ペーパープレーンの製作 - 佐賀大学理工学部 機械システム工学科

平成16年度 大学入門科目
ペーパープレーンの製作
-飛行の原理-
理工学部機械システム工学科
担当教官 木上・徐・張・光武
1.はじめに

創造型実習とは





計画
設計
実施・評価
発表
企業が求める人物像とは




計画的・建設的に物事を考えることができる
目標に到達するために系統的な方策を立てることができる
行動力がある
コミュニケーション能力がある
2.工学とデザイン

モノづくりのための計画・企画






コンセプト・アイディアが重要 ・・・ 独創性
頭でイメージし,実際に手を動かしてアイディアを具体化せよ
よく観察しそこに潜む問題点を洗い出せ
計画は常に流動的である,より良い方向に修正を行おう
デザインと工学の融合

デザイン

工 学
直感的・主観的・芸術的
見えないもの・アイディアを見える形に具象化する
美しく魅力的な形にまとめ上げる
分析的・演繹的・客観的
具体的なモノを作るための方法・技術
独創性・創造性・・・「習・理・破」

より高いレベル 

破 自らの視点や意見を持つことによって,従来の考え・成果を打ち破るような新しい
モノを生み出す段階
理 ものごとの原理原則・理屈を学ぶ段階
習 ものごとの基本・基礎を学ぶ段階
3.ペーパープレーンと航空機との違い
主翼・水平尾翼・垂直尾翼・胴体
より構成される点において,何ら
変わりない.
しかし,以下の相違点がある.



エンジンにより推力を得る代わり
に,降下姿勢をとることで重力を
推進力として利用する.
非常に遅い速度で飛行するので,
航空機に対する空気力学の常識
が通用しない.
操縦による姿勢修正ができないた
め,飛行中にバランスが崩れても,
独りでに元の状態に戻る高い安
定性が要求される.
垂直尾翼
水平尾翼
胴体
主翼
旅客機B747
主翼
水平尾翼
垂直尾翼
胴体
ペーパープレーン
4.流れの相似則
模型によって実物の周りの定常流れを模擬するには,流れを支配す
る力学的相似パラメータを一致させて実験を行えば良い.飛行機周り
の流れに対する相似パラメータは,レイノルズ数とマッハ数である.

レイノルズ数
Re 
UD UD



: 慣性力と粘性力の比(無次元数)
:流体の密度[kg/m3],U:流体の速度[m/s]
D:代表長さ[m] 翼の場合Dは,翼弦長cに取られる
:粘性係数[Pa・s]
: 流体の動粘性係数(= / ) [m2/s]

20℃,1atm
水
空気
密度kg/m3
998
1.205
粘性係数Pa・s
10-3
1.79x10-5
動粘性係数
m2/s
10-6
1.48x10-5
マッハ数 Ms=U / a : 流体の速度と音速との比(無次元数)
U:流れの速度[m/s],a:流体の音速[m/s]
音速a = 340 m/s 空気(20℃), 1500 m/s 水(23-27℃)
気体の音速 a  RoT / M  20.05 T (空気の場合)
:気体の比熱比=cp / cv(=1.4空気),Ro:一般ガス定数(=8.3143 kJ/kmol/K)
M:気体の分子量(=28.95 空気),T:気体の絶対温度[K]
5.レイノルズ数Re



低Re数の流れ,つまり蜂蜜のように粘性係数が大きい “どろっと”とした
流体或いはおそい流れでは,流体の粘性力が支配な流れとなる.
高Re数の流れ,つまり空気のように粘性係数が小さい“さらさら”とした流
体或いははやい流れでは,流体の粘性力の影響が小さな流れとなる.
飛行速度が高々10m/sのペーパープレーンのRe数は,旅客機より3桁
も小さく,同じ空気中でもペーパプレーン周りの流れは相対的にかなり
“どろっと”した流れの中を飛行していると見なすことができる.
【計算例】
ペーパープレーンの主翼周りの流れ
U=5m/s,翼弦長c=30mm,動粘性係数=1.48x10-5m2/s
Re=5x30x10-3/1.48x10-5≒104
B777の主翼周りの流れ
U=83m/s(離陸速度300km/h),平均翼弦長c=7.1m
動粘性係数=1.48x10-5m2/s
Re=83x7.1/1.48x10-5≒4x107
6.マッハ数Ms




音速とは,流体中を乱れ(密度変化)が伝搬する速度で,流れ
の速度が音速に近づくに従い,流体の圧縮性(圧力によって流
体の密度が変化する性質)の影響が現れてくる.
マッハ数が0.3以下の流れでは密度の変化は無視できる.
飛行機の翼の形は,マッハ数が大きいほど,後退角が大きくな
り,アスペクト比,翼厚が小さくなる.
高々10m/sで飛行するペーパープレーンのマッハ数は,
Ms=10/340≒0.03と小さく,空気の圧縮性は考えなくて良い.
7.飛行速度による翼の形状変化
小
小
大
C130
全長29.7m 全幅40.4m
巡航速度602km/h(Mach0.5)
最大離陸重量155,000lbs(70.3t)
エンジン軸出力 4,300PS x 4 (12.7MW)
マッハ数
後退角
アスペクト比
Boeing 777
全長73.9m 全幅60.9m
巡航速度899km/h(Mach0.85 35000ft)
最大離陸重量660,000lbs(297.6t)
エンジン推力98,000lbs x 2 (88.9t)
大
大
小
F15E
全長19.44m 全幅13m
巡航速度3017km/h(Mach2.5+)
最大離陸重量68,000lbs(30.8t)
エンジン推力23,450lbs x 2 (21.3t)
8.翼に働く空気力(揚力と抗力)
翼に働く空気力は,表面上の空気圧力分布
の合力となる.その合力の作用点を空力中
心と呼ぶ.空力中心は、前縁から翼弦長c(前
縁と後縁を結ぶ翼弦線の長さ)の25%の長
さだけ後方の位置にある.
揚力L
失速時
空気合力
空力中心
翼弦線
前縁
空気速度U
正常時
抗力D
迎角
後縁
失速 : 迎角を大きくしすぎると翼上面の流れが乱れて剥離を生じ,
急速に揚力を失うと同時に抗力が増加する現象.
離着陸時の低空での飛行機の失速は,墜落することになる.
翼の周りの空気の流れ
9.平均空力翼弦 MAC

平均空力翼弦MAC(Mean Aerodynamic Chord)とは?
翼弦長が一定でない翼の場合,空力中心は平均空力翼弦(MAC)上の前縁から平
均空力翼弦長の25%後方位置に取られる.MAC上の空力中心に基づき,後で述べ
る(スライドNo.18以降)機体重心周りの空力モーメント計算を行う.
例えばテーパー翼の場合のMACは,以下の図の様に定義される.
機体中心軸
空力中心
cr
0.5cr
0.25MAC
cr
0.5ct
ct
MAC
ct
翼端
10.翼が受ける空気力: 揚力L
揚力Lとは,流れ方向に対して垂直方向の空気力成分のことをいう.
揚力は,式(1)で表される.
1
L  C L U 2 S
2
(1)
L:揚力 N
CL:揚力係数 (翼断面の形状,迎角,レイノルズ数Reに依存)
 :空気密度 kg/m3
U :空気速度 m/s
S :翼面積 m2 (矩形平板翼では,翼弦長cと翼幅bとの積)
11.翼が受ける空気力: 抗力D
抗力Dとは流れ方向と平行な空気力成分のことをいう.
抗力は,式(2)で表される.抗力は,その発生のメカニズムによって
形状抵抗と誘導抵抗に分類される.
形状抵抗-粘性摩擦抵抗と翼前後の圧力差に伴う抵抗
誘導抵抗-翼端渦の生成に伴う抵抗
(3)
CD :抗力係数 (翼断面形状,迎角,レイノルズ数Reに依存)
CDP :形状抗力係数
CDI :誘導抗力係数 (揚力係数,アスペクト比に依存)
 :空気密度 kg/m3
u :空気速度 m/s
S :翼面積 m2
e :飛行機効率(=0.7~0.8) 翼の平面翼形が楕円のとき = 1.0
A:アスペクト比(翼の縦横比,スライド13参照)
:円周率
離陸中の旅客機から
放出される翼端渦
発
渦
CDP  CDI
CL2
 CDP 
 eA
(2)
出
1
D  CD u 2 S
2
翼端渦
翼より発生する渦
12.低レイノルズ数の流れ
層流域
遷移域
• 低レイノルズ数では,流線型翼よりも平板翼の方が抵抗が小さい
• “どろっと”した流体の中では,翼先端が丸くて厚みのある流線型の翼
型では抵抗が大きすぎて,揚力を発生することが難しくなる.
• むしろ,先端が尖った薄い翼の方が流れから受ける抵抗が小さく,粘
性の大きな流体中では揚力が発生できる.このため,ペーパープレーン
の翼断面形状として,平板翼或いは平板翼に僅かにカーブをつけた
円弧翼(翼弦長に対するそりの長さが3%程度)が用いられる.
円
乱流域
惰円
翼型
5mm
ペーパープレーン主翼面上の空気の流れ
前縁から翼弦長の1/2~1/4の長さの翼面上領域が
層流域
平板
いろいろな断面の柱が受ける空気抵抗係数
13.揚力・抗力特性(平板翼・円弧翼)
•揚力係数は,迎え角の増加とともに直線的に大きくなる.
•同一迎角において,平板翼よりも円弧翼の方が大きい揚力係数を示し,円弧翼のそりの
増大によって揚力係数は増大するが,そりが大きすぎると抗力係数も増大する.
•ある迎角に達すると揚力係数は急激に減少が始まる.この点を最大揚力係数と呼ぶ.
この迎角より失速が始まるので,この迎角を失速角と呼ぶ.
•CLの特性と式(1)より,同じ揚力を出すために,低速では,迎角を大きくし,
高速では,迎角を小さくしなければいけない.逆に飛行速度が決まれば迎角が決まる.
そり
翼弦長c
翼断面形状
揚力係数CL・抗力係数CD
と迎角の関係(Re=104)
CL-CD曲線
翼弦長 c=30 mm
そり 0~3 mm
14.翼のアスペクト比(縦横比)
アスペクト比 A = b2/S
(4)
b:翼幅(スパン長), S:翼面積(矩形平板翼では,翼弦長cと翼幅bとの積)
 アスペクト比が小さい程翼は細長くなり,誘導抵抗が減少するため,揚抗比L/D
が大きくなり,最小推力が少なくてすむ.
 人力飛行機やグライダーでは,アスペクト比が15~30とかなり細長い主翼形状
を持たせてある.
 一方,高速飛行するジェット旅客機や戦闘機のアスペクト比は,それぞれ7~10,
3~5程度と小さくなっている.
Glaser-Dirks
DG-600
三菱
F-2
15.翼面荷重
翼面荷重=機体重力/主翼面積=mg/S [N/m2 ]

式(1)より,飛行速度の2乗に比例して機体の重力を支える揚力が発
生するため、飛行機の速度が速い程,大きな翼面荷重が実現できる.
B747旅客機:6.76x103 N/m2、ペーパープレーン:9.8 N/m2 程度


翼面荷重が大きいと翼面積が相対的に小さくなるため,抗力が小さく
なり,飛行速度も大きくできる.
一方,翼面荷重が小さいほど,失速速度も小さくなる.
U stall 

mg
2

C L max S
(5)
しかし,低翼面荷重条件では翼面積が大きくなるため,抗力が相対的
に大きくなる.この結果,後述する沈下率(飛行速度の垂直成分)が
大きくなり滞空時間が短くなる.
16.飛行安定性




定常飛行中の飛行機は,静的な釣り合い条件
すなわち
1)機体に働く揚力・抗力・重力のバランス
2)重心周りのモーメントのバランス
を満足していなければならない.
飛行中,風や姿勢変化の影響を受けて機体のバランスが崩れる
と,そのままでは飛行機は墜落する.
操縦によるバランスの立て直しができないペーパープレーンは,
放っておいてもバランスが取れた元の状態に戻る安定性が必要
である.
安定性が十分確保されていないペーパープレーンは,飛行距離
や飛行時間を大きく取ることは不可能である.
17.機体の安定性と運動軸
飛行中の外乱に対する安定性には,
 静安定性 外乱による姿勢変化が時間が立つと元に戻る.
 動安定性 外乱による振動の減衰の早さ(ダンピング)
がある.
飛行機の運動軸(3軸)周りの静安定性について検討する.
静安定:正,動安定:正
Z
釣合位置
ヨーイング
静安定:正,動安定:正
釣合位置
重心
静安定:正,動安定:負
ローリング
釣合位置
静安定:負,動安定:負
釣合位置
静安定性と動安定性
X
ピッチング
Y
飛行機の運動軸(ピッチング・ヨーイング・ローリング)
18.モーメントの釣り合い
機体のバランスウェートや翼の重さから,機体の重心位置が決まると,重心周りの
モーメントの和がゼロとなるように主翼と水平尾翼の揚力の大きさが決まる.揚力
の大きさは、失速しない範囲で主翼と尾翼の取付角によって調節する.




重心から主翼および尾翼の空力中心(前縁から翼弦長の25%位置)までの距離をçw,çtとおくと,主翼・尾翼の揚
力Lw,Ltは以下の釣り合い式を満足する. (以下、添字w:wing主翼,t:tail wing尾翼を意味する)
重心周りのモーメントの釣り合い式
: Lw・çw=Lt・çt
(揚力は上向きを正に取る)
(6)
重力と揚力の釣り合い式
: Lw+Lt=m・g
実機では,重心は主翼の空力中心付近に選ばれる.これは,安定性よりも操縦性を向上させるために重力を主翼の
揚力で受け持つよう設計されるからである.重心が空力中心にある場合には,尾翼の揚力は常にゼロとなる.また,
重心が空力中心より前方にある場合,水平尾翼が下向き揚力(ダウンフォース)を発生するよう取付角が設定される.
非常に低速で飛行するペーパープレーンでは,主翼の翼面荷重を減らし,遠くまで飛ばすために,尾翼にも揚力を分
担させる.このため,重心位置は,通常主翼の前縁から翼弦長の50~80%後方に設定される.
機体への尾翼の取付角は,重心位置が前方に移動するほど主翼の取付角に対して下向きに取って、尾翼の揚力を
調節する.経験上,尾翼重心が主翼の翼弦長の50%位置で1~3°,翼弦長の80%位置で0~1°それぞれ主翼
の取付角に対して下向きに設定する.
空気流
迎角
重心
Lw:主翼揚力
çw
取付角w
çt
mg:重力
空気流
空気流
Lt:尾翼揚力
(a)主翼の空力中心より前にある場合
Lw:主翼揚力
迎角
重心
çt
mg:重力
(b)主翼の空力中心にある場合
迎角
取付角w
Lw:主翼揚力
重心
çw
Lt:尾翼揚力
çt
mg:重力
(c)主翼の空力中心より後にある場合
重心位置とモーメント釣り合い(水平尾翼の揚力の向きと取付角度に注意)
19.ピッチング(縦方向)の静安定性1
ピッチングの静安定性は,水平尾翼によって得られるが,その安定
性は重心の位置と水平尾翼面積によって大きく影響される.




僅かな機首上げによって,主翼・尾翼の迎角がだけ増加したとする.このとき,揚力係数CLは
に比例して増加する.
式(1)より主翼揚力Lwと尾翼揚力Ltは,それぞれ主翼面積Swと水平尾翼面積Stに比例して,
Lw∝Sw・,Lt∝St・だけ増加する.
重心から主翼と尾翼の揚力増加分が作用する空力中心までの距離をそれぞれℓw ,ℓtとおく.
揚力の変化分の合成力LwLtの作用点が重心から後方に距離hcの位置にあるとする. hcは,
LwLtによるモーメントがLwとLtによるモーメントと等しくなる条件から,SwとStの面積重心と
して以下のように与えられる.さらに, hcを主翼の翼弦長cで割ると,式(7)を得る.
S   S w w
hc  t t
S w  St
hc / c 
Sw
S w  St
 St  t  w 

   0 (正の静安定条件)
S
c
c 
 w
Lw+Lw : 主翼揚力
Lt+Lt : 尾翼揚力
çw
揚力増加分だけを
取り出して考える
(7)
Lw
Lw+Lt
hc
çt
mg:重力
機首上げによる揚力増加
Lt
çw
çt
揚力増加分による復元モーメントの発生
20.ピッチング(縦方向)の静安定性2
水平尾翼容積によるピッチングの静安定性の判定



式(7)より,揚力の増加分に基づく重心周りのモーメントが,機首角度を元に戻す向き(機首下げ方向)に作
用するためには,揚力増加分の合成力LwLtの作用点が重心の後方になければいけない.逆に
LwLtの作用点が重心の前方にあるときは,揚力の増加分のモーメントが機首上げの方向に作用し,外
乱による機首上げの作用をさらに大きくしてしまう.
つまり,hc>0のとき,機体の縦方向の静安定性は正となり,復元力を有するようになる. hc=0が安定の
限界を示し, hc(>0)が大きくなるほど安定性が増す.一方, hc<0では静安定性が負となり,外乱による
姿勢のずれが益々拡大されてしまう.
式(7)中の無次元数(Stçt)/(Swc)は,水平尾翼容積VHと呼ばれ,縦方向の安定性を決める水平尾翼の
大きさの基準を与える.VHが大きくなるほど、機首角度の変化に対する復元モーメントが大きくなり、縦方向
の静安定性が良くなる.

しかし,VHを大きくし過ぎると,尾翼面積が増加し空気抵抗も増大する.また,尾翼側が重くなるため,重心
位置調節用のバランスウェートが胴体前方に必要となる.その結果,機体重量がさらに増加し,翼面荷重
が大きくなるため,滑空性能が低下する.このように,水平尾翼容積を大きくしすぎても,その効果は相殺さ
れてしまうので, VHの値は適切に設定する必要がある.

例えば,重心位置が主翼の前縁より翼弦長cの70%の位置にあるとき,VHの値は経験的に0.9~1.4付近
にあることが知られているが,試験飛行で確認する必要がある.

また,式(7)より,重心位置が前方に近づく程,つまりçwが小さい程,VHの値が小さくてもhc>0となるため,
小さな水平尾翼でも安定性が確保できることが分かる.
21.ヨーイング(横方向)の静安定性
ヨーイングの静安定性は,垂直尾翼の風見安定によって確保される.






機軸方向が空気流の方向と一致しない状態を横
滑りと呼ぶ.
飛行機が横滑り角(空気流と機軸方向となす角)
で横滑りを起こすと,空気流は迎角で垂直尾
翼に流入し,垂直尾翼に発生する揚力で重心周
りのモーメントが発生する.
機軸が空気流と同じ向きになったとき,垂直尾翼
の揚力がゼロとなる.
このように横滑りを起こしても機軸の方向が変化
して気流の向きに一致する性質のことを風見安
定(weather-cock stability)と呼ぶ.
垂直尾翼の設置するための基準として,水平尾
翼と同様に主翼の揚力の寄与を0と見なすことに
より,垂直尾翼容積VVが定義できる.
しかし,ペーパープレーンの場合,垂直平板の胴
体もヨーイング静安定に寄与するので,主翼面
積の1/3程度の垂直尾翼で十分である.動安定
性の確保できる,つまりダッチロール運動しない
範囲でさらに小さくするとよい.
空気
速度
飛行機の
絶対速度
機軸方向
相対空気速度
垂直尾翼の揚力
によるモーメント
空気流
揚力
横滑り角
22.ローリング(左右方向)の静安定性
ローリングの静安定性を持たせるために,左右の翼は少し上向きに取り付
けられている.この上向きの角度のことを上反角と呼ぶ.




左側より横風を受けて機体がバンク角 だけ右側に傾いた場合を考える.このとき,揚力の横方
向成分が生じて,機体は右下方向に横滑りを開始する.
横滑り運動の結果,翼に対して右方向からの風を受けることになる.
上反角がつけられた翼に横風が当たると右側の翼を持ち上げる揚力が生じ,傾いた翼を元に戻
す向きのモーメントによって,右側に傾いた機体が元に戻る.これを,上反角効果と呼ぶ.
通常,上反角は5~15°に取られる.より大きなローリング安定性を得るために,モーメントアー
ム長さが大きい翼の先端部分にさらに大きな上反角をつける場合もある.
揚力L
上反角
横風
バンク角
重力mg
上反角のついた主翼に右から横風を受けると
反時計方向へのモーメントを生じる.
バンクによる横滑りの開始
H21.11.27 誤字訂正 上半角→上反角
つくば市 秋元氏からのご指摘
23.滑空飛行
力の釣り合いから
(9)
1 / tan = L / D
L = mg cos
(8)
これを滑空比とよぶ
D = mg sin
滑空中の滑降角は.揚力と抗力の比,つまり滑空比L/Dで決まる.
式(1)と(2)より,L/Dは,揚抗比CL/CDと等しいことが分かる.
揚力L
UH : 飛行速度の水平成分,
UV : 飛行速度の垂直成分(沈下率)
抗力D
水平軸
滑降角
方
飛行
向
UH
飛行速度U
UV
m・g・cos
m・g・sin
重力m・g
滑空飛行中の力の釣り合い
24.最大水平滑空距離

水平滑空距離 H
H = h / tan =h(L/D) =h(CL/CD) (10) (hは滑空開始高度)
Hを大きくするには,滑空開始高度hを高くすると同時に,滑空比L/Dを最大とする滑降角で
飛行させるとよいことが分かる.

水平滑空距離最大の条件
滑空比L/Dは,式(1)~(3)より,次式で与えられる.
L CL
CL


D C D C DP  C L2 /  eA
L/Dを最大にする揚力係数,抗力係数は,次式で与えられる.
C L ,max glide  C DP  eA , C D ,max glide  C DP  C L2,max glide / eS  2C DP
(11)
このとき,L/Dの最大値および飛行速度は,次式で与えられる.
(L/D)maxglide  1 / tan   0.5 eA / C DP
U max glide  2mg cos  /( SC L ,max glide )
(12)
(13)
これより最大水平滑空距離 H max glide  h( L / D) max glide  0.5h eA / C DPを得る.
25.最大滑空時間
滑空時間tglide = h / UV
(14)
h:滑空開始高度,Uv:沈下率
上式より,tglideを大きくするには,滑空開始高度hを大きくとると同時に,飛行速度の垂直成分UV(沈下
率)が最小となる滑降角で飛行させるとよいことが分かる.
式(1)および(8)より,沈下率は U V  U sin   sin  2mg cos  /SC L で与えられる.
2mgCD2
sin   (C L / C D ) cos を代入すると, 沈下率 U V 
cos3  
3
SC L
2mg
1
 1.5
を得る.
S C L / C D
従って,沈下率は翼面荷重m/Sが小さい程小さくなる.また,最小沈下率は,CL1.5/CDが最大のときに
得られることがわかる.その時のCL,CDは,次式で与えられる.
CL,min sink  3CDP  eA, CD,min sink  CDP  CL2,min sink / eA  4CDP
(15)
式(11)と(15)を比較すると滑空時間を最大とする揚力係数CLは,水平滑空距離を最大とする揚力係
数の 3倍となることが分かる.
また,滑空時間が最大となる時の滑空比および飛行速度は,次式で与えられる.
( L / D) min sink  1 / tan   0.433 eA / C DP
U min sink  2mg cos  /( SC L ,min sink )
(16)
(17)
26.最大滑空比の求め方
•CD-CL特性曲線上で,原点より曲線上への接線を引く.
•接線の勾配が揚抗比CL/CDの最大値,すなわち最大水平滑空距離に
対応する最大滑空比L/Dを与える.
また,滑空時間最大条件では,揚力係数が 3 倍,
すなわちCL=1.074と非常に大きい値となる.この値
は大きすぎて,平板翼では実現不可能である.
1
0.6
CL = 0.62
CL
0.8
0.5
0.5
0.4
CD
従って,最適滑空比L/Dおよび滑降角は,
(L/D)maxglide = CL/CD= 0.62 / 0.104 = 5.96
tan=1/ 5.96 = 9.5°となる.
1
CL
【計算例】
平板翼のCL-CD特性曲線上で原点より接線を引くと,
揚力係数CL = 0.62,抗力係数CD = 0.104,
迎角 = 6.5°を得る.
0.2
0
0
0
-0.5
 = 6.5deg
-0.2
-8 -4 0 4 8 12 16 20 24
迎角  , deg
-0.5
0
0.1
0.2
CD
0.3
0.4
平板翼の揚力係数・抗力係数の特性
以上から,最適滑空比つまり最大水平滑空距離は,迎え角が6°付近で達成されること,滞空時間を最大とする揚力係数を
主翼だけ得ようとすると,さらに大きな揚力係数(迎角)を取らなければいけないことが分かる.
特に,ペーパープレーンのような低レイノルズ数で飛行する飛行機では,大きな迎角を取る設計では失速が避けられない.
そこで,機体の重力を支える揚力を水平尾翼でも発生させる揚力尾翼によって,主翼の揚力係数を小さくしている.
27.揚力尾翼の効果

ペーパーグライダーのような低速な飛行機では,最大滑空時間を狙って非常に
大きな揚力係数(CL = 1.07)を主翼だけで発生させようとすると失速してしまう.

そこで,機体重量を支える揚力を尾翼に分担させる揚力尾翼が有効である.

飛行機全体の揚力を主翼と尾翼の揚力係数CLw ,CLtと主翼面積と尾翼面積Sw,Stを用いて表
すと, L  1 U 2C S  1 U 2C S
Lw w
Lt t
(18)
2
2
揚力をU2Sw/2で割ると,飛行機全体の揚力係数(全機揚力係数)CLが得られる.
C L  C Lw  C Lt S t / S w
(19)




尾翼は主翼の取付角よりも下向きに設置されるので,取付角の差の分だけ尾翼の揚力係数CLt
は主翼よりも小さくなる.そこで,尾翼の揚力係数が主翼の揚力係数の0.9倍と仮定すると,
Sw/St=1/2.5のとき, 全機揚力係数 CL = (1+0.9/2.5)・CLw = 1.36CLw となる.
つまり,尾翼にも揚力を積むことで全機揚力係数を主翼の揚力係数の1.36倍まで増大させるこ
とができる.その結果,大きな揚力係数CL=1.07を得るために必要な主翼の揚力係数は、
CLw=0.79まで減少できる.
全機揚力係数を1.07に近づけることができれば,滑空時間が最大の条件が達成できる.
しかし,尾翼面積の増大は機体重量を増加させると同時に尾翼の抗力も増加
するので,揚力尾翼の効果は相殺されてしまう.

相反する条件をどこで折り合いをつけるかが設計上のポイントとなる.
28.設計手順の一例
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調査
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機体の形状のデザイン

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機体設計のノウハウ,チャンピオン機の調査・検討
機体のイメージを具体化し,スケッチ図を描く
胴体・主翼・尾翼・垂直尾翼の設計
スケッチ図に基づき全体の寸法(全長,全幅)から各部品の寸法をおおかまに決めていく

翼形状,翼面積,アスペクト比,翼の取付位置・取付角,水平尾翼体積,重心位置の決定

主翼・水平尾翼・垂直尾翼・胴体の設計・機体補強方法について検討
注意 ) 検討過程を必ず記録しておき,次回の設計変更・修正に役立てるようにしておくこと.
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フィードバック
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飛行機製作
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試験飛行・分析
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試験飛行を行い、機体の強度や飛行特性を確認し,記録する.
飛行力学に基づく分析を行い,どこに問題点があるのかを明らかにする.
機体パラメータをある範囲で変化させたときの飛行特性の変化を調べ,最適なパラメータを探し出す
手法も有効である.
設計変更
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
設計図(型紙)に基づきケント紙より機体部品を切り出し,組み立てる.
試験飛行で得られた結果に基づき機体設計の修正や機体強度を変更する.
最終設計の決定
各自準備するもの
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
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はさみ
定規
洗濯ばさみ
(のり付けした機体の乾燥に使用する)