ニチアス技術時報 2012 No. 1 〈新製品紹介〉 耐熱性パーフロロエラストマー ® T/#2670-B「ゴム O リング ブレイザーネクスト 」 高機能製品事業本部 樹脂技術開発部 1.はじめに 2.BNX の特長 半導体製造プロセスで使用されるゴムシール材 BNX は,従来 BB の最大の特長である耐熱性を の要求特性は,耐熱性,耐ラジカル性,純粋性, 維持しつつ,純粋性,耐 F 2 ガス性,コストパフォー 非固着性,低価格などがあり,これら要求はデバ マンスを大幅に向上させた製品です。 イスの微細化が進むに伴い,非常に厳しくなって 2.1 います。 2.1.1 耐熱性 300 ℃圧縮永久歪み 当社パーフロロエラストマー(以下 FFKM)の 図 1 に,300 ℃における加熱時間と圧縮永久歪 製品としては,耐薬品用に「ゴム O リング パーフ みの関係を示します。圧縮永久歪みは,耐熱性の ロ PF」,耐プラズマ用に「ゴム O リング パーフロ 指標としてよく用いられ,一般的に 80%が寿命限 PFW」,耐熱用に「ゴム O リング ブレイザー獏ブ 界と言われています。他社の耐熱用 FFKM(他 ラック(以下 BB)」,耐フッ素系ガス用に「ゴム 社品 A,B,C)と比較した結果,高温下で圧縮 O リング ブレイザー獏 FR(以下 BFR)」があり 永久歪みが小さく,長期間安定したシール性が期 ますが,より高度な技術要求に対応した FFKM 待できます。 「 ゴ ム O リ ン グ ブ レ イ ザ ー ネ ク ス ト 獏( 以 下 〈試験条件〉温度 300 ℃,圧縮率 25%(300 ℃到達時)、試 BNX)」を新たに製品化したので紹介します(写 験体サイズ AS568-214(線径φ 3.53mm ×内径 24.99mm) 真 1)。 100 BB 80 圧縮永久歪み(%) 他社品A,B BNX 90 他社品A 70 他社品B 60 他社品C 他社品C BNX BB 50 40 30 20 10 10 100 1000 時間(hr) 写真 1 ゴム O リング ブレイザーネクスト *ブレイザーネクストはニチアス㈱の登録商標です。 図 1 300 ℃圧縮永久歪み試験結果 ─ ─ 17 10000 ニチアス技術時報 2012 No. 1 2.1.2 350 ℃加熱試験 200 ℃における BNX の耐 F2 ガス性は,BB や他 図 2 に,350 ℃加熱試験後の O リング外観結果 を示します。本試験は短期的な熱安定性を評価し たものであり 350 ℃での使用を薦めるものではあ 社品 D と比較し優れており,BFR や他社品 C と比 較して同等以上であることが分かります。 〈試験条件〉温度 200 ℃,圧力 400Torr, りませんが,BNX は 72 時間加熱後に溶融せず, 重量減少が少なく,耐熱性が優れていることがわ ガス F2 / N2 = 1 / 4,曝露時間 1.0hr(バッチ式) 2.3 アウトガス成分 図 4,5 に,昇温脱離ガス分析(TDS-MS)に かります。 よるアウトガス分析の結果を示します。BNX は 加熱前 24hr 72hr HF の発生が殆どなく,放出ガス総量についても 少ないです。 BNX 〈試験条件〉250 ℃× 30min,昇温速度 10 ℃/ min, 1mm 溶融 なし なし なし - 4 13 重量減少率(%) 真空度: 10 − 5Pa (注)TIC :トータルイオンクロマト,水換算した場合の 総アウトガス量 他社品A 4.0×10−6 溶融 なし なし なし - 14 35 重量減少率(%) 300 3.5×10−6 250 他社品B 溶融 なし 溶融 溶融 - - - 重量減少率(%) H2O 2.5×10−6 200 HF 2.0×10−6 150 TIC 1.5×10−6 Temp. 100 Temp.(℃) イオン強度(A) 3.0×10−6 −6 1.0×10 50 −7 5.0×10 他社品C 0.0×10−6 溶融 なし 若干溶融 溶融 - 6 - 重量減少率(%) 0 1000 2000 3000 時間(sec) 図 2 350 ℃加熱試験後の O リング外観 2.2 0 図 4 BNX アウトガス分析結果 耐 F2 ガス性 200 ℃で F2 ガス曝露試験を行い,曝露後の断面 の劣化具合から耐 F2 ガス性を評価した結果を図 3 4.0×10−6 に示します。フッ素系ガスは,半導体製造におけ るクリーニング工程などで多く用いられるため, 断 面 他社品A 他社品B 他社品C 他社品D 試 験 前 重量 0.10 変化 率 (%) 増加 200 HF 2.0×10−6 150 TIC −6 1.5×10 Temp. 100 1.0×10−6 試 験 後 溶融 H2O −6 2.5×10 50 5.0×10−7 若干溶融 なし −0.39 0.06 減少 増加 なし なし −0.17 −0.62 減少 なし 0.0×10−6 溶融 0.13 −1.10 増加 減少 0 0 1000 2000 時間(sec) 図 3 F2 ガス曝露試験結果(200 ℃) 図 5 他社品 A アウトガス分析結果 ─ ─ 18 3000 Temp.(℃) BFR イオン強度(A) BB 250 3.0×10−6 耐 F2 ガス性は重要な要求特性のひとつです。 BNX 300 3.5×10−6 ニチアス技術時報 2012 No. 1 2.4 非固着性 2.5 図 6 に固着試験方法の概要,図 7 に固着試験結 一般物性 表 1 に BNX の一般物性を示します。 果を示します。一般に,ゴム材料は金属などと 表 1 一般物性 固着しやすく,摺動部の正常動作阻害,メンテ BNX ナンス不具合等の問題が生じる場合があります。 この問題は FFKM においても同様に生じ,特に 色調 FFKM は,高真空,高温にさらされる機会が多 硬さ(Duro A) いため,固着問題は顕著です。そのため,非固着 引張強さ(MPa) 性は重要な要求特性と言えます。 伸び(%) 100 %伸び時引張強さ(MPa) 図 7 より,BNX は被着体によらず従来の FFKM と比較して固着力が小さく,上記問題を 黒 76 11.1 138 8.3 上記データは測定値であり,規格値ではありません。 低減できると考えられます。 〈試験条件〉温度 200 ℃/ 250 ℃,時間 22hr,圧縮率 25%, 被着体: SUS316L /石英, 3.用 途 BNX は半導体製造装置用シール材として,特 試験体 AS568-214(線径φ 3.53mm ×内径 24.99mm) ,加熱後室温まで冷却して引張試験 に高温環境下で使用することで,シール性能の長 実施 寿命化が期待できます。また,石油化学,自動車, 航空宇宙などの各種産業分野における高温環境下 被着体 のシールにも適しています。 4.形状・寸法 O リングは,JIS B2401,AS568 規格の各寸法 を取り揃えています。その他の寸法・形状につい てはご相談ください。 5.おわりに Oリング 今回紹介した新製品 T/#2670-B「ゴム O リング ブレイザーネクスト 獏」は半導体産業をはじめ, 引張り速度:10mm/min 各種産業分野の高温用途で活用可能な製品です。 図 6 固着試験方法 今後とも,ユーザー各位のニーズに対応した製 固着力 (N) 品・改良を続けていく所存です。ユーザー各位の 300 200℃ SUS316L (Ry1.6) 250 250℃石英 -SUS (SK1300, ファイアポリッシュ) ご意見・ご要望をお聞かせください。 本製品に関するご質問・お問い合わせは,高機 能製品事業本部 樹脂技術開発部(TEL : 03 − 200 3433 − 7204)までお願いいたします。 150 100 50 0 BNX BB 他社品A 他社品B 他社品C 図 7 固着試験結果 ─ ─ 19
© Copyright 2024 ExpyDoc