物理学 I 期末試験 (2014 年 7 月 30 日実施) 問題 1 右図のように,床の上に置かれた鎖の一方の端に力を加え一定の速 F さ v で鉛直上方に引き上げる.鎖の単位長さ当りの質量が ρ であり,鉛直の v 部分の長さが x になっている時,鎖を引き上げるのに必要な力 F を次の手順 で求めよ. (1) 鎖の鉛直部分の長さが x であるとき,微小時間 dt の間に鎖に与えられ x た力積を求めよ. (2) 鎖の鉛直部分の長さが x であるとき,微小時間 dt の間に変化した運動 量を求めよ. (3) 鎖を引き上げるのに必要な力 F を, x および v,ρ と重力加速度 g を用 いて表せ. 解答例) (1) 鎖に働くのは上向きに引っ張る力 F と下向きの重力 ρxg.したがって dt の間に与えられる力 積は上向きを正として (F − ρxg) dt (2) 鎖の鉛直部分の長さが x であるときの運動量は ρxv,それから dt 後の運動量は ρ(x + vdt).し たがって dt の間に増加した運動量は ρ (x + vdt) v − ρxv = ρv2 dt (3) 与えられた力積によって運動量の増加が生じた.したがって次の関係が成り立つ. (F − ρxg) dt = ρv2 dt 上式を F について解けば次の結果が得られる. ( ) F = ρ xg + v2 問題 2 x-y 平面上で運動する質量 m の物体に働く力が ( my m ) − 2, x x で表されるとする. (1) そのとき力は保存力である(ポテンシャルを持つ)ことを示し,ポテンシャルを求めよ. (2) x および y 方向の運動方程式を書け. (3) ポテンシャルと運動エネルギーの和が保存することを証明せよ. 解答例) (1) F x = −my/x2 ,Fy = m/x とすると ∂F x ∂2 U m =− = − 2, ∂y ∂x∂y x ∂Fy ∂2 U m =− =− 2 ∂x ∂x∂y x よって ∂F x /∂y = ∂Fy /∂x だからポテンシャルが存在する.したがって保存力である.また, −∂U/∂x = −my/x2 および −∂U/∂y = m/x より次式が得られる. U=− my my + C(y) = − + D(x) x x 上式が成り立つのは C(y) = D(x) = 定数 の時である.定数は任意であるからゼロとして U=− my x (2) x および y 方向の運動方程式はそれぞれ m my d2 x = − , dt2 x2 m d2 y m = x dt2 (3) (2) で求めた x 方向の運動方程式の両辺に dx/dt を掛け,y 方向の運動方程式の両辺に dy/dt を掛けて辺々足し合わせると次式が得られる. m d2 x dx d2 y dy my dx m dy + m =− 2 + 2 2 x dt dt dt dt dt x dt 上式の左辺は d2 x dx d2 y dy d m 2 +m 2 = dt dt dt dt dt 右辺は − ( )2 ( )2 dy 1 dx m + 2 dt dt my dx m dy d ( my ) + = x dt dt x x2 dt と書き直すことができる.したがって [ ) my ] d 1 ( 2 2 m v x + vy − =0 dt 2 x よってポテンシャルと運動エネルギーの和は時間的に変化せず保存することが示された. 問題 3 右下の図 1 のような長さ L,底面の半径が R,質量 M の細長い円錐状の棒がある.次の 問に答えよ. (1) この棒の体積を求めよ. (2) この棒の重心の位置を求めよ. 図1 図2 (3) この棒の細い方の端を中心にした慣性モーメン トを求めよ. (4) この棒を右の図 2 のように細い方を下にして壁 に立てかける.壁面と床面の摩擦係数をどちら L も µ としたとき,この棒がすべり落ちる角度 θc を求めよ. s θ (5) 棒と床面のなす角度が θc より大きいある角度 θ のとき,左側の壁面を突然取り去った.棒が床 R 面にぶつかる際の棒の重心の速さを求めよ. 解答例) (1) 円錐の先端からの中心軸にそって底面方向に座標 s を取る.半径 r(s) は次のように表される. r(s) = R s L 厚さ ds,半径 r(s) の円盤の体積は πr2 (s)ds であるのでこれを s = 0 から L まで積分すると体 積が得られ,次のようになる. ∫ L π ( R )2 0 L [ ]L R2 s3 1 s ds = π 2 = πR2 L L 3 0 3 2 (2) 密度を ρ とする.重心の s 座標 smc は次のようになる. ∫ smc = L R2 2 s × sds ∫ L s3 ds [s4 /4]0L 3 L2 0 0 = ∫L = 3 L = L ∫ L 4 s ds [s /3]0 R2 2 s 0 ρπ 2 s ds L 0 ρπ (3) この棒の細い方の端を中心にした慣性モーメントを I とすると ∫ L I= 0 R2 R2 ρπ 2 s2 × s2 ds = ρπ 2 L L ∫ L [ ]L R2 s 5 R2 L 5 1 s ds = ρπ 2 = ρπ 2 = ρπR2 L3 5 L 5 0 L 5 4 0 ここで ρ = M/( 13 πR2 L) であるから I= 3 ML2 5 (4) 水平方向および鉛直方向の力の釣り合い,モーメントの釣り μNh 合いはそれぞれ次のようになる. Nh − µNv = 0, Nh µNh + Nv = Mg, 3 Nh L sin θc + µNh L cos θc = Mg L cos θc 4 Mg これらを解いて Nv = ( L Lsinθ Mg , 1 + µ2 Nh = 3 L 4 3 Lsinθ 4 µMg , 1 + µ2 Nv θ ) µ2 µ 3 − MgL cos θ = MgL sin θc c 4 1 + µ2 1 + µ2 μNv Lcosθ さらに tan θc = 1 + µ2 3(1 + µ2 ) − 4µ2 3 − µ2 = µ 4µ 4(1 + µ2 ) (5) 重心の位置は (3/4)L sin θ だけ低下する.したがって位置エネルギーの減少は Mg(3/4)L sin θ である.また重心が床にぶつかるときの速度を v,角速度を ω とするとそのときの運動エネ ルギーは (1/2)Mv2 + (1/2)Iω2 である.したがってそれらが等しいとすると 3 1 1 Mg L sin θ = Mv2 + Iω2 4 2 2 ここで幾何学的な関係から v= 3 Lω 4 したがって ( ) 2 3 1 2 13 1 24 31 2 2 4 2 MgL sin θ = Mv + ML 2 2 v = + Mv2 = Mv 4 2 25 2 45 30 3 L 上式を v について解くと √ v= 45 gL sin θ 62 問題 4 下図のように二つのタンクをパイプでつなぐ.二つのタンクの断面積はいずれも A,パイ プの断面積は a であり,最初左のタンクの水深は H ,右のタンクは空であった. (1) 左のタンクの水深が x となったときの C 点での圧力を pC として,B 点および C 点の間に成 り立つベルヌーイ方程式を書け.なお,タンクの断面積 A がパイプの断面積より十分大きい として,B 点での流速をほぼゼロとみなしてよい. (2) C 点における圧力が D 点における圧力にほぼ等しいとして,(1) で求めたベルヌーイ方程式か ら C 点における流速を求めよ. (3) 左のタンクの水位が微小量 −dx だけ変化する(dx だけ下がる)のに要する時間 dt を求めよ. (4) (3) の式を積分することで,二つのタンクの中の水位が等しくなるのに要する時間を求めよ. 解答例) A A (1) B 点および C 点の間に成り立つベルヌーイ方程 B 式は C 点での流速を v として H 1 2 ρv + pC = ρgx 2 x C (2) D 点における圧力は ρg(H − x) と表される.し a D たがって (1) で求めたベルヌーイ方程式は次の ようになる. 1 2 ρv + ρg(H − x) = ρgx 2 これを v について解くと v は次のように得られる. v= √ 2g (2x − H) (3) 左のタンクの水位が微小量 −dx だけ変化する(dx だけ下がる)のに要する時間 dt は √ −Adx = avdt = a 2g (2x − H)dt (4) X = x − H/2 とおいて (3) の式を変形すると √ −AdX = 2a gXdt → −X −1/2 √ 2a g dX = dt A これを x = H から H/2,すなわち X = H/2 から0まで積分すると次のようになる. ∫ − 0 X H/2 −1/2 √ ∫ 2a g T = dt A 0 → √ [ ] 2a g 1/2 H/2 = 2X T 0 A よって二つのタンクの水位が等しくなるのに要する時間 T は √ √ 2HA A H T= √ = 2a g a 2g → √ √ 2a g 2H = T A H-x 問題 5 質量 m1 の分子(分子 1)と質量 m2 の分子(分子 2)が分子間力で結び付けられている. 下図のように分子間力をバネ定数 k のバネでモデル化し,問題を単純にするために分子はそれらを 結ぶ直線上でのみ振動することとする.そのとき次の問に答えよ. (1) 分子 1 および 2 の位置をそれぞれ x1 および x2 (x1 < x2 ),バネの自然長を l として,バネの 自然長からの伸び(あるいは縮み)を x1 および x2 ,l を用いて表せ. (2) 分子 1 および 2 の運動方程式をそれぞれ求めよ. (3) (2) で求めた二つの運動方程式からバネの伸び(あるいは縮み)に関する微分方程式を導け. (4) (3) で求めた方程式が単振動の方程式であることを示し,振動の周期を求めよ. m2 k m1 x x1 x2 自然長 l (1) x1 から x2 までの長さは x2 − x1 であり,バネの自然長は l である.したがってバネの自然長 からの伸びは x2 − x1 − l (2) (1) だけバネが伸びているとき,分子 1 は正の方向に引っ張られ,分子 2 は負の方向に引っ張 られる.したがって分子 1 および 2 の運動方程式はそれぞれ次のようになる. m1 dx1 = k (x2 − x1 − l) , dt m2 dx2 = −k (x2 − x1 − l) , dt (3) (2) で求めた分子 2 の運動方程式を m2 で割ったものから分子 1 の運動方程式を m1 で割った ものを引く.すると次式が得られる. ( ) d k k (x2 − x1 ) = − (x2 − x1 − l) + dt m2 m1 x2 − x1 − l = X と置くと上式は次のように書き直せる. dX k(m1 + m2 ) =− X dt m1 m2 (4) (3) で求めた方程式は次のような形をしている. dX = −ω2 X dt これは角周波数 ω の単振動を表す微分方程式である.また周期は次のように求められる. √ ω= k(m1 + m2 ) m1 m2 したがって周期 T は 2π = 2π T= ω √ m1 m2 k(m1 + m2 ) 問題 6 振幅が等しく,角振動数および波数がごくわずかに異なる 2 つの波 u1 (x, t) および u2 (x, t) が次式で表されるとする. u1 (x, t) = A cos[(k + ∆k)x − (ω + ∆ω)t] u2 (x, t) = A cos[(k − ∆k)x − (ω − ∆ω)t] ここで ∆k および ∆ω は微小であるとする. (1) 2 つの波を重ね合わせてできる合成波を表す式を導け. (2) 2 つの波を重ね合わせてできる合成波の概念図を描け. 解答例) (1) 2 つの波を重ね合わせてできる合成波を表す式は u1 (x, t) + u2 (x, t) = A cos [(kx − ωt) + (∆kx − ∆ωt)] + A cos [(kx − ωt) − (∆kx − ∆ωt)] = A cos (kx − ωt) cos (∆kx − ∆ωt) − A sin (kx − ωt) sin (∆kx − ∆ωt) + A cos (kx − ωt) cos (∆kx − ∆ωt) + A sin (kx − ωt) sin (∆kx − ∆ωt) = 2A cos (∆kx − ∆ωt) cos (kx − ωt) (2) これは振幅 2A cos (∆kx − ∆ωt) で進む波数 k,角振動数 ω の進行波である.振幅の波数は ∆k であり,角振動数は ∆ω である ことから,振幅自体が波長 2π/∆k,位相速度 ∆ω/∆k で進む波となっている.したがって概念 図は次のようになる.
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