磁気流体ジェットと星間ガス相互作用による分子雲 - CfCA

国立天文台天文シミュレーションプロジェクト成果報告書
磁気流体ジェットと星間ガス相互作用による分子雲形成シミュレーション
朝比奈雄太 (千葉大学)
利用カテゴリ
XC-B
「なんてん2」望遠鏡の分子ガス観測により我々の銀河系中心領域に存在する2重らせん星
雲に付随するタワー状の分子ガスが発見された。分子ガス強度のピークが銀河系中心核方向
へ延びていることから銀河系中心核から噴出したジェットと星間ガスの相互作用によってこのよ
うな分子タワーが形成されるのではないかと考えた。また、Westerlund2星団方向で観測されて
いる円弧状と直線状に延びた分子ガスの形成機構の可能性の1つとしてもジェットと星間ガス
の相互作用が指摘されている。そこで我々は星間ガスの加熱・冷却過程を考慮したジェットと
星間ガス相互作用の磁気流体(MHD)シミュレーションを実施した。
銀河系中心領域の分子タワーの形成機構を調べるために回転する中性水素(HI)ガスとジェ
ットの相互作用シミュレーションを実施した。初期状態は熱的に安定な200K程度のHIガスと
104K程の温かい星間ガスの2つの領域が圧力平衡で接しているとし、超音速ジェットを注入し
た。HIガスはケプラー回転のみを考えたモデルとケプラー回転に非軸対称な速度を加えたモ
デルを計算した。初期磁場はループ状の磁場を仮定した。HIガスはジェットの前方に形成され
るバウショックによって加熱・圧縮されるが、密度増加により冷却率が上昇し、結果的に温度が
下がり、さらに密度が上昇した。このような冷却不安定が誘起されることによりジェットを包み込
むタワー状の低温高密度領域が形成された。3次元磁気流体計算の結果を図1に示す。
(a)
(b)
図1: (a)3次元MHDシミュレーション結果の温度分布。HIガスがケプラー回転のみの場合は軸
対称な低温高密度領域が形成される。(b)HIガスに非軸対称な速度を加えた計算結果。軸対
称な構造は崩れるが、ジェット軸方向に延びたタワー状の低温高密度領域が形成される。
Westerlund2星団方向で観測された形状の異なる分子ガスの形成機構を調べるために星間
HIガスのフィリングファクターを変化させたジェット伝播の磁気流体シミュレーションを実施した。
初期状態はフィリングファクターが大きいモデルでは半径の大きなHIクランプが1つ存在するこ
とを仮定し、フィリングファクターが小さいモデルでは半径の小さなクランプが無作為に分布し
ているとした。図2は密度分布の違いを表した模式図である。そこにジェット軸に垂直なトロイダ
ル磁場を持つ超音速ジェットを注入した。分子タワー形成シミュレーションと同様にジェットの
衝撃波によってHIガスが圧縮されることで冷却不安定が誘起され、ジェットの周囲に低温高密
度な領域を形成した。フィリングファクターが大きい場合は、ジェットは全てのHIガスを前方に
掃き集めるため円弧状の低温高密度領域を形成する。それに対して、フィリングファクターが
小さい場合は、ジェットはHIクランプの間を伝播できるため低温高密度領域はよりジェット軸方
向に広がった分布になる。このようにして星間HIガス分布の違いにより形成される分子ガス分
布が変化することを示した。図3は3次元計算結果の面密度分布を表す。
図2: HIガス分布を変化させたモデルの模式図。左がフィリングファクターが小さいモデル、右
が大きいモデル。
(a)
(b)
図3: (a)HIガスのボリュームフィリングファクターが大きい時の計算結果の面密度分布。円弧状
に面密度の高い領域が形成されている。 (b)ボリュームフィリングファクターが小さい時の計算
結果の面密度分布。面密度の高い領域は広がって分布している。