スズメと北国の女性たち 野村眞木夫 家人の友達が仙台と盛岡にいて,某日久しぶりに盛岡で会うことになったらしい。 往復が退屈だというので,当方も盛岡までつきあった。 こちらは一人で歩き回る時間の方が多い。小岩井まで出かけるのも億劫だし,花巻 は遠いしで,盛岡市内ですごすこととした。循環バスがあるから大いに便利である。 で,中津川のほとりを歩き始めると前方を女性が行く。道が狭く,追い抜くのもど んなものかと考え距離を保っていたのだが,なぜか彼女が木を見上げて立ち止まって しまった。仕方なくそのまま近づいていくと,こちらを振り向き,スズメがあんなに, 可愛いわね,と語りかける。たしかに桜の木で十何羽かのスズメが囀っている。なん でも毛虫が多いため先頃枝を払い,そのゆえかスズメが居着いて喜んでいるのだそう だ。私は目の前の小さな美術館に勤めている,時間のあるとき寄るようにとのこと。 いや自分はそもそもここを見学するのが目的で歩いてきたのだ。それならどうぞどう ぞ。といったやりとりの後,しばらくいたのが野の花美術館である。退出の折,事務 長とおぼしきその女性に,お前はどこの人なのか,それは遠方である,二度三度来る のも大変だ,せっかくの機会だから来館者名簿に一筆したためてゆけ,と命ぜられた。* 翌日,材木町商店街を散策していたら,やぶから棒そのものの風情で,どこからや って来たのかと,また一人の女性に話しかけられた。新潟なら今度の地震はどうであ ったか,昭和三十九年のときも大変だっただろう,そうか当時は北海道にいたのか, 北海道も奥尻島など大きな地震が少なくないはずだ云々,と十分近くも捕まった。 解放されて宮沢賢治の光原社に入ったところ,そこの店長らしい白髪の女性が…… 盛岡では,男性と話した記憶がまったく,ない。 *後日,この女性は 2011 年当時の館長 I. H.さんであることが分かった。
© Copyright 2024 ExpyDoc