音の発生原理と音の楽しみ 第1章 ギターで音の出るしくみ 止めている駒(ブリッジ)が力を受けます。駒はボデ ーの上側の板である響板に接着されていて、広い面積 側の響板が振動すると、側面を通って裏側の響板にも ギターの音のしくみ ギターの音はどこから出るのでしょうか。ギターの 弦が振動するので、 その弦の周りの空気は振動します。 振動が伝わります。裏側の響板が振動することによっ (2次の振動モード) ブリッジ また、響板は、表側の響板には穴があって裏側には 穴がないので、それぞれの板の固有振動数が異なって げてしまう。選挙の宣 ホーン型スピーカは、 伝など野外で使われる 横に逃げる空気の移 動をホーンが防止する ので、効率が良く大き な音が出る。 8 をもった響板が振動するので、大きな音が出ます。表 しかし、弦は細く面積が小さいので、小さな音しか出 て振動面積が約 ギターの穴の役目は、バスレフスピーカと同じです。 響板が振動すると響板の裏側の空気が振動し、胴の内 ギターはバスレフスピーカ 倍に増え、音が大きくなります。 ません。弦の周りで発生した音がギターの胴の中央部 分の穴(サウンドホール)に入って共鳴し、音が大き くなって穴から出ると考えたくなりますが、それは間 気的な増幅装置が無ければ、大きな音のエネルギーに 高い周波数になるほど腹と節の数が増える 音を外に出し、音を大きくしています。 部にも音が発生します。胴に穴を開けることで内部の 腹 います。板の固有振動数が弦の振動数に近いほど大き 圧力はすぐに横に逃 振動による音の発生エネルギーは、振動する物体の 表面積に比例します。弦が振動すると、弦の下の端を な音になるので、響板の固有振動数はなるべくたくさ ん存在することが音をむらなく出すために必要です。 胴の内部は空間になっていて、空間で決まる固有振動 数があり、この周波数の音が大きく出ます。 音色は楽器の胴で決まる NHKの科学番組でギターの胴を三味線の胴に置き 換えた実験が行われました。弦はギターのままですが、 出てきた音は三味線の音でした。三味線は、強く張っ 気が押されるが、 その 節 節 た皮が振動することで音を出しています。皮はギター などの木に比べて減衰が大きいので、高い音はあまり 振動すると、表面の空 音は響板が出している なることはありません。 違いです。エネルギー保存の法則があり、穴の中に電 2 出ません。また出た音はすぐに小さくなるので、ペン スピーカのコーン紙が ペンという切れた音になります。 一 口メモ 腹 振幅の大きい部分が腹 振幅がゼロの点が節 9 1 弦の固有振動モード 音の発生原理と音の楽しみ 第1章 弓で弾く弦楽器は自励振動のメカニズム 加わることで、音色も変化します。チョロの胴ととも に、床も楽器の一部と考えられます。固い床の場合は 振動します。しかしバイオリンのように弓で弾く楽器 受けもつ振動数が低い場合でも放射されやすくなりま 大きい楽器の響板は通常は大きな板が使われます。 大きな板の固有振動数は低いので、弦の長さが長くて 振動しにくいので、床の影響は小さくなります。 の場合は、 「自励振動」と呼ばれるメカニズムで振動 す。弦楽器では、一番大きな弦楽器であるコントラバ ギターやピアノのように、弦が衝撃的な力を受ける 場合は、力による強制加振となり、弦の固有振動数で が発生します。弓と弦の間に摩擦があり、弓の直線的 スが一番低い音域を受けもつています。音の放射エネ じ れいしんどう な運動によって、弦が引っ張られます。摩擦力は弓と 乗×板の振動面積に比 ルギーは、放射効率×速度の 1 弦の振動 音の大きさは 振動する板の面積に 比例する □ 動数は27.5ヘルツで □□□□■□□ と、 □□ 基本固有振動数 □□□□□□ す。 □□ 出た音を計測する □□□□□■ □ の1倍~3倍は小さな ■□□□□□□ □ 音で、 □□ 4倍の110ヘル ■□□□□ ツ以上の周波数の音 □□□□□■□□ が大き □ □ □く出ています。 □□□□■ は異なった音色です。 □■□□□□□□ □ 27.5ヘルツの純音と □□□□□□□ 10 弦との相対速度によって変化し、結果として弦の固有 2 (S1+S2) 合計面積 よる効果と二重になり、大きな音が出るのです。 例します。放射効率は面積が大きいほど大きくなるの S2 で、 □□ 弦の基本固有振 □■□□□□ 章で詳しく説 振動数で振動します。力を発生している弓の運動は直 裏板の内側の表面積 □□□■ で、大きな響板の場合には、放射効率の上昇と面積に S2 11 2 線的な運動ですが、発生する周波数は弦の固有振動数 裏板の裏側の表面積 □ の鍵 ■□ 盤は □「ラ」 □□□ の□ 音 です。自励振動の原理については、第 S1 グラン □□□ ドピアノの左端 □□□□□ 明します。 表板の内側の表面積 コーヒーブレイク チェロでは床も楽器 S1 3 板の振動 弦楽器では、バイオリン、ビオラ、チェロの順で楽 器が大きくなり、響板の面積も大きくなるので大きな ブリッジの振動 弦の振動 穴があると内側に放射した 音も外に出る 音が出ます。チェロは楽器のエンドピン(脚部)で床 2 ブリッジの振動 3 に置いて演奏します。弦の振動がピンを通して床を振 表板の表面積 板の振動 音 動させるのでさらに大きな音になります。床の振動が ギターの音はどこから出る 音の発生原理と音の楽しみ 第1章 個できます。先に行った波が帰って 来て、元の位置に戻ります。半分の時間で同じ状態に ひもの上に波が 弦の振動とドレミファ音階 波の速度と弦の固有振動数 固有振動数はこの逆数で、 次の固有振動数といい、 次の固有周期」と呼びます。 バイオリン、チェロ、ギター、ピアノなど弦の振動 を利用する楽器は、音楽の要です。弦の振動を考える 基本振動数の なるので、この時間を「 ために、長いひもで実験をします。長いひもの片側を 倍となります。弦の振動数は、基本振 ている部分のひもを指でパチンと弾くと、ひもの上を す。これらの高い振動数を「高 調 波」と呼びます。 こ う ちょう は 倍と整数倍の振動数がたくさんありま 波が走るのが観察できます。端まで行くと波は反射し 波を観察するためにひもをゆるく持ちましたが、少 しずつ強く張ると波が早くなります。だんだん強く張 倍、 て戻ってきます。この波がひもを往復する時間を「基 ると波の動きは見えなくなり、全体が上下に振動して 動数の 本固有周期」あるいは「基本周期」といいます。基本 いるように見えます。この状態が通常の弦の振動で起 10.00 を回して弦を張ると高い音になります。 固有周期の逆数を「基本固有振動数」あるいは「基本 sBUr ギターをピックで弾いた周波数分析結果と指で弾い た場合の分析結果を示します。各振動数は一番左の基 本振動数の整数倍になっていることがわかります。 ピックで弾いた場合は、高い周波数まで大きなレベ ルで並んでいます。それにくらべて、指で弾いた場合 は、高い周波数は急速に小さなレベルになっています。 ピックで弾いた場合は高い周波数が多いので、華やか な音となります。 ドレミファはどうして決まるのか バッハ以前の西洋音楽の音階は、表に示すように、 基本のドの音の周波数に対して単純な分数になってい 回で ます。ソの音はドの音の周波数の3/2倍になってい ックで弾いた場合は、 高調波成分である高 い周波数が多く、鋭く 華やかな音となる。高 周波成分が楽器の音 色を決めている。 2 高調波 POWER 回弾くと こっています。ギターのヘッド部分のペグ(糸巻き) 固定し、反対側を手で少しゆるく持ちます。手で持っ 2 2 て、ドとソの音が合わさったときに、ドの音が と柔らかい音となる。 ピ 回繰り返すと元の状態に戻ります。そのた 固い音がし、指で弾く ひもの上を波が片道走ったときに、もう SPECT 1 12 2 3 振動数」といいます。 2 3 ギターをピックで弾くと ソの音が 一 口メモ 指の腹で弾いたギターの音 ピックで弾いたギターの音 200.0 Ach:INST FREQ(Hz) 0.000 200.0 Ach:INST FREQ(Hz) 0.000 −70.00 13 2 2 周波数分析
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