授与機関名 順天堂大学 学位記番号 乙第 2275 号 Distinct roles of M1 and M3 muscarinic acetylcholine receptors controlling oscillatory and non-oscillatory [Ca 2+]i increase (ムスカリン作動性アセチルコリン受容体サブタイプ M1 および M3 を介する異なったカ ルシウムシグナリング制御機構の解明) 中村 京子(なかむら きょうこ) 博士(医学) 論文内容の要旨 膵臓の外分泌は副交感神経によって調節されており、膵腺房細胞の G タンパク質共役 型 の ム ス カ リ ン 作 動 性 ア セ チ ル コ リ ン 受 容 体 (mAChR) を 介 す る 細 胞 内 Ca 2+ 濃 度 ([Ca 2+ ]i ) の上昇がトリガーとなって生じる。mAChR は M1-M5 の 5 つのサブタイプに分 類されるが、これまでの研究で、膵腺房細胞に発現しているサブタイプは Gq 型に共役す る M1 と M3 であり、phospholipase C (PLC) の活性化により IP 3 を産生し、小胞体の IP 3 受容体を活性化して振動性の[Ca 2+ ]i 上昇を引き起こすことが知られている。現状ではこ の振動性[Ca 2+] i に寄与するサブタイプや振動性の機構については十分な結論に至ってい ない。 本研究ではこの振動性[Ca 2+] i 上昇に関与するサブタイプとそのメカニズムを解析した。 ①マウス膵腺房細胞における実験:M1 または M3 を、単独欠損 (M1KO, M3KO)、お よび二重欠損 (M1/M3 KO) させたマウスから単離した膵腺房細胞における ACh 刺激に よる[Ca 2+ ]i 上昇を検討した。その結果 M3KO では[Ca 2+ ]i 上昇は生ずるが、振動がほとん ど見られず、M1KO では低濃度の ACh で明瞭な[Ca 2+]i 振動を伴うことが明らかになった。 M1/M3 KO 細胞では、ACh 誘発性の[Ca 2+]i 上昇は全く見られなかった。 ②COS-7 細胞における実験:M1 および M3 の各サブタイプを強制発現させた COS-7 細胞を用い、ACh 誘発性の[Ca 2+]i の変動を解析した。その結果、M3 が振動性[Ca 2+ ]i 上昇 に関わることを確認した。 ③IP3 産生の計測: M1 と M3 受容体刺激による IP 3 の産生を、蛍光バイオセンサーを 用いて解析した。ACh 適用により、IP 3 産生には振動現象はないことを確かめ、Ca 2+振動 は、IP 3 受容体における IP 3 誘発性 Ca 2+遊離 (IICR) の Ca 2+依存性によるものと推定され た。IP 3 産生能は M1 の方が M3 より高く、Ca 2+ 振動は単に IP 3 総量ではなく、その受容体 周辺における最適濃度に依存することが示唆された。 ④キメラ受容体による責任領域の探索: M1 と M3 の細胞内第 3 ループから C 末端側 を置換した 4 種類のキメラ受容体を作成し、Ca 2+ 振動の発生を促す領域の特定を試みた。 その結果、細胞外第 4 ドメインから C 末端側が特に重要であることを明らかにした。 以上の結果から、振動を伴う[Ca 2+]i 上昇は、M3 の C 末端と Gq タンパク質との相互関係 によって、PLC の適度な活性化を生じる。これにより産生された IP 3 の緩やかな上昇が Ca 2+依存性の IICR の振動を誘発すると結論した。
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