めて実感出来るのではないでしょうか? 以下、
各小問毎のコメントです。
(1) この問題に関しては、 y = mx を代入して x → 0 とした時の極限値を考えれば良いだけなの
で、非常に簡単……ではありますが、実は略解にも書いてある様に m = 0 のときは場合分け
が必要となります。「そんな重箱の隅をつつく様なことばかり言って、昭和の姑か!」と思われ
るかもしれませんが、ちょっとした ( 見落としがちな ) ミスの要因を予め察知して対策を講ず
る、つまり「ミスの芽を摘んでおく」ことも、当然ながら社会に出て行く上で必要な能力です。
今回の問題にしても、
x4
0
=
x→0 m + x2
m
lim
と計算した時点で「あれ? m = 0 だと分母が 0 になっちゃうけどどうなっているんだろう?」
と違和感を持つことが出来れば、略解の様な場合分けを用いた答案に辿り着くことはそれほど
難しくはない筈です。
今回チェックした中で、m = 0 のときの場合分けに気付いていた人は恐らく一人もいなかっ
た様に思います。場合分けが抜け落ちていた人は、もう一度最初から解き直して、何故場合分
けをしなければならないのか をしっかり確認しましょう。
(2) 正直「アイデア一発」の部分が大きい問題だったと思います。y = x5 − x3 という関数に気付
いてしまえば瞬殺ですが、気付かなかった人にとってはかなり悩ましい問題だったのではない
でしょうか? 今回 y = x5 − x3 という関数に気付けなかった人は、たまたま気付けなかった
だけですので、特に落ち込む必要はありません。次に似た様な問題に巡りあったときにきちん
と対処出来る様にしっかり復習しておきましょう。
ただ、何名か 「y = x2 にそって (0, 0) に近づけると
lim f (x, x2 ) = lim
x→0
x→0 x3
5
x5
x5
!!!
= lim 5 = 1」
2
x→0 x
+x
と計算している方がいらっしゃいました。これは見過ごせません。勿論 x3 + x2 = x5 なんて
等式は全然成り立ちません!! 「巧い関数をとって 0 以外の値に収束させよう」というアイデ
ア自体は非常に良い線を行っていただけに、このような凡ミスを少なからず発見して秋の夜長
と共に非常に物悲しく感じられます。上記の間違いをした人はしっかり反省して二度と同じ間
違いをしない様にしましょう。
参考までに z =
x5
のグラフを上に載せておきました。原点 (0, 0) の回り (ちょうど真中くらい
x3 + y
でしょうか) では平面っぽくなっているのが分かるでしょうか? ちなみに左下から右上にかけてぐ
にゃりと曲がって見える断面の曲線が (大体) y = x5 − x3 のグラフの部分で、この曲線に沿って急
に競り上がった形の曲面になっていることが見て取れます。また、その曲線とは対角の方向に伸びて
いるびらびらした曲面は y = −x3 に沿った部分 (つまり分母が 0 となってしまう部分) を表してお
り、こちらも「断崖絶壁」状態となっています (びらびらしてしまっているのは近似計算の誤差の部
分の影響だと思います)。
babababababababababababababababababab
【発展研究】*2
何故極座標変換で上手くいく場合と上手くいかない場合があるのか?
*2
発展的かつ「マニアック」なので、慣れていない人は読まない方が良いです。
6
問題 1-2. の (2) で極座標変換を行って、「安直に」計算してみると
r5 cos θ
r4 cos5 θ
x5
=
lim
=
lim
r→0 r 3 cos3 θ + r sin θ
r→0 r 2 cos3 θ + sin θ
(x,y)→(0,0) x3 + y
0
?
=
=0
sin θ
lim
· · · (♯)
となってしまい、最終的な値は θ に依存していないので、この極限値はどんな時でも 0 に収束して
しまっている様に見えます*3 。
ところが (2) では「収束値を持たないことを示せ」と言っているのだから、上記の結論は 何かが
おかしい ということになります。実は上の式変形の「?」の部分では、 r が 0 に近づくときに θ が
どの様に振る舞うかを全く考慮せずに
lim r2 cos3 θ = 0,
lim r4 cos5 θ = 0
r→0
r→0
と結論付けてしまっている ところに敗因があります。実際、θ を r に合わせて「巧く」動かしてあ
げれば、(♯) を 0 以外の値に収束させることが出来てしまうのです。このような θ の選び方は、若干
込み入った議論が必要となりますので、最後に扱いたいと思います。
それでは何故 問題 1-1. (1), (4) では極座標変換を用いて「極限値が 0」であることを証明するこ
とが出来たのでしょうか? それは偏に、問題 1-1. (1), (4) の関数は極座標変換をした後に 分母が
r の累乗の形になり、最終的に lim f (r cos θ, r sin θ) が
r→0
lim r · (r と sin θ, cos θ の多項式)
r→0
という「きれいな形」になってしまっているからという 極めて特殊な事情 によります。例えば 問題
1-1. (1) の状況では、r を 0 に近づけたときに (たとえ θ がどの様に動き回っても) (∗) がいつでも
0 に限りなく近づくこと、即ち
lim |r(cos2 θ + 2 cos θ sin θ − sin2 θ) − 0| = 0
r→0
となることが証明出来れば、晴れて
lim
f (x, y) の極限値が 0 になることを証明出来たことに
(x,y)→(0,0)
なります。ところが、(θ がどの様に変な動きをしようが) sin θ, cos θ は 所詮 −1 以上 1 以下の数
ですので、三角不等式を用いると
0 ≤ |r(cos2 θ + 2 cos θ sin θ − sin2 θ)|
≤ |r|(|cos2 θ| + 2|cos θ sin θ| + |− sin2 θ|)
≤ |(1 + 2 + 1)r| = 4r
が成り立つことが分かります。当然 lim 4r = 0 となりますので、 挟み撃ちの原理 を用いれば (た
r→0
とえ θ がどんな動きをしようとも)
lim |r(cos2 θ + 2 cos θ sin θ − sin2 θ)| = 0
r→0
*3
本当は 問題 1-2. (1) の様に sin θ = 0 の場合も分けて考えるべきですが、そのときも 0 となることは簡単に確認出来
ます。
7
となることが従う、というからくりだったのです。
まとめると、
極座標変換をして
f (r cos θ, r sin θ) = r · (r と sin θ, cos θ の多項式)
の形に変形出来るような 2 変数関数 f (x, y) に対しては、 挟み撃ちの原理 を用いることで
lim
f (x, y) = 0 となることが証明出来る
(x,y)→(0,0)
ことが分かりました。したがって 「(θ がどの様に動いても) 同じ値 0 に収束すること」を示すため
には、正確には三角不等式と挟み撃ちの原理を用いて上記の様に議論する必要があるのですが、さ
すがに議論が込み入っていると感じたのか、石原・浅野のテキストではその辺りの事情を「誤魔化し
て」書いているのです*4 。
多変数関数の極限は非常に微妙かつ繊細で、まだ多変数関数に触れて間もない皆さんがこのあたり
の事情を完全に理解するのは大変難しいと思います。あまりにも「誤魔化した説明」ばかりしている
と却って混乱する方もいらっしゃるとおもいますので、敢えて長々と細かい裏事情についても補足説
明をしましたが、正直なところ受講生の全員が直ぐに理解出来る様な内容でもないと思います (し、
全員が理解する必要はないことであるとも思います)。
本講義では取り敢えず極限値が存在する場合は 問題 1-1. の (1) や (4) のように極座標変換を行え
ば解けるタイプの問題しか扱いませんので、ここに書かれた内容は当面はあまり気にする必要はあり
ません。ただ、極座標変換が万能ではないこと、つまり 極座標変換をすれば極限の問題が必ず解け
るというわけではない ということくらいは常日頃から肝に命じておいて下さい。
※ (おまけ)
問題 1-2. (2) で極座標変換を行うと
lim
r4 cos5 θ
r→0 r 2 cos3 θ + sin θ
f (x, y) = lim
(x,y)→(0,0)
· · · (♭)
となる。このとき、θ = θ0 (r) を巧くとると、(♭) の極限値を 1 (̸= 0!) にすることが出来ることを証
明しよう。
以下、方程式
r4 cos5 θ = r2 cos3 θ + sin θ
· · · (♮)
を満たす様な θ = θ0 (r) が各 r > 0 に対して存在することを示す。そうすれば、この θ0 (r) に対し
て (♭) の右辺は
r4 cos5 θ0 (r)
(♮)
= lim 1 = 1
2
3
r→0
r→0 r cos θ0 (r) + sin θ0 (r)
lim
*4
例えば三宅敏恒『入門 微分積分』の例題 4.1.2 などでは、きちんと極座標変換と挟み撃ちの原理を用いた解答が書いて
あります。
8
となることが分かり、目的を達成したことになる。
さて、(♮) の右辺の r2 cos3 θ0 (r) を移項して両辺を 2 乗すると
(r4 cos5 θ − r2 cos3 θ)2 = sin2 θ
= 1 − cos2 θ
となるので、(♮) を満たす X = cos θ は X の 10 次方程式
F (X) = r8 X 10 − 2r6 X 8 + r4 X 6 + X 2 − 1 = 0
の解である。ここで、
F (0) = −1 < 0
F (1) = r8 − 2r6 + r4 + 1 − 1 = r4 (r2 − 1) ≥ 0
より、連続関数の中間値の定理から F (α) = 0 を満たす α = α(r) が 0 < α(r) ≤ 1 の範囲に存在す
ることが分かる。したがって θ0 (r) = arccos α(r) (但し −π ≤ arccos x ≤ 0 とする) とおくことにす
ると、この θ0 (r) は構成から (♮) を満たすことが分かる。
以上より、θ を r にしたがって適切に動かせば、
r4 cos5 θ
r→0 r 2 cos3 θ + sin θ
lim
は 0 以外の数に収束することもあることが分かるため、
lim
f (x, y) は極限値を持たない。
(x,y)→(0,0)
……とまぁこのように極座標変換をした後でも 問題 1-2. (2) を解くことは出来ますが、あまりに
も面倒くさいですので、通常は 「極限値が存在しなさそうな変な形の関数」 の場合には、適当に
y = g(x) とおいてから x を 0 に近づけた極限を考えてみて、y = g(x) のおき方を色々と変えると違
う値に収束することがあることを示すことによって「極限値を持たない」ことを示すのが一番スマー
トなやり方でしょう。
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