講義ノート

第三回 ケプラーの三法則
物理学講義 I
2014 年 5 月 2 日
¶
前回のポイント
³
• 角運動量の時間微分は力のモーメントに等しく、これを回転運動の法則という。
• 中心力が働く質点の角運動量は時間変化せず、質点は角運動量ベクトルを法線とする平
面上を運動する。
µ
1
• 中心力が働く質点の面積速度は一定である。
´
ケプラーの三法則
¶
³
• 第一法則:惑星の軌道は太陽を一つの焦点とする楕円になる。
• 第二法則:太陽と惑星を結ぶ線分が、一定時間に掃過する面積は一定である。
• 第三法則:惑星が太陽を一周する周期 T の2乗と、軌道の長軸半径 a の3乗の比は、す
べての惑星で一定である。
µ
2
2.1
´
第一法則の証明
二次元極座標の導入
Y
P
y
r
θ
O
x
X
図 1: 点 (x, y) の位置を (r, θ) で表す。
1
第一法則の証明の準備として、2次元極座標を導入しておこう。図 1 に X − Y 平面とその上に
ある点 P を示した。点 P の位置は直交座標を用いれば (x, y) で表すことができる。その一方で、同
じ点 P の位置を原点 O からの距離 r と角度 θ のペアで表すことも可能である。このとき、点 P の
位置を (r, θ) と表し、この座標系のことを(二次元)極座標という。このとき (x, y) と (r, θ) の関
係は、
x = r cos θ
(1)
y
(2)
= r sin θ
と表され、これを逆に解いて
√
x2 + y 2
y
= tan−1
x
r
=
θ
(3)
(4)
と書くこともできる。
√
例:(x, y) = (1, 1) を極座標で表すと、(r, θ) = ( 2, π/4) となる。
Y
eθ
er
sinθ
cosθ
r
ey
O
θ
ex
X
図 2: 直交座標と極座標の単位ベクトル。
では、単位ベクトルを用いて点 P の位置を表すとどう書けるだろうか。直交座標においては、単
位ベクトルを ex = (1, 0)、ey = (0, 1) とおけば
(x, y) = xex + yey
(5)
と書くことができる(図 2)。一方、極座標においては、動径方向と角度方向の単位ベクトルをそ
れぞれ er 、eθ とおけば、
(r, θ) = rer + θeθ
(6)
と書くことができる。
ここで、単位ベクトル同士の関係を調べておこう。単位ベクトル er を直交座標で表すと、図 2
からもわかるように、x、y 成分はそれぞれ cos θ、sin θ となるので、er = cos θex + sin θey とな
る。また eθ の方は、eθ · er = 1 となる長さ 1 のベクトルなので、eθ = − sin θex + cos θey と書け
ることがわかる。
¶
³
er
=
cos θex + sin θey
(7)
eθ
=
− sin θex + cos θey
(8)
µ
´
2
点 P の位置が時間とともに変化するとすると、直交座標の単位ベクトルは時間的に変化しない
が(e˙ x = e˙ y = 0。ドットは時間微分)、極座標の単位ベクトルは方向が変化する。そこで、単位ベ
クトルの時間変化率を求めておこう。式(7)、(8)をそれぞれ時間で微分すれば、
der
dt
deθ
dt
˙ x + cos θe˙ x + cos θθe
˙ y + sin θe˙ y
= − sin θθe
(9)
˙ sin θex + cos θey )
= θ(−
(10)
˙ θ
= θe
(11)
˙ x − sin θe˙ x − sin θθe
˙ y + cos θe˙ y
= − cos θθe
(12)
˙
= −θ(cos
θex + sin θey )
(13)
˙ r
= −θe
(14)
となる。
2.2
惑星の運動方程式
前節で導入した極座標を用いて惑星の運動方程式を書き下してみよう [1]。万有引力のみの作用
で運動する点 P の位置ベクトルを r とし、極座標を用いて r = rer と書けることを用いれば、r の
時間による一階、二階微分は、
r˙
= re
˙ r + re˙ r
(15)
˙ θ
= re
˙ r + rθe
(16)
˙ θ + rθe
¨ θ + rθ˙e˙ θ
¨r = r¨er + r˙ e˙ r + r˙ θe
(17)
˙ θ + r˙ θe
˙ θ + rθe
¨ θ + rθ(−
˙ θe
˙ r)
= r¨er + r˙ θe
(18)
¨ θ
= (¨
r − rθ˙2 )er + (2r˙ θ˙ + rθ)e
(19)
と書ける。ここで下線部に式(11)、(14)の結果を用いた。
惑星の運動方程式は、
Mm
er
(20)
r2
となる。万有引力は中心力なので θ 方向の力の成分はないことに注意しよう。式(20)に式(19)
m¨r = −G
の結果を用いると、動径方向と角度方向の運動方程式はそれぞれ、
m(¨
r − rθ˙2 ) =
−G
2r˙ θ˙ + rθ¨ = 0
Mm
r2
(21)
(22)
となる。
動径方向の運動方程式、式(21)を解こう1 。運動方程式を見通しのよい形にするために、変数
変換
u=
1
r
1 式(22)から角運動量保存則を導くことができる(今日の宿題)
。
3
(23)
を用いて、式(21)を書き換えてみよう。u の θ による一階微分を計算すると、
( )
du
du dt
d 1 1
=
=
dθ
dt dθ
dt r θ˙
r˙ 1
= − 2
r θ˙
mr˙
= −
L
L du
∴ r˙ = −
m dθ
(24)
(25)
(26)
(27)
となる。ここで角運動量 L = mr2 θ˙ を用いた。
さらに二階微分は、
d2 u
d
=
2
dθ
dθ
(
du
dθ
)
(28)
=
(29)
=
=
=
∴ r¨ = −
m dr˙
L dθ
m dr˙ dt
−
L dt dθ
m 1
− r¨
L θ˙
m mr2
−
r¨
L L
2 2
m r
− 2 r¨
L
= −
L2 d2 u
m2 r2 dθ2
(30)
(31)
(32)
(33)
˙ = mr2 /L を用いた。
となる。ここで式(30)において、1/θ˙ = mr2 /(mr2 θ)
動径方向の運動方程式、式(21)に式(33)を用いれば、
(
)
L2 d2 u
L2
− 2 2 2 − r 2 4 r2 + GM = 0
m r dθ
m r
( )
2 2
L d u
L2 1
− 2 2 − 2
+ GM = 0
m dθ
m
r
d2 u
GM m2
+
u
=
dθ2
L2
(34)
(35)
(36)
となる。微分方程式(36)の一般解は、
u = A cos(θ − θ0 ) +
GM m2
L2
(37)
となる(代入して確かめてください)ので、θ0 = 0 とおいて
r=
1
1
=
u
A cos θ +
GM m2
L2
=
(L2 /GM m2 )
(L2 /GM m2 )
=
AL2
1 + ² cos θ
1 + GM
m2 cos θ
(38)
となる。ここで、² ≡ AL2 /GM m2 と定義した。式(38)が質点の軌道となる。この式は二次曲線
の一般形であり、² のことは離心率と呼ばれる。惑星は太陽のまわりをまわっているのだから離心
率は ² < 1 とならなくてはならない。これより、惑星は太陽のまわりを楕円軌道を描くことになり、
ケプラーの第一法則が証明される。
4
参考文献
[1] 村上曜:
『楽しく考える物理シリーズ I 力学』(プレアデス出版、2011 年).
¶
この回のまとめ
³
• ケプラーの三法則は、ニュートンの万有引力の仮定により解析的に説明できる。
µ
• 極座標による惑星の運動方程式を解き、惑星の軌道が二次曲線となることがわかる。
5
´