専攻科 応用数学 II 1 第 7 回 講義資料 平均 平均 X が (Ω, F, P ) 上の離散型確率変数であるとき, 任意の実数 x に対して定義される確率質量関数 p(x) = P ({ω ∈ Ω|X(ω) = x}) を用いて, X の平均は ∑ E(X) = xP (X = x) x∈X(Ω) と定義された. 離散型確率変数は, X(Ω) が R の可算部分集合であるので, 上の和は可算個の和である. しかし, 一般の確率変数の場合は上の式で定義することはできない. 一般の確率変数では次のように, ルベーグ積分を用いて定義される. しかし, X が確率密度関数を持つような分布の場合は比較的容易 に E(X) が表現される. そのため, 1 回はルベーグ積分の方法で定義を行うが, 実際の問題では普通の 積分の計算によると思って差し支えない. (1) X が有限個の値のみをとる場合, X は単純と呼ばれる. X ≥ 0 で単純な確率変数 X(ω) = k ∑ ai χCi (ω), ai ≥ 0, Ci ∈ F, i=1 k ∪ \ j) Ci = Ω, Ci ∩ Cj = ∅(i = (1) i=1 と表されるとき, X の平均 E(X) を次のように定義する E(X) = k ∑ ai P (Ci ) i=1 右辺を ∫ X(ω)P (dω) Ω と書く. ここで a1 , a2 , · · · , ak の中には同じものがあってよいので X が単純であるとき, その表 し方 (1) には他の方法もありうる. E(X) は (1) を用いて定義されているので, どのような表し方 であってもその平均は変わらないことを示す必要がある, つまり k ∑ ai χCi (ω) = l ∑ i=1 j=1 k ∑ l ∑ bj χDj (ω) であるとき, ai P (Ci ) = i=1 bj P (Dj ) j=1 であることが示されなければならない. 実際このことは正しく, 晴れて E(X) が定義される. 1 (2) X ≥ 0 であるとき Xn を { Xn (ω) = i , i < X(ω) ≤ i + 1 (i = 0, 1, · · · , n2n − 1) のとき 2n 2n 2n n, X(ω) > n とすると Xn は単純である. 実際 } { { i < X(ω) ≤ i + 1 ω ∈ Ω| (i = 0, 1, · · · , n2n − 1) Cin = 2n 2n {ω ∈ Ω|X(ω) ≥ n} (i = n2n ) とおくと Cin ∈ F であり n n2 ∪ \ j) が成り立つ. このとき Cin = Ω, Ci ∩ Cj = ∅ (i = i=1 n2 ∑ i χ n (ω) Xn (ω) = 2n Ci n i=1 であるので n2 ∑ i P (C n ) E(Xn ) = i 2n n = = i=1 n −1 n2 ∑ i=1 n −1 n2 ∑ i=1 i P 2n ( i (F 2n X i < X(ω) ≤ i + 1 2n 2n ( i+1 2n ) −F ( ) + nP (X(ω) > n) ) i ) + n(1 − F (n)) X 2n となる. すると, X1 (ω) ≤ X2 (ω) ≤ · · · ≤ Xn (ω) ≤ Xn+1 (ω) ≤ · · · X(ω) であり, n → ∞ のとき Xn (ω) ↑ X(ω) である. E(X1 ) ≤ E(X2 ) ≤ · · · ≤ E(Xn ) ≤ E(Xn+1 ) ≤ · · · であるので, E(Xn ) は n → ∞ のとき正の無限大か有限の実数に収束する. よって, E(X) = lim E(Xn ) n→∞ と定義する. これを ∫ E(X) = X(ω)P (dω) Ω と書く. (3) 一般の X については X + (ω) = max{X(ω), 0}, X − (ω) = max{−X(ω), 0} のとすると X + ≥ 0, X − ≥ 0 であり, X(ω) = X + (ω) − X − (ω) と書ける. (2) で定義したように E(X + ), E(X − ) がと もに有限のとき, X は可積分であるといい, E(X) = E(X + ) − E(X − ) と定義する. これを ∫ E(X) = X(ω)P (dω) Ω 2 確率変数 X が絶対連続な分布に従うとき, X の分布関数 FX は ∫ x FX (x) = f (u)du −∞ と書ける. このとき X の平均は確率密度関数を用いて計算することができる. 証明にはルベーグ積分 論を必要とするので省略するが, 次の事実をまとめておこう. 公式 X が絶対連続な分布に従い, その確率密度関数を fX とすると, X の平均 E(X) は次のよう に計算される ∫ ∞ E(X) = xfX (x)dx −∞ さらに, g(X) が確率変数となれば, ∫ ∞ E(g(X)) = −∞ g(x)fX (x)dx と計算される. 正式な証明はルベーグ積分論が必要となるので省略する. 以下, X は絶対連続な分布に従う確率変数 とし, fX を確率密度関数とする. X の分散 Var(X) は E((X − E(X))2 ) で定義されるので 公式 E(X) = µ とするとき ∫ ∞ Var(X) = −∞ (x − µ)2 fX (x)dx もちろん Var(X) = E(X 2 ) − E(X)2 も成り立つので ∫ ∞ 2 E(X ) = x2 fX (x)dx −∞ を用いて計算してもよい. 具体的な分布について平均と分散を計算してみよう. (1) X が区間 (a, b) 上の一様分布に従うとき, 確率密度関数は fX (x) = 他) であるので 1 (a < x < b), = 0 (その b−a [ ]b 2 2 2 1 x E(X) = x dx = = b −a = a+b b−a 2(b − a) a 2(b − a) 2 a ∫ b 3 3 2 2 E(X 2 ) = x2 1 dx = b − a = b + ba + a b−a 3(b − a) 3 a ∫ b よって 2 2 (a + b)2 Var(X) = E(X 2 ) − E(X)2 = b + ba + a − 3 4 2 2 2 2 (b − a)2 = 4b + 4ba + 4a − 3a − 6ab − 3b = 12 12 3 (2) X がパラメータ λ の指数分布に従うとき, 確率密度関数は fX (x) = λe−λx (x ≥ 0), = 0 (x < 0) で あるので ∫ ∞ ∫ ∞ [ ] 1 −λx −λx ∞ E(X) = x e dx = −xe + e−λx dx 0 λ 0 ]∞ [0 1 1 −λx = − e = λ λ 0 ∫ ∞ ∫ ∞ [ 2 −λx ]∞ 2 2 1 −λx E(X ) = x e dx = −x e + 2xe−λx dx 0 λ 0 0 ∫ ∞ [ ]∞ = − 1 2xe−λx = 2 e−λx dx λ λ 0 0 2 = 2 λ Var(X) = E(X 2 ) − E(X)2 = 22 − 12 = 12 λ λ λ (3) X が Cauchy 分布に従うとき, E(X) は存在しない. 実際 ∫ M 1 dx lim x M →∞,N →∞ −N π(1 + x2 ) を調べることになるが, ∫ M 1 ∫ ∫ M x dx = 1 dx → ∞(M → ∞) 2 2π x π2x 1 1 ∫ −1 x 1 dx → −∞(N → ∞) dx ≤ 1 2π −N x π(1 + x2 ) x dx ≥ π(1 + x2 ) −1 −N ∫ M よって上記の極限は存在しない. 問 X がパラメータ µ, σ 2 の正規分布に従うとき, X の確率密度関数は ( ) 1 1 2 fX (x) = √ exp − 2 (x − µ) 2σ 2πσ 2 x−µ で置換積分せよ.) σ 問 確率変数 X が, P (X > 0) = 1 を満たし, 分布関数と確率密度関数について で与えられる. X の平均と分散を求めよ. (Hint:z = fX (x) = λ(> 0 一定) 1 − FX (x) が成り立つとき, X はパラメータ λ の指数分布に従うことを示せ. 分母を払い, 両辺を微分して微分方 程式を導け. P (X ≤ 0) = 0 より FX (0) = 0 であるから, fX (x) = 0 (x ≤ 0) に注意せよ. 上の式は次の ように解釈できる. X > x という条件のもとで, x < X ≤ x + ∆x である確率は FX (x + ∆x) − FX (x) 1 − FX (x) であるが, 条件より ∆x ∼ 0 のとき FX (x + ∆x) − FX (x) ∼ λ∆x 1 − FX (x) 4 X をある部品が壊れるまでの時間とするとき λ∆x は寿命が x 時間以上という条件の下で, x + ∆x ま でに故障する条件つき確率と考えることができる. 信頼性の理論では λ を故障率という. X をある部品が故障するまでの時間とするとき, X の従う分布の分布を寿命分布という. 分布関数 FX (x) に対して RX (x) = 1 − FX (x) を信頼度という. 信頼性工学などではその他にも様々な分布が用いられる. あと 2 つほど紹介しよう. (1) (ガンマ分布) 確率密度関数が λ(λx)α−1 e−λx f (x) = Γ(α) 0 (x ≥ 0) (x < 0) で与えられるような分布をパラメータ λ, α のガンマ分布という. ただし λ > 0, α > 0 である. (2) (ワイブル分布) 確率密度関数が { f (x) = λmxm−1 e−λx 0 m (x = 0) (x < 0) で与えられるような分布をパラメータ λ, m のワイブル分布という. ただし, λ > 0, m > 0 である. 5
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