Chapter 17

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
電気回路講義ノート
Author(s)
辻, 峰男
Citation
Issue Date
2014-04
URL
http://hdl.handle.net/10069/34606
Right
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第 17 章 分布定数回路
これまでの章では,回路の抵抗,コンデンサ,コイルを結ぶ電線は理想的で導体として考えて
きた。しかし,長い送電線では,抵抗やインダクタンスそれに対地との静電容量などを無視する
ことができない。また,短い線でも周波数が非常に高い場合(通信の分野)にもそれらを無視で
きない。この章では,これらの場合を考える。
○
分布定数回路(distributed constant circuit)の基本式
平行2線の線路を考える。
電流により磁束ができるので
L
インダクタンス がある。
電流
線路を作る物質の抵抗R
がある。
磁束
電
源
負
荷
x
線路間には、絶縁体や空気があるが、
その抵抗は無限大ではない。
G
抵抗の逆数コンダクタンス がある。
2つの線路は、コンデンサと見ることが
できる(キャパシタンス がある)。
C
図1
電線やケーブルはどんな素子で表せるか?
これまでの電線では,上記の R , L , C , G
は全て無視し, 0 と考えていた。電源からの座
標を x とし,短い区間  x をとると,その間の等価回路は図のように考えられる。
i ( x  x, t )
i ( x, t )
v ( x, t )
x
図2
x
i ( x, t )
v( x  x, t )
x  x
R x
G x
v ( x, t )
x
微小区間の電圧,電流
L x
x
図3
i ( x  x, t )
C x
v( x  x, t )
x  x
等価回路
抵抗は線路の長さに比例するが,1m 当りの抵抗を(往復分)R [m]とすると,微小区間  x
では,R x となる。インダクタンスも長さに比例し,1m 当りのインダクタンス(往復分)L [m]
とすると,  x 間では L x となる。静電容量も長さに比例し,1m 当り C [F/m]とすると,  x 間
では C  x となる。線路間の絶縁抵抗は長さに反比例するが,その逆数であるコンダクタンスは長
さに比例し,1m 当り G [S/m]とすると,  x 間では G x となる。これにより,図の等価回路が書
182
ける。微小区間であるから,4 つの素子の順番はどれでもよい。電圧や電流が時間 t だけの関数で
はなく位置 x の関数にもなっているのは,等価回路から判るように場所によって値が異なるから
である。このような回路は分布定数回路と呼ばれる。
テイラーの定理より
f
f
x   y
x
y
f ( x  x, y  y )  f ( x, y ) 

1 2 f 2 2 f 2
2 f
 x y )  
( 2 x  2  y  2
xy
2! x
y
が成立し,  x ,  y が小さいときには 2 次以上の項は無視できて
f
f
x   y
x
y
f ( x  x, y  y )  f ( x, y ) 
と近似できる。変数が2つ以上のとき,偏微分となる。
これを利用して,
i ( x  x, t )  i ( x, t ) 
i ( x, t )
x
x
v( x  x, t )  v( x, t ) 
①
v( x, t )
x
x
②
となる。
等価回路より,
v( x  t )  R x i ( x, t )  L x
 i ( x, t )
 v( x  x, t )
t
②を用いて,

 v ( x, t )
 i ( x, t )
 x  R x i ( x, t )  L x
x
t
 x で割り, v( x, t ) , i ( x, t )

を v , i と書くと
v
i
 Ri  L
x
t
③
電流については,
i ( x   x , t )  i ( x , t )  G  x v ( x  x , t )  C  x
v ( x  x, t )
t
2
①,②を用いて,  x の項は無視すると
 i ( x, t )
 v ( x, t )
 x   G  x v ( x, t )  C  x
x
t
 x で割り, v( x, t ) , i ( x, t ) を v , i と書くと

i
v
 GvC
x
t
④
③,④式は,分布定数回路の出発点となる。
183
○ 交流電源に対する定常状態の基本式
i ( x, t )
vs
v ( x, t )
x0
ZL
x
図4
分布定数回路(線路)に交流電源を接続
図4の電源電圧を vs (t )  Vs sin  t とすると,電源から x  m  離れた点の電圧 v( x, t ) ,電流 i ( x, t )
は,定常状態では次式で表される。すなわち,場所によって振幅や位相は異なるが,電源と同じ
周波数の正弦波である。分布定数回路も一定の R, L, C , G が集まってできた回路であるから,交流
電源がつながった定常状態では一般の交流回路と同様と考えてよいであろう。
v( x, t )  Vm ( x) sin  t   v ( x) 
⑤
i ( x, t )  I m ( x) sin  t  i ( x) 
⑥
これらに対するフェーザを
V ( x)  Vm ( x) e j v ( x )
⑦
I ( x )  I m ( x) e j i ( x )
⑧
と定義する。通信関係では 2 で割らない形で定義するので,ここではそれに従う。フェーザか
ら瞬時値を求めるには,

v( x, t )  Im V ( x) e j  t

i ( x, t )  Im I ( x) e j  t

⑨

⑩
ここで,Im ( ) は虚部を意味する。
⑨,⑩を③,④式に代入すると,次式のフェーザ表示式が得られる。このとき,  x はフェーザ
が x のみの関数だから d dx ,  t は時間に関しての偏微分なので j が掛けられることから,

d V ( x)
 R I ( x)  j L I ( x)
dx
⑪

d I ( x)
 GV ( x)  j  CV ( x)
dx
⑫
一方の式を x で微分し,他方の式に代入すれば
d 2V ( x)
  2V ( x)
2
dx
⑬
184
d 2 I ( x)
  2 I ( x)
2
dx
⑭
ただし,  (ガンマ)は,
  ( R  j L)(G  j C )
( p2   2
⑬式を解くと,
⑮
 p  
特性方程式)
V ( x)  Ae  x  Be x
⑯
⑯を⑪式に代入して,
I ( x) 
1
( Ae  x  Be x )
Z0
⑰
となる。 A, B は線路両端の条件による決る定数(一般に複素数)である。ここで,
Z0 
R  j L
G  j C
⑱
でんぱん
Z 0 は特性インピーダンス(characteristic impedance),  は伝搬定数(propagation constant)と呼ば
れる。
    j
≧0
⑲
とおいて,  を減衰定数(attenuation constant),  を位相定数(phase constant)と呼ぶ。⑮より


 (R
1
 (R
2
1
2

  C )  ( LC  RG )
2
  2 L2 )(G 2   2 C 2 )  ( 2 LC  RG )
2
  2 L2 )(G 2
2
2
2
⑯,⑰式は,分布定数回路の基本となる重要な公式であるから,是非記憶してほしい。実際の瞬
時値は,⑨,⑩に代入して求まる。
v( x, t )  I m (V ( x)e jt )
 I m (( Ae  x  Be x )e jt )
 I m ( Ae  x e j (t   x ) )  I m ( Be x e j (t   x ) )
第1項は x が増加する方向に進む波,第 2 項は逆に x が減少する方向に進む波を表し,一般には
これらの波を加え合わせたものとなる。一般に, A, B は複素数なので,注意すること。
電流については,第 1 項,第 2 項とも特性インピーダンス Z 0 で割ることで得られる。第 2 項の
マイナスついては,第2項が電流の矢印の方向と逆方向に進むことに対応している。
185
例題1
図の半無限長線路で, x 点の電圧と電流を求めよ。
但し,特性インピーダンス Z 0 ,伝搬定数     j 
( >0)とする。
i ( x, t )
V0 sin  t
v ( x, t )
x0
x
(解) v( x, t ) のフェーザ V ( x) は次式で与えられる。
V ( x )  Ae  x  Be x  Ae  x e  j  x  Be x e j  x
①
境界条件として,
(ⅰ) x  0
で, V (0)  V0 (実数)
(ⅱ) x  
で, V  0 , I  0
従って,(ⅱ)を適用すると, B  0
でなくてはならない。
よって,①より,
V ( x)  Ae  x
(ⅰ)を適用して, A  V0
V ( x)  V0 e x  V0 e  x e j  x
②
電流は,
I ( x) 
V
1
( Ae  x  Be x )  0 e  x
Z0
Z0
③
②より,
v( x, t )  I m (V ( x)e jt )
 I m (V0e  x e j (t   x ) )
④
 V0 e  x sin( t   x)
③より,

i ( x, t )  I m I ( x ) e j  t


V0  x
e
sin( t   x  arg Z 0 )
Zo
t  0 のとき, v  V0 e x sin  x
t

T
 x
のとき, v  V0 e
sin(   x)  V0 e x cos  x
4
2
186
⑤

V0
2



V0 e x
3

2
0
x

V0
t 0
V0 e x sin( t   x)
sin( t   x)
t
T
4
:x
について
2
・
ある点 x  x0 では, sin( t   x0 )
・
ある時間 t  t0 では, sin( t0   x)
・
図より,時間が T 4 変わると,波は x 方向に  4 進んでいる。
T

2


よって,波の速度 v p は位相速度(phase velocity)と呼ばれ,
vp 

T



となる。t   x  一定
なら sin の値が変化しないから,これより dx / dt を求めても良い。
無損失線路
RG 0
の場合,損失が無いので無損失線路と呼ばれる。 R , G が十分小さい場合
を考える。(完全に R  G  0 では,①式で B  0 が成立しないので)
伝搬定数

jC  j L  j LC
特性インピーダンス
  0 ,    LC
Z0  L C
従って,④,⑤より


v ( x, t )  V0 sin  (t  LC x )
i ( x, t )  V0


C
sin  (t  LC x )
L
このことから,どの点においても,それから右側に純抵抗 L C があるとした電流が流れる。
実際には抵抗は無いが, L と C が無限につながっているので,そこにエネルギーが次々に蓄
えられていくと考えられる。
187
例題2
長さ l の線路で, x  0 の点の電圧 V1 ,電流 I1 と x  l の点での電圧 V2 ,電流 I 2 (いずれ
もフェーザ)の関係を求めよ。また,任意の点 x での電圧 V ,電流 I と V2 , I 2 の関係
を求めよ。
I1
I2
I
V1
V2
V
x0
ZL
x
l
V  Ae  x  Be x
1
( Ae  x  Be x )
I
Z0
(解)一般に,
x  l のとき, V  V2 , I  I 2
①
②
だから
V2  Ae  l  Be l
I2 
1
( Ae l  Be l )
Z0
③+④より, A 
③
 I 2 Z 0  Ae  l  Be l
④
V2  Z 0 I 2  l
e
2
⑤
V2  Z 0 I 2  l
e
2
x  0 のとき, V  V1 , I  I1 だから ①,②より
③-④より, B 
V1  A  B  V2
I1 
⑥
e l  e   l
e l  e l
 Z0 I2
2
2
1
V e l  e   l
e l  e  l
( A  B)  2 
 I2 
Z0
Z0
2
2
e l  e  l
e l  e  l
, cosh rl 
2
2
Z 0 sinh  l 
 cosh  l
V1  
 V2 
 I    1 sinh  l cosh  l   I 
 1 Z
 2
 0

ここで, sinh rl 
とおくと
⑦
任意の点 x については,⑤式で l のかわりに両者間の距離 l  x を用いればよく,
Z 0 sinh  (l  x) 
 cosh  (l  x)
V  
 V2 
 I    1 sinh  (l  x) cosh  (l  x)   I 
  Z
 2
 0

⑧(注)
(注) ⑦式より,縦続行列 K が得られている(対称回路である)。第 12 章例題7より,反復パラ
メータは, Z K 1  Z K 2 
B / C  Z 0 ,  K   l となる。
188
例題3
長さ l の無損失線路の片方が開放されているとき,もう片方の端子からみたインピーダン
ス Z を求めよ。
I1
I2
2
1
V1
V2
1
x0
2
l
(解)一般に
V  Ae  x  Be x
1
I
( Ae  x  Be x )
Z0
①
②
x  l のとき, V  V2 , I  I 2  0 より
V2  Ae l  Be l ,
0  Ae l  Be l
A
V2  l
e
2
, B
V2  l
e
2
x  0 で, V  V1 , I  I1 より
V1  A  B  V2
I1 
e l  e  l
e j l  e j l
 V2
 V2 cos  l
2
2
V e l  e  l V2 e j  l  e  j  l V2
1
j sin  l


( A  B)  2
2
2
Z0
Z0
Z0
Z0
 無損失線路であるから,   j   j LC , Z 0  L C >0
従って,
j
V
cos  l
Z  1   jZ 0
I1
sin  l
jZ0
0
Z
 jZ 0
l

2

3

2
2
l
 l が 0 から 2 になるような長さに線路を切断すると,Z は  j から j の範囲で図の
ように変化する( C から L に変化)。L,C が決まっている線路の長さを変えるといろ
んなインピーダンスが作れるということが判る。
189
例題4
図の長さ l の無損失線路の片方が開放されている。 l   /  (  :位相定数)のとき,
任意の点 x における電圧と電流の瞬時値 v( x, t ) , i ( x, t ) を求めよ。
I2  0
i ( x, t )
V0 sin  t
V1
v ( x, t )
x
x0
xl
(解)一般に,
V  Ae  x  Be x
x  l のとき, I  I 2  0
②
 A  Be2 l
であるから, 2 l  2 j  
x  0 で, V  V0
1
( Ae x  Be x )
Z0
であるから②より
0  Ae l  Be l
ここで,   j 
I
①

 j 2

 A  Be j 2  B
③
(フェーザ表示で振幅を用いている。
)なので,①より,
V0  A  B  2 A
 A  V0 / 2
③,④を①,②へ代入して,   j  とおくと
④
V0  j  x
(e
 e j  x )  V0 cos  x
2
V
V
I  0 (e j  x  e j  x )   j 0 sin  x
Z0
2Z0
V
求める瞬時値は, Ve
jt
, Ie jt の虚部であるから
V0
sin( t   x )  sin( t   x )  V0 cos  x sin  t
2
V
V
i ( x, t )  0 sin( t   x )  sin( t   x )   0 sin  x cos  t
2Z0
Z0
v ( x, t ) 
t

2
V0
V0
Z0 
L
>0
C
x  0 のところでは,電圧は時間の変化に
より V0  V0 の範囲で正弦波として変化
する。 x  l 2 のところでは常に v  0 で
t 0
V0
節となる。振幅が位置によって変化せず
0
l
2
v ( x, t )
x
l
V0
( l   )
190
定在波(standing wave)と呼ばれる。線路の
長さが特殊なとき起こる。
例題5
長さ l の線路で,x  l の点にインピーダンス Z L が接続されている。電圧 V (l ) ,電流 I (l )
(いずれもフェーザ)を入射波(incident wave) Vi (l ), I i (l ) と反射波(reflected wave) Vr (l ), I r (l ) に分
けて,
V (l )  Vi (l )  Vr (l )
I (l )  I i (l )  I r (l )
とおくとき, Vi (l ), Vr (l ), I i (l ), I r (l ) を書け。また,反射波/入射波をインピーダンスで表せ。
I (l )
I ( x)
vs
V ( x)
x0
x
V (l )
ZL
xl
(解)一般式で, x  l とおいて
V (l )  Ae  l  Be l
I (l ) 
1
( Ae  l  Be l )
Z0
①
入射波は x が増える方向に進む波,反射波は x の減少する方向に進む波と考えて
Vi (l )  Ae  l , Vr (l )  Be l
I i (l )  Ae  l / Z 0 ,
I r (l )  Be l / Z 0
反射波/入射波を  とおくと,

Vr (l ) I r (l ) B 2  l

 e
Vi (l )
I i (l ) A
②
負荷 Z L について,
V (l )  Z L I (l )
③
①,②,③より
Z L  Z0
1 
1 
∴

Z L  Z0
Z L  Z0
 は反射係数(reflection coefficient)と呼ばれている。Z L  Z 0 すなわち特性インピーダンスと負
荷のインピーダンスが等しいとき反射係数は0で,反射は生じない( B  0 で反射波も0)。こ
れは無限長線路と同じである。通信分野で信号を送る場合には,一般に反射を避けなくてはい
けないので,線路の接続点で左右を見たインピーダンスを等しくすることが行われる。これを
インピーダンス整合(インピーダンスマッチング)という。逆に,反射波を利用したものにレ
ーダ(電波探知器)がある。音では,魚群探知器,超音波診断などがある。
なお,音楽を建物の中で聞くときも,反射の問題は重要である。反射によって定在波が起こ
ると,あるところの席では音が大きく聞こえ,あるところの席ではほとんど聞こえなくなる。
人の声には 20~5kHz の帯域(いろんな周波数の波が集まっている)があり,結果としてくず
れた音が聞こえる。
191
長さ l の線路で,図のように電源電圧と右端のインピーダンスが与えられている。x 点で
問題1
の電圧 V ( x ) ,電流 I ( x ) (いずれもフェーザ)を求めよ。
I ( x)
1
2
V0 sin t
V ( x)
2
1
x0
(解) V ( x )  Ae
 x
ただし, A 
 Be x
x
I ( x) 
,
ZL
xl
1
( Ae  x  Be x )
Z0
V0 e2 l
 V0
B
,

  e 2 l
  e 2 l

反射係数
Z L  Z0
Z L  Z0
長さ l の無損失線路の片方が短絡されているとき,もう片方の端子からみたインピーダン
問題2
ス Z を求めよ。また, l  3 /(2  ) (  :位相定数)のとき,任意の点 x における電圧
と電流の瞬時値 v( x, t ) , i ( x, t ) を求め,それらの最大値を横軸を x にとり図示せよ。
i ( x, t )
I1
1
V0 sin t
2
V1
2
1
x0
(解)
Z  jZ 0 tan  l
ここで, Z 0 
x
xl
j
L
C
V
v ( x, t )  0 sin( t   x )  sin( t   x )
2
 V0 cos  x sin  t
i ( x, t ) 
短
絡
v ( x, t )

jZ 0
0

 jZ 0
4
2
l

2
3

2
V0
sin( t   x )  sin( t   x )
2Z0

V0
sin  x cos  t
Z0
V0
x
V0 / Z 0
x
0
192
l