ノート

第12節 ラグランジュの未定乗数法
目的関数 f (x, y) を制約式 g(x, y) = 0 の下で最大化(最小化)したい。
この問題を次の様に記述する。

 maximize (minimize) f (x, y)
 subject to
g(x, y) = 0
L(x, y, λ) = f (x, y) − λg(x, y):ラグランジュ関数
λ:ラグランジュ乗数
定理 (2変数のラグランジュの未定乗数法)
f (x, y), g(x, y):C 1 級関数
f (a, b):条件 g(x, y) = 0 の下での極値。(注,g(a, b) = 0)
{gx (a, b)}2 + {gy (a, b)}2 ̸= 0
=⇒
Lx (a, b, λ0 ) = 0
Ly (a, b, λ0 ) = 0
Lλ (a, b, λ0 ) = 0
をみたす定数 λ0 が存在する。
注
制約式のもとでの目的関数の極値問題は,変数の数が1つ多いラグランジュ関数の極
値問題として解くことができる。
証明
{gx (a, b)}2 + {gy (a, b)}2 ̸= 0 より,gx (a, b) ̸= 0 または gy (a, b) ̸= 0 である。
gy (a, b) ̸= 0 の場合を示す(gx (a, b) ̸= 0 の場合も同様に示すことができる)。
g(x, y) = 0 かつ gy (a, b) ̸= 0 かつ g(a, b) = 0 であるから,陰関数の定理より
関数 y = h(x) が存在して,b = h(a) かつ g(x, h(x)) = 0 を満たし,
gx (x, y)
gx (x, h(x))
その導関数は y ′ = h′ (x) = −
=−
である。特に,
gy (x, y)
gy (x, h(x))
h′ (a) = −
gx (a, h(a))
gx (a, b)
=−
gy (a, h(a))
gy (a, b)
が成り立つ。
1
(1)
さて,f (x, y) は,条件 g(x, y) = 0 の下で,点 (a, b) において極値をとる。したがって,
F (x) = f (x, h(x)) は,x = a で極値をとる。すなわち,F ′ (a) = 0 を満たす。ここで,合
成関数の微分法より,
F ′ (x) = fx (x, h(x)) + fy (x, h(x))h′ (x)
であるから,(1) より
0 = F ′ (a) = fx (a, h(a)) + fy (a, h(a))h′ (a) = fx (a, b) − fy (a, b)
を得る。ここで,
gx (a, b)
gy (a, b)
(2)
fy (a, b)
= λ0 とおくと,
gy (a, b)
Ly (a, b, λ0 ) = fy (a, b) − λ0 gy (a, b) = 0
であり,また (2) より,
Lx (a, b, λ0 ) = fx (a, b) − λ0 gx (a, b) = 0
さらに,制約式より
Lλ (a, b, λ0 ) = −g(a, b) = 0
□
連立方程式 Lx (x, y, λ) = 0
Ly (x, y, λ) = 0
Lλ (x, y, λ) = 0
の解 (x, y) = (a, b) を停留点とよぶ。
例
制約式を g(x, y) = x2 +y 2 −1 = 0, (x ̸= 0 かつ x ̸= 0) として,目的関数を f (x, y) = xy
とする。このとき,停留点を求めよ。
解
L(x, y, λ) = xy − λ(x2 + y 2 − 1) (ラグランジュ関数)とする。
Lx (x, y, λ) = y − 2λx = 0
(3)
Ly (x, y, λ) = x − 2λy = 0
(4)
Lλ (x, y, λ) = −(x2 + y 2 − 1) = 0
(5)
2
y
x
であり,(4) より λ =
であるから,y = x または y = −x が成り立つ。
2x
2y
√
√
2
2
2
これを (5) に代入すると,2x = 1 より,x =
または x = −
である。したがって,
2
2
停留点は
(√ √ ) ( √
√ ) (√
√ ) ( √ √ )
2 2
2
2
2
2
2 2
(x, y) =
,
, −
,−
,
,−
, −
,
.
2 2
2
2
2
2
2 2
(3) より λ =
□
応用(消費と効用関数)
2種類の商品をそれぞれ q1 , q2 個購入して得られる効用を u = q1 · q23 とする.ただし,
q1 > 0, q2 > 0. 商品の単価がそれぞれ 1, 2 で予算が 8 とする。このとき,効用を最大化す
る最適消費問題における停留点を求めよ。

 maximize u = q · q 3
1
2
 subject to q + 2q − 8 = 0
1
2
ラグランジュ関数は L(q1 , q2 , λ) = q1 q23 − λ(q1 + 2q2 − 8) で与えられる。
解
Lq1 (q1 , q2 , λ) = q23 − λ = 0
(1)
Ly (q1 , q2 , λ) = 3q1 q22 − 2λ = 0
(2)
Lλ (q1 , q2 , λ) = −(q1 + 2q2 − 8) = 0
(3)
(1), (2), (3) より,停留点は (q1 , q2 ) = (2, 3) である。
応用
解
周の長さが 4 であるような長方形のうち,面積が最大になるものを求めよ。
長方形の横の長さを x,縦の長さを y とおく。このとき,長方形の面積は xy であり,
長方形の周の長さは 2x + 2y である。周の長さが 4 であることから,2x + 2y = 4,すなわ
ち x + y − 2 = 0 である。
以上のことから,問題を次のように定式化できる。

 maximize f (x, y) = xy
 subject to g(x, y) = x + y − 2 = 0,
3
(x > 0, y > 0)
このとき,ラグランジュ関数は L(x, y, λ) = xy − λ(x + y − 2) で与えられる。
Lx (x, y, λ) = y − λ = 0
(1)
Ly (x, y, λ) = x − λ = 0
(2)
Lλ (x, y, λ) = −(x + y − 2) = 0
(3)
(1), (2), (3) より,停留点は (x, y) = (1, 1)(正方形)である。(また,λ = 1 である。)こ
のとき,長方形の面積は f (1, 1) = 1 である。さて,相加相乗平均と制約式 x + y − 2 = 0
より
1=
x+y √
≧ xy
2
すなわち,f (x, y) = xy ≦ 1 = f (1, 1) である。したがって,(x, y) = (1, 1)(正方形)のと
□
き長方形の面積は最大となる。
応用
長さ 2 のひもを2つに切り分けて,円と正方形を作る。面積の和を最小にするに
は,ひもをどのように分ければ良いか。
解
円の半径を r,正方形の一辺の長さを x とおく。このとき,面積の和は πr2 + x2 であ
り,周の長さの和は 2πr + 4x である。ひもの長さが 2 であることから,2πr + 4x = 2,す
なわち πr + 2x − 1 = 0 である。以上のことから,問題を次のように定式化できる。

 maximize f (r, x) = πr2 + x2
 subject to g(r, x) = πr + 2x − 1 = 0,
(r > 0, x > 0)
このとき,ラグランジュ関数は L(r, x, λ) = πr2 + x2 − λ(πr + 2x − 1) で与えられる。
Lr (r, x, λ) = 2πr − πλ = 0
(1)
Lx (r, x, λ) = 2x − 2λ = 0
(2)
Lλ (r, x, λ) = −(πr + 2x − 1) = 0
(3)
(
)
1
2
2
(1), (2), (3) より,停留点は (r, x) =
,
であ
である。(また,λ =
π + 4 )π + 4
π+4
(
√
2
1
1
,
である。さて,a = ( πr, x),
=
る。)このとき,面積の和は f
π+4 π+4
π+4
√
b = ( π, 2) とおくと,コーシー・シュワルツの不等式と制約式 πr + 2x − 1 より
1 = |πr + 2x|2 = |a · b|2 ≦ |a|2 |b|2 = (πr2 + x2 )(π + 4)
4
すなわち,
(
)
1
1
2
f (r, x) = πr + x ≧
=f
,
π+4
π+4 π+4
)
(
2
1
したがって,(r, x) =
,
のとき,面積の和は最小になる。
π+4 π+4
2
2
また,このときひもを
円の周の長さ:正方形の周の長さ = 2πr : 4x =
2π
8
:
=π:4
π+4 π+4
□
の比率で切り分ければ良い。
3変数の目的関数 f (x, y, z) を制約式 g(x, y, z) = 0 の下で最大化(最小化)したい。
この問題を次の様に記述する。

 maximize (minimize) f (x, y, z)
 subject to
g(x, y, z) = 0
L(x, y, z, λ) = f (x, y, z) − λg(x, y, z):ラグランジュ関数
λ:ラグランジュ乗数
定理 (3変数のラグランジュの未定乗数法)
f (x, y, z), g(x, y, z):C 1 級関数
f (a, b, c):条件 g(x, y, z) = 0 の下での極値。(注,g(a, b, c) = 0)
{gx (a, b, c)}2 + {gy (a, b, c)}2 + {gz (a, b, c)}2 ̸= 0
=⇒
Lx (a, b, c, λ0 ) = 0
Ly (a, b, c, λ0 ) = 0
Lz (a, b, c, λ0 ) = 0
Lλ (a, b, c, λ0 ) = 0
をみたす定数 λ0 が存在する。
例
q1 , q2 , q3 (q1 , q2 , q3 > 0) 財の消費量
p1 = 2, p2 = 1, p3 = 1 財の価格
5
y = 8 予算
u(q1 , q2 , q3 ) = q1 q22 q3 効用関数
このとき,効用を最大にする最適消費 (q1∗ , q2∗ , q3∗ ) を求めよ。
解

 maximize u(q , q , q ) = q q 2 q
1 2 3
1 2 3
 subject to 2q + q + q − 8 = 0
1
2
3
ラグランジュ関数 L(q1 , q2 , q3 , λ) = q1 q22 q3 − λ(2q1 + q2 + q3 − 8)
ただし,λ はラグランジュ乗数
連立方程式 Lq1 (q1 , q2 , q3 , λ) = q22 q3 − 2λ = 0
Lq2 (q1 , q2 , q3 , λ) = 2q1 q2 q3 − λ = 0
Lq3 (q1 , q2 , q3 , λ) = q1 q22 − λ = 0
Lλ (q1 , q2 , q3 , λ) = −(2q1 + q2 + q3 − 8) = 0
これを解くと,q1 = 1, q2 = 4, q3 = 2, λ = 16.
よって,最適消費は (q1∗ , q2∗ , q3∗ ) = (1, 4, 2).
例
x1 , x2 , x3 (x1 , x2 , x3 > 0) 生産要素の投入量
p1 = 6, p2 = 3, p3 = 2 生産要素の価格
q(x1 , x2 , x3 ) = x1 x2 x3 生産関数
生産量を一定 q = 48 に保つとき,費用を最小にする最適投入量 (x∗1 , x∗2 , x∗3 ) を求めよ。
解

 minimize 6x + 3x + 2x
1
2
3
 subject to x x x − 48 = 0
1 2 3
ラグランジュ関数 L(x1 , x2 , x3 , λ) = 6x1 + 3x2 + 2x3 − λ(x1 x2 x3 − 48)
ただし,λ はラグランジュ乗数
6
連立方程式 Lx1 (x1 , x2 , x3 , λ) = 6 − λx2 x3 = 0
Lx2 (x1 , x2 , x3 , λ) = 3 − λx1 x3 = 0
Lx3 (x1 , x2 , x3 , λ) = 2 − λx1 x2 = 0
Lλ (x1 , x2 , x3 , λ) = −(x1 x2 x3 − 48) = 0
これを解くと,x1 = 2, x2 = 4, x3 = 6, λ = 1/4.
よって,最適消費は (x∗1 , x∗2 , x∗3 ) = (2, 4, 6).
7