法務省“ 社会を明るくする運動 ”中央推進委員会主催第６４回“社会を明るくする運動”作文コンテスト日本更生保護協会理事長賞責めない強さが明るさを生む三重県・津市立西が丘小学校５年あんどう安藤 E しい A A E な詩夏 E A A E E ケータイがなくなりました。習い事では、落としたり、なくしたりしないように用心してロッカーに入れていたので、練習が終わってカバンを開けた時、カバンにしっかりつけていたケースごとなくなっていたことに「盗まれた」と思いました。事務所の電話から母に伝えると、母はすぐにＧＰＳで調べて、わたしのケータイがもうここにないことが分かりました。別の場所を示していたのです。あの人が？と私の頭の中に仲間の一人がうかびました。でも、その人がわたしのカバンを開けるところも、わたしのケータイを持っているところも誰も見ていません。家に帰って何度も自分の番号に電話をしましたが、電源が切れていてつながりませんでした。母が「ＧＰＳの場所を見ただけで判断するのはやめよう。」と言い、携帯会社に申請して新しいケータイを買うことにしました。そこで「警察に被害届を出して、受理されたら保険が使える」と言われたので、母と警察署に行きました。若い刑事さんは、わたしにくり返し質問をして、メモを取っていました。時間や場所や人数や名前、建物の間取りまで、わたしは聞かれるたびにできるだけくわしく正確に答えました。話をする中で、「あれ？」と気づくことがありました。最初に頭にうかんだ人だけが一人でロッカーにいる時間があるのです。刑事さんに「この人が盗んだのかな、と思う人はいる？」と聞かれて、正直に「はい。」とうなずきました。「ぼくたち刑事は、犯人を捕まえることが仕事だから、あなたがそう査してほしい、犯人を捕まえてほしい、というならすぐに動きますよ。」と刑事さんは言いました。あのケータイは、わたしが習い事で努力をして結果を出した時に、両親が「これからは連絡を取り合う仲間が増えるだろうから」と買ってくれたケータイでした。保険で新しいケータイが手に入っても、「それはちがう」という思いがあったし、人の物を盗むなんて許せないという怒りがあったので、わたしは「犯人を捕まえてください。」と言おうとしました。でも、その二秒ぐらい前に母が、「よく考えたいので、明日お返事します。」と言ってしまいました。「なんであんなふうに言ったの？犯人にケータイを返してもらおうよ。」とわたしが言うと、母はつらそうな顔をして、「それは正しいことだと思う。でも、正しいことが良いとはかぎらない場合もあると思う。」と言いました。母は続けて「その子が盗んだことがはっきりしたら、詩夏はその子に今まで通りに接することができるの？反対に、その子が盗んでなかったらどうするの？」と言いました。どうかな、分からない。今まで通りにできないかも知れないし、他の仲間が気づいたらあの人は仲間はずれになるかも知れない。それに、もしその人が犯人じゃなかったら、「うたがってごめんね。」と言って許してもらえるのかな。それも分からない。新しいケータイは、ピカピカできれいでした。届くまでの何日間かはふべんでしたが、すぐにいつもの生活にもどりました。母と警察に被害届を取り下げに行った時、わたしの気持ちは不思議なくらい軽くて明るかったです。人を責めると自分もいやな気持ちになることを母は言いたかったのだと思いました。正義で解決させるのではなく、他のこと (この場合は新しいケータイ )で何とかなるのならそれは良い選たくだったのです。大切なケータイがなくなったことは今でもつらいです。でも、人を責めなかったことがこんなに気持ちを明るくしてくれるとは思いませんでした。人を責めて、その人が謝ってくれたらすっきりするかも知れません。でも、明るい気持ちになるのでしょうか。大切な物を盗まれたら誰だって返してほしい、謝ってほしいと思うし、相手が仲間ならその思いは怒りになります。でも相手を責めずに、他の方法で解決されることは自分自身を強くするし、その強さは明るさを生みます。その後ロッカーでその人といっしょになった時、「今日は早いね。」と思いきって声をかけました。その人は「うん。」と答えただけでわたしを見ませんでした。わたしはその人の視界に入って「先に行くね。」と笑顔を見せました。今度はチラッとわたしを見て「うん。」と言いました。わたしはこの時、もうわたしの物を盗まないだろうし、意地悪もやめるだろうと分かり、明るく接することは、責めることよりずっと強く人を反省させることができると思いました。犯罪のない明るい社会は、人を責めない強さを持って明るく接することでつくられると思います。