正多項式の係数と零点 ShibaKen 2014 年 11 月 11 日 1 零点がすべて実数であるための条件 1.1 主定理 実数列 {an }N n=0 が unimodal であるとは、ある整数 k が存在して 0 < a0 ≤ a1 ≤ · · · ≤ ak−1 ≤ ak ≥ ak+1 ≥ · · · ≥ aN −1 ≥ aN > 0 が成り立つことを言う。 多項式 p(x) = ∑n k=0 ak xk ∈ R[x] の係数から成る数列 a0 , . . . , an が unimodal であるとき p(x) は unimodal であるという。 定理 1.1 [ニュートン] 正多項式 p(x) ∈ R[x] の零点がすべて実数であるならば、p(x) は unimodal である。 定理 2.1 から、unimodal でない正多項式は少なくとも一つのの虚根を持つことが分かる。例えば p(x) = 2x5 + x4 + 2x3 + x2 + 2x + 1 がそのような多項式である。 1.2 log-concave 数列 {ak }n k=0 が log-concave であるとは、 a2i ≥ ai−1 ai+1 が成り立つことを言う。 定理 1.2 正数列 {ak } が log-concave ならば、unimodal である。 (証明){ak } が単調増加列ならば、明らかに unimodal である。したがって、{ak } は単調増加列でもないと しよう。整数 N を N = min{0 ≤ i ≤ n | ai ≥ ai+1 } で定める。このとき、任意の非負整数 M に対して aN +M ≥ aN +M +1 1 であることを証明すれば十分である。M についての数学的帰納法で証明しよう。M = 0 のときは、N の定義 から明らかである。k を正の整数として、M = k − 1 のときに主張が成り立つと仮定する。ここで、{ak } が log-concave なので a2N +k ≥ aN +k−1 aN +k+1 ≥ aN +k aN +k+1 が成り立つ。両辺を aN +k > 0 で割ると aN +k > aN +k+1 □ を得る。 正多項式 p(x) = ∑n k=0 ak xk の係数列 a0 , a1 , . . . , an が log-concave であるとき、p(x) は log-concave であ るという。 系 1.1 正多項式 p(x) が log-concave ならば、p(x) は unimodal である。 1.3 inversion 多項式 p(x) に対して p∗ (x) = xdeg p(x) p(x−1 ) を p(x) の inversion という。 定理 1.3 多項式 p(x) は p(0) ̸= 0 を満たすものとする。もし、p(x) の零点がすべて実数ならば、p∗ (x) の零 点もすべて実数である。 (証明)一般性を失うことなく p(x) = n ∏ (x − αk )mk k=1 と仮定してよい。ここで mk は正の整数で αk は実数で αk ̸= 0 を満たすものである。このとき ∗ p (x) = n ∏ (1 − αk x) mk n ∏ = k=0 ( mk (−αk ) k=0 1 x− αk ) mk であるから、p∗ (x) の零点はすべて実数である。 □ 1.4 導関数の零点 定理 1.4 多項式 p(x) の零点がすべて実数ならば、p′ (x) の実数の零点もすべて実数である。 (証明)多項式 p(x) は一般性を失うことなく p(x) = a n ∏ (x − αk )mk k=1 の形であると仮定してよい。ここで αk は実数で α1 < α2 < · · · < αn とする。p′ (x) の実零点の個数を N とする。p(x) の形から ∑ (mk − 1) = mk >1 n ∑ (mk − 1) = deg p(x) − n ≤ N k=1 2 が成り立つ。更に、ロルの定理により αk < βk < αk+1 を満たす βk で p′ (βk ) = 0 となるものが存在するので N ≥ (deg p(x) − n) + (n − 1) = deg p(x) − 1 = deg p′ (x) が成り立つ。明らかに N ≤ deg p′ (x) が成り立つので、結局 N = deg p′ (x) である。したがって、p′ (x) の零 □ 点はすべて実数である。 多項式 p(x) の零点と p′ (x) の零点との関係についてはガウスの定理が知られている。(実は、定理 2.4 はガ ウスの定理から直ちに従うことが分かる。) 定理 1.5(ガウス) 多項式 p′ (x) ∈ C(x) の任意の零点は p(x) ∈ C[x] のすべての零点を含む最小の凸集合に 含まれる。 系 1.2 多項式 p(x) ∈ C[x] の任意の零点が凸集合 D ⊂ C に含まれるならば、任意の整数 k > 0 に対して p(k) (x) の任意の零点も D に含まれる。 1.5 主定理の証明 多項式 p(x) の l 階微分を考えよう。 p(l) (x) = (n − 1)!an−1 xn−l−1 (l + 2)!al+2 x2 n!an xn−l + + ··· + + (l + 1)!al+1 x + l!al (n − l)! (n − l + 1)! 2 g(x) = (p(l) )∗ (x) とすると、 (n − l)!l!al x2 (n − l − 2)!(l + 2)!al+2 + (n − l − 1)!(l + 1)!al+1 x + 2 2 { } (n − l)(n − l − 1)al x2 (l + 2)(l + 1)al+2 = (n − l − 2)!l! + (n − l − 1)(l + 1)al+1 x + 2 2 g (n−l−2) (x) = ここで g (n−l−2) (x) の零点はすべて実数なので (n − l − 1)2 (l + 1)2 a2l+1 > (n − l)(n − l − 1)(l + 2)(l + 1)al al+2 が成り立つ。したがって a2l+1 > (n − l)(l + 2) al al+2 > al al+2 (n − l − 1)(l + 1) □ なので、p(x) は log-concave である。 2 フルビッツ多項式と準円分多項式 多項式 p(x) ∈ R[x] がフルビッツ多項式であるとは、p(0) > 0 かつ p(x) の任意の根 α に対して Re(α) < 0 が成り立つときをいう。 3 定理 2.1 フルビッツ多項式は正多項式である。 (証明)フルビッツ多項式 p(x) の実根を α1 , . . . , αm とし、虚根を β1 , β1 , . . . , βn , βn とすると、p(x) は適当な実数 c を用いて p(x) = c m ∏ (x − αi ) i=1 n ∏ (x2 − (βj + βj )x + βj βj ) j=1 と表せる。p(x) がフルビッツ多項式なので αi < 0 かつ βj + βj < 0 が成り立ち、 m ∏ (x − αi ) i=1 n ∏ (x2 − (βj + βj )x + βj βj ) j=1 は正多項式である。また p(0) > 0 より c > 0 であるから、p(x) は正多項式である。 □ 定理 2.2 フルビッツ多項式 p(x) ∈ R[x] と正整数 k に対して、p(k) (x) もフルビッツ多項式である。 (証明)C の部分集合 H を H = {(x, y) ∈ R2 | x < 0} で定める。明らかに H は凸集合である。p(x) がフルビッツ多項式であるから、p(x) の任意の零点は H に含 まれる。このとき系 2.2 より、p(k) (x) の零点も H に含まれる。したがって p(k) (x) はフルビッツ多項式で □ ある。 多項式 p(x) ∈ Q[x] が準円分多項式であるとは、p(x) の任意の零点が複素平面上の単位円周 S 1 上にあると きをいう。円分多項式は準円分多項式であるが、円分多項式とは異なる準円分多項式が存在する。 基本的な事実として、準円分多項式は自己相反的である。すなわち多項式 p(x) が準円分多項式ならば p(x−1 ) = x− deg p(x) p(x) が成り立つ。これは p(x) の係数が対称的であることを意味する。 次数が偶数の自己相反的な多項式 p(x) に対して、ある多項式 f (x) で xdeg p(x)/2 f (x + x−1 ) = p(x) を満たすものが存在する。このような f (x) を準円分多項式 p(x) のポテンシャル多項式という。次の定理は 準円分多項式のポテンシャル多項式を特徴付ける: 定理 2.3 多項式 f (x) がある準円分多項式のポテンシャル多項式である必要十分条件は f (x) の任意の零点 α が実数であり −2 ≤ α ≤ 2 を満たすことである。 4 準円分多項式がフルビッツ多項式でもあるとき、その多項式をフルビッツ準円分多項式(HQC 多項式)と 呼ぶ。すなわち、フルビッツ準円分多項式とは任意の零点が HS = {x + yi ∈ S 1 | x < 0} の上にあるような多項式である。明らかに HQC 多項式は正多項式である。 定理 2.4 HQC 多項式のポテンシャル多項式はフルビッツ多項式である。 (証明)多項式 f (x) は HQC 多項式 p(x) のポテンシャル多項式とする。f (x) の任意の零点 α に対して、p(x) のある零点 α で β =α+α を満たすものが存在する。p(x) はフルビッツ多項式なので β < 0 が得られる。また、f (x) の最高次係数と p(x) の最高次係数が一致するので、f (x) は正多項式である。よって、f (x) はフルビッツ多項式である。 系 2.1 HQC 多項式のポテンシャル多項式は unimodal である。 5 □
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