専攻科 応用数学 II 第 10 回 講義資料 モーメント母関数 モーメント母関数 1 定義 1.1 X が非負整数値をとる離散型確率変数であるとき, その確率母関数 GX は次のように定義された X GX (s) = E(s ) = ∞ ∑ sk P (X = k). k=0 つまり, 確率母関数とは数列 {P (X = k)}k=0,1,2,··· の母関数である. しかし, これは非負整数値をとる ときしか利用できない. よって, いっぱんの確率変数 X に対しては次のモーメント母関数という関数 がよく使われる. 確率変数 X のモーメント母関数 MX (t) とは次の式で定義される関数である: MX (t) = E(etX ) ただし, 右辺の平均値が存在するような t に対してのみモーメント母関数は定義される. これは X が 非負整数値をとる確率変数であるとき, 確率母関数 GX (s) において s = et としたものである: MX (t) = E(etX ) = GX (et ) そういう意味で, モーメント母関数は確率母関数の一般化となっているといえる. 一般に離散型確率変 数の場合, モーメント母関数は ∑ MX (t) = E(etX ) = etx P (X = x) x∈X(Ω) となる. また, X が絶対連続な分布に従う場合, 確率密度関数を fX とすると, g(x) = etx として ∫ ∞ E(g(X)) = g(x)fX (x)dx −∞ より ∫ tX MX (t) = E(e ) = ∞ −∞ etx fX (x)dx となる. ただし, 和や積分が絶対収束するときに限る. 1.2 例 1 (1) X がパラメータ µ, σ 2 の正規分布に従うとき, X のモーメント母関数は MX (t) = eµt+ 2 σ (2) X がパラメータ λ の指数分布に従うとき, X のモーメント母関数は { λ (t < λ) MX (t) = λ−t ∞ (t ≥ λ) したがって MX (t) は t < λ を満たす t に対してのみ存在する. 1 2 t2 (3) X が Cauchy 分布に従うとき, X のモーメント母関数は { 1 (t = 0) MX (t) = \ 0) ∞ (t = したがって MX (t) は t = 0 でのみ存在する. 問 (1) 上の例において, パラメータ µ, σ 2 の正規分布に従う確率変数 X のモーメント母関数 MX (t) を求 めよ. Hint: ∫ ∞ 1 2 MX (t) = etx √ 1 e− 2σ2 (x−µ) dx 2 −∞ ∫ 2πσ ∞ 1 2 1 = √ etx e− 2σ2 (x−µ) dx 2 2πσ ∫−∞ ∞ 1 2 1 = √ et(x−µ) etµ e− 2σ2 (x−µ) dx 2 2πσ ∫−∞ ∞ tµ 1 2 e = √ et(x−µ) e− 2σ2 (x−µ) dx 2 2πσ −∞ あとは x−µ = z で変数変換せよ. σ (2) X がパラメータ λ の指数分布に従う確率変数であるとき, モーメント母関数 MX (t) を求めよ. (3) X がパラメータ n, p の二項分布に従う確率変数であるとき, モーメント母関数 MX (t) を求めよ. (4) X がパラメータ λ のポアソン分布に従う確率変数であるとき, モーメント母関数 MX (t) を求めよ. モーメント母関数の性質 2 定理 MX (t) が t = 0 を内部に含む十分小さい区間 (−δ, δ) で存在しているならば, (k) E(X k ) = MX (0) (k = 0, 1, 2, · · · ) が成り立つ. 証明 d M (t) = d E(etX ) dt X dt d と E(·) の交換ができる (積分記号下の微分) という仮定のもとで示す (このよ dt うな条件を調べるのはルベーグ積分論の重要なテーマである). これを認めると ) ( d d ′ tX tX = E(XetX ) MX (t) = E(e ) = E e dt dt であるが, 微分演算 よって MX′ (0) = E(X) 2 以下同様に (k) MX (t) k = d k E(etX ) = E dt ( dk etX dtk ) = E(X k etX ). よって (k) MX (0) = E(X k ) を得る. 独立な確率変数 X, Y について, 非常に有益な公式を得ることが出来る. 定理 X, Y が独立な確率変数, MX (t), MY (t) をそれぞれ X, Y のモーメント母関数とする. こ のとき X + Y のモーメント母関数を MX+Y (t) は MX+Y (t) = MX (t)MY (t) を満たす. 証明 X, Y は独立であるから, h(x) = etx に対して E(h(X)h(Y )) = E(h(X))E(h(Y )) が成り立つ. よって MX+Y (t) = E(et(X+Y ) ) = E(etX etY ) = E(etX )E(etY ) = MX (t)MY (t) よって示された. 2 同様に独立な確率変数の和 S = X1 + X2 + · · · + Xn のモーメント母関数は MS (t) = MX1 (t)MX2 (t) · · · MXn (t) モーメント母関数の一意性を述べよう. 定理 ある δ > 0 があって, 区間 (−δ, δ) 上のすべての t に対し MX (t) = E(etX ) が存在すると き, 確率変数 X が従う分布がただ 1 つに定まる. さらに, このときすべての k = 0, 1, 2, · · · に対 して E(X k ) が定まり |t| < δ において次が成り立つ MX (t) = ∞ ∑ tk E(X k ). k! k=0 証明は本講義の範囲を超えるので述べない. しかし, 確率密度関数 fX が存在する場合, X のモーメ ント母関数は ∫ ∞ MX (t) = etx fX (x)dx −∞ であたえられる. 上の定理は MX (t) から事実上 fX (t) が復元されることを意味している. モーメント 母関数を定義する上の積分が両側ラプラス変換に対応していることに注意すると, 上の定理は逆ラプ ラス変換に対応しているといえる. X が離散型を含む一般の確率変数のときもモーメント母関数から X の確率分布が復元されるという極めて驚くべき結果であるといえる. このことはフーリエ変換でも 同じことができ, 次回の講義で紹介する. 例題 10.1 X1 がパラメータ µ1 , σ12 の正規分布に従い, X2 がパラメータ µ2 , σ22 の正規分布に従 い, X と Y が独立であるとき, X1 + X2 はパラメータ µ1 + µ2 , σ12 + σ22 の正規分布に従うことを, モーメント母関数を用いて示せ. 3 ( ) σi2 2 解 MXi (t) = exp µi t + t である. よって 2 ( ) ( ) σ12 2 σ22 2 MX1 +X2 (t) = MX1 (t)MX2 (t) = exp µ1 t + t exp µ2 t + t 2 2 ( ) = exp (µ1 + µ2 )t + 1 (σ12 + σ22 )t2 2 1 (σ 2 + σ 2 ) の正規分布のモーメント母関数である. よってモーメント母関 2 2 1 1 数の一意性により X1 + X2 はパラメータ µ1 + µ2 , (σ12 + σ22 ) の正規分布に従う. 2 2 問 X がパラメータ m, p の二項分布に従い, Y がパラメータ n, p の二項分布に従うとき, X + Y は パラメータ m + n, p の二項分布に従うことを, モーメント母関数を用いて示せ. 右辺はパラメータ µ1 + µ2 , 4
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