Title 年金課税と貯蓄 Author(s) 野口, 悠紀雄 Citation - HERMES-IR

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年金課税と貯蓄
野口, 悠紀雄
一橋論叢, 94(4): 458-472
1985-10-01
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/12858
Right
Hitotsubashi University Repository
第4号(20)
第94巻
一橋諭叢
年金課税と貯蓄
1 はじめに
野 口
雄
第一は、公的年金と税制との相互作用を、ライフサイ
とである。現在の日本の税制では、年金保険料の所得控
税制の各々の影響については、向<竃ω︵岩o。ω︶一望昌目①易
の計算上所得控除されること等を考えると、両者の間の
いうまでもないが、さらに、公的年金の保険料は所得税
後のものであるという意味で両者が関連していることは
析は、これまでなされていない。年金の手取り額が税引
析がなされている。しかし、年金と税制の両方を含む分
今後、年金支給総額が増大してくると、問題は顕在化す
す﹁ひずみ﹂はさほど大きいものではなかった。しかし、
重がわずかであったため、右のような優遇措置のもたら
これまでは公的年金の支給総額が国民所得に占める比
されているといえる。
貯蓄は、他の形態の貯蓄に比べて、税制上著るしく優遇一
なされていない。したがって、公的年金という形態での
相互関係はきわめて本質的なものであると推察される。
︵岩o.H︶一ミ⋮ρ昌ω昌彗o−o目鶉︵岩塞︶などによって分
除が認められる一方で、年金の受取りには事実上課税が
第二の目的は、年金課税のあり方について考察するこ
の目的である。
どのように変更されるかをみることが、この論文の第一
両者を舎むモデルを考察することにより、従来の鯖論が
紀
クル・モデルを用いて分析することである。年金およぴ
この論文は二つの目的をもっている。
悠
458
(21) 年金課税と貯蓄
題となろう︶。また、年金課税と貯蓄率との関係などに
わけ、企業年金などの私的年金とのバランスが重要な間
税のしくみを構築することが求められるであろう︵とり
る。まず、他の形態での貯蓄とバランスのとれた年金課
消費支出が賄われる。まず、課税前の年金受給額pを、
老年期においては、年金および貯蓄の元利金によって
もOと1の間の値をとる。
る所得控除率を表わす。これらのパラメータは、いずれ
?︶
労働所得に係わる所得控除率、あは支払い保険料に係わ
次式により表わそう。
ついても分析がなされる必要がある。本論文の第二の目
的は、こうした課題に対して、一つの理論的な基礎づけ
を与えることにある。
ここでψは、年金の財政方式を表わすパラメータである。
︵ω︶ 、“︵−十尽︶∼、
若年期においては、労働所得rを得、そこから年金保
も簡単なものであり、﹁若年期﹂︵労働期︶と﹁老年期﹂
^1︺
︵退職後︶という二期間のみを区別したものである。
ここで用いるモデルは、ラィフサイクル・モデルの最
も、部分に対する課税と尽$K部分に対する課税に分け
異なる値になる。いま便宜上、年金に対する課税を、
年金に対して課税がなされると、手取り額わはpとは
場利子率γに等しい。しかし、賦課方式的要素が入ると、
仮に年金が完全積立方式で運営されているなら、ψは市
険料と所得税とを差引いた可処分所得bを、消費qと貯
て考え、前者を﹁元本分に対する課税﹂、後者を﹁増加
2 年金と課 税 を 合 む ラ イ フ サ イ ク ル ・ モ デ ル
蓄8とに配分するものとしよう。すなわち、若年期の予
分に対する課税﹂とよぶこととしよう。そして、前者の
︵仁︶ き11[︵Hーも十︵−1“︶S$、
税﹂に他ならない︶。すると、わは次のようになる。
には、﹁増加分に対する課税﹂とは、﹁利子分に対する課
^6︶
ψはγとは異なる値をとりうる。
算制約式は、 .
税率をち、後者の税率を㌦とする︵完全積立方式の場合
^2︶
︵H︶ ﹃blQ筥⋮⑦
である。可処分所得は、次式で表わされる。
︵N︶ 、b11、−も、1べ、1軋、−ミペ︶
ここで、θは年金保険の保険料率、亡は所得税率、・αは
^3︶ ?︺
459
一橋論叢 第94巻 第4号 (22)
計は、
また、通常の形熊の貯蓄8から生ずる利子に対する税
^二
率をτとしよう。利子率をγとすれぱ、税引後の元利合
︵旨︶ q”9.9一1。
効用。を最大化することにより求められる。ここでは、効
^9︺
用関数として、次のような簡単な形のものを想定しよう。
となる。
解くことができ、解は次のようになる。
この問題は、ラグランジュの未定乗数法により容易に
ここで、αは、0と1の間の値をとるバラメータである。
老年期においては、巧と防によって消費支出qが賄わ
︵Ho︶ 9“員㌧
︵︸︶ 吻b1l[一十︵−1刊︶﹃]吻
れることになる。したがって、予算制約式は、
^8︶
︵二︶ 91−︵−−員︶︵一十“、、︶㌧
︵富︶ q.1−頁旦︵−−s︶一.目︵H+﹃、︶一1。﹄
最大化された効用σは、
︸
︵α︶ き十︵−十﹃、︶¢119
となる。ここで、
となる。また、ω式から、貯蓄8は
︵N︶ ﹃、11︵−1刊︶﹃
である。
となる。
︵ご︶ 吻11︵H−員︶ぺbI員﹁﹁J
若年期の予算制約式ωと老年期の予算制約式㈹とから
一十﹃
、b
うに導かれる。
貯蓄8を消去すれば、生涯にわたる予算制約式が次のよ
以下の議論においては、若年期の労働所得rは外生的
に所与であるものとしよう。そして、計算の便宣上、そ
︵oo︶ ﹄119+一﹂﹁J
一十﹃
9
の値を1とする。したがって、以下では、b、巧は、次
︵卓︶、ま11[︵一1“︶十︵H−“︶尽]$
︵N︶、 51IHlo−只一−軋−§︶
のよ・つになるo
ここで、 ・
︵o︶ ㌧11﹃b+“、︵−十﹃、︶
である。
最適な消費・貯蓄計画は、予算制約式㈹の下で生涯の
壬60
(’23) 年金課税と貯蓄
り︵すなわち、息1−﹃であり︶、かつ、﹁増加分﹂︵利子
でなされる坑ら︵すなわち、“H﹃であれば︶、
分︶に対する課税が通常の利子所得への課税と同じ税率
㈱式で示されているように、生涯可処分所得の現在値
3 年金と課税が生涯可処分所得に与える影響
枇、λで与えられる。ωとωとをこれに代入して整理す
となるから、んはぜ口となる。しかし、右の条件が満さ
︵畠︶ ︵−−“︶尽“︵一−↓︶﹃11・、
これがゼロとなるのは、
年金の﹁元本分﹂に対する課税の現在値との差を表わす。
次に、ムは、保険料控除に伴なう税の節約分︵hミ︶と、
させることがありうるのである。
つまり、年金の存在が、生涯可処分所得の現在値を増加
なされない場合には、^は正の値をとる可能性がある。
れないと、んは正または負の値をとりうる。例えば、ψ
面︺
が利子率を上回る場合、あるいは﹁増加分﹂への課税が
ると、次のようになる。
一十﹃
套11§−柱
李11−早一十︵丁児奪
H+﹃
と⋮−1叶︵ H I 邑 ︶
︵宝︶ ﹄11と十舎十釦
ここで、
︵ご︶
︵旨︶
︵ミ︶
である。
る場合には、ん、Aで表わされるような効果も生ずる。
化は^のみによって表わされる。しかし、年金が存在す
存在しなけれぱ︵θがゼロであれぱ︶、可処分所得の変
税の賦課による可処分所得の減少を表わす。仮に年金が
処分所得の変化を評価しよう。
以下では、日本の現実の制度に即して、年金にしる可
涯可処分所得は増加することになる。
の場合である。税率がぺより低ければ、年金によって生
︵6︶ “H“。⋮︵一十﹃、︶き
んは、年金の手取り額の現在値と保険料支払いとの差
すなわち、“1lHである。
公的年金の場合、保険料は全額所得控除が認められる。
これらは、次のように解釈される。まず、ムは、所得
額を表わしている。仮に年金が年金数理的にフェァであ
461
一橋論叢 第94巻 第4号 (24)
れて課税されることとなっている。しかし、給与所得控
給付の段階では、原則的には年金は給与所得とみなさ
﹂蜆11o.旨$
税率は=一%程度となる。したがって、この場合には、
得者の場合、年収五〇〇万円では課税所得に対する平均
である。
除が適用されること等のため、通常の額の年金であれぱ、
課税されることはない。そこで、ここでは、全く課税が
^11︶
套”ミ
−十尽
李11−$十﹁﹁J$
H+﹃
この場合には、
であるから、これは、生涯可処分所得の五%程度であり、
険料の約五割程度の大きさとなる。保険料率は約一〇%
違うほどのものではない。そして両者を合計すると、保
影響より大きい︵ただし、高額所得者ではAの方が大き
このように、現在の日本の制度では、公的年金が保険
となる。
決して無視しえぬ大きさのものである。
なされない場合、すなわち、“11““oの場合を考える
んの値を評価するには、ψと、γの値を評個する必要が
税制の影響だけをみるために、公的年金が年金数理的
数理的にフェァでないことの影響の方が、保険料控除の
ある。これについての詳細は、附論1,2に論じられて
にフェアであると仮定してんの値を求めてみよう。前と
こととしようo 、
いる。利子率が年利七%、経済成長率が七%の場合をと
同様にγが二一・四であるとし、ψもこの値に等しいと
くなる可能性がある︶。しかし、両者の差はオーダーが
ると、税引前のγは二一・四である。少額貯蓄優過税制
すれぱ、
^皿︶
等を考慮すると利子所得に対する所得税率は八%程度な
ので、、。は約一一・四と.なる。また、ψの値は十六二
となる。したがって、所得税率が=一%の場合、んと^
と1−o.H饒も
得税制は、保険料の控除を認める一方で年金受取りに課
の含計はθの約三割となる。すなわち、現在の日本の所
である。したがって、
﹂”1oIωoo軸
んの値は所得税率に依存している。家族四人の給与所
462
(25) 年金課税と貯蓄
税をしないことにより、保険料の三割程度の補助を与え
ていることになる。
では、んと^の値をともにゼロとするような課税︵す
なわち、年金が生涯可処分所得に影響を与えないような
課税。以下では、これを﹁申立的課税﹂とよぷことにす
る︶を行なうには、年金に対する所得税率をどの程度の
水準とする必要があるだろうか。
年金数理的にフェアな場合の中立的課税の条件は、す
でに示したように、
“⋮づ ““㌻、u︵−十﹃、︶∼
である。したがって、課税前受取り額に対する税率は、
、”︵一十、︶羊、尽
H + 尽
となる。これまでと同様に、H+﹃、H曽.♪尽“鼻一︸■
o■貝■1−o■富として計算すると、h、”o.まとなる。し
たがって、五〇〇万円程度の給与所得者の平均税率より
は若千高い税率で課税を行なう必要がある。
実際には、公的年金は年金数理的にフェァでないので、
これより高率の課税を行なう必要がある。地をぜ口とす
るには、㈹式より、
﹃
、
“
“1−刊喧”Hlー
も
とする必要があるので、課税前受取りに対する税率は、
㌻1−︵。十、︶・ま−、、
−十尽
となる。前と同じパヲメータの値を用いると、h。。Ho・ま
となる。すなわち、年金額の三分の一をこえる高率の課
税をしないと、中立性が保たれないわけである。
4 貯蓄率への影響
ここでは、労働所得を1に規準化しているので、貯蓄と
年金が貯蓄率にいかなる影響を与えるかを検討しよう。
労働所得に対する貯蓄率とは同義であり、②、ωを㈹に
代入することにより与えられる。これを整理すると、
︵ご︶、⑦11︵−1β︶[−−︸︵一−軋︶]1︵−1員︶︵HIき︶$
H+﹃、 .
1㌧1“十︵T、一︶苧
つまり 年金保険料の引上げにより、貯蓄は必
亀 一十﹃
憎−−一7員︶一丁§1員、■。七十一、川、をく。
が得られる。したがって、
︵8︶
となる。
463
一橋論叢 第94巻 第4号 (26)
らず減少する。
ここで、課税がなく︵、11“”“11叶11o︶、かつ年金が
年金数理的にフェァな場合︵尽11﹃︶を考えると、
①防
11lI−
塞
となる。つまり、強制貯蓄たる年金と任意貯蓄とは一対
一で代替するわけである。
しかし、一般の場合には、偉①式で示される徴係数は、
マイナスになるとは隈らない。つまり、強制貯蓄と任意
貯蓄との代替は必らずしも一対一ではないわけである。
まず、年金がフェァでない場合には、課税がなくとも
には、㈹とωを㈹に代入することにより、
︵冨︶、、 吻11︵−1員︶[H−叶︵H1包︶]1︵一ーき︶s
となる。第一項は、課税による生涯可処分所得の滅少に
伴なう効果を表わしている。第二項は、︵一−邑$だけの
所得が若年期に失われることによる効果である。年金が
フェァであり、課税が中立的であるため、これは単に所
得の発生時点を若年期から老年期に移す効果しかもたな
いが、若年期の貯蓄はその額だけ滅少するわけである。
①亀
−1lH−さ
①⑦
この場合、θに関して偏徴分をとると、
︵8︶、
となる。つまり、強制貯蓄たる年金が一単位ふえたとき、
Φ迫竃はマイナスーか冶罪離する。例えぱ、課税がなく
かつ、息V﹃ であれば、剛式右辺第二項はαより大とな
任意貯蓄は︵Hl§単位しか減らないことになる。これ
しか減少しないことによる。
若年期の可処分所得は保険料分は減少せず、︵−1§s
は、保険料が所得税の課税べースから控除されるため、
るから、
①s
①⑦
1︿−−
とガる。つまり、保険料の一単位の引上げにより、貯蓄
討しよう。ここでは、年金がフユアであり、かつ中立的
次に、所得税率が貯蓄にいかなる影響を与えるかを検
得が増大するため消費が増大するからである。
課税がなされる場合を考える。この場合、㈹から、
は一単位より多く減少する。これは、老年期の可処分所
年金がフェァであり、かつ中立的課税がなされる場合
464
(27) 年金課税と貯蓄
①⑦
−”1︵HI良︶︵H1匙︶十叶§
黒
となる。したがって、
ミー−︵H1負︶︵一−&︶㌔さ
とおくと、θがポより高けれぱ税率上昇により貯蓄は増
大し、逆にポより低けれぱ減少することとなる。︸1−H
の場合のがの値を計算すると、例えぱ具”o.Nし“o、ωで
あれぱ、グは十%となり、現実の値に近くなる。α、d
に関する右の値は非現実的なものではないから、竃蔓
が正となることも負となることも、現実に起りうると考
えら れ る 。
このように、公的年金の存在を考えると、税制が貯蓄
に与える影響は、不確かになる。いいかえれば、税制が
貯蓄に与える影響を分析するには、公的年金の保険料率
がどのような水準にあるか︵現実の値が右に示したヅよ
り高いか低いか︶を老慮しなけれぱならないわけである。
ここでは
課税と貯蓄に関する従来の分析は、こような考慮を欠い
資産所得を考慮することは容易にできるが、
多期間モデルについては、附論3を参照。
︵3︶ 厚生年金などの公的年金では、保険料は雇用主と本人
省略する。
とで折半される。ここでは、雇用主負担分はいったん實金
る。したがって、rは雇用主負担分を含む金額であり、θ
として支払われたのち保険料として徴収されるものと考え
は全体としての保険料率︵厚生年金では、現在一〇・六%︶
てある。なお、保険料率は収入そのものでなく、これから
が、ここでは両者の差を無視する。
ボーナス収入を差引いた﹁標準報酬﹂に対して定義される
︵4︶ 実際の所得税率は超過累進構造となっているが、ここ
︵5︶ 実際の所得税制では、塞礎控除、配偶者控除、扶養控
では簡単化のため単一税率とする。
れらを無視し、給与所得控除を近似的にこの形で考慮する。
除などは所得に依存しない定額となっている。ここではこ
︵6︶ ψの具体的な値については、附論2を参照。
︵7︶ ここでいう利子率は、年利ではないので、その値の評
︵8︶ この他に遮産がありうるが、ここでは無視する。
個には注意が必要である。謙細は附論ーを参照。
︵9︶ 附諭3を参照。
︵10︶ 賦課方式であれぱ、附論2で示すように、こうしたこ
︵11︶ 現行の所得税では、年金は給与所得とみなして、給付
とが生じうるo
所得控除が適用される。控除額は収入に応じて四〇%から
五%となっているが、最低控除額として五七万円が認めら
465
ていた点で不十分なものだったといえる。
((
21
第4号(28)
第94巻
一橋論叢
れるoこの他に、次の人的控除がある。
ま目.。、言ミ§﹄県まミぎ“曽Oミ§Sき−。。O︵>晶童
岬o目o﹃閏竈O目巴 ]4嘗目叩庁﹃眈 ︸目 >吹o盲﹃oo目凹□o O障O岸巴 >ooo−自自−凹−
︵5︶ 穴oけ一豪o貝■.彗oω自ヨ昌雪蜆一■一、↓冨丙〇一〇艮旨箒﹃−
5ooω.
老年者控除 二五万円
配偶者控除 三三万円
基礎控除 三三万円
老年者年金特別控除 七八万円︵厚生年金および厚生年
︵6︶雪昌目婁一F、、H買娑昌彗ρO量邑>8冒昌己筈昌
6oo−︶一〇勺−Noσ1竃‘
−目p ■目① O㌣o−o OHOミ叶ワ 竃OO0F、 ﹄§ミ㌻S苫 向ooミo§こo
金基金による年金給付を対象︶
したがって、配偶者のある受給者では、二二六万円までの
︵8︶≦⋮陣舅昌一ω.声彗ρ﹄昌葺奉F,Oo昌君旨。目
§ミミ§一くo−−曽︵>雫=一〇S︶、やω蟹191.
庄昌眈串目o旨o■o自oq−勾冒目o昌彗昌勺饒昌句自冨匡op、向8§−
︵7︶ ↓−o昌勺朋oP向1>二、H目冨握o■o量巨o目巴C巨−けく 句巨目o・
司§㌣§くO−1ご︵㎝O膏O昌σ亀SOO−︶弓やaω1套1
︵12︶ 野口愁紀雄﹁日本の企業の税負担﹂﹃季刊現代経済﹄
年金には課税されないこととなる。
第六一号︵一九八五 年 春 ︶ 。
参照文献
斤テo−−自O葭o斤O︷ω09巴ωoo目﹃岸︸一]巴自o貝一ブ血■昌①Oくo−oOO自−
豊目勺匡o自向E目o巨op、.﹄§帖ミ§s向8§§s完§︸雨§一くo;少
︵1︶ >篶︸碧戸>‘昌o穴o巨一一・o員■’..之邑o畠一ω睾ま撃
向o昌o昌一〇婁o;胃9⋮昌μけ巨o望昌oε葛o↓↓︸宍凹匡o自一、ぎ
目ol餉︵o8.乞ooω︶一勺勺.εまー塞1
勺﹃oo鶉y、、ぎ旨§富ミ§ミ向s§§“o完§膏sく〇一.い︵ω︷訂−
︵9︶く墨具室.戸、〇三ぎO昌彗昌睾、餉二季ぎo≧一〇〇塁昌
︵卓∀oやよoIおoo.
冒σ智筍塞︶︸o.ω塞ーく.
︵2︶望眈斥貝呂こ・一言ま一声彗庄O昌9声..髪o室息
司自自2混勺曽σ一〇目μ.,≡︵︷∀℃勺lN二−Nま−
≧訂昌葭巨毒ωo;匡o易8艘而■昌的カ昌ωoo邑oo8胃−q
ータの値について注意が必要である。この附論では、利子
本文のモデルは二期間モデルとなっているので、パラメ
附論− 一一期問モデルにおける利子率﹃の値
○鶉竃一昌oq一嘗邑o岩津匙>o昌昌Eg一〇三オ自目oユ轟一>■巴苫♂
︵3︶ 向く田目μ〇一﹄1一.、H饅串、o−oさ 匡室H目冨冒黒向−芭蜆巨9︷
O︷↓冨O冨饒S一峯Oま亘阯、﹄§ミ叫SS向§§§汁島ミ︸耐§くOF
■若年期は第一年目から第工年目までであり、老年期は鶴
の関係を述ぺる。
率について、二期間モデルでの値と通常用いられる年利と
︵4︶買黒豪置自oP固§s§ミ吻ぎミ§§ミ§o昏ぎ
ご一昌.ω︵旨篶一畠ω︶oo.ω謁−全o.
Hsミ、oミ︷﹂ミ亀ミ寒夕↓旨oC−二く0Hm岸︸O︷O巨−o芭o有o ∼﹃血誘一
466
(29) 年金課税と貯蓄
︵卜十H︶年目から第w年目までであるとしよう︵通常ライ
フサイクル・モデルにおいてなされるように、ここでの年
齢は、就業開始時より数えるものとする︶。
ここで、討^︵−十“︶、︵一十“︶である。
︵o仲叫θ鑓φ︶
︵o”oθ艶φ︶
ω唱昔の場合
したがって、︵H1ω︶式は、次のようになる。
若年期の第‘牢目︵H︿叶^卜︶における貯蓄を軌とし、
これは年率9で増加するものとしよう。すなわち、第一年
蛯 −1“ミ■■
︵−1ω︶、11−︵−十帥︶ト
o . 丁雫
目の貯蓄を∫として、
︵−1−︶ 畠H︵一十均︶^.8 ︵−^吊く卜︶
㈹ q^軋の場ムロ
であるものとする。
また、老年期の第‘年目H︵卜十−︿吊1︿ミ︶における消費
由 −く1ト
○ 卜
期の消費のそれぞれ平均値を表わすものと解釈される。す
ところで、㈹式における8やqは、若年期の貯蓄と老年
︵一−ω︶、、111︵一十軋︶ト
わち、第︵卜十一︶年目の潴費をoとして、
額を吻とし、これも年率9で増加するものとしよう。すな
︵HlN︶s1−︵− 十 〇 ︶ 一 1 ■ . ♂ ︵ 卜 十 − 1 ︿ 朴 ^ 峯 ︶
なわち、
であるとする。
年金や利子課税がない場合の老年期の予算制約式は、第
−■ ︵−十阿︶トーH
吻11−︼専1 ︸
るo
二れに︵HIω︶、一︵−1ω︶ミを代入すると、次のようにな
吻 ミート︵一十〇︶■IH吻
9 卜 ︵−十q︶ミ.トー一〇
したがって、
︵ミート︶^1ート士 鉋︵ミート︶
− ミ ︵−十骨︶ミ.トー−
P” ︼811⊥
卜互 忌
w年目の終価で評個して、
■ ミ
−山一 ︸11■十一
︵−1ω︶︼︵Ht︶ミ.ぎ11︼︵H士︶ミーく
である。ここで、.−は年利を表わす。︵一1ω︶式が、二期
モデルにおける㈹式に対応しているわけである。
ようになる。
︵一1−︶一︵一−o︶を代入すると、︵H−ω︶の両辺は次の
︵o北“θ館φ︶
︵“11︷θ館φ︶
467
第4号(30)
一橋論叢 第94巻
表^一1
ll 21 (i)
( P lj)
2期モデルにおける利子率r
;
d
(g)
( )
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
0,07
0.08
0.09
O.10
0.01
2.49
2.45
2.41
2.38
2.34
2.32
2.29
2.26
2.24
2.23
0.02
3.60
3.50
3.40
3.31
3.23
3.15
3.08
3.02
2.97
2.92
0.03
5.11
4.91
4.72
4.54
4.38
4.23
4.lO
3.98
3.87
3.78
0.04
7.18
6.83
6.50
6.19
5.91
5,65
5.42
5.21
5.03
4.87
6.25
0.05
10.04
9.46
8.92
8.41
7.94
7.52
7.14
6.80
6.51
o.06
13.98
1 3 .07
12.20
ll .40
l0.67
10.00
9.41
8.88
g.42
8.01
0.07
19.44
18.03
16.70
15.46
14.33
13.31
12.40
l l.60
l0_89
10.28
0,08
27.02
24.88
22.87
2 1 .OO
19.30
17.76
16.40
15.19
14.14
13.22
0,09
37.56
34.36
31.35
28,57
26.04
23.77
21.75
19.96
18.41
17.06
0.10
52.23
47.49
43.06
38,96
35.24
31.90
28.94
26.34
24.07
22.10
〔注1)
f1主本文(6)式で定義される利子率(τ昌Oの場合のf’入上表の酎算は附諭1の(1−4)式によ札
(注2〕
1“昌55.1;昌40 としてあるo
吻.手ぺ︵一崇⋮、一ミ苛、蟻
ド丁い︵一崇⋮一一、士、一非罫一
︵−1︷︶
えているのでγということになる︶は、これから1を差引
したがって㈹式における〆︵ここでは■1−oの場合を考
いたものにより与えられるoミー−a一■“きとし、パラメ
ータσ、.也についていくつかの値を与えたときのrの値は、
表A11のようになる。.
目本の公的年金の財政方式は積立方式からは・かなり離れ
附論2 公的年金の収益率ψの値
1で取上げた貯蓄の収益率τとは異なる値になっている。
ているので、本文㈹式で定義される﹁収益率﹂久は、附論
いま、個人間の所得差を無視し、去年度における人々の
9の率で成畏するものとする。また、亡年度における保険
標準報酬が晩で表わされるものとしよう。標準報酬は毎年
る。さらに、レプレースメント・レシオは一定値λである
料率を勿とし、これは毎年伽の率で引上げられるものとす
は㌧sであるとする︶。
ものとする︵すなわち、f年度における一人あたり年金額
第一年度において一歳であるような個人を考えよう︵こ
こで、年齢は、附録1におけると同様に、裁業開始時点か
ら数えるものとする︶。
本文㈹式のψを評価するには・この個人の支払保険料と
468
(31)年金課税と貯蓄
は二期間モデルなので、保険料、年金ともに、平均値とし
は生涯保険料の現在値、右辺は生涯年金の現在値であるこ
であることが分る。ここで、o“\11軋に留意すれぱ、左辺
$ト”宍考−卜︶
て算出しなけれぱならない。
いるなら、その収益率は利子率に等しくなる。これは、当
とが分る。したがって、年金が完金積立方式で運営されて
受取り年金を算出する必要がある。この際、本文のモデル
まず、受取り年金の平均値pは、
﹂く−卜丁ト士
然の結果である。
、11 ︼宍H+呵︶−.。S
− ミ
さて、厚生年金について、︵NI一︶式で示されるψの値
3は完全積立方式の場合であり、このときのψの値は、表
なお表A12には、これ以外のケースも示した。ヶース
○ている。
が七%の場合をみると、ψは約十六と、かなり高い値にな
以上の想定の下でのψの値をさまざまな9について示す
と、表A−2のケースーのようになる。例えぱ経済成長率
する。そこで、ここでは、§⋮o,o蟹とおく。
れているが、これは年率では、約二・五%の引上げに相当
二〇二五年に二八・九%まで引上げられることが必要とさ
いる。そこで、ここでは、㌧”o,sとおこう。保険料率は
入期間が延畏しても六九%程度に維持されることとなって
シオλは現在約六八%であり、今回の年金改革により、加
%である︵雇用主負組分を含む︶。レプレースメント・レ
を評価しておこう。まず、現在の保険料率弘は、一〇・六
一 ミ
” ︼︵−十唱︶“.■1一口︵一十q︶ぜ一]
︵一十蛯︶ミー■1H
ミート丁■二
o︵峯−卜 ︶
u 宍−十阿︶■s
次に、保険料支払いの平均値〃は、
− ■
雨ぺ”IMu︵−十§︶^,さ−︵H+q︶−.−s
5上
H■
皿−︼︵H+b^、事s
︵H+㌧︶トーH .
ξ1−一
⋮ ss
となるoニニで、、Hq+§である。
盲
したがoて、ψ は 次 の よ う に な る 。
︵∼1一︶ 尽−llIHH ︵一十喝︶■11一
、 卜 、︵H+q︶ミ.■−H ㌧
$﹃ ミート鉋︵−十b■1− $−
ここで、ψと﹃が等しくなる条件を、Q”、11軋の場合に
は、既に示したとおりである。
AI1で唱⋮、とした場合のγと等しくなっている。これ
附諭3.多期間モデル
つき導出しておこう。︵一−壮︶式と︵N−一︶式を比ぺると、
その条件は、 .
469
3.50
0.03
6.78
13.10
4.72
0.04
8.59
16.73
6,19
0.05
l0.71
2 1 .04
7 , 94
0,06
13.19
26. I l
l0.00
0.07
16.06
32.03
1 2 .40
0.08
19.38
38.90
15.19
0.09
23.20
46.83
18.41
0.10
27.58
55.94
22.10
0.11
32.61
66.36
26.33
0.12
38.35
78.25
31.16
0.13
44.89
91.77
36.65
O.14
52.35
l07.13
42.88
0.15
60.83
124.54
49.94
m
o.025
o,oo
0.00
o.690
0.690
0.40
0.105
0.105
0.15
係が用いられる。
^⊥︵一十、︶︷.−
︵ω−−︶ q1−︼
宅 q ︵ p ︶
ただし、
q︵ P ︶ 1 − P 一 . ミ ︵ − 1 、 ︶ ︷ 舟 −
q︵9︶H一〇〇q9 ︷11−
観的割引率を示す。異時点間の消費の代替弾カ性はψによ
って表わされる。ライフサイクル・モデルでの同次性仮説
を満す加法的効用関数は、右の形のものに限られることが、
伽:保険料引上げ率,11レプレース’ント.
レシオ,θ:初年度傑険率。
一階の条件として次式が得られる。
さきの効用関数を右の予算制約式の下で最大化すると、
表わす。
労働所得、∫は所得の成長率、工は労働期間を、それぞれ
で与えられる。ここで、﹃は市場利子率、yは第一年目の
〒一︵H+﹃︶︷.− ㌃一︵−十﹃︶︷.一
︵ω−ω︶︼ 11さ︼
幸 ◎^ ■︵H+ト︶^、、
な場合には、
一方、生涯の予算制約式は、年金も課税もない最も単純
る。
く賢−︵乞塞︶一H崖oヨ召o目︵H漂N︶によって証明されてい
(注2)
l
2.49
10.08
61
7.59
5.25
である。また、〃は生涯期閲、Qは.也期の消費額、ρは主
︵ω−N︶
A
3.97
0.02
多期間のライフサイクル・モデルでは、 次の形の効用関
;
ψは本文(ヨ)式で定義される年金の収益軌
上表の計算は附論2の(2−1)弐による。
w=55,エヨ40としてある.
(注3)
0.01
{
(注1)
ir- ; 3
ir-; 2
ir-;
p
)t
9
)
(
年金の収益率
表A−2
第4号 (32)
第94巻
一橋諭叢
470
(33)年金課税と貯蓄
一工一・干乖了
すなわち、消費は一定率[︵−十﹃︶㌔︵−十、︶]ξで成長する
に代入することに
“vN
こととなる。したがって、第一年目の消費をqとすると、
を︵ωIu︶
一、ム一工吏“
となる。01の値は、︵ω−㎞︶
より求められる。結果は、
工丁一童ト
pI 宅5
、、、工乖一
となるoここで、
手垂︸
である。
が2の場合に相当する。そして、本文で用いたパラメータ
本文中で用いた効用関数は、代替の弾カ性μが1で、W
と主観的割引率ρとの関係は、
員
︵山1㎞︶ 、十−1II
Hl負
によって表わされる。表A11によれぱ、年利と成長率が
五%の場合の二期間利子率︵割引率︶は約八なので、これ
を前式のρに代入すると、αは○・九となる。つまり、
︵年金や課税がないときの︶貯蓄率は、約一割となる。
これに︵u−㎞︶式を代入すると、
なお、本文中の︵一〇︶一︵ζ︶から、らとqの比率を求め、
Q。 一十﹃、
“ −十、
となる。当然のことながら、これは︵ω−革︶式でμを一と
さて、このモデルにおいて、本文で考えたのと同様に年金
した場合の式に対応している。
や課税を導入すると、どうなるであろうか。
︵∼1α︶ ぺ皇Hローs−只HI軋−§︶]5︵H+㌧︶︷1一
まず、労働期の第.丑年目における可処分所得は、
となる︵記号の意味は本文と同じ︶
1 ︵−^︸^■︶
次に、第.丑年目における課税前の年金額を、
とする。すなわち、ある個人が仮に退職後も働き続けた場
︵ωlN︶ さH︵−十b︶sさ︵H+b︷.一︵卜十−︿軋^ミ︶
合に得られる収入との比率で年金額を定義することとする。
人が.丑歳のときの社会の平均収入なので、︵−十曲︶$がその
仮に収入に個人差がないとすれぱ、5︵一十b︷、−は当該個
時点の労働所得に対するレプレースメント・レシ才を表わ
すこととなる。
年金が数理的にフェアな場合には、生涯にわたる保険料
いは、w歳における終価︶でみて一致する。したがって、
支払い額と年金受取り額とが、一歳における現在値︵ある
471
一橋論叢 第94巻 第4号 (34)
次式が成立する。
︵虐⋮Hθ什岬︶
︵s什−θ∼㎜︶
せ采一、、5粋−一・圭一来一、、・
︵山−。。︶
したがって、
重手汗
となる。ここで、
s11︵H+b、︵−十、、︶
である。
︵ωIHo︶ “^⋮[︵一1“︶十︵H1“︶苫$5︵H+b^.。
さて、課税後の年金受取額は、
︵卜十H︿軋^ミ︶
である。
したがoて、生涯にわたる予算制約式は、
㌃−︵一十﹃、︶^.一 †一︵−十﹃、︶^1。
ミ p ト︵一十b^1−
︵ω1■︶ ︼ 1 − さ 隼 ︼
ミ ︵ − 十 、 ︶ ^ . −
十ミ事︼
となるoただし、
†ト士︵H+﹃、︶^.−
最適化の一階の条件は︵︸1︷︶
一エニ肚 μ 碁 H 鐵 、 ︶ 一
である。
この場合においても
で
一与えられることが容易に確められる。
さて、︵ω−HH︶式の右辺で与えられる生涯可処分所得が、
に定義した刎を用いると、︵ω1HH︶式の右辺は、
課税や年金によってどのようになるかを調ぺておこう。前
︵]1ご︶
となる。
年金がフェァな場合には、︵山−o︶式を用いることによ
り、次のようになることが容易に確められる。
工毒、、一一睾垂
㌧、−1−H1吋︵一−包︶
÷争、、一一羊隼き
︵ω1量︶
ここで、
︵ω1ご︶
一十b
き“羊長
︵u−旨︶
︵ω−旨︶ ﹄、凹1−舳§−−
冊も
である。これらは、本文中の⑯∼㎝に対応しているが、年
一斗b
ていない。
金額の定義法が本文とは異なるため、完全な対応にはなっ
︵一橋犬学教授︶
472