「セピアプテリン」による 脳内モノアミン合成促進 新規抗鬱薬 日本大学 医学部・歯学部 兼任講師 長谷川 宏幸 1 「うつ」とは 「うつ」とは 持続的な心的ストレスによる中枢モノアミン系の失調 強い「心的ストレス」 持続・反復 FST1 セロトニン系に強烈な負担 15 min FST2 24hrs brain 5HT 15 min モノアミン系 失調 うつ病 セロトニン(5HT) ドーパミン(DA) ノルアドレナリン(NA) -17% ➘ -12% ➘ 例: 健常マウスに強制水泳負荷 15分,24時間後に15分の負荷 前頭皮質 5HT,NA 17%低下 視床下部 5HT 12% 低下 J. Espallergues et al. (2012) → Neuropharmacology 62 492‒502 この例は 反復ストレスのモノアミン系への影響の大きいことを示す 2 セピアプテリン(SP)の薬効理論 セロトニン生合成を促進 合成酵素トリプトファン水酸化酵素の活性を上げる Trp ② Trp ① TPH BH4 SP ENT2 SP )( BH2 5HT SERT 5HTP AADC 5HT VMAT MAO 5HIAA OAT ① 末梢から投与したSPは脳内モノアミン神経に取り込まれる ② SPは,カテコールアミン(DA,NA)生合成も同様に促進する (チロシン水酸化酵素も同様に活性促進: DA,NA合成促進) 5HIAA セピアプテリン(SP)はセロトニン合成を促進 3 従来技術「抗うつ薬」とその問題点 うつ病 : きわめて高い有病率(12ヶ月有病率 2.1%), 薬療への信頼感の低下 低い受診率(29%),アドヒアランス低下に顕著 疲弊した中枢モノアミン系を賦活化する(?) 機構は? (現行「抗うつ薬」の薬効理論に空白) 現行の「抗うつ薬」の第一選択薬は SSRI, SNRI 遊離セロトニンを増やすが,セロトニンプールの枯渇を引き起こさないか? セロトニン等 再取込阻害 ……いずれも三環系抗うつ薬の系譜を持つ è 次頁 説明 4 現行「抗うつ薬」のストラテジーに明らかな 空白 「セロトニン回収阻害」による「遊離セロトニン増大」 遊離セロトニンの増大はセロトニンプールを枯渇させる ★ 現行の主な抗うつ薬は再回収の阻害 核心的な問題(脳内セロトニンの減少)へ回答が無い (再回収しなければ,セロトニンの枯渇を招く) ? 現行抗うつ薬の系譜 寛解率は約50%と言われる (ただし,プラセボで40%の寛解率) 遊離セロトニン ✜ 三環系抗うつ薬(TCA) ê 四環系抗うつ薬 ê SSRI,SNRI (第3,4世代) 三環系抗うつ薬のストラテジーを継承 寛解 (純増 10%,4-6週間後) SSRI,SNRI 《回収阻害》 セロトニン 神経分泌 脳内セロトニン量 モノアミン生合成を促進する薬効理論が含まれていない (疲弊したセロトニン神経にセロトニン消耗の追い打ちを掛ける) 現行薬のターゲット 「遊離セロトニン」の増加 セロトニン量の増加なのか? 反復-心的ストレス セロトニン生合成 (必要量を賄えない) 不可避的 副作用 自殺関連事象⇐ 擬似興奮の延長 セロトニン枯渇 (うつ病) è疲弊したセロトニン神経を回復させる薬効理論が必要 5 資料 SSRI反復投与による脳内セロトニンの減少 「遊離セロトニン」レベルは 1時間で上昇する← 長期投与では? SSRI(Fluox)連投のセロトニンプールへの影響 (健常ラット, 10MG/kg/day) SSRIは セロトニン再取込を阻害 → セロトニンプールを圧迫する 遊離セロトニン 再回収 SSRI セロトニン 脳内セロトニンプール 神経分泌 セロトニン生合成 Zhou FM et al.(2005) Neuron 46: 65-74. Neuropharmacology 62 492‒502 健常ラット,Fluoxetine(SSRI) 1週間の連投で線状体 セロトニン➘ 10% 減少 (SSRI の効果を検証する論文には ほとんど 明記されない) 6 抗うつ薬の歴史におけるSPの位置づけ 年代 抗うつ薬 MAO阻害剤 ① 1960 開発意図:主なターゲット ② 三環系(TCA) 5HTP/dopa ③ BH 4 5HT, DA, NA 偶然→ 5HTなど 副作用強→未承認 副作用強 5HT, DA L-dopa: 今でもパ氏病の第一選択 5HT, DA, NA ④ 1990 ⑤ 2000 SSRI (TCA改良) 5HT (再取込阻害) 副作用+遅行性(4-6W) SNRI(SSRI改良) 5HT+NA(再取込阻害) 副作用+遅行性(4-6W) NaSSA(TCA改良)5HT+NA(放出促進) 副作用+遅行性(改善) (5HT/NA受容体をターゲット) ⑥ 探索中 SP ケタミンなど NMDA-受容体刺激 (速行性を追求) (5HT受容体の下流をターゲット) ① 1960頃までは,「うつ」は「薬物療法」の対象とは考えられていなかった。 ②1956: イプロニアジド、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI),1958: イミプラミン(三環系) ③1970 1990: セロトニン合成,ドーパミン合成系が明らかにされ,5HTP,L-DOPA,BH4による治療が試みられた ④1972 1992: 三環系抗うつ薬の改良: SSRI,SNRI,NaSSA ⑤1996: BH4そのものはBBBを通らず,立ち消えとなる ⑥2011: セピアプテリン(SP)はBBBを通って神経細胞に入る 7 新技術: 補酵素BH4のプロドラッグ • 脳内「セロトニン合成の促進」に初めて成功した。 • 神経細胞に内在するモノアミン(セロトニン・ドーパミン・ノル アドレナリン)生合成系をバランスよく促進する…特定の モノアミン種の偏りによる副作用は考えられない。 • 現行抗うつ薬との併用効果が期待できる …現行抗うつ薬には同様の薬理効果が無い。 è 次頁 説明 8 セピアプテリン(SP)によるセロトニン合成促進 セロトニン合成を律する「BH4」 1) セロトニンは神経細胞内の → BH4レベルを上げれば,生合成が促進される 2) しかし,BH4レベルを上げる方法がなかった → 30年間の空白 3) BH4サルベージ経路合成系の前駆体 セピアプテリン(SP)の末梢投与で, 脳内セロトニン生合成促進に成功 ↓ 発明の経緯 2003: BH4サルベージ経路の天然基質セピアプテリン(SP)が 体内の各組織に能率よくゆきわたり,BH4になることを発見 2008: SPが細胞内へ非可逆的に取り込まれ,BH4を蓄積する機構を解明 2010: SPの末梢からの投与で脳内セロトニン増加 (特許) 2011: SPの細胞膜輸送体ENT2を発見,ENT2はほぼ全身に分布する 2011: SPの脳内移行 → 脳内BH4 動態確認 2013: DDS改良 (未発表) ↑ セロトニン(5HT)代謝マップは ドーパミン,ノルアドレナリンと 大部分が共通 生合成経路を補強 すべて natural 9 セピアプテリン(SP) 投与によるセロトニン代謝亢進 セロトニン代謝を亢進 ↘ a) 5HTP min mouse: NZB, n=6-7 5 4 3 ** ** 2 1 0 Control BH4 SP Dsp é セピアプテリン(SP: 10 mg/kg, i.p.) BH4(10 mg/kg), デシプラミン(Dsp: 40mg/kg) と比較 4 3 2 1 0 0 2 4 6 8 10 Time (hr) 6 6 4 2 0 0 2 4 6 8 10 Time (hr) c) 5HIAA 4 ** ** ** ** ** 2 0 0 セピアプテリン(SP)は脳関門を通過するBH4のプロドラッグ セロトニン合成-放出を促進する b) 5HT 5HT (nmol/g) Immobile time(min) 40 0 - 1 day 5HIAA (nmol/g) Swimming (15 min) SP/BH4/Dsp (ip) Swimming ( 5 min ) 5HTP (nmol/g) マウス強制水泳テスト↓(抗うつ効果) 2 4 6 Time (hr) 8 14 4 10 SPの単回投与SP (20mg/kg, ip)により, セロトニン代謝を 亢進した 10 従来技術に対する優位性 ü 類似化合物との競合の余地が著しく小さい (高い競争力: unique ) 1. 水酸化酵素の補酵素は厳密な同一性が必要 SPは補酵素BH4の内因性前駆体,SP以外のプロドラッグの自由度は限りなく小さい 2. 一番乗り をすれば...........他社の追随余地は限りなく小さい。 阻害剤,選択的受容体アゴニスト/アンタゴニストなどの薬剤は 類似物の自由度が高く,『創薬』競争では,常に me too drug が現れる G. Miller, Is pharma running out of brainy ideas?, Science, 2010, pp. 502-504. ü 内因性代謝物ゆえの高い安全性 (リスクが小さい: low risk ) 1. SPは外来化合物ではなく,紛れもなく内在性の補酵素BH4の前駆体であり, a) 補酵素活性以外の反応性がない b) 神経細胞本来のもつ酵素活性を強化して機能を改善する 2. PKU患者にビオプテン(Kuvan, 6RBH4内服薬,5-20mg/k/day)の生涯投与の実績 毒性の報告はない.......... 既知の安全性 ü 明快なコンセプト (高い開発効率: low cost ) 1. 「SPをプロドラッグとするBH4補充」は「モノアミンレベル引き上げ」に対応 神経細胞本来のもつ酵素群を活性化して セロトニン・ドーパミン生合成を促進する 2. モノアミンレベル低下に伴う うつ やパーキンソン病などの精神・神経疾患に共通の薬効 既存抗うつ薬とは薬効が重複しない; 併用して「良いとこどり」もできる 3. SP類似化合物探索の必要性が少なく,「DDSの改良」に開発努力を集中できる。 11 想定される用途 • パーキンソン病に伴う「うつ・不安障害」 • 抗うつ薬…「うつ」一般は,効果の検証(治験)が大掛りになりすぎる • 脳内モノアミン神経系の失調と関連する中 枢神経薬: むずむず脚症候群,周期性四肢運動障害,瀬川病 など,神経変性を伴わないドーパミン神経系失調症に対する適用 拡大が期待できる è 次頁 説明 12 パーキンソン病 における「うつ」の併発 主徴が「運動失調」のため精神失調は見過ごされている パ氏病に伴う「うつ」は 5HT神経系の失調による ドーパミン神経系とセロトニン神経系は相互依存 パ氏病 黒質 線状体 DA神経 DA神経 DA神経の進行性変性失調 随意運動失調 縫線核 NA神経 ⇄Ach神経 ⇄ 5HT神経 DA神経依存による失調 パ氏病 罹病率: 100-150人/10万人(日本) 「うつ」 「不安障害」 パ氏病の40-60% <<ほとんど対策が無い>> (欧米では150人∼200人) 「うつ」一般は,病因/病態が多様: 「モノアミン説」だけではカバーしきれない パ氏病による「うつ」の病因は「セロトニン神経系の失調」が明確 これによって,検証ターゲットの絞込が容易 13 実用化に向けた課題 • DDSの改良による 脳移行の効率化。 • GMP合成「製剤」によるGLP試験, 「製剤」による臨床研究。 『SP → BH4 → セロトニン』軸 は明瞭。 アカデミックにおける40年の蓄積 è 次頁 説明 14 セピアプテリンSP: 脳への移行の効率化 mouse (n=5): NZB x NBW (F1) 末梢投与による脳内移行 SP/BH4(10 mg/kg, p.o./i.p.) 脳摘出 BH4 定量 末梢投与されたSPの多くが尿中に排出される 100 2.0 60 40 1.0 20 0.0 0 p.o. i.p. BH4 p.o. i.p. SP BH4(p.o.)/(I.p.)/SP(p.o.)/(i.p.) 1 / 7 / 10 / 17 (ただし,BH4投与は中枢効果をほとんど示さない) 1 2 6 14 (hour) 脳内BH4の経時変化 SP 投与の実験例 (10mg i.p.) Brain BH4 (nmol/g) 80 0 0.5 BH4 fraction (%) BH4 increase ( AUC: nmol/g x hour) 3.0 2 1 blood carry over 1.2% 0 0 3 6 9 12 15 Time (hr) 剤形・徐放など ドラッグデリバーシステムDDS改良が必要 15 改善を要する問題 ドラッグ デリバリー システム(DDS)改良の目標 脳 末梢投与 5HT セロトニン 神経 ① SP 5HT BH4 肝臓・腎臓 でのBH4への転換 5HT Trp SP ➲ SP 輸送体 ➲ SP 5HT 5HTP BH4 5HIAA SP ② 尿 排出 ドラッグ・デリバリー システム(DDS)の 改良 ① 末梢組織に取り込まれることを抑制する ② 血中保持時間を延長する 16 企業への期待 • 製剤化に取り組む製薬企業との共同研究を希望。 • ドラッグデリバリーシステム(DDS)改良。 • 明瞭な薬効理論が,現行の「抗うつ薬」の作用機 作と異なるため,新しい中枢薬の展開に意欲的な 企業にとって、本技術には高い将来性がある。 17 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称:脳機能障害予防・改善用の薬剤及び飲食物 • 出願番号 :特許第5066756号 US 13/642639 EP 11771775.1 ※JST海外出願費用支援採択 • 特許権者 :日本大学・NUBIC • 発明者 :長谷川宏幸、相澤信 18 産学連携の経歴 ●1998-1999年 白鳥製薬(BH4-誘導体の生理活性) ● 2001-2002年 中外製薬(BH2の血管障害予防効果) ● 2003年 鳥居製薬(『ユリノーム』 BH4動態への影響) ● 2007-2008年 カネカ(BH0のBH4への生理的還元→特許) (SPの脳への移行) ● 2013年 某企業(類似化合物の生理活性) 19 お問い合わせ先 日本大学産官学連携知財センター(NUBIC) コーディネーター 渡辺 麻裕 TEL FAX e-mail 03−5275−8139 03−5275−8398 [email protected] 20
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