稲作技術情報(第8号)

平成27年1月16日発行
宮城県大河原農業改良普及センター
TEL:0224-53-3431 FAX:0224-53-3138
http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/oksgsin-n
平成26年産
稲作技術情報(第8号)
○ 農政局公表の作況指数 県南部 106(宮城県は 105)
普及センター調査ほでは,穂数は平年並で,籾数は平年並~やや多く,玄米
千粒重もやや大きめだが,登熟歩合はやや低く,収量は平年並である。
○ 玄米の品質低下要因は,出穂後の低温・少照が影響。
農産物検査での主な落等理由は,心白粒,充実度不足,部分着色粒。
1
気象経過
40
(℃)
最高・最低気温
高温傾向
低温
低温
低温
35
日較差大
30
25
20
15
10
5
0
出穂盛期
8/2
田植盛期
5/11
刈取盛期
9/27
-5
14
12
10
8
6
4
2
0
100
(時間)
日照時間
少照
多照
(mm)
降水量
梅雨入り
6/5頃
(平年-7日)
80
梅雨明け
7/25頃
(平年並)
台風11号
8/9~10
60
40
10月28日
10月21日
10月14日
10月7日
9月30日
9月23日
9月16日
9月9日
9月2日
8月26日
8月19日
8月5日
8月12日
7月29日
7月22日
7月8日
7月15日
7月1日
6月24日
6月17日
6月3日
6月10日
5月27日
5月20日
5月6日
5月13日
4月29日
4月22日
4月8日
4月15日
0
4月1日
20
2
生育概況
1)育苗期
○播種盛期は,前年並(始期 4/5,盛期 4/13,終期 4/23)。
○本年の育苗期間は記録的な多照となり,また,4月15~17日にかけて,やや高温で推移
したことから,播種直後の一部ハウスでは高温障害が発生した。
○苗質は,4月中旬の気温が低めであったため,草丈が短めであった。
2)移植後から生育初期
○田植盛期は, 前年並(管内の田植始期 5/4,盛期 5/11,終期 5/24)。
○5月上中旬に風の強い日が多く,一部のほ場では,植え痛みがみられたが,5月は全般に高
温多照で経過したため,多くのほ場では順調に推移した。
3)本田生育期
○6月以降も,高温で経過したことから,草丈は長め,茎数は平年並で推移し,水稲の生育は
早まった。
○県生育調査ほにおける中生品種の減数分裂期は7月16~20日となった。
○7月19~20日にかけては,低温傾向となり,平均気温が平年を1℃以上下回る日もあっ
たが,最低気温は平年並みだったことから,影響は軽微であった。
○7 月中旬に感染好適日が多く,葉いもちの発生はやや多くなった。
○田植えから出穂にかけて,全般には,天候に恵まれ,順調な生育となった。
4)出穂~登熟期
○出穂期は平年並みから若干早まった。
(管内の出穂始期 7/30,盛期 8/2,終期 8/8)
○台風 11 号の影響により,8月第2半旬に出穂したほ場では,穂の褐変症状が見られたが,
影響は軽微であった。
○8月に日照時間が平年を下回ったことから,登熟がやや不良であった。
5)収穫期
○9月は多照で推移したため,刈取適期は早まった
(管内の刈取始期 9/14,盛期 9/27,終期 10/12)。
3
病害虫の発生状況(宮城県病害虫防除所)
【斑点米カメムシ類】発生量:多
・病害虫防除所の巡回調査で,水田周辺の雑草地・牧草地等における発生量が多発した過去 5 か年平
均よりも多かったことから,7月4日,8月6日付けで注意報が発表された。
・出穂期前後の病害虫防除所の巡回調査でも本田内捕獲数は平年より多かった。イヌホタルイ,ヒエ
類の残草や,出穂直前の草刈りにより,本田内への飛翔侵入が高まった水田も見られた。
・巡回調査ほにおける斑点米の発生地点率,被害粒率とも平年よりやや高かったが,総検査数量(10
月末現在)のうち,斑点米による落等率は平年並だった。これは,色彩選別機の導入と利用が進ん
でいるためと考えられる。
【紋枯病】発生量:多
・年々発生量が増えており,伝染源がやや多かったこと,また,8 月に曇りや雨の日が多く病勢進展に
好適だったことから,発生地点率は,過去 10 年で 2 番目に高く,発病株率及び発病度は最も高かっ
た。
【いもち病】発生量:やや少(管内はやや多)
・県全体の本田初発は,平年より 3 日遅い 7 月 4 日で,全般発生期はやや早い 7 月第 3 半旬であった。
・県全体では,葉いもち,穂いもちともに発生は平年よりやや少なかったが,管内では,穂いもちの
発生地点率がやや高く,特に,西部丘陵の一部で発生が目立った。
・葉いもち防除を箱施用剤で行ったほ場では,穂いもち防除が省略された場合が多いと推測される。
予防防除としては,
「水面施用剤による穂いもち防除」との体系防除が基本となる。
【褐変籾】
・台風 11 号による影響で,8月第2半旬に出穂した穂に,褐変籾の発生が目立った。古川農試作況ほ
では,褐変籾の登熟歩合は 40~60%程度で,発生程度から 3~8%の減収が懸念された。
4
収量と品質
【宮城県南部の作況】
(10 月 30 日,東北農政局公表)
m2当たり穂数:
やや多い
1穂当たり籾数:
やや多い
2
m 当たり籾数:
多い
登熟
平年並み
10a当たり収量: 作況指数106(良)
※農産物規格規程三等の品位(整粒歩合 45%)以上
かつ篩目 1.7mm以上の玄米
参考)宮城県南部の10a当たり収量の内訳(重量割合)
本
年
対平均差
1.70 mm 以上
1.75 mm 以上
1.80 mm 以上
1.85 mm 以上
1.90 mm 以上
2.00 mm 以上
0.8%
0.9%
1.7%
2.1%
15.2%
79.3%
+0.2
+0.4
+0.2
+0.5
△1.6
+0.3
※対平均差に用いた平均値は,直近5か年の重量割合の平均値
【生育調査ほにおける調査結果】
管内の生育調査ほにおける収量調査の結果,品種や田植え日,施肥条件等によるほ場間差が見られ
たものの,各収量構成要素の傾向は以下のとおりであった。
穂
数 平年並
5~7月にかけて高温多照で経過したことから,茎数は平年並~やや多く推移したが,穂
数は平年並となった。
1穂籾数 平年並~やや多い
葉色が減数分裂期まで期待葉色値の範囲内で推移したことから,稲体の栄養状態が後半ま
で維持されたと考えられ,頴花の退化が少なくなったと推察される。
m2当たり籾数 平年並~やや多い
穂数は平年並だったものの,1 穂籾数が多かったことから,平年並以上の籾数となった。
登熟歩合 やや低め
前半は低温寡照の影響で登熟は緩慢となり,後半は概ね好天に恵まれたものの,登熟歩合
はやや低くなった。
千 粒 重 やや大きめ
籾殻形成期(出穂前 24~5 日)における気温が高かったこと,登熟期(出穂後 20 日間)
の気温が低かったことから,粒重増加期間が十分確保でき,千粒重が大きくなった。
収
量 平年並
m2 当たり籾数は平年並以上で,千粒重がやや大きくなったものの,登熟歩合はやや低め
となり,10a 当たり収量は平年並となった。
表
生育調査ほにおける収量構成要素
収量構成要素
地区・品種名
㎡当穂数
1穂籾数
㎡当籾数
登熟歩合
千粒重
精玄米重(kg/10a)
(本/㎡)
(粒)
(百粒/㎡)
(1.7mm上,%)
(1.7mm上,g)
(1.7mm上)
(1.9mm上)
本年
平年比
本年
平年比
本年
平年比
本年
平年比
本年
平年比
本年
平年比
本年
平年比
南部平坦(角田)・ひとめぼれ
379
93
69.6
106
264
99
76.2
85
22.3
101
44.2
84
42.5
82
西部丘陵・ひとめぼれ
416
98
66.9
99
278
97
87.2
97
23.0
102
55.9
96
53.5
94
南部平坦(大河原)・ひとめぼれ 414
88
63.3
103
262
91
86.1
92
22.2
101
50.0
85
47.8
83
西部丘陵・まなむすめ
457
115
73.8
110
337
127
89.6
98
23.6
102
71.2
128
68.2
125
山間高冷・やまのしずく
416
112
68.6
89
286
99
91.1
103
22.2
99
57.7
101
54.0
98
南部平坦・つや姫
391
-
64.6
-
253
-
95.6
-
21.3
-
51.4
-
46.8
-
注)平年比は過去5か年(H21~25)の平均値より算出。ただし,大河原ひとめぼれは過去4か年(H22~25)の平均値による。
【玄米品質】
・生育調査ほ
穀粒判別器による玄米の外観品質は,整粒比率で概ね 80%を上回っており,良質であった。しかし,
籾数の多かった南部平坦の「ひとめぼれ」では,乳白粒などの白未熟粒比率や,充実不足と思われる
未熟粒比率が高く,品質がやや低下する傾向にあった。
表
生育調査ほにおける品質等
玄米外観品質(穀粒判別)
地区・品種名
整粒比
胴割粒
白未熟粒 青未熟粒
その他
タンパク
着色粒
死米粒
被害粒
未熟粒
含有率
(15%補正)
(%)
比(%)
比(%)
比(%)
比(%)
比(%)
比(%)
比(%)
(%)
南部平坦(角田)・ひとめぼれ
78.5
1.0
12.3
0.9
4.8
0.0
1.6
0.9
6.8
西部丘陵・ひとめぼれ
91.1
0.1
2.6
2.9
1.8
0.0
0.8
0.7
8.0
南部平坦(大河原)・ひとめぼれ
85.0
0.1
9.7
0.1
3.6
0.0
0.2
1.3
6.6
西部丘陵・まなむすめ
90.4
0.4
4.2
2.1
2.4
0.0
0.3
0.3
7.3
山間高冷・やまのしずく
78.0
3.9
6.9
2.6
4.7
0.6
0.5
2.8
7.1
南部平坦・つや姫
93.7
0.1
0.9
1.3
3.4
0.0
0.1
0.5
7.0
注)白未熟粒は,乳白粒,基部未熟粒,腹白未熟粒の合計。
・管内農産物検査結果(11 月末現在)
一等米比率は 89.5%と良好だった。品種別では,ひとめぼれ 90.1%,まなむすめ 95.4%,コシヒカ
リ 93.1%,つや姫 95.6%,やまのしずく 93.4%となっている。また,地区別では 78~98%とばらつい
ており,南部平坦で前年より品質低下が見られた。落等要因は,①心白粒(27.0%),②充実度(21.5%),
③部分着色粒(カメムシ)
(21.1%)の順で多くなっている。
白未熟粒(心白及び腹白)
登熟初中期の高温や少照条件下で発生しやすい。本年産では,8月中下旬の寡照に影響を受けたと
推察される。また,土づくり不足や少肥に起因する生育後期の窒素栄養凋落,早期落水による登熟障害
も一因と考えられる。
充実不足
倒伏による未熟粒の混入,刈遅れによる光沢不良,籾数過剰による粒張り不足,登熟期窒素栄養不
足による粒張り不足等が主な発生要因である。特に本年産の場合は,8月中下旬の低温寡照により
デンプン合成・転流が抑制されたことが影響したと推察される。
部分着色粒
斑点米カメムシ類による吸汁により発生する。
水田周辺の雑草地や牧草地,水田内の雑草等の繁殖源があると,カメムシ類の水田への侵入が多くな
り斑点米の被害も多くなる他,本年産のように8月中下旬の低温寡照により登熟がバラついたり長引
くと,カメムシ類の加害期間が長引き被害が多くなることがある。
5
次年度に向けて
本年産の水稲作では,田植え~出穂まで概ね天候に恵まれ順調な生育で推移したが,出穂後の低温
寡照等の気象条件が品質に影響を及ぼした。
しかし,収量・品質が低下したほ場では,斑点米カメムシ類やいもち病等の病害虫の影響や,作物
的要因として,過剰生育や根の活力低下,地力の低下や肥料不足により生育後期に窒素栄養が不足し
たこと等が影響した可能性がある。
このため,仙南米の品質向上と安定生産に向け,下記の対策を行う。
(1)病害虫防除の徹底
「斑点米カメムシ類」および「その繁殖源となる水田雑草」の適正な薬剤防除を徹底するととも
に,ほ場周辺の牧草地や河川堤防における耕種的防除(適期草刈り)も含め,発生状況に応じた適
正な防除を実施する。
「いもち病」については,特に直播栽培や飼料用米での適正防除を徹底する。
(2)適正な窒素栄養状態の確保
適期田植や適正な栽植密度,適正な籾数を得るための生育量に見合った施肥管理により,
「登熟
期間の光合成能力を高く維持する稲づくり」とし,過剰な初期生育,穂揃期以降の後期栄養凋落を
防止する。
(3)総合的な土づくりの励行
土壌診断に基づいた土づくり肥料,有機物の適正な施用,適正な耕深の確保,排水改良対策等に
より高品質・良食味米の持続的な安定生産を図る。
(4)適正な水管理
冷害危険期,登熟期の異常高温に対応できる水管理,ほ場管理を徹底する。
(5)適期刈取り
収穫適期の判定に基づく適期刈取りの励行による品質低下の防止を図る。
(6)放射性物質吸収抑制対策の徹底
「カリ成分が不足しているほ場へのカリ肥料の施用」等の放射性物質の吸収抑制に有効な耕種的
対策を徹底する。