Fe を含む酸化物高温超伝導体に関する研究

平成 26 年 4 月 15 日
平成 26 年度共用促進事業施設利用成果報告書
報告者組織・部署名
防衛省 防衛大学校 応用科学群 応用物理学科 畑 慶明
1) 利用課題番号 : YU1101
2) 利用課題名 : Fe を含む酸化物高温超伝導体に関する研究
メスバウアー分光を用いた FeSr2RECu2O6+y(RE:希土類)超伝導体の Fe イオン分布決定
3) 利用課題責任者
防衛省 防衛大学校 応用科学群 応用物理学科 畑 慶明 (利用課題責任者)
4) 利用分野 : 学術、RI 利用分析
5)利用期間・利用日:2011 年 11 月 7 日~2012 年 10 月 18 日(計 49 日)
マルチタンデム加速器施設・放射性同位元素利用装置(実験日)
第1回目:2011 年 11 月 7 日~2011 年 11 月 11 日(5 日間)
第2回目:2011 年 11 月 14 日~2011 年 11 月 16 日(3 日間)
第3回目:2011 年 11 月 22 日~2011 年 11 月 26 日(5 日間)
第4回目:2012 年 1 月 20 日~2012 年 1 月 24 日(5 日間)
第5回目:2012 年 2 月 20 日~2012 年 2 月 24 日(5 日間)
第6回目:2012 年 7 月 2 日~2012 年 7 月 5 日(4 日間)
第7回目:2012 年 8 月 27 日~2012 年 8 月 30 日(4 日間)
第8回目:2012 年 9 月 3 日~2012 年 9 月 6 日(4 日間)
第9回目:2012 年 9 月 10 日~2012 年 9 月 13 日(4 日間)
第10回目:2012 年 9 月 18 日~2012 年 9 月 20 日(3 日間)
第11回目:2012 年 10 月 1 日~2012 年 10 月 4 日(4 日間)
第12回目:2012 年 10 月 15 日~2012 年 10 月 18 日(4 日間)
6) 利用の目的・内容
銅酸化物高温超伝導体の YBa2Cu3O7-δ(YBCO)は、初めて液化窒素温度よりも高い温度で超伝
導を示す物質として注目され、これまでに数多くの研究が行われている。YBCO には、超伝
導を担う CuO2 面の Cu(2)サイトと、CuO2 面にキャリアを注入するとされる Cu(1)サイトの 2
種類の Cu サイトが存在する。この Cu(1)サイトを Fe イオンで置換すると、同時に Cu(2)サ
イトの一部が Fe イオンで置換されてしまうため、超伝導が消失する。しかし、磁性と超伝
導が共存する物質である磁性超伝導体の物質探索のために、他の陽イオン元素置換による
超伝導化と微細構造との相関が調べられてきた。
YBCO の Ba イオンを Sr イオンに置換し、Cu(1)サイトの Cu イオンを Fe イオンで置換した
FeSr2YCu2O6+y は、一部の Cu(2)サイトの Cu イオンも Fe イオンで置換されるため、やはり超
伝導を示さない。そこで、還元雰囲気で熱処理することにより Cu(2)サイトの Fe イオンの
置換を抑制し、続けて酸素雰囲気中で熱処理することで、超伝導キャリアを注入し超伝導
化することが報告されている。還元雰囲気の熱処理により Cu(1)サイトと Cu(2)サイトの Fe
イオンの置換量が変化することは、粉末中性子回折実験と
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Fe メスバウアー分光実験で明
らかにされている。
YBCO の Y サイトは希土類元素で置換することができる。FeSr2YCu2O6+y の Y サイトも同様
に多くの希土類元素で置換することができる。しかし、FeSr2RECu2O6+y(RE:希土類)の性質に
ついて、超伝導転移温度や臨界電流密度希土類イオン依存性など、超伝導に関する研究報
告は行われていない。これは超伝導特性が酸素量だけでなく Fe イオンの分布にも影響され
るためである。また、これら希土類元素は熱中性子の吸収断面積が大きく粉末中性子回折
実験が困難である。そこで、FeSr2RECu2O6+y(RE:希土類)系の性質を理解するために、メスバ
ウアー分光実験で Fe イオン分布の決定を試みた。
7) 成果の概要
固相反応法により、FeSr2YCu2O6+y、FeSr2ErCu2O6+y、FeSr2GdCu2O6+y および FeSr2EuCu2O6+y を
合成した。合成後、790℃窒素気流中で 24 時間熱処理した後に 270℃酸素気流中で 24 時間
熱処理した。
熱処理後の試料のメスバウアー分光実験を室温で行った。これらの試料のメスバウアー
分光スペクトルは、3 組のダブレットで構成されていた。過去の FeSr2YCu2O6+y のメスバウア
ー分光実験の研究から、それらのダブレットは 5 配位の Cu(1)サイト、4 配位の Cu(1)サイ
ト、5 配位の Cu(2)サイトの Fe に由来することがわかっている。図 1 にメスバウアー分光
スペクトルと、対応する Cu サイトを示す。1(5)と 1(4)の表記は、それぞれ 5 配位と 4 配位
の Cu(1)サイトの Fe イオンに対応し、2(5)は Cu(2)サイトの Fe イオンに対応する。フィッ
ティングにより得られたアイソマーシフト(IS)、電気四重極分裂(ΔEq)などのメスバウア
ーパラメータを表 1 に示す。スペクトルの面積比から超伝導を阻害する Cu(2)サイトへの
Fe イオンの置換率は 10%程度に抑制することができていることがわかった。
さらに酸素量を増加させるために、270 ℃高圧酸素中(20 MPa)で熱処理を行った。超伝
導を確認するために電気抵抗の温度依存性を測定した。電気抵抗率の温度依存性を図 2 に
示す。FeSr2EuCu2O6+y 以外の試料はすべて零抵抗を示した。FeSr2EuCu2O6+y は超伝導発現に伴
うと考えられる電気抵抗の低下が見られている。FeSr2EuCu2O6+y では、4 配位の Cu(1)サイト
の Fe に由来するスペクトルの面積比が他の試料と比較して大きいことから、酸素導入が不
十分で完全な超伝導化には至らなかったものと考えられる。
以上のことから、Y サイトを希土類で置換した FeSr2RECu2O6+y は FeSr2YCu2O6+y と同様に還
元熱処理により Cu(2)サイトへの Fe イオンの分布を抑制し、超伝導化することができるこ
とがわかった。
8) 成果の波及効果
Y サイトを希土類で置換した FeSr2RECu2O6+y が FeSr2YCu2O6+y と同様に還元熱処理により
Cu(2)サイトへの Fe イオンの分布を抑制し、超伝導化できる道筋が明らかになった。これ
により、FeSr2RECu2O6+y の超伝導特性の詳細に関する研究を行うことが可能になった。
9) 成果の公開延期の希望の有無
なし
10) その他、要望など
なし
図 1. FeSr2RECu2O6+y(RE=Er, Gd, Eu および Y)
図 2. FeSr2RECu2O6+y(RE=Eu, Gd, Er
のメスバウアー分光スペクトル。
および Y)の電気抵抗率の温度依存性
表 1. FeSr2RECu2O6+y(RE=Er, Gd, Eu および Y)のメスバウアーパラメータ
RE
Y
Eu
Gd
Er
IS
ΔEq
FWHM
Area
(mm/s)
(mm/s)
(mm/s)
(%)
1(5)
-0.055
0.842
0.517
60.7
1(4)
0.134
1.903
0.335
29.4
2(5)
0.444
0.977
0.445
9.9
1(5)
-0.039
0.782
0.450
37.1
1(4)
0.158
1.814
0.381
51.2
2(5)
0.282
0.752
0.323
11.6
1(5)
-0.011
0.840
0.484
60.6
1(4)
0.163
1.748
0.405
32.4
2(5)
0.368
0.697
0.351
7.0
1(5)
-0.008
0.792
0.542
74.6
1(4)
0.163
1.912
0.221
15.2
2(5)
0.503
0.915
0.387
10.2
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