1 準備:数学的帰納法 演習 1.1 等式 13 + 23 + · · · + n3 = n2 (n + 1)2 4 を自然数 n に関する帰納法を用いて証明せよ. 定理 1.2 (数学的帰納法1)自然数 n に関する命題 P (n) が以下の性質を持つとする. 1. P (1) は正しい. 2. 任意の k > 1 に対して「P (k) が正しければ P (k) も正しい」が成り立つ. このとき, 任意の自然数 n に対して P (n) は正しい. 演習 1.3 正の実数列 {an } は (a1 + a2 + · · · + an )2 = a31 + a32 + · · · + a3n をみたすとする. このとき an = n (n ∈ N) (n ∈ N) であることを n に関する帰納法で示せ. 命題 P (n):an = n が正しいことを n に関する帰納法で示す. a21 = a31 より a21 (a1 − 1) = 0. 仮定 a1 > 0 から a1 = 0 である. 従って P (1) は正しい. k > 1 とする. 任意の i < k に対して P (i) が正しいとする. (帰納法の仮定) すなわち a1 = 1, · · · , ak−1 = k −1 とする. 等式 (a1 + a2 + · · · + ak )2 = a31 + a32 + · · · + a3k と帰納法の仮定より (1 + 2 + · · · + (k − 1) + ak )2 = 2 2 13 + 23 + · · · + (k − 1)3 + a3k . これより ( k(k−1) + ak )2 = k (k−1) + a3k から a2k + k(k − 1)ak = a3k , 2 4 ak (a2k − ak − k(k − 1)) = 0, ak (ak − k)(ak + (k − 1)) = 0 を順次得る. ak > 0 より ak = k. よって P (k) は 正しい. 以上よりすべての自然数 n に対して P (n) が正しいことが示された. 定理 1.4 (数学的帰納法2「人生帰納法」)自然数 n に関する命題 P (n) が以下の性質を持つとする. 1. P (1) は正しい. 2. すべての i < k に対して P (i) が正しければ P (k + 1) も正しい. このとき, 任意の自然数 n に対して P (n) は正しい. 2 環・整域・体(復習) 定義 2.1 R を環とする. 1. c ∈ R が R の可逆元とは, cc′ = c′ c = 1 なる c′ ∈ R が存在することをいう. 2. v ∈ R が R の零因子とは, uv = 0 または vu = 0 なる u ∈ R, u ̸= 0 が存在することをいう. 1 注意 2.2 1. 1 は可逆元, 0 は零因子である. 2. 零因子かつ可逆元であるような元はない. 3. x が R の可逆元 ⇔ (x) = R 演習 2.3 Z の零因子と可逆元 Q[X] の零因子と可逆元 2 次実行列のなす環 M2 (R) の零因子と可逆元 定義 2.4 1. 可換環 R が整域であるとは, R に 0 以外の零因子が存在しないことをいう. 2. 可換環 R が体であるとは, 0 以外の任意の R の元が可逆元であることをいう. 3 整数剰余類 演習 3.1 a ∈ Z に対して, 集合 a + 5Z = {a + 5x | x ∈ Z} を 5 を法とする a の剰余類と呼ぶ. 5 を法とする剰余類の集 合 Z5 を考える. 簡単のために a + 5Z を a と表すことにすると, Z5 = {0, 1, 2, 3, 4} である. Z5 に以下のように和と積を 定義する. a+b=c⇔a+b=c a ̄b = d ⇔ ab = d すると Z5 はこれらの演算に関して環をなす. 以下の問いに答えよ. 1. 7 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれに属するか. 2. 3 + 4 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれと等しいか. 3. 12 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれに属するか. 4. 3 ̄4 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれと等しいか. 5. Z5 の和と積に関する演算表をそれぞれ作れ. 6. Z5 は体か. 演習 3.2 同様に 6 を法とする剰余類の集合 Z6 も環である. Z6 の演算表を作り, 可逆元と零因子を答えよ. 定理 3.3 自然数 n に対し Z/nZ において, mが可逆元 ⇔ gcd(m, n) = 1 mが零因子 ⇔ gcd(m, n) ̸= 1 系 3.4 自然数 n に対し Z/nZ について, Z/nZ がが体 ⇔ gcd(m, n) = 1 Z/nZ がが非整域 ⇔ gcd(m, n) ̸= 1 2 有理整数環の素因数分解 4 4.1 素因数分解の存在 定義 4.1 正の整数 p ̸= 1 が素数であるとは, p の約数が ±p, ±1 のみであることをいう. 注意 4.2 整数 n > 1 が素数でなければ, n = n1 n2 なる整数 1 < n1 , n2 < n が存在する. 演習 4.3 2 以上の整数 n に対し, 以下を n に関する帰納法で示せ. n = pa1 1 · · · par l なる素数 p1 , · · · , pl および自然数 a1 , · · · , al が存在する. (証明:人生帰納法による)命題 P (n):n = pa1 1 · · · pamm なる素数 p1 , · · · , pm および自然数 a1 , · · · , am が存在す る.」が正しいことを n に関する帰納法で示す. n = 2 の場合は m = 1, p1 = 2, e1 = 1 とすればよい. n > 2 とする. n が素数の場合は m = 1, p1 = n, e1 = 1 とすればよい.n が素数でないとすると, n = n1 n2 なる 整数 1 < n1 , n2 < n が存在する. 帰納法の仮定により P (n1 ) および P (n2 ) は正しい. すなわち n1 = q1a1 · · · qkak , n2 = r1 b1 · · · rlbl なる素数 p1 , · · · , pk , q1 , · · · , ql および自然数 a1 , · · · , ak , b1 , · · · , bl が存在する. これより n = pa1 1 · · · pakk q1b1 · · · qlbl が得られる. 定理 4.4 (素因数分解) 2 以上の整数 n に対し, n = pa1 1 · · · pamm なる素数 p1 , · · · , pm および自然数 a1 , · · · , am が存在す る. また, 素数 p1 , · · · , pm および自然数 a1 , · · · , am は,n によって(並べ替えを除いて)一意的に決まる. 証明:素因数分解の存在は既に演習 4.3 で示した. bm と 2 通りに素因数分解されたとすると, k = m であり, 適当 (一意性の証明)命題 P (n):「n = pa1 1 · · · pakk = q1b1 · · · qm (i = 1, · · · , k) である」が正しいことを n に関する帰納法で示す. P (2) は明らかに正し は p1 の倍数である. ここで 素数の重要な特徴づけ(定理 4.5)を用いれば, q1 , · · · , qm い. n > 2 とする. n = のいずれか, p1 の倍数ということがわかる. q1 が p1 の倍数だとすると, q1 は素数ゆえ, q1 = p1 である. n′ = pn1 とすると に並べ替えれば pi = qi , ai = bi q1b1 bm · · · qm bm n′ = pa1 1 −1 · · · pakk = q1b1 −1 · · · qm である. n′ < n より帰納法の仮定から P (n′ ) は正しい. 従って k = m であり, 適当に並 べ替えれば pi = qi (i = 1, · · · , k), a1 −1 = b1 −1, aj = bj (i = 2, · · · , k) である. 従って pi = qi , ai = bi (i = 1, · · · , k) である. 定理 4.5 (素数の特徴)p を素数とする. 整数 x, y に対して積 xy が p の倍数であれば, x, y の少なくとも一方は p の倍 数である. 良く知られている素数の性質であるが,成り立つメカニズムを理解することは実は,一般の可換環のイデアルに関す る深い理論を学ぶことに通じる. 4.2 除法の原理 定義 4.6 リニア・スパン a1 , · · · , an ∈ Z に対し,Z の部分集合 (a1 , · · · , an ) = {x1 a1 + · · · + xn an | x1 , · · · , xn ∈ Z} を a1 , · · · , an の Z のリニア・スパンと呼ぶ. 3 演習 4.7 整数 α, β, a, b について α, β ∈ (a, b) ならば (α, β) ⊂ (a, b) を示せ. 演習 4.8 1. 4, 6, 14, 9 は (4, 6) の元か? 2. 6, 14, 9 は (3) の元か? 注意 4.9 (n) は n の倍数の集合 nZ と等しい. 注意 4.10 (4, 6) = (2) (証明せよ.) 定義 4.11 1. n は m の約数 ⇔n | m ⇔ m ∈ nZ ⇔ m は n の倍数 2. m が a, b の公倍数とは, m ∈ aZ かつ m ∈ bZ であることをいう. 3. a, b の公倍数のうち最小の正の整数を a, b の最小公倍数という. µ が a, b の最小公倍数のとき µ = lcm(a, b) と書く. 4. d が a, b の公約数とは, d | a かつ d | b であることをいう. 5. a, b の公約数のうち最大の正の整数を a, b の最大公約数という. δ が a, b の最大公約数のとき δ = gcd(a, b) と書く. 疑問 4.12 a, b ∈ Z に対し (a, b) = (δ) が成り立つか?但し δ は a, b の最大公約数である. 演習 4.13 1. 450, 84 を素因数分解せよ. 2. gcd(450, 84) はいくらか. 3. 次の表を埋めよ. 450 ÷ 84 = q1 · · · r1 84 ÷ r1 = q2 · · · r2 r1 ÷ r2 = q3 · · · r3 r2 ÷ r3 = q4 · · · r4 (解)450 = 2 × 32 × 52 , 84 = 22 × 3 × 7 より gcd(450, 84) = 2 × 3 = 6. 450 ÷ 84 = 5 · · · 30 84 ÷ 30 = 2 · · · 24 30 ÷ 24 = 1 · · · 6 24 ÷ 6 = 4 · · · 0 演習 4.133. はユークリッドの互除法と呼ばれている. 疑問 4.14 1. ユークリッドの互除法でなぜ最大公約数が求まるのか? 2. ユークリッドの互除法はいつでも使えるのか?(必ず rn = 0 なる n があるのか?) 3. ユークリッドの互除法は,疑問 4.12 を解く鍵になるのか? 4 演習 4.15 a = bq + c をみたすとき, 以下を示せ. 1. a, b の公約数 =b, c の公約数 2. a, b の最大公約数 =b, c の最大公約数 3. (a, b) ⊂ (b, c). (ヒント:演習 4.7) 4. (a, b) = (b, c). 演習 4.16 整数 a, b, r1 , r2 , q1 , q2 , q3 が a = q1 b + r1 , b = q2 r1 + r2 , r1 = q3 r2 をみたすとき, 以下を示せ. 1. r2 は a, b の最大公約数である. 2. (a, b) = (r2 ). 残る問題は, ユークリッドの互除法がいつでも使えるか(必ず rn = 0 なる n があるのか?) である. 以下を示せば良い ことが判る. 系 4.17 自然数 a > b に対し, 非負整数の有限列 a > b > r1 > · · · ri > ri+1 > · · · > rn = 0 で a = q1 b + r1 , b = q2 r1 + r2 , ri−1 = qi+1 ri + ri+1  ̄ (i = 2, 3, · · · , n − 1) をみたすものがある. これを示すには,以下の定理を用いる. 定理 4.18 (除法の原理) 非負整数 x, y に対し,y ̸= 0 ならば, 0≤r<y x = qy + r, をみたす整数 q, r が存在する. 演習 4.19 除法の原理(定理 ̄ 4.18) を x − y に関する帰納法で証明せよ. (ヒント:命題 P (n) : x − y = n のとき, x = qy + r, 0 ≤ r < y をみたす整数 q, r が存在する.  ̄が正しいことを示そう. ) 演習 4.20 自然数 a, b の 0 でない公倍数のうち, 絶対値が最小のものを µ とおく. m が a.b の公倍数であれば, m ∈ (µ) であることを除法の原理を用いて示せ. 演習 4.21 除法の原理を用いて, 系 ̄ 4.17 を示せ. 系 ̄ 4.17 を用いると, 次が判る. 証明してみよう. 定理 4.22 a, b ∈ Z に対し (a, b) = (δ) が成り立つ. 但し δ は a, b の最大公約数である. 演習 4.23 自然数 a, b の最大公約数を δ とおく. d が a.b の公約数であれば, d | δ であることを定理 4.22 を用いて示せ. (再掲)定理 4.5 (素数の特徴)p を素数とする. 整数 x, y に対して積 xy が p の倍数であれば, x, y の少なくとも一方は p の倍数である. (証明のヒント)xy ∈ pZ, x ̸∈ Z とする. このとき (x, p) はどのようなものか? 5 多項式環 5 5.1 多項式環 Q[X] Q の直積集合の元 (ai )i∈N0 で、ai = 0 i >> 0 をみたすものを Q 上の一変数多項式と呼ぶ. 多項式どうしの和と積を 以下のように定義する. (ai ) + (bi ) = (ci ), ci = ai + bi , (ai )(bi ) = (di ), di = Σj+k=i aj bk 演習 5.1 Q 上の一変数多項式 f = (ai ), g = (bi ), h = (ci ) に対して以下を示せ. 1. (f + g) + h = f + (g + h) 2. (f g)h = f (gh) 演習 5.2 1. 任意の Q 上の一変数多項式 (ai ) に対して (ai ) + (zi ) = (ai ) となるような Q 上の一変数多項式 (zi ) は 何か. 2. 任意の Q 上の一変数多項式 (ai ) に対して (ai )(ei ) = (ai ) となるような Q 上の一変数多項式 (ei ) は何か. 定義 5.3 Q 上の一変数多項式 f = (ai ) に対して, an ̸= 0 なる最大の n を f の次数と呼び, degf で表す. 但し deg  ̄ 0 = −∞ とする. 演習 5.4 Q 上の一変数多項式 f, g に対して, 以下を示せ. 1. deg ̄ (f g) = deg ̄ f + deg ̄ g. 2. f ̸= 0, g ̸= 0 ⇒ f g ̸= 0. (ヒント:前問を用いよ. ) Q 上の一変数多項式 (ai )i∈N0 は, ”形式的な和”で一次結合として表すと便利である. ai = 0 するので (ai )i∈N0 = an X n + an−1 X n−1 + · · · + a1 X + a0 i > n なる n ∈ N0 が存在 an X n + an−1 X n−1 + · · · + a1 X + a0 = 0X n+1 + an X n + an−1 X n−1 + · · · + a1 X + a0 であることに注意. 定理 5.5 Q 上の一変数多項式の集合 Q[X] = {an X n + an−1 X n−1 + · · · + a1 X + a0 | n ∈ N0 , ai ∈ Q} は, 上記の演算に関して環をなす. これを Q 上の一変数多項式環と呼ぶ. 演習 5.6 f, g, h ∈ Q[X], α ∈ C に対して以下を示せ. 1. (f + g)(α) = f (α) + g(α) 2. (f g)(α) = f (α)g(α) 6 ”形式的な和 ”なので, 結合法則や代入の法則も「当たり前」ではないが, 一次結合による表示方法が多項式の演算を普 通の数のように扱うことを可能にすることが判るだろう. α ∈ Q を 0 次多項式とみなすと単射 Q → Q[X] が得られるので, Q ⊂ Q[X] と考えてよい. 定理 5.7 (除法の原理)f, g ∈ Q[X], g ̸= 0 に対して f = qg + r, deg ̄ r < deg ̄ g なる q, rQ[X] が存在する. 演習 5.8 定理 5.7 を証明せよ. (ヒント:degf − degg に関する帰納法を用い, 定理 4.18 の証明に倣えばよい. ) 整数の素因数分解(定理 4.4)が除法の原理(定理 4.18)であったことを考えると, 一変数多項式の素因数分解も存在 性と一意性が示せそうである. しかしまず, 「素数」に相当する多項式とは何だろうか. 定義 5.9 (リニア・スパン) f1 , · · · , fn ∈ Q[X] に対し,Q[X] の部分集合 (f1 , · · · , fn ) = {g1 f1 + · · · + gn fn | g1 , · · · , gn ∈ Q[X]} を f1 , · · · , fn の Q[X] のリニア・スパンと呼ぶ. [試行錯誤]p ∈ Z が素数であるための必要十分条件は p ∈ (x) ⇒ x = ±1, ±p なので, とりあえずこの性質を もつ多項式を考えよう. すなわち, f ∈ Q[X] が f ∈ (g) ⇒ g = ±1, ±f をみたすものを仮素数と名づけよう. ところが少し考えてみると,この定義はまずいことが判る.(3) = Q[X] に注意すると, f ∈ Q[X] は, f ̸= ±3 なら f ∈ (3) しかし 3 ̸= ±1, ±f なので仮素数でない. 3 ∈ (5), 5 ̸= ±1, ±3 なので 3 も仮素数ではない. 1 ̸= p ∈ Z が素数であるための必要十分条件は (p) ⊂ (x) ⇒ (p) = (x) または (p) = (1) なので, この性質の多項式を考 えよう. 定義 5.10 (既約多項式)(f ) ̸= (1) なる f ∈ Q[X] が Q 上既約であるとは, (f ) ⊂ (g) ⇒ (g) = (f ) または (g) = (1) が成り立つことをいう. 補題 5.11 f ∈ Q[X] について以下は同値である. 1. f は Q 上既約である. 2. degf > 0 かつ f = gh なる g, h ∈ Q[X] があれば, g, h の少なくとも一方は Q の非零元である. 証明は、本質的に以下の観察から得られる. 補題 5.12 c ∈ Q[X] について以下は同値である. 1. (c) = (1). 2. c は Q[X] の可逆元である. すなわち cd = 1 なる d ∈ Q[X] が存在する. 7 3. c は Q の非零元である. 演習 5.13 次の多項式は, Q 上既約であるか? 1. X + 1 2. 2X + 2 3. aX + b, ただし a, b ∈ Q, a ̸= 0 4. X 2 − 1 5. X 2 − 2 6. X 2 + 1 Q に限らず,体 K に対して一変数多項式環 K[X] を議論できる. この節におけるこれまでの定義や定理は, (演習 5.6 のみ変形が必要だが)すべて Q を体 K に置き換えることができる. 演習 5.14 1. X 2 − 2 は, R 上既約であるか? 2. X 2 + 1 は, R 上既約であるか? 3. X 2 + 1 は, C 上既約であるか? 定理 5.15 (Q[X] における素因数分解) f ∈ Q[X] に対し, p1 , · · · , pn ∈ Q[X] (Q 上既約多項式) が存在して, f = p1 · · · pn となる. 既約元 q1 , · · · , qm ∈ Q[X] が p1 · · · pn = q1 · · · qm をみたせば, n = m かつ, 適切に並べ替えれば, 各 i = 1, · · · , n に対して ci pi = qi なる 0 ̸= ci ∈ Q が存在する. 演習 5.16 f ∈ R[X] について以下の問いに答えよ. 1. deg ̄ f = 2 のとき, f は既約でなければ, R 内に根を持つことを示せ. 2. deg ̄ f = 3 のとき, f は既約でなければ, R 内に根を持つことを示せ. 3. 虚数 α が f の根であれば, 共役複素数 α も f の根であることを示せ. 8 5.2 多項式環 Z[X] 補題 5.17 p ∈ Z は素数とする. f, g ∈ Z[X] について f g ∈ (p) なら f ∈ (p) または g ∈ (p) である. (証明のヒント)f = an X n + · · · + a0 , g = bm X m + · · · + b0 とおく. もし f, g ̸= (p) なら ai ̸= (p) なる i の うち最小のものを ν, bj ̸= (p) なる j のうち最小のものを µ とおき, f g の第 ν + µ 次係数を考察せよ. 定義 5.18 (原始多項式) Z[X] の元 f = an X n + · · · + a1 X + a0 が原始多項式とは, gcd(a0 , a1 , · · · , an ) = 1 であること をいう. Z[X] の既約元は, 必ず原始多項式であることに注意. (逆はもちろん成り立たない. ) 補題 5.19 f, g ∈ Z[X], g は原始多項式とする. f = gh なる h ∈ Q[X] が存在すれば, h ∈ Z[X] である. (証明)αh ∈ Z[X] なる整数 α をなるべく小さく取る. αh の係数の最大公約数 β によって h1 = α βf は原始 多項式になる.gcd(α, β) = 1 に注意. αf = αhg = βh1 g. もし α が素因子 p をもてば, βh1 g ∈ (p) ゆえ補題 5.17 より β, h1 , g のいずれかは (p) に属する. これは矛盾だから α = ±1 である. 系 5.20 f ∈ Z[X] が Z 上既約なら, f は Q 上既約である. 定理 5.21 (Z[X] における素因数分解) f ∈ Z[X] に対し, Z[X] の既約元(=素数,既約な原始多項式) p1 , · · · , pn ∈ Z[X] (Z 上既約多項式) が存在して, f = p1 · · · pn となる. 既約元 q1 , · · · , qm ∈ Z[X] が p1 · · · pn = q1 · · · qm をみたせば, n = m かつ, 適切に並べ替えれば, 各 i = 1, · · · , n に対して ci pi = qi なる Z[X] の可逆元 ci が存在する. (証明)(存在性) Q[X] では素因数分解が可能なので, f = φ1 · · · φn なる Q[X] の既約元 φ1 , · · · , φn が存在する. 適当 な αi ∈ Q と原始多項式 fi ∈ Z に対して φi = αi fi となる. 系??より fi は Z[X] の既約元である. α = α1 · · · αn とおく と, αf1 · · · fn ∈ Z[X] に補題 5.19 を適用して, αf1 · · · fn−1 ∈ Z[X] を得る. 帰納的に α ∈ Z が得られる. Z では素因数分 解が可能なので, α = p1 · · · pm なる素数 p1 , · · · , pm が存在する. 補題 5.17 により, pi は Z[X] の既約元である. したがっ て f = p1 · · · pm f1 · · · pn が f の Z[X] における既約元分解である. (一意性)素数 p1 , · · · , pm , q1 · · · , qr と Z 上既約な原始多項式 f1 , · · · , fn , g1 , · · · , gs が p1 · · · pm f1 · · · fn = q1 · · · qr g1 · · · gs をみたすとする. 系??より f1 , · · · , fn , g1 , · · · , gs は Q[X] の既約元である. Q[X] における既約元分解の一意性より, n = s かつ並べ替えて fi = ci gi なる ci ∈ Q − {0} が存在する. 補題 5.19 より ci ∈ Z であり, fi は原始多項式ゆえ, ci は ±1 (1 ≥ i ≥ n) とすると, p1 · · · pm = q1 · · · qr . しかし Z における既約元分解の一意性より, m = r, 並べ替えて pj = ±qj を得る. (証明終) である. 簡単のため fi = gi 演習 5.22 次の多項式は既約か. 1. X 3 − X + 2 ∈ Z3 [X] (ヒント:可約だとすれば?) 2. X 3 − X + 2 ∈ Z5 [X] 3. X 3 − X + 2 ∈ Z[X] (ヒント: (1), (2) との関連を考えてみよう. ) 9 4. X 3 − X + 2 ∈ Q[X] f (0) = 2, f (1) = 2, f (2) = 8, f (3) = 20, f (4) = 46, f (5) = 122. 演習 5.23 次の多項式は Q 上で既約か. 1. X 4 + 2 2. X 4 − 2 3. X 4 + 4 4. X 4 − X + 1 1),2): (Eisenstein より既約.)整数根はないので, 可約とすれば X 4 ± 2 = (X 2 + aX + b)(X 2 + cX + d). a + c = 0, b + d + ac = 0, ad + bc = 0, bd = ±2. 第 1、3 式より a(d − b) = 0d = b かつ bd = ±2 なる整数は ないので a = c = 0, b = −d しかしこの条件で bd = ±2 になる整数はない. 3)(X 2 − 2X − 2)(X 2 + 2X + 2). 4) 整数根はないので, 可約とすれば (X 2 + aX + b)(X 2 + cX + d). a + c = 0, ac + b + d = 0, bc + ad = −1, bd = 1. 第 4 式より b = d = ±1, 第 2 式に代入して a + c = ∓1, いっぽう a = −c より, これらをみたす整数 a,c はない. 6 一般の環の既約元分解 素数に対応する Q[X] の既約元の定義を思い出して, 一般の環の既約元を定義しよう. 可換環 R の 0 でも可逆でもない 元 x について, 次の性質を考える. (性質 A) (x) ⊂ (y) なら (y) = (x) または (y) = (1). (性質 B) x = yz なら y または z は R の可逆元. (性質 C) yz ∈ (x) なら y ∈ (x) または z ∈ (x). Q[X] においては, これらは同値な性質であった. 演習 6.1 Z6 において, 性質 A, 性質 B, 性質 C を持つ元をそれぞれ答えよ. (解説)可逆元は, 1, 5, 零因子は 0, 2, 3, 4. Z6 の単項イデアルは, (0) ⊂ (3), (2) ⊂ (1) なので, 性質 A を持つ元は, 2, 4, 3. しかし 2 = 4 × 2, 4 = 2 × 2, 3 = 3 × 3 より性質 B を持つ元は存在しない. 性質 C を持つ元は, 2, 4, 3. 補題 6.2 1. 性質 B ⇒ 性質 A. 2. R が整域なら, 性質 A ⇒ 性質 B. 3. R が整域なら, 性質 B ⇒ 性質 C. 定義 6.3 1. 可換環 R の零でも可逆元でもない元 x が性質 B を持つとき, x は既約元であるという. 10 2. 零でも可逆元でもない元 y が性質 C をもつとき, y は素元であるという. 演習 9.13 でみたように, 非整域の元を既約元に分解しようとするのは望みが薄い. 定義 6.4 可換な整域 R が一意分解整域 (UFD:Unique Factorization Domain) であるとは, 零でも可逆元でもない 元 x ∈ R に対し, x = p1 · · · pn なる既約元 p1 · · · pn が存在して,これらの既約元は, 並べ替えと可逆元倍を除いて一意的であることをいう. 補題 6.5 1. R が整域のとき, 素元は既約元である. 2. R が UFD のとき, 既約元は素元である. (証明)(1) 既に示した. (2)x ∈ R が既約元とする.xw = yz なら,両辺の既約元分解 xw1 · · · wr = y1 · · · ys z1 · · · zt を 比較して, 適当な可逆元 c により y1 = cx として一般性を失わない. このとき y ∈ (z) である.R が一意分解整域なら, 性 質 C ⇒ 性質 B. 既にみたように, Z, 体 K 上の多項式環 K[X], Q[X], Z[X] は UFD である. 定理 5.21 の内容は, 本質的には以下を述べている. 定理 6.6 R が UFD なら R[X] も UFD である. 証明には整域の「商体」上の多項式環を用いる. 定義 6.7 整域 R に対して, 以下の集合 Q(R) を考える. Q(R) = { 但し a s = a′ s′ a | s ∈ R − {0}} s ⇔ as′ = a′ s と定義する. Q(R) に以下のように演算を定義する. a b at + bs + = , s t st すると Q(R) は R を含む最小の体となる. R → Q(R) を a 7→ a 1 ab ab = st st で定義すると,単射かつ準同型(演算を保つ)ので, R は Q(R) の部分環であり, R を含む最小の体が Q(R) である. Q(R) を R の商体と呼ぶ. 演習 6.8 Z の商体は何か. (定理 6.6 の証明の方針) ポイントは, 以下の 2 点である. 1. R の商体 Q(R) 上の多項式環 Q(R)[X] は UFD である. (体上の多項式環 UFD だから) 2. R は UFD である. (仮定より) 5.17- 5.21 の主張および証明において, Z を R, Q を Q(R) に置き換える. たとえば系??は,以下のように書き換えられる. 系 6.9 R は UFD, Q(R) を R の商体とする. f ∈ R[X] が R 上既約なら, Q(R) 上既約である. 一般には環が UFD かどうかの判定は難しい. 11 √ √ √ √ 演習 6.10 環 Z[ −5] = {a + b −5 | a, b ∈ Z} から環 Z への写像 ν : Z[ −5] → Z を ν(a + b −5) = a2 + 5b2 と定義 する. √ 1. x, y ∈ Z[ −5] に対して, ν(xy) = ν(x)ν(y) が成り立つことを示せ. 2. 写像 ν は全射ではないことを示せ. √ 3. x ∈ Z[ −5] が可逆元 ⇔ ν(x) =?. 4. ν(2), ν(1 + √ −5) を計算せよ. √ 5. 2 は Z[ −5] の既約元であることを示せ. 6. (1 + √ √ √ √ −5)(1 − −5) ∈ ⟨2⟩ かつ 1 + −5, 1 + −5 ̸∈ ⟨2⟩ であることを示せ. √ 7. 前問の結果から環 Z[ −5] について何がわかるか. √ −5 (略解) (2) 2, 3 ̸∈ Imν (3) x−1 = a−b a2 +5b2 より ν(x) = 1 が x が可逆元であるための必要十分条件 (4) ν(2) = 4, √ ν(1 + −5) = 6 (5) xy = 2 なら ν(x)ν(y) = 4. 2 ̸∈ Imν より,これをみたすのは ν(x) = 1ν(y) = 4, ν(x) = 4ν(y) = 2 √ √ √ 6 のみ. (6)(1 + −5)(1 − −5) = 6.もし 1 + −5 = 2x なら ν(x) = ν(2) = 64 これをみたす x はない. (7) non-UFD. 7 単項イデアル整域 定義 7.1 (イデアル) 可換環 R の部分集合 I は,次の 2 条件をみたすとき R のイデアルと呼ばれる. 1. x, y ∈ I ⇒ x + y ∈ I. 2. x ∈ I, a ∈ R ⇒ ax ∈ I. 定義 7.2 1. a ∈ R に対し a の倍数の集合 aR = (a) = {ax | x ∈ R} は R のイデアルである. この形のイデアルを単項イデアルと呼ぶ. 2. a1 , · · · , an ∈ R に対し,R の部分集合 (a1 , · · · , an ) = {x1 a1 + · · · + xn an | x1 , · · · , xn ∈ R} は R のイデアルである. これを a1 , · · · , an で生成された R のイデアルと呼ぶ. 3. R の部分集合 S に対して (S) = {x1 a1 + · · · + xn an | n ∈ N, a1 , · · · , an ∈ S, x1 , · · · , xn ∈ R} は S を含む最小の R のイデアルである. これを S で生成された R のイデアル(または S の R 上のリニア・スパ ン) と呼び, S を (S) の生成系と呼ぶ. S が有限集合のとき (S) は R 上有限生成イデアル, S が無限集合のとき (S) は R 上無限生成イデアルと呼ぶ. 12 注意 7.3 R のイデアル I に対して I = (I) なので, イデアル=リニア・スパンである. 与えられたイデアルに対して, 扱 いやすい生成系を見つけることが重要である. 演習 7.4 イデアルか?簡明な生成系は? 1. {f (X) ∈ Q[X] | f (−2) = 0} ⊂ Q[X]. 2. {f (X) ∈ Q[X] | f (−2) = 1} ⊂ Q[X]. 3. {f (X, Y ) ∈ Q[X, Y ] | f (0, 0) = 0} ⊂ Q[X, Y ]. 4. {2x + 1 | x ∈ Z} ⊂ Z. 5. {(x, y) ∈ R2 | 2x − 3y = 0} ⊂ R2 . 定義 7.5 1. 可換環 R のイデアル I ̸= R が素イデアル とは x, y ̸∈ I ⇒ xy ̸∈ I が成り立つことをいう. 2. 可換環 R のイデアル I ̸= R が極大イデアル とは I を真に含む R のイデアルが R に限ることをいう. 演習 7.6 素イデアルか?極大イデアルか? 1. (7) ∈ Z 2. (8) ∈ Z 3. (X) ⊂ Q[X]. 4. (X 3 ) ⊂ Q[X]. 5. (X) ⊂ Q[X, Y ]. 6. (X, Y ) ⊂ Q[X, Y ]. 7. {f ∈ Q[X] | f (3) = 0} 8. (X 2 + 1) ⊂ Q[X]. 9. (X 2 + 1) ⊂ Z[X]. (8) X 2 + 1 は UFDQ[X] の既約元ゆえ,素元であり,したがって (X 2 + 1) は素イデアル. f ̸∈ (X 2 + 1) に 対して J = (X 2 + 1, f ) = (1) を示す. 除法の原理より f = (X 2 + 1)q + r なる q, r ∈ Z[X], 0 ≥ degr < 2 がある. J = (X 2 + 1, f ) = (X 2 + 1, r) である. r が 0 次式なら, J = (r) = (1) である. r が 1 次式なら, J = (X 2 + 1, X + a) なる a ∈ Q がある. X 2 + 1 − (X − a)(X + a) ∈ J ゆえ, 1 − a2 ̸= 0 なら J = (1). a = ±1 のときは (X − 1)(X + 1) ∈ J より (X 2 + 1) − (X 2 − 1) = 2 ∈ J だから J = (2) = (1). (9) 同様に (X 2 + 1) は Z[X] の素イデアルだが, 極大ではない. たとえば 2 ̸∈ (X 2 + 1) かつ (2, X 2 + 1) ̸= (1) である. 2(an X n + · · · + a0 ) + (X 2 + 1)(bm X m + · · · b0 ) = 1 なら左辺の i 次係数は 2ai + bi + bi−2 . 0 次か ら帰納的に偶数次係数をみて, b2j が奇数であると判る. 同様に b2j−1 が偶数と判る. 従って上式は, 適当な f, g, h ∈ Z[X], g ̸∈ (2) に対して 2f (X) + (X 2 + 1)(g(X 2 ) + 2Xh(X 2 )) = 1 が成り立つことを意味する. す 13 ると −(X 2 + 1)g(X 2 ) + 1 ∈ (2) だが, g ̸∈ (2) より −(X 2 + 1)g(X 2 ) + 1 = 0 である. しかし X 2 + 1 は Z[X] の非可逆元である. 補題 7.7 極大イデアルは素イデアルである. 演習 7.8 I ⊂ R が極大イデアルとする. xy ∈ I, y ̸∈ I のとき次の問いに答えよ. 1. (I ∪ {y}) = R を示せ. 2. 1 = ay + i なる i ∈ I, a ∈ R が存在することを示せ. 3. x ∈ I を示せ. (ヒント:前問の等式を利用せよ. ) 演習 7.9 可換環 R の元 a について答えよ. 1. a が素元であるとは, イデアル (a) がどのような性質を持つことか,なるべく簡潔に述べよ. 2. a が既約元であるとは, イデアル (a) がどのような性質を持つことか,なるべく簡潔に述べよ. a が素元 ⇔ (a) ̸= (0), (a) が素イデアル. a が既約元 ⇔ (a) ̸= (0), (1), (a) が (1) 以外の単項イデアルの中で極大. 定義 7.10 (PID) 整域 R が単項イデアル整域 (PID: principal ideal domain) とは,任意のイデアル I に対して ある x ∈ R が存在して,(x) = I が成り立つことをいう. 演習 7.11 Z 上の多項式環 Z[X] は UFD であるが、PID でない. 理由を述べよ. (ヒント:素数 p に対してイデアル (p, X) を考えよ.) 例 7.12 Z, K が体なら K[X] は PID. Z[X], 体 K 上の 2 変数多項式環 K[X, Y ] は PID でない. 演習 7.13 R は PID, P を R の (0) でない素イデアルとする. P ⊂ I, I ̸= P なる R のイデアル I が存在するとする. 以 下を示せ. 1. I = (q), P = (p) なる q, p ∈ R が存在する. 2. p = qr なる r ∈ R に対し, r ∈ P である. 3. q は可逆元である. 補題 7.14 R が PID のとき, 次が成り立つ. 1. (0) 以外の素イデアルは極大イデアルである. 2. p ∈ R が既約元.⇔ (p) が極大イデアル. 14 3. p ∈ R が既約元.⇔ p ∈ R が素元. (証明)1.演習 7.13 で示した. 2. ⇐. (p) ⊂ (q), (p) ̸= (q) なら p = qs. p は既約ゆえ, s または q が可逆だが, s が可逆だ と (p) = (q) となるので, q が可逆元である. ⇒. R は整域ゆえ p は素元,すなわち (p) は素イデアル.1. によって (p) は 極大イデアル. 3. は 1.2. を併せて得られる. (証明終). 定理 7.15 PID は, UFD である. (一意性の証明)既約元 p1 , · · · , pr , q1 , · · · , qs に対して p1 · · · pr = q1 · · · qs とし, r ≤ s とする. q1 · · · qs ∈ (p1 ), 補題 7.14 より (p1 ) は素イデアルであるから, q1 , · · · , qs のいずれかは (p1 ) に属する. q1 ∈ (p1 ) とすると, q1 は既約元ゆえ, 可逆 元 c1 が存在して q1 = c1 p1 . c1 p2 · · · pr = q2 · · · qs 等から同様に 1 ≤ i ≤ r について qi = ci pi なる ci の存在がわかる. 1 = c1 · · · cr qr+1 · · · qs より r = s でなければならない. 既約元分解の存在を示すには, 以下に導入する昇鎖律を用いる. 命題 7.20 参照. 定義 7.16 R でイデアルの昇鎖律 (ACC: acending chain condition) が成立つとは, イデアルの昇鎖 Io ⊂ I1 ⊂ · · · が必ず停滞する, すなわち Ii = II+1 (i ≥ r) なる r が存在することをいう. 補題 7.17 R が PID ならイデアルの昇鎖律が成立する. 演習 7.18 可換環 R のイデアルの昇鎖 Io ⊂ I1 ⊂ · · · について以下の問いに答えよ. ∪ 1. Iˆ = i Ii は R のイデアルである. 2. R が PID のとき, Ii = (ai ), Iˆ = (a) なる ai ∈ R, a ∈ R が存在することを示せ. 3. 前問の状況で,a ∈ Iˆ ゆえ a ∈ Is なる s が存在する.このとき, Iˆ = Is すなわち Ii = Ii+1 (i ≥ s) が成立つこと を示せ. 補題 7.19 R が PID のとき,任意の a ∈ R に対して, a の約元となる既約元がある. (証明)a が既約なら主張通りである. a が可約とすると a = a1 b1 なる R の非可逆元 a1 , b1 がある. (a) ⊂ (a1 ) だが b1 は 非可逆元なので (a) ̸= (a1 ) である. a1 が既約なら主張通り. a1 が可約なら同様に (a1 ) ⊂ (a2 ), (a1 ) ̸= (a2 ) なる R の非可 逆元 a2 を得る. 以下同様に, イデアルの昇鎖 (a) ⊂ (a1 ) ⊂ (a2 ) ⊂ · · · を得るが, ACC によってこの列は停滞する. 従って ai の非自明な約元を取り続ける操作は有限回で終わり, ある r に対 して ar が既約となる. (証明終) 15 命題 7.20 R が PID のとき, 任意の a ∈ R に対して, a = p1 · · · pr となる R の既約元 p1 , · · · , pr がある. 演習 7.21 命題 7.20 を証明せよ. 補題 7.19 の証明に倣えばよい. 定義 7.22 整域 R がユークリッド整域 (ED:Euclidean domain) であるとは, 函数 φ : R − {0} → N が存在して, 以下 が成り立つことをいう. x, y ∈ R, y ̸= 0 に対して, x = qy + r, r = 0 または φ(r) < φ(y) なる q, r ∈ R が存在する. 既にみたように, 有理整数環 Z,体 K 上の一変数多項式環 K[X] はユークリッド整域である. 定理 7.23 ユークリッド整域は PID である. (証明)I を R のイデアルとする. min{φ(x) | I} = φ(a) なる a ∈ I がある. (a) = I を示そう. ⊂ は明らかである. 任意 の x ∈ I に対して, q, r ∈ R が存在して x = qa + r, r = 0 または φ(r) < φ(a) となる. r ∈ I ゆえ, r ̸= 0 とすると φ(a) の最小性に反するから, r = 0 すなわち x ∈ (a) である. (証明終) √ √ √ √ 演習 7.24 環 Z[ −1] = {a + b −1 | a, b ∈ Z} から環 Z への写像 ν : Z[ −1] → Z を ν(a + b −5) = a2 + b2 と定義 する. √ 1. 3 は Z[ −1] の既約元であることを示せ. 2. 5 を既約元の積に分解せよ. √ √ 3. x, y ∈ Z[ −1], y ̸= 0 に対し, xy = α + β −1 なる α, β ∈ Q が存在する. a, b ∈ Z を | a − α |≤ 12 , | b − β |≤ √ なるように取る. q = a + b −1, r = x − yq とおくと, ν(r) < ν(y) を示せ. (ヒント:| r |=| y || (q − xy ) |.) √ 4. Z[ −1] は PID であることを示せ. 8 ネーター環 定義 8.1 イデアルの昇鎖律 (ACC) が成立つような可換環をネーター環という. 既に見たように, PID はネーター環である. 補題 8.2 可換環 R について以下は同値である. 1. イデアルの昇鎖律が成立つ. 2. イデアルの集合は空でなければ極大元を持つ. 3. 任意のイデアルは有限生成である. 16 1 2 と (1) ⇒ (2). 空でない R のイデアルの集合 Γ が極大元を持たないとする.I0 ∈ Γ は Γ の極大元でないから I1 ⊂ I0 , I1 ̸= I0 なる I1 ∈ Γ が選べる.以下同様にして,無限増大列 I0 ⊂ I1 ⊂ · · · を得るが, これは(1) に反する. (2) ⇒ (3). イデアル I に対し集合 {J ⊂ I | I は有限生成 } は極大元 J を持つ.もし J ̸= I なら x ∈ I − J が存在する. J + (x) は有限生成かつ J ⊂ J + (x) ⊂ I で J の極大性に反するから,J = I. (3)⇒(1). イデアルの昇鎖 I0 ⊂ I1 ⊂ · · · に対し, I = ∩i Ii は R のイデアルである.I は有限生成ゆえ,I = (a1 , · · · , ar ) (i ≥ n). (証明終). なる ai ∈ R が存在する.十分大きい n を取れば,a1 , · · · , ar ∈ In となるが, このとき II = Ii+1 例 8.3 R がネーター環なら,次の環もネーター環である. 1. 多項式環 R[X]. 2. 剰余環 R/I. 3. n 変数多項式環の剰余環 R[X1 , · · · , Xn ]/J . √ たとえば Z[ −5] ≃ Z[X]/(X 2 + 5) はネーター環であるが,既に見たように UFD ではない. 演習 8.4 I, J を可換環 R のイデアルとするとき, 以下を示せ. 1. I ∩ J は R のイデアルである. 2. I ∪ J は R のイデアルとは限らない.このことを I = (X), J = (Y ) ⊂ Q[X, Y ] で確かめよ. 3. I + J = {x + y | x ∈ I, y ∈ J} は R のイデアルであり, I ∩ I ⊂ I + J である. 4. I : J = {x ∈ R | xJ ⊂ I} は R のイデアルであり, I ⊂ I : J である. √ 5. I = {x ∈ R | ∃n > 0, xn ∈ I} は R のイデアルである. √ √ 6. イデアル I は性質「xy ∈ I, x ̸∈ I ⇐ y ∈ I 」をみたすとする. このとき, I は素イデアルである. √ √ 7. R = Z, I = 24Z, J = 27Z に対して, I : J,J : I, I, J は何か. 定義 8.5 可換環 R のイデアル I について, 1. I が準素イデアルとは,xy ∈ I, x ̸∈ I ⇐ y ∈ √ I が成立つことをいう. 2. I が既約イデアルとは,I がイデアル J, K の交叉として I = J ∩ K と表されるなら I = J または I = K であるこ とをいう. 補題 8.6 R がネーター環のとき,既約イデアルは準素イデアルである. (証明)xy ∈ I, x ̸∈ I とする. R はネーター環ゆえ,イデアルの昇鎖 I : (1) ⊂ I : (y) ⊂ I : (y 2 ) ⊂ · · · は停滞する.すなわち I : (y n ) = I : (y n+1 ) なる n がある. I = I + (x) ∩ I + (y n ) を示そう.⊂ は明らか.z ∈ I + (x) ∩ I + (y n ) とすると,z = u + ax = v + by n なる u, v ∈ I, a, b ∈ R がある.yu + axy = yu + bxy n+1 から bx ∈ I : (y n+1 ) = I : (y n ). しかるに by n ∈ I よって z ∈ I である. √ (証明終) I は既約かつ I + (x) ̸= I ゆえ,I = I + (y n ) であり,y n ∈ I すなわち y ∈ I である. 17 定理 8.7 ネーター環 R のイデアル I は有限個の既約イデアルの交叉で表される. (証明)有限個の既約イデアルの交叉で表せないイデアルの集合を X とする.X ̸= ∅ なら X は極大元 I ∈ X を持つ. I は既約ではないから,I = J ∩ K, J, K = ̸ I なる R のイデアル J, K が存在する.J, K ̸∈ X ゆえ J = J1 ∩ · · · ∩ Jm , K = K1 ∩ · · · ∩ Kn なる R の既約イデアル J1 , · · · , Jm , K1 , · · · , Kn が存在する.すると I = J1 ∩ · · · ∩ Jm ∩ K1 ∩ · · · ∩ Kn となって矛盾である. (証明終). √ I が有限個の準素イデアル Q1 , · · · , Qm の交叉で表されるとする.I = Q1 ∩ · · · ∩ Qm , Pi = Qi とおく.もし I = Q1 ∩ · · · Qi−1 ∩ Qi+1 ∩ Qm なるような Qi があれば取り除いて余分のない交叉にしておく.更にもし Pk = Pl なる √ k ̸= l があれば Qk ∩ Ql は準素イデアルで, Qk ∩ Ql = Pl であるから,Qk , Ql ともに取り除き, 代わりに Qk ∩ Ql を 入れることでより少ない数の準素イデアルの交叉とできる. すなわち, 1. I = Q1 ∩ · · · ∩ Qm , 2. I ̸= Q1 ∩ · · · Qi−1 ∩ Qi+1 ∩ Qm (i = 1, · · · , m), 3. √ √ Qk ̸= Ql (k ̸= l) なる準素イデアル Q1 , · · · , Qm が得られる.これを I の極小準素イデアル分解と呼ぶ. ネーター環のイデアルが極小準素イデアル分解を持つことはわかったが,実は以下のような意味で一意性も成立つ. 定理 8.8 ネーター環のイデアル I の極小準素イデアル分解 I = Q1 ∩ · · · ∩ Qm √ √ において,{ Qi | i = 1, · · · , n} は I によって決まり, 準素分解によらない. Qi を I の付随素イデアルと呼ぶ. 上記定理の証明には付随素イデアルについての一連の理論を要する. 付随素イデアルは,イデアルに対してだけでなく 環上の加群に対して一般に定義され,加群を調べるときの基本的な道具であるので,別節で解説する. √ √ √ 演習 8.9 演習 8.9 におけるように,環 Z[ −5] = {a + b −5 | a, b ∈ Z} から環 Z への写像 ν : Z[ −5] → Z を √ ν(a + b −5) = a2 + 5b2 と定義する. 素元でない既約元 2 によって生成されるイデアル (2) について考えよう. 1. y ∈ (2) ⇔ ν(y) ∈ 4Z を示せ. 2. (2) は準素イデアルであることを示せ. √ 3. (2) = {x | ν(x) ∈ 2Z} を示せ. √ √ 4. (2) = {a + b −5 | a − b ∈ 2Z} を示せ. √ √ 5. (2) = (2, 1 + −5) であることを示せ. a2 + 5b b ∈ 2Z ⇔ a2 − b2 ∈ 2Z ⇔ a − b ∈ 2Z ⇔ a + b ∈ 2Z. 18 9 宿題 4 月 15 日 1. 2 以上の整数 n が素因数分解を持つことを n に関する帰納法で示せ. (ヒント:n が素数でなければ, n = n1 n2 なる 整数 1 < n1 , n2 < n が存在する. 2. 整数 α, β, a, b について α, β ∈ (a, b) ならば (α, β) ⊂ (a, b) を示せ. 3. 整数 a, b, c, q が a = bq + c をみたすとき, 以下を示せ. (1) a, b の公約数 =b, c の公約数 (2) a, b の最大公約数 =b, c の最大公約数 (3) (a, b) ⊂ (b, c). (4) (a, b) = (b, c). 4. 整数 a, b, c, d, q1 , q2 , q3 が a = bq1 + c, b = cq2 + d, c = dq3 をみたすとき, 以下を示せ. ただし δ = gcd(a, b) とする. (1) d は a, b の最大公約数である. (2) (a, b) = (d). 19 4 月 22 日 素因数分解の一意性を示すには以下の定理が必要である. 定理 9.1 p を素数とする. 整数 x, y に対して積 xy が p の倍数であれば, x, y の少なくとも一方は p の倍数である. 定理 ̄??の証明に用いる以下の定理が我々の目標である. 定理 9.2 a, b ∈ Z に対し (a, b) = (δ) が成り立つ. 但し δ は a, b の最大公約数である. 前回の宿題 4 を良く読むと、以下を示せば良いことが判る. 系 9.3 自然数 a > b に対し, 非負整数の有限列 a > b > s1 > · · · si > si+1 > · · · sn = 0 で a = q1 b + s1 , b = q2 s1 + s2 , si−1 = qi+1 si + si+1  ̄ (i = 2, 3, · · · , n − 1) をみたすものがある. これを示すには,以下の定理を用いる. 定理 9.4 (除法の原理) 非負整数 x, y に対し,y ̸= 0 ならば, x = qy + r, 0≤r<y をみたす整数 q, r が存在する. 以下の問いに答えよ. 1. 除法の原理(定理 ̄ 9.4) を x − y に関する帰納法で証明せよ. 2. 自然数 a, b の 0 でない公倍数のうち, 絶対値が最小のものを µ とおく. m が a.b の公倍数であれば, m ∈ (µ) である ことを除法の原理を用いて示せ. 3. 除法の原理を用いて, 系 ̄ 9.3 を示せ. 4. 定理 ̄ 9.2 を用いて定理 ̄??を証明せよ. 20 4 月 30 日 1. x, y ∈ Z, n ∈ N とする. 次の公式を n に関する帰納法で証明せよ. ( ) n i n−i n n (x + y) = Σi=0 xy i ( ) (n−1) (ヒント: n−1 =? ) i−1 + i (n−1) (n) (n−1)! (n−1)! (n−1)!(i+n−i) n! = i!(n−i)! (i−1)!(n−i)! + i!(n−i−1)! = i!(n−i)! i (n−1) i n−i−1 ( ) ( ) ( ) j n−j n−1 n−1 i+1 n−i−1 n−1 n−1 i n−i (x+y)n = (x+y)Σn−1 x y = Σ x y +Σ xy = Σnj=1 n−1 x y + i=0 i=0 i=0 i i i j−1 ( ) ( ) (n−1) j n−j (n−1) n (n−1) n ( ) (n−1) n n−1 n j n−j n−1 n−1 n−1 n−1 i n−i + + 0 y = n−1 x + Σj=1 j x y = x + Σj=1 ( j−1 + j )x y Σi=0 i x y (n−1) n (n) j n−1 n n−j . 0 y = Σj=0 j x y i−1 + (n−1) i = 定理 ̄ 4.22 a1 , a2 の最大公約数を d2 とすると, (a1 , a2 ) = (d2 ) が成り立つ. この定理の一般化を考えよう. 2. 整数 a1 , a2 , a3 のリニア・スパン (a1 , a2 , a3 ) = {x1 a1 + x2 a2 + x3 a3 | x1 , x2 , x3 ∈ Z} について以下の問いに答えよ. 但し a1 , a2 の最大公約数を d2 , a1 , a2 , a3 の最大公約数を d3 とおく. (1) y が a1 , a2 の公約数ならば (y) ⊃ (a1 , a2 ) であることを示せ. (ヒント:y が a1 の約数 ⇔ (y) ⊃ (a1 ) ) (2) y が a1 , a2 , a3 の公約数ならば, y は d2 , a3 の公約数であることを示せ. (3) y が d2 , a3 の公約数ならば,y は a1 , a2 , a3 の公約数であることを示せ. (4) d2 , a3 の最大公約数は d3 と等しいことを示せ. (5) (a1 , a2 , a3 ) = {xα + ya3 | α ∈ (a1 , a2 ), x, y ∈ Z} を示せ. (6) (a1 , a2 , a3 ) = (d3 ) を示せ. 21 5 月 13 日 1. 等式 13 + 23 + · · · + n3 = n2 (n + 1)2 4 を自然数 n に関する帰納法を用いて証明せよ. 2. 正の実数列 {an } は (a1 + a2 + · · · + an )2 = a31 + a32 + · · · + a3n をみたすとする. このとき an = n (n ∈ N) (n ∈ N) であることを n に関する帰納法で示せ. 3. Q 上の一変数多項式 f, g, h に対して以下を示せ. 数列として計算すること. (1) (f + g) + h = f + (g + h) (2) (f g)h = f (gh) (3) f (g + h) = f g + f h. 4. Q 上の一変数多項式 f, g に対して, 以下を示せ. (1) deg ̄ (f g) = deg ̄ f + deg ̄ g. (2) f ̸= 0, g ̸= 0 ⇒ f g ̸= 0. (ヒント:前問を用いよ. ) 5. f, g, h ∈ Q[X], α ∈ C に対して以下を示せ. (1) (f + g)(α) = f (α) + g(α) (2) (f g)(α) = f (α)g(α) 22 5 月 20 日 (授業のまとめ) 定理 9.5 f, g ∈ Q[X], g ̸= 0 に対して f = qg + r, deg ̄ r < deg ̄ g なる q, rQ[X] が存在する. 定義 9.6 (リニア・スパン) f1 , · · · , fn ∈ Q[X] に対し,Q[X] の部分集合 (f1 , · · · , fn ) = {g1 f1 + · · · + gn fn | g1 , · · · , gn ∈ Q[X]} を f1 , · · · , fn の Q[X] のリニア・スパンと呼ぶ. 整数の素因数分解を成立させる鍵がが除法の原理であったことを考えると, 一変数多項式の素因数分解も存在性と一意 性が示せそうである. 1 ̸= p ∈ Z が素数であるための必要十分条件は (p) ⊂ (x) ⇒ (p) = (x) または (p) = (1) なので, こ の性質の多項式を考えよう. 定義 9.7 (既約多項式)(f ) ̸= (1) なる f ∈ Q[X] が Q 上既約であるとは, (f ) ⊂ (g) ⇒ (g) = (f ) または (g) = (1) が成り立つことをいう. (問題は裏に) 23 1. 定理 9.5 を証明せよ. (ヒント:degf − degg に関する帰納法を用い, 定理 4.18 の証明に倣えばよい. ) 2. c ∈ Q[X] について以下は同値であることを示せ. (1) (c) = (1). (2) c は Q[X] の可逆元である. すなわち cd = 1 なる d ∈ Q[X] が存在する. (3) c は Q の非零元である. 3. f ∈ Q[X] について以下は同値であることを示せ. (1) f は Q 上既約である. (2) degf > 0 かつ f = gh なる g, h ∈ Q[X] があれば, g, h の少なくとも一方は Q の非零元である. 4. 次の多項式は, Q 上既約であるか? (1) X + 1 (2) 2X + 2 (3) aX + b, ただし a, b ∈ Q, a ̸= 0 (4) X 2 − 1 (5) X 2 − 2 (6) X 2 + 1 Q に限らず,体 K に対して一変数多項式環 K[X] を議論できる. 5. (1) X 2 − 2 は, R 上既約であるか? (2) X 2 + 1 は, R 上既約であるか? (3) X 2 + 1 は, C 上既約であるか? 24 5 月 27 日 定義 9.8 R を環とする. 1. c ∈ R が R の可逆元とは, cc′ = c′ c = 1 なる c′ ∈ R が存在することをいう. 2. v ∈ R が R の零因子とは, uv = 0 または vu = 0 なる u ∈ R, u ̸= 0 が存在することをいう. 注意 9.9 1. 1 は可逆元, 0 は零因子である. 2. 零因子かつ可逆元であるような元はない. 3. x が R の可逆元 ⇔ (x) = R 定義 9.10 1. 可換環 R が整域であるとは, R に 0 以外の零因子が存在しないことをいう. 2. 可換環 R が体であるとは, 0 以外の任意の R の元が可逆元であることをいう. 1. a ∈ Z に対して, 集合 a + 5Z = {a + 5x | x ∈ Z} を 5 を法とする a の剰余類と呼ぶ. 5 を法とする剰余類の集合 Z5 を考える. 簡単のために a + 5Z を a と表すことにすると, Z5 = {0, 1, 2, 3, 4} である. Z5 に以下のように和と積を 定義する. a+b=c⇔a+b=c a ̄b = d ⇔ ab = d すると Z5 はこれらの演算に関して環をなす. 以下の問いに答えよ. (1) 7 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれに属するか. (2) 3 + 4 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれと等しいか. (3) 12 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれに属するか. (4) 3 ̄4 は 0, 1, 2, 3, 4 のいずれと等しいか. (5) Z5 の和と積に関する演算表をそれぞれ作れ. (6) Z5 は体か. 2. 同様に 4 を法とする剰余類の集合 Z4 も環である. Z4 の演算表を作り, 可逆元と零因子を答えよ. Z4 の素因数分解 について考えてみよ. 25 6月3日 (授業のまとめ) 定理 9.11 自然数 n に対し Z/nZ において, mが可逆元 ⇔ gcd(m, n) = 1 mが零因子 ⇔ gcd(m, n) ̸= 1 系 9.12 自然数 n に対し Z/nZ について, Z/nZ がが体 ⇔ gcd(m, n) = 1 Z/nZ がが非整域 ⇔ gcd(m, n) ̸= 1 素数に対応する Q[X] の既約元の定義を思い出して, 一般の環の既約元を定義しよう. 可換環 R の 0 でも可逆でもない 元 x について, 次の性質を考える. (性質 A) (x) ⊂ (y) なら (y) = (x) または (y) = (1). (性質 B) x = yz なら y または z は R の可逆元. (性質 C) yz ∈ (x) なら y ∈ (x) または z ∈ (x). Z や Q[X] においては, これらは同値な性質であった. 演習 9.13 Z6 において, 性質 A, 性質 B, 性質 C を持つ元をそれぞれ答えよ. (解説)可逆元は, 1, 5, 零因子は 0, 2, 3, 4. Z6 の単項イデアルは, (0) ⊂ (3), (2) ⊂ (1) なので, 性質 A を持つ元は, 2, 4, 3. しかし 2 = 4 × 2, 4 = 2 × 2, 3 = 3 × 3 より性質 B を持つ元は存在しない. 性質 C を持つ元は, 2, 4, 3. 補題 9.14 1. 性質 B ⇒ 性質 A. 2. R が整域なら, 性質 A ⇒ 性質 B. 3. R が整域なら, 性質 B ⇒ 性質 C. 宿題は裏にあります 26 1. f ∈ R[X] について以下の問いに答えよ. (1) deg ̄ f = 2 のとき, f は既約でなければ, R 内に根を持つことを示せ. (2) deg ̄ f = 3 のとき, f は既約でなければ, R 内に根を持つことを示せ. (3) 虚数 α が f の根であれば, 共役複素数 α も f の根であることを示せ. 2. 次の多項式は Z 上で既約か. (1) X 4 + 2 (2) X 4 − 2 (3) X 4 + 4 (4) X 4 − X + 1 3. p ∈ Z は素数とする. f = an X n + · · · + a0 , g = bm X m + · · · + b0 を Z[X] の元とする. f g ∈ (p) = {ph | h ∈ Z[X]} であるとき, f ∈ (p) または g ∈ (p) のいずれかが成り立つことを示せ. (ヒント)f, g ̸= (p) なら ai ̸= (p) なる i のうち最小のものを ν, bj ̸= (p) なる j のうち最小のものを µ とする. f g の第 ν + µ 次係数を考察せよ. 4. f, g ∈ Z[X] かつ g = an X n + · · · + a1 X + a0 は, gcd(a0 , a1 , · · · , an ) = 1 をみたすとする. (このような g を原始多 項式と呼ぶ. )f = gh なる h ∈ Q[X] が存在するとき, 以下の問いに答えよ. (1) h1 = α βh が原始多項式かつ gcd(α, β) = 1 になるような整数 α, β が存在することを示せ. (2) αf = βh1 g を示せ. (3) 素数 p に対して, α ∈ (p) ならば, β, h1 , g のいずれかは (p) に属することを示せ. (ヒント:前問) (4) α = ±1 であることを示せ. 27 6 月 10 日 1. (再掲)次の多項式は Z 上で既約か. (1) X 4 − 2 (2) X 4 + 4 (3) X 4 − X + 1 2. (再掲)f, g ∈ Z[X] かつ g = an X n + · · · + a1 X + a0 は, gcd(a0 , a1 , · · · , an ) = 1 をみたすとする. (このような g を原始多項式と呼ぶ. )f = gh なる h ∈ Q[X] が存在するとき, 以下の問いに答えよ. (1) h1 = α βh が原始多項式かつ gcd(α, β) = 1 になるような整数 α, β が存在することを示せ. (2) αf = βh1 g を示せ. (3) 素数 p に対して, α ∈ (p) ならば, β, h1 , g のいずれかは (p) に属することを示せ. (ヒント:前問) (4) α = ±1 であることを示せ. 28 6 月 17 日 定義 9.15 可換環 R の零でも可逆元でもない元 x が 性質 B:x = yz なら y または z は R の可逆元 をみたすとき, x は既約元であるという. 定義 9.16 可換な整域 R が一意分解整域 (UFD:Unique Factorization Domain) であるとは, 零でも可逆元でもな い元 x ∈ R に対し, x = p1 · · · pn なる既約元 p1 · · · pn が存在して,これらの既約元は, 並べ替えと可逆元倍を除いて一意的であることをいう. 定理 9.17 原始多項式 f (X) が Z 上既約なら, Q 上既約である. 注意 9.18 Z, 体 K 上の多項式環 K[X] は既にみたように UFD である. 本質的に除法の原理から得られた. 1. Z の既約元= 素数 2. Q[X] の既約元= Q 上既約な多項式= 既約な原始多項式の定数倍 3. Z[X] の既約元=素数および既約な原始多項式 除法の原理を有する整域は UFD だが, 逆は成り立たない. 定理 9.19 Z[X] は UFD である. すなわち, 各元は, 既約な原始多項式と素数の積として一意的に書ける. Z[X] では除法の原理は成り立たない. 本日の授業では, 既約元分解の存在のみを示した. 宿題は裏にあります. 29 1. 次の多項式は既約か. (1) X 3 − X + 2 ∈ Z3 [X] (ヒント:可約だとすれば?) (2) X 3 − X + 2 ∈ Z5 [X] (3) X 3 − X + 2 ∈ Z[X] (ヒント: (1), (2) との関連を考えてみよう. ) (4) X 3 − X + 2 ∈ Q[X] 2. 素数 p1 , · · · , pm , q1 · · · , qr と Z 上既約な原始多項式 f1 , · · · , fn , g1 , · · · , gs が p1 · · · pm f1 · · · fn = q1 · · · qs g1 · · · gs を みたすとする. 以下を示せ. (1) f1 , · · · , fn , g1 , · · · , gs は Q[X] の既約元である. (2) n = s. また,適当に並べ替えて fi = ci gi なる ci ∈ Q − {0} が存在する. (3) ci = ±1 である. (ヒント:6 月 10 日の宿題 2) (4) p1 · · · pm = ±q1 · · · qr . (5) m = r, 並べ替えて pj = ±qj . 3. 整域 R に対して, 以下の集合 Q(R) を考える. Q(R) = { 但し a s = a′ s′ a | a, s ∈ R, s ̸= 0} s ⇔ as′ = a′ s と定義する. Q(R) に以下のように演算を定義する. a b at + bs + = , s t st 以下の問いに答えよ. (1) Q(R) は体であることを示せ. (2) R = Z のとき, Q(R) は何か. (3) R = Q[X] のとき, Q(R) は何か. 30 ab ab = st st 6 月 24 日 定義 9.20 1. 可換環 R の零でも可逆元でもない元 x が性質「x = yz なら y または z は R の可逆元」を有するとき, x は既約元であるという. 2. 零でも可逆元でもない元 x が性質「yz ∈ (x) なら y ∈ (x) または z ∈ (x)」を有するとき, x は素元であるという. 定義 9.21 可換な整域 R が一意分解整域 (UFD:Unique Factorization Domain) であるとは, 零でも可逆元でもな い元 x ∈ R に対し, x = p1 · · · pn なる既約元 p1 · · · pn が存在して,これらの既約元は, 並べ替えと可逆元倍を除いて一意的であることをいう. 我々が知っている UFD の例は, 有理整数環 Z と体 K 上の多項式環 K[X] であり, 本質的に除法の原理から得られた. 除法の原理を有する整域は UFD だが, 逆は成り立たない. つまり除法の原理は UFD 性の本質ではない. 定理 9.19(再掲)有理整数環 Z 上の多項式環 Z[X] は UFD である. Z[X] で除法の原理が成立しないことは後で学ぶ. 定理 5.21 の内容は, 本質的には以下を述べている. 定理 9.22 R が UFD なら R[X] も UFD である. 定義 9.23 整域 R に対して, Q(R) = { a | s ∈ R − {0}} s に和と積を at + bs ab ab a b + = , = s t st st st a と定義すれば Q(R) は体となる. R → Q(R) を a 7→ 1 で定義すると,単射かつ準同型(演算を保つ)ので, R は Q(R) の部分環であり, R を含む最小の体が Q(R) である. Q(R) を R の商体と呼ぶ. 定理 9.22 の証明の方針: 9.17- 9.19 の主張および証明において, Z を R, Q を Q(R) に置き換えて, R および Q(R)[X] が UFD であることを利用すればよい. 補題 9.24 1. R が整域のとき, 素元は既約元である. 2. R が UFD のとき, 既約元は素元である. 宿題は裏にあります. 31 1. 体 K 上 n 変数の多項式環 K[X1 , X2 , · · · , Xn ] が UFD であることを示せ. (ヒント:定理 9.22) 2. R は UFD とする. p ∈ R が規約元なら, 素元であることを示せ. (ヒント:px = yz となるとき, 両辺の既約元分解 はどのようになるか.) √ √ √ √ 3. 環 Z[ −5] = {a + b −5 | a, b ∈ Z} から環 Z への写像 ν : Z[ −5] → Z を ν(a + b −5) = a2 + 5b2 と定義する. √ (1) x, y ∈ Z[ −5] に対して, ν(xy) = ν(x)ν(y) が成り立つことを示せ. (2) 写像 ν は全射ではないことを示せ. √ (3) x ∈ Z[ −5] が可逆元 ⇔ ν(x) =?. √ (4) ν(2), ν(1 + −5) を計算せよ. √ (5) 2 は Z[ −5] の既約元であることを示せ. √ √ √ √ (6) (1 + −5)(1 − −5) ∈ (2) かつ 1 + −5, 1 − −5 ̸∈ (2) であることを示せ. √ (7) 前問の結果から環 Z[ −5] について何がわかるか. 32 7月1日 定義 9.25 (イデアル) 可換環 R の部分集合 I は,次の 2 条件をみたすとき R のイデアルと呼ばれる. 1. x, y ∈ I ⇒ x + y ∈ I. 2. x ∈ I, a ∈ R ⇒ ax ∈ I. 定義 9.26 1. a ∈ R に対し a の倍数の集合 aR = (a) = {ax | x ∈ R} は R のイデアルである. この形のイデアルを単項イデアルと呼ぶ. 2. a1 , · · · , an ∈ R に対し,R の部分集合 (a1 , · · · , an ) = {x1 a1 + · · · + xn an | x1 , · · · , xn ∈ R} は R のイデアルである. これを a1 , · · · , an で生成された R のイデアルと呼ぶ. 3. R の部分集合 S に対して (S) = {x1 a1 + · · · + xn an | n ∈ N, a1 , · · · , an ∈ S, x1 , · · · , xn ∈ R} は S を含む最小の R のイデアルである. これを S で生成された R のイデアル(または S の R 上のリニア・スパ ン) と呼び, S を (S) の生成系と呼ぶ. S が有限集合のとき (S) は R 上有限生成イデアル, S が無限集合のとき (S) は R 上無限生成イデアルと呼ぶ. 注意 9.27 R のイデアル I に対して I = (I) なので, イデアル=リニア・スパンである. 与えられたイデアルに対して, 扱 いやすい生成系を見つけることが重要である. 定義 9.28 1. 可換環 R のイデアル I ̸= R が素イデアル とは x, y ̸∈ I ⇒ xy ̸∈ I が成り立つことをいう. 2. 可換環 R のイデアル I ̸= R が極大イデアル とは I を真に含む R のイデアルが R に限ることをいう. 問題は裏にあります. 33 1. 次の集合は与えられた環のイデアルか?簡明な生成系は? (1) {f (X) ∈ Q[X] | f (−2) = 0} ⊂ Q[X]. (2) {f (X, Y ) ∈ Q[X, Y ] | f (0, 0) = 0} ⊂ Q[X, Y ]. (3) {2x + 1 | x ∈ Z} ⊂ Z. (4) {(x, y) ∈ R2 | 2x − 3y = 0} ⊂ R2 . 2. 素イデアルか?極大イデアルか? (1) (7) ∈ Z (2) (8) ∈ Z (3) (X) ⊂ Q[X]. (4) (X 3 ) ⊂ Q[X]. (5) (X) ⊂ Q[X, Y ]. (6) (X, Y ) ⊂ Q[X, Y ]. (7) (X 2 + 1) ⊂ Q[X]. (8) (X 2 + 1) ⊂ Z[X]. 3. I ⊂ R が極大イデアルとする. xy ∈ I, y ̸∈ I のとき次の問いに答えよ. (1) (I ∪ {y}) = R を示せ. (2) 1 = ay + i なる i ∈ I, a ∈ R が存在することを示せ. (3) x ∈ I を示せ. (ヒント:前問の等式を利用せよ. ) 4. 可換環 R の元 a について答えよ. (1) a が素元であるとは, イデアル (a) がどのような性質を持つことか,なるべく簡潔に述べよ. (2) a が既約元であるとは, イデアル (a) がどのような性質を持つことか,なるべく簡潔に述べよ. 34 7月8日 定義 9.29 1. 可換環 R のイデアル I ̸= R が素イデアル とは x, y ̸∈ I ⇒ xy ̸∈ I が成り立つことをいう. 2. 可換環 R のイデアル I ̸= R が極大イデアル とは I を真に含む R のイデアルが R に限ることをいう. 3. a ∈ R に対し a の倍数の集合 aR = (a) = {ax | x ∈ R} は R のイデアルである. この形のイデアルを単項イデアルと呼ぶ. 補題 9.30 極大イデアルは素イデアルである. 注意 9.31 1. a が素元 ⇔ (a) ̸= (0), (a) が素イデアル. 2. a が既約元 ⇔ (a) ̸= (0), (1), (a) が (1) 以外の単項イデアルの中で極大. 定義 9.32 (PID) 整域 R が単項イデアル整域 (PID: principal ideal domain) とは,任意のイデアル I に対して ある x ∈ R が存在して,(x) = I が成り立つことをいう. 1. Z 上の多項式環 Z[X] は UFD であるが、PID でない. 理由を述べよ. (ヒント:素数 p に対してイデアル (p, X) を 考えよ.) 2. R は PID, P を R の素イデアルとする. P ⊂ I, I ̸= P なる R のイデアル I が存在するとする. 以下を示せ. 得ら れる結論は何か. (1) I = (q), P = (p) なる q, p ∈ R が存在する. (2) p = qr なる r ∈ R に対し, r ∈ P である. (3) q は可逆元である. 3. 可換環 R のイデアルの昇鎖 Io ⊂ I1 ⊂ · · · について以下の問いに答えよ. ∪ (1) Iˆ = i Ii は R のイデアルである. (2) R が PID のとき, Ii = (ai ), Iˆ = (a) なる ai ∈ R, a ∈ R が存在することを示せ. (3) 前問の状況で,a ∈ Iˆ ゆえ a ∈ Is なる s が存在する.このとき, Iˆ = Is すなわち Ii = Ii+1 ことを示せ. 35 (i ≥ s) が成立つ 7 月 15 日 補題 9.33 R が PID のとき, 次が成り立つ. 1. (0) 以外の素イデアルは極大イデアルである. 2. p ∈ R が既約元.⇔ (p) が極大イデアル. 3. p ∈ R が既約元.⇔ p ∈ R が素元. 定義 9.34 R でイデアルの昇鎖律 (ACC: acending chain condition) が成立つとは, イデアルの昇鎖 Io ⊂ I1 ⊂ · · · が必ず停滞する, すなわち Ii = II+1 (i ≥ r) なる r が存在することをいう. 補題 9.35 R が PID ならイデアルの昇鎖律が成立する. 定理 9.36 PID は, UFD である. √ √ √ √ 1. 環 Z[ −1] = {a + b −1 | a, b ∈ Z} から環 Z への写像 ν : Z[ −1] → Z を ν(a + b −5) = a2 + b2 と定義する. √ (1) 3 は Z[ −1] の既約元であることを示せ. (2) 5 を既約元の積に分解せよ. √ √ (3) x, y ∈ Z[ −1], y ̸= 0 に対し, xy = α + β −1 なる α, β ∈ Q が存在する. a, b ∈ Z を | a − α |≤ 21 , | b − β |≤ 12 √ となるように取る. q = a + b −1, r = x − yq とおくと, ν(r) < ν(y) を示せ. (ヒント:| r |=| y || (q − xy ) |.) √ (4) Z[ −1] は PID であることを示せ. 2. I, J を可換環 R のイデアルとするとき, 以下を示せ. (1) I ∩ J は R のイデアルである. (2) I ∪ J は R のイデアルとは限らない.このことを I = (X), J = (Y ) ⊂ Q[X, Y ] で確かめよ. (3) I + J = {x + y | x ∈ I, y ∈ J} は R のイデアルであり, I ∩ I ⊂ I + J である. (4) I : J = {x ∈ R | xJ ⊂ I} は R のイデアルであり, I ⊂ I : J である. √ (5) I = {x ∈ R | ∃n > 0, xn ∈ I} は R のイデアルである. √ √ (6) イデアル I は性質「xy ∈ I, x ̸∈ I ⇐ y ∈ I 」をみたすとする. このとき, I は素イデアルである. √ √ (7) R = Z, I = 24Z, J = 27Z に対して, I : J,J : I, I, J は何か. 36
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