QC雑感①

平成 26 年8月
QC雑感
ペンギンが教えてくれた物理のはなし
著者、渡辺佑基氏は、国立極地研究所の若手研究者で、野生動物に小型の記
録計を取り付け、
「バイオロギング」という手法で、鳥類、魚類、海洋哺乳類の
生態を研究している。渡る、泳ぐ、潜る、飛ぶというように、動物の生態を追
跡した体験と、バイオロギングの測る技術が紹介されている
バイオロギングには、アルゴスと呼ばれる送信機を動物の体に着けて放し、
送信機からの電波を人工衛星でキャッチする方法、3グラム程度の小型の記録
計を鳥等の小動物につけて観察するジオロケータと呼ばれる記録計がある。こ
れらの機器を使って、アホウドリは、46日間で世界を1周する、ウェッデル
アザラシは1時間近く息を止めることができる、クロマグロは、太平洋の端か
ら端を横断してまた戻ってくる、子供の図鑑ではマグロは、80キロで泳ぐと
書いてあるが、実は平均時速は7キロにすぎない等、多くのことが判っている。
(残念ながらニホンウナギの生態はまだ、判っていない。)また、動物の代謝速
度(=エネルギー量)は、体重の3/4乗に比例し、それを妨げる水の抵抗は、
体の表面積(すなわち体重)の2/3乗に比例することから、魚は、大きいほ
ど速く泳ぐことができる、といった物理的考察が加えられている。
バイオロギングの技術については、日本の内藤博士が、極小のダイヤモンド
針の記録計、アナログからデジタルの計測技術の進歩を見越した長年の研究と
業界の協力による実用化で先駆的な貢献をしている。とりわけ、① 計測器を
着けた動物を再捕獲することには困難が伴うが、発信する浮力体を記録計に取
り付け、時間がきたらエアバッグのように切り離す装置を開発した苦労話、②
アザラシの個体によって潜行速度が異なることの理由を、解体したアザラシの
皮下脂肪の状態を見て、比重が異なるのでは?という仮説から、同じアザラシ
に重りを付け潜水させ、途中から重りを自動的に切り離し、その前後の潜行速
度のデータで比較する、(対応のあるデータの検定と同じ考え方)③ 当初は、
鵜の遊泳速度を計測するつもりで、記録計を取り付けたが、そのプロペラの回
転のしかたに異常があることに気付き、よくよく調べたら記録計を固定するナ
ットを鵜がつついたため、緩んでいた。そのため実は、空気中の飛行速度を計
測していた。これによって、今まで正しく計測できていなかった、鳥の飛行速
度が測れるようになった、等の計測の工夫は興味深い。
また、
「飛ぶ」の話で、ダンカンドリやトビの猛禽類、インドガンの大型の鳥、
ハチドリのようにホバリングする鳥、アホウドリのように高低差を滑空する鳥
に分類し、揚力=空気の密度×翼面積×速度の2乗、の物理法則からその飛び
方の特徴を説明。さらに、鳥の羽ばたく飛行と飛行機の滑空の飛行とはメカニ
ズムが異なるという内容は、鳥の飛ぶことの物理的説明として納得がいく。
研究の場は、岩手県大槌、南極、バイカル湖、インド洋フランス領ケルゲレ
ン島と世界を股にかけ、各土地での食べ物の話も楽しく読める。(杉山 哲朗)