地域を基盤とした老年看護教育の検討

島根県立大学短期大学部出雲キャ ンパス
研究紀要 第 3巻 ,85-91,2009
地域 を基盤 とした老 年看護教育 の検討
―現代 GP地 域 医療研修報告 ―
伊藤
智子 ・加藤 真 紀 ・祝 原 あゆみ
渡部 真紀 ・平 野 文子
概
要
看護基礎教育 を担 う教員 が, これか らの島根県 に求 め られてい る地域 を基盤 と
した老年看護教育 につい て検討す ることを目的に,浜 田市 国民健康保険弥栄診療
所 の協力 を得 ,診 療所等 で研修 を行 った。研修終了後 ,参 加者が今後看護教育 と
して重 要 となるポイ ン トについ てデ イスカ ッシ ヨン した結果,① 地域 の特性 と高
齢者 の生活 の関連,② セルフケア能力 を高めるヘ ルスプロモ ニシ ョン活動 ,③ 生
活 ニ ーズに即 した 自主グル ープ活動 とエ ンパ ワメ ン ト,④ 目標志 向の看護診断 に
よる地域包括 ケアの 4点 が明 らか となった。今後教員 は,今 回の研修 で得 られた
デ ータを資料 とし,弥 栄町 で暮 らす高齢者の包括 ケアニ ーズ,暮 らしのニ ーズ等
学生 と共 に学 ぶ必要がある。
キー ワー ド :看 護基礎教育 ,老 年 ,地 域基盤,中 山間地域 ,地 域包括ケア
の 島根県 に求 め られて い る地域 を基盤 とした老
I.は
じ
め
年看護教育 につい て検討す ることを目的 に,浜
に
田市 国民健康保 険弥栄診療所 の協力 を得 て,診
島根県 の医療 は地域格差が大 きく,特 に高齢
化が進む中山間地域 に暮 らす高齢者 の保健 ,医
療 ,福 祉 のマ ンパ ヮー確保 は島根県 の課題 であ
る。 また保健 ,医 療 ,福 祉 に関係す る専 門職 を
目指す者 は,学 生 の 時か らこの よ うな地域 の
実態 を知 り,地 域 の ニーズ か ら専 門家 として
の実践 につい て考察 をす る必 要が ある
Study Group,1987)。
(WHO
しか し,現 在 の本学 の看
護教育 の中で, このような看護 を実践的に学 ぶ
機会 は設け られてこなかった。 また,看 護職者
としての考 え方 を医療 モデルか ら生活 モデ ルに
転換 が求 め られる時代 とな り,老 年看護学 にお
いて もQOLは もとより, 日標志向,エ ンパ ワ
療所等 で研修 を行 ったので ,そ の成果 を報告す
る。
Ⅱ.地 域 医 療 研 修 受 け 入 れ の 経 過
本学 出雲 キ ャ ンパス は,平 成 19年 度か ら文 部
科学省 の選定 を受 け「現代 的教育 ニー ズ取 り組
み支援 プ ログ ラム (現 代 GP)」 を実施 して い る。
現代 GPの 運営 メ ンバ ー は,そ の取 り組 みの中
で ,年 をとって も安心 して暮 らせ る町 づ くりを
志 向 した実践 か ら市民 ,学 生 ,専 門家 (教 員 ・
「地
関係者)が エ ンパ ワメ ン トす るこ とを目的に
メ ン ト等が強調 され,老 年看護 に従事す る看護
域 の特性 か ら見 た保健 ・ 医療 ・福祉 ∼今私達 に
求 め られて い るこ と∼ 」 とい うテ ーマ で平成 20
職 は新 しい アプ ローチ法 の検討が課題
年 3月 に浜 田市 にて フォ ーラム を開催 した。
(高 崎
,
2001)と なっている。そ して,本 学 の老年看護
基礎教育 も,こ の時代 の流れに遅れる ことな く
,
その内容 を時勢 に合わせ るためにも地域 を基盤
とした教育が必要である。
この度,看 護基礎教育 を担 う教員 が これか ら
-85-
浜 田市 国民健康保 険弥栄診療所 の 阿部 医師 は
平成 8年 か ら旧弥 栄村 での診 療活動 を中心 に住
民 の健康 づ くり活動 を積極 的 に行 い, また定往
対 策 。町づ くりを視野 に入 れた「中山間地域包
括 ケア研修 セ ン ター構想」 (阿 部 ,2006)を もっ
伊藤
智子 ・加藤
真紀 ・祝原 あゆみ・ 渡部
写真 1
表1
真紀 ・ 平野
文子
弥栄町 の風景
つい て,糖 尿病 の患者会 (創 健会 ),介 護 ス タ ッ
フに よる健康 セ ミナ ー,市 民 の診療所 ・ グル ー
弥栄診療所 の理念
「住民とつ くる地域医療」
プホ ームヘ のボランテ ィア参加等 を例 に した説
明や地域 づ くりにおける小 さな活動 のつ なが り
の重 要性 につい て講義があ った。 最後 に学 生教
1.身 近 で安心
2.重 篤 な疾患 の予防
3.福 祉 との連携
4.健 康 な村 づ くりの支援
5.人 材育成
育 につ い て「診 療所 での学習 は『待合 いで待 っ
て い る患者 さん の ニー ズ を考 える こ と』『病気
を診 るので はな く,そ の 人 の生 活 を診 る こ と』
の重要性 を学 んで もらってい る」 と実習紹介 が
あった。 阿部医師 は人材 育成 に熱心 で ,医 師や
医学 生 の実習 も積極 的 に受 け入 れて いた。
以上 の ことか ら、 中山間地域 で行 われて い る
ていた。包括ケア とは治療 のみ な らず保健サ ー
ビス (健 康 づ くり),在 宅ケア, リハ ビ リテー
保健 ・ 医療 ・福祉 ・教育 の様子 をまず教員が学
シ ョン,福 祉 ・介護サ ービスの全てを包含する
実現 した。
もので,施 設ケア と在宅ケ アの連携及 び住民参
加 の もとに,地 域 ぐるみの生活・ノーマ ライゼ ー
びた い 旨を説明 した ところ、研修 の受 け入 れが
Ⅲ .研 修 の 概 要
シ ョンを視野に入れた全人的ケアである (山 口
,
2006)。
フオー ラムでの講演 内容 は、弥栄診療
所 の理念 (表 1)に 基 づいた実践活動 として行 っ
てい る町民 の健康診断 の実施,健 康台帳 の工夫
,
血圧の自己管理支援 についてであった。さらに
地域の人 々がお互 い に支え合 う仕組みづ くりに
,
-86-
島根県立大学短期大学部出雲キャ ンパス看護
学科教員 5名 が 島根県 の中山間地域 における医
療 の現状や地域 の特性 に対応 した保健 ・医療 ・
福祉 ・教育 につい て学 ぶことを目的に,平 成21
年 1月 か ら3月 にかけて浜田市国民健康保険弥
地域 を基盤 とした老年看護教育 の検討 ―現代 GP地 域医療研修報告 ―
独死 も毎年数件起 きて い る。
デ マ ン ド型 タクシー は,週 2回 ,曜 日別 に集
落 に入 り,買 い物 ,通 院 な どのための送迎 を行
う。利用料 は 1回 1人 300円 で あ る。以 前 に比
べ て個人負担が増 える場合 があ るので利用者が
増 えて い ない。高齢者 はか な りの長距離 を歩 い
て移 動す るが ,中 心地 へ 出かける ときは,行 き
は徒歩 で帰 りは普通 の タクシー とい う方法 が多
写真 2
3)弥 栄町 の保健 ・医療 ・福祉
弥栄 町は,集 落別 の健康相談 を定期 的 に実施
診療所 での診祭 の様子
し,脳 卒 中予 防 を中心 としたハ イ リス ク者管理
栄診療所研修 をは じめ とし,弥 栄町 の福祉 施設
見学及 び健康 に関わる自主 グル ープ活動 ・生涯
めに食生 活改善推進協議会弥栄支部 と連携 して
学習 と健康 のつ どい,地 域 ケア会議 に参加 した。
みそ汁 の塩分測定 を実施 し,薄 味 に取 り組 む動
を行 って い る。 また,自 己管理能力 を高 めるた
機 づ け を して い る。 また,血 圧 の 自己測 定 の
Ⅳ .研 修 の 結 果
普 及 に努 め て い る。 町 の 医療 機 関 は診 療 所 が
安 城 地 区 と木都 賀 地 区 に2箇 所 あ る (浜 田市
,
1.弥 栄町の環境と暮 らしの特徴
1)概 況
弥栄 町 は,人 口1,619人 ,老 年人 口割合 43.0%
2008)。 全 集 落 の
(75歳 以上 高齢 化 率 27.60/0)と 全 国平 均 を大 き
まって い る ところが多 い。糖尿病 の 自主 グルー
く上 回 る町 で あ る。施設 で生 活す る人 を除 く世
プ創健会や民生児童委員や元保育士 で構 成 され
帯 数 は643世 帯 で あ る。75歳 以 上 独 居 世 帯 と
て い る子育 て応 援隊 もある。
75歳 以上 高齢者 世帯 はそ れぞれ90,95で あ り
2.研 修
1)弥 栄診療所
(1)診 療活動
,
,
全体 の約 3割 を 占め る (平 成20年 4月
)。
27集 落
中,限 界集落 が 6集 落 ,危 機 的集落が 2集 落あ
3分 の 1程 度 に,そ の 集落 の
中 での女性 グ ループや高齢者 グル ー プが存在す
る。 グ ル ー プが な い ところ は 集 落単位 で ま と
の地 区に分かれ てい る。 安城地 区に商店 ,郵 便
自家用車が な い患者 は,定 期 バ ス を利用 した
り,や うね号 (デ マ ン ド型 タクシー)に 乗 り合
局 な ど生 活 に関連す る機 関や ,老 人ホ ー ム,保
わせ て診療所 まで来て い た。そのため,医 師 は
育所 な どの施設が集 まって い る。南 部 は山 間地
帰 りの 時 間 を考慮 に い れ ,診 察 を行 って い た。
域 で古 い住宅 が まば らに点在す る。 年 間出生数
7∼ 8人 で ,浜 田医療 セ ンタ ーや江津済生会病
高齢化 に伴 い,老 老介護や夫婦 そろ って 認知症
のケ ー ス が増加 して い る。 また,介 護者 が比較
院 での 出産が多 い。
的 自立 して い て も高齢 のため,寝 き りの 配偶者
2)弥 栄町 の暮 らし
を連 れて診療 所 まで行 くこ とがで きな い 人 もい
主な産業 は農業 である。棚 田の ようになって
いるので,機 械 による作業 は大変である。高齢
た。
者 は,田 植 えや稲刈 りな ど主要な農作業 は農協
等 に任せて水 の管理な ど比較的軽 い作業 を行 っ
り,家 庭 に行 って も出来 る ことが少 な い ため往
診 は基 本 的に しないが ,緊 急性 を要す る場合 は
ている場合が多 い。
行 って い た。阿 部医師 は往診時 に家族 関係 の状
最近,救 急車搬送 の判断が遅れて亡 くな った
人が いた。高齢化 が進み,夜 間や休 日の不慮 の
況や ,家 庭 での療養状況 な どの把握 に努 め,必
要時 に隣接 す るデイサ ー ビスセ ンター のス タ ッ
事故等 の突発的事態 も起 きてお り,家 族 だけで
は緊急時 の対応 が困難な人が増加 してい る。孤
フや保健 師 と情報交換 を して い た。
り,東 の安城地 区 と西 の杵束地 区 の大 き く 2つ
-87-
診療 所 に来 て も ら う こ とで 治療 が可 能 に な
(2)診 療所 内 の設備
伊藤
智子 ・加藤
真紀 ・祝原あゆ み・ 渡部
診療所内に上部 。下部内視鏡 , レン トゲ ンの
設備 ,月 1回 の眼科診療 の診察室 もあ り,息 者
の状況 に応 じた検査や治療が行 える施設になっ
ていた。ホルター心電図などの特殊検査 も行わ
れてお り,高 血圧や心筋梗塞息者が多 い とい う
真紀 ・平野
文子
が重要であ る と思 われた。
2)診 療所 隣接 の福祉 サ ービス
(1)特 別養 護老 人 ホ ーム及 びデ イサ ー ビス セ
ンター
弥栄町 には特別養護老人 ホ ーム弥栄苑やデイ
サ ー ビスセ ンタ ーがあ り,社 会福祉法人弥栄福
地域 の実情 にあった比較的高度な医療の提供が
なされていた。
社会 に よって運 営 されて いた。弥栄苑 は平成 7
迅速な血液検査 を行 う設備 も整 ってお り,電
解質検査 ,血 旗一般,炎 症反応検査 は即時に検
年 に30床 で 開所 し,平 成 17年 に40床 増床 して い
る。ユニ ッ トケアを取 り入 れ,10名 前後 のユニ ッ
査 し,診 療時間内 に患者 に結果 を返す ことがで
トで家庭 的なケアを行 っていた。 デイサ ー ビス
きていた。そのため,病 状 の把握が よ り正確 に
で き, また次 の医療機関に紹介するか, この ま
セ ンター は定員30名 で 現在 利用 者 28名 で あ り
,
研修 した 日は貼 り絵等 ,小 グループでの作 品づ
ま診療所で経過 をみてい くかをその場 で息者 と
相談す ることがで きていた。 また,デ イサ ービ
ない現状 があった。
スセ ンター と隣接 してお り,患 者がデイサ ービ
(2)高 齢者等生活支援事業
スを利用す る際受診 で きるよう,予 約 日の調整
くりを行 っていた。 家庭 の介護力 に期 待 がで き
本事 業 は,「 や さかやす らぎの家 」 にて共 同
を行 っていた。
生 活 を行 う事業 で,身 の 回 りの ことがで きる概
(3)診 療 の様子
阿部医師 は,患 者数が多 い 中で も前回か ら今
ね65歳 以上 の方 が 6人 程度 の少人数 で,加 齢 に
回受診 に至 るまでの経過 を丁寧 に聞 き, 1人 ひ
と りの家庭 の状況把握 に努 めて い た。 さらに
共 同生 活 をす る施 設 であった。 ひ と り暮 らしで
,
よる身体機 能 の低 下 を互 い に補 い合 い なが ら
,
不安が大 きい 人 ,話 相手 が欲 しい人 な どが対象
患者 だ けで な くそ の家族 に対す る保健指導 を
行 っていた。 また,医 学的には異常が見 られな
で あるが ,高 齢者 の共 同生活 は難 し く,お 風 呂
い と思われる患者 で も,息 者 自身に気 になるこ
な い場合 があるため ,今 は職 員 が行 っていた。
とが あれば相談 に応 じていた。患者 の「 困 って
3)自 主 グル ープ活 動
(1)大 坪すみれ会
い る」 とい う気持ち を大切 にした医療 が提供 さ
な ど掃 除 の順番 を決めて い て も守 るこ とがで き
れていた。息者が 自分 の身体状況 を把握 してお
り,内 服 の残数や コン トロールで きる薬剤 (緩
し,健 康教育 の見学 と健康相談 を一 部実施 した。
下剤や睡眠導入剤 など)の 処方について,医 師
大坪すみれ会 は,大 坪集落 の婦 人会 の 中 で高齢
と相談す る姿がみ られた。患者が納得 で きるよ
う,治 療方法 の根拠や薬剤 の選択 の根拠 などの
者 のみが 集 まる会 である。 参加者 は80代 が 中心
詳 しい説明があ った。受診時お よび家庭 で も血
圧や血糖値 などの管理手帳 を利用 し, 自己管理
を作 った りす る。 計画 が ない 時 も必ず 月 1回 は
保 健 師 の 健康 教 育 と健康 相 談 の 機 会 に同 行
とな り学習会 をした り,時 期 になる と柚子辛子
集 ま り,茶 話会 を して い る。 高齢女性 の気分転
能力 を高めるはた らきかけが行われていた。脳
卒中のハ イリスク者 について,カ ルテに分かる
換 の場 に加 え,安 否確 認 の場 に もなって い る。
よ う印がつ け られてお り,保 健師やケアマ ネ ー
ジャ ーなど他部門 との情報共有や介入が で きる
「 とっさの ときの応急 手 当」
健康教 育 の 内容 は
研修 日には 6人 の参加が あ った。
で あ り,地 区内 における高 齢者 の不慮 の事故 の
ように時間整理が されていた。
(4)往 診について
増加 を反映 させ た 内容 で あ った。 救急件数 の 中
緊急 の往診 に同行 し,発 熱があ り食事摂取が
で きない人へ の対応 を行った。短時間での確実
や重篤 な人が増加 して い るため,保 健 師 は救急
車 の利用 を勧 めて い た。 高齢者 自身は緊急事態
な情報収集 と判断が要求 された。単発の往診で
が起 こった 時 に ど うした らよいか判断す るこ と
患者 の体調や生活状況 まで把握するのはかな り
が 難 し く,救 急車や緊急通報 システ ム は知 って
難 しく, 日頃か ら他職種 と情報 を共有す ること
い るが , どんな場合 に使 った らよい か判 断が難
で も,具 合 が悪 くて もぎ りぎ りまで我 慢す る人
-88-
地域 を基盤 とした老年看護教育 の検討 ―現代 GP地 域医療研修報告 ―
表 2 第 8回 生涯学習 と健康福祉の集いの概要
テ ーマ
:『 今
平成21年 1月 25日 開催
心 と身 体 に必 要 な もの』
□ 集 い の 目的
私 たち1人 ひ とりが生 き生 きと過 ごすために
は ともに学 び、ともに健 康 を守 り、ともに支
えあ って暮 らす地域 にす るこ とが望 まれ ま
す。この催 しは健 や かに生 き生 きと生涯過 ご
丁
せる地域 づ くりをみ な さん と一緒 に考 え、実
現 し、参加 団体 の連 携 を推進 します。
しい ようであ った。特 に夜 間は診療所 の医師や
保健師の 自宅に直接相談 の電話をする住民がか
な りい る。現状 の支援体制 を踏 まえ,夜 間はす
ぐに救急車 を呼ぶ よう保健師に よる指導が行わ
れていた。
健康教育 の内容 に封 しての参加者 の意見 とし
て,「 とっさの時 は,あ るもの も分か らな くな
る。」
「何 を持 って 出た らよい か分か らな い。
」
「119呑 通報 した時 に何 を言った らよいか分か ら
ない。
」「土地 勘 の な い救急 隊員 だ と説明が大
変。」「子 どもの連絡先 は大切。電話 の前に貼 っ
てい る。
」「見 えづ らさや聞こえに くさのため通
院が大変 だか ら受診 しない。」 な どが あ った。
また,保 健師のア ドバ イス を求めるだけでな く
,
参加者がお互 い にどの ように工夫 しなが ら対処
しているのか,情 報交換 し合 っていた。独居高
齢者,夫 を介護 してい る高齢者,一 家 の大黒柱
である高齢者 なども参加 していた。高齢者 の開
じこ もり予防や介護負担か らのス トレス軽減 の
場 にもなっていた。
■ プ ロ グ ラ ム (内 容 )
○ ステー ジ発表
みつ ば くらぶ・スマ イル クラブ。さわやか
サークル他
○事例発表 。
意見交換
テーマ「未成年 の飲酒は絶対 ダ メ」
○展示
書 き初 め・習字・俳句 等
○ コーナ ーの体験
歯科・弥栄診療所 ,あ けばの会・断酒新生会
○ こども広場
5)生 涯学習 と健康福祉 のつ どい
この事業 は,平 成21年 1月 25日 ,町 の中心部
にある弥栄会館 にて 開催 された (表 2)。 町か
ら,送 迎バ スが 4台 準備 され,地 域別 の送迎が
行 われていた。悪天候 のため,例 年 に比べ参加
者が少 ない とい うことであった。 ス テ ージでの
発表 を様 々 なグル ープが行 っていた。事例発 表
では,未 成年の飲酒について中学生が発表をし
ていた。発表後,フ ロア
(参 加者)と
の意見交
換が行われ,お 酒 を製造す る弥栄地域 の特性 を
大切 にしてい きなが ら,子 どもたちの健康 を守
る (飲 酒行動 につ なが らない ように関わる)と
い うことが共 に意識化 されていた。
コーナー (健 康チ ェックコーナー,弥 栄診療
所 コー ナ ー な ど)は ,20人 弱 の参加があった。
体験 をした人 々は自分の身体について関心が高
い ようだった。中性脂肪が高 い,下 肢 の筋力が
弱 い などの結果がみ られた人 々か ら, どのよう
な ことを生活の中で実施 してい け ばよいのか
,
などの質問があった。 この集 い・体験 などを通
して,地 域 の人 々が いろいろな側面 で健康へ の
4)地 域ケア会議
診療所 のスタッフ,介 護支援事業所 のケアマ
ネー ジャー・ヘ ルパー,町 の保健師は月に 1回
関係者で会議 をもち,保 健 ・医療 ・福祉サ ー ビ
ス利用者 の もつ 問題解決 に向けて情報交換 ,ケ
アマ ネジメ ン トを行 っていた。
関心 を高 めた り,行 動変容へ の動機 となるであ
ろ う場面があ った。
V.今
回 の 研 修 か ら看 護 教 育 と して
重 要 と思 わ れ た ポ イ ン ト
研修 の 日も独居高齢者や認知症の夫婦のフォ
ロー について検討 されていた。 日常的にも必要
以上,一 部 ではあったが,弥 栄町 の包括ケア
時関係者で情報交換 を行 なってい るとのことで
の実践 に触れることができた。 これ らの実践か
あった。
ら地域 を基盤 とした老年看護基礎教育において
-89-
。
伊藤 智子 ・加藤 真紀 ・祝原あゆみ・渡部 真紀 平野 文子
自分 たちの生活や健康 のため に集落で学習会
を継続 している高齢者 グル ー プであ る「大坪す
重要 と思 われ るポイ ン トをデ ィス カ ッシ ヨンに
よ り整 理 した。
1.地 域 の特性 と高齢者の生活 の関連
みれ会」 の活動 に参加 がで きた。安否確認や危
機管理 な ど中山間地域 な らで はの生活 ニー ズ に
孤独 死 が毎年数件 あ るこ とや高血圧症 の管理
の不 十 分 さが引 き起 こす脳梗 塞発作 での死亡
即 した取 り組み であった。地理的 には 日常的 な
交流が難 しい 地域 で あ るが ,定 期 的 に集 ま り
,
草刈 り作業 中 の転落 や草刈 り機 に よる怪我 ,冬
季 の凍 結時 の転倒 による頭部打撲事故があ るこ
,
とな どか ら,中 山間地域 に暮 らす高齢者 の健康
情報交換す ることでそれぞれが 閉 じこ も り予 防
や ス トレス軽減 に もな り,エ ンパ ワメ ン トに繋
維持 は,保 健医療福祉 に関す る生 活支援体制 の
不十分 さ,住 民 1人 ひ と りの応急手当に関す る
が る と思 われた (伊 藤 ,2006)。 また、「生 涯学
習 と健康福祉 のつ どい」 にて、地域 で活動 して
知識 や判 断能力 の未熟 さ,地 域 の 中での相 互交
流 の希 薄化 によ り困難 になって い ると考 え られ
い る様 々 なグル ー プが相互交流す ることで,そ
た。 また、 これ らは人 口の減少 ,少 子高齢化
が可能になる と思われた。 このような活動 を支
えるための看護職 の役害Jを 学 ぶ必要がある。
れぞれ のグルー プのネ ッ トワー クを広 げ ること
,
地形 や季節 な どの物理的環境 ,交 通機 関 の利便
性 等 に大 き く影響 され て い る こ とが 推 察 され
4.目 標志向の看護診断 による地域包括ケア
ケア会議では,独 居高齢者 や認知症 の夫婦 の
た。高齢者 が抱 える健康 問題 が この よ うな地域
支援 について検討 されていた。 また,個 別に抱
えて い る問題 に応 じて医療 サ ー ビスのみ な ら
の特性 と関係が深 い ことを看護職 は学 ぶ 必要が
ある。
2.セ ル フケ ア能 力 を高 め るヘ ル ス プ ロモ ー
シ ョン活動
診療所 で出会 った人たちは,高 血圧 ,糖 尿病
膝 関節症等 の疾患 を抱 えて いた。 ス タッフは診
,
療場面 で ,患 者 にきちん と説明 しなが ら検査 を
ず,福 祉サ ービス も包括 してサ ービス を提供す
る こと, また「暮 らし」その ものを支えるため
のサ ービスの必要性 がホームヘルパー を中心 に
話 し合われていた。 また、特別養護老人ホーム
では,ユ ニ ッ トケアによりで きるだけ高齢者 の
るため ,今 後 につい て息 者 と相談す る ことがで
今 までの生活 を継続で きるよう個別性 の高 いケ
アが工夫 されていた。看護職 は包括ケ アのマ ネ
ジメントを行 う際,高 齢者 の心 身 を医学的 ・神
きて い た。 あ らゆる情報 を患者 に提供 し息者 と
共 に診療 を進 めることで,本 人 も自らの健康 を
経学的 に分析す るだけではな く,「 あた りまえ
の生活 を送 りたい」 とい う生活者 のあ りのまま
自覚 し治療 の効果 が上が る と思 われた。さらに
「生活 の 中 で 困 って い る こ と」 を聞 き出 しなが
の姿 を肯定的に捉 えた 目標志向型 の看護診断 を
もとに他職種 と協働 でケアを行 う重要性 を学 ぶ
し,結 果 の説明 を行 っていた。 また電解質検査
,
血液一般 ,炎 症反応検査 の結果 はその場 でわか
,
ら,普 段 の生 活 での注意点 , 自己管理方法 の教
必要がある
育 に力 を入 れて いた。 また,家 族 に も生活上 の
注意 点 を説明す ることで息者の生活習慣 を改善
(小 玉,2005)。
Ⅵ .お わ り に
しやす くして い た。 これ らはす べ てヘ ルス プ ロ
モー シ ョンの理 念 に沿 った考 え方であ り、看護
師 は患者 を疾病の面か らだけで はな く、 生活全
般 を理解 しヽ息者が満足す る健康 の維持増進 を
考 え な け れ ば な らな い (大 西 ,2006)。 また、
看護職 は この よ うな高齢者 の疾患管理 に本人 の
「 自信 獲 得 や コン トロール 能力 の 向 上 」 と「 行
動変容 しやす い環境 をつ くる こ と」 の両面 か ら
働 きか け る重要性 を学 ぶ必要がある。
3.生 活 ニーズ に即 した自主 グル ープ活動 とエ
ンパ ワメン ト
-90-
今後教員 は,今 回の研修 で得 られたデー タを
資料 とし,中 山間地域で暮 らす高齢者が抱 えて
い る保健 ・医療 ・福祉 ・教育 に関す る包括ケア
ニーズ,暮 らしのニーズ等学生 と共 に学 ぶ必要
性 を感 じている。
なお,本 枡修 は,文 部科学省 「現代的教育 ニー
ズ取組 み支援プ ログラム」 の助成 により実施 し
た。
地域 を基盤 とした老 年看護教育 の検討 ―現代
謝
辞
本報告 にご協力 いただいた浜田市国民健康保
険弥栄診療所 をはじめ とす る保健,医 療 ,福 祉
教育関係機関の方 々,地 域 の皆様 に深謝 いた し
,
ます。
文
献
阿部顕 治(200o:域 包括 ケ アの新 た な展 開 一村
の 診療所 か ら新 市 の 国保 診療 所 連合 体 ヘ
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伊藤智子 ,景 山真理子 ,森 山美恵子 ,佐 々木順
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メ ン トプ ロセス と促進要因 の検討 , 日本地
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伊藤
智子・加藤 真紀・視原あゆみ・渡部 真紀・平野 文子
A Study of Conllninity口 Based Nursing Education for
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Contemporary Good Practice
A Report of Conll■ unityttBased Medicine Course
Tomoko ITo, A/1aki KATO, Ayuali lwAIBARA,
laki WATANABtt Funliko HIRANO
Key Words and Phrases:basic nursing education,aged,community‐
country,communityぃ comprehens
ed care
-92-
based,