Page 1 Page 2 ファンジビリティー仮説とフライベーバー効果 アメリカ

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ファンジビリティー仮説とフライペーパー効果
塚原, 康博
一橋論叢, 99(6): 860-874
1988-06-01
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/12666
Right
Hitotsubashi University Repository
第6号(136)
第99巻
一橋諭叢
康 博
^1︶
所得の効果よりも大きいという現象のことである。
塚 原
ファンジビリティー仮説とフライペーパー効果
序論
ら導き出される結果と実証分析から導き出される結果と
金の効果に関する研究が数多くなされてきたが、理論か
二節では、ファンジピリティー仮説の可能性を考慮した
目本的な特殊事情も考慮していきたいと考えている。第
おいても実証されうるのかに焦点を当て、必要に応じて
ァンジビリティー仮説とフライペーパー効果が、日本に
そこで、本稿は、アメリカにおいて実証されているフ
に、しぱしぱ食い違いがみられる。とりわけ間題とされ
地方政府の支出関数を導出し、第三節では、第二節で導
アメリカにおいて、地方政府の支出行動.に与える補助
ているのが、ファンジビリティー仮説︵︷冒oqま=々耳−
出した地方政府の支出関数を日本の地方自治体に適用し、
分析の結果を受けて、実証モデルの修正を行ない、実証
Ooま置m︶とフライベーバー効果︵ξ勺毛智亀①9︶で
一部が代替可能な財源︵︷冒o目巨①﹃易昌昌鶉一使途を特
結果を解釈し直す。そして、第五節では、本稿で展開し
実証分析を行なう。第四節では、第三節で行なった実証
定化されない財源︶に転換されているという仮説であり、
た主張を総括し、分析上の問題点を指摘する。
ある。ファンジビリティー仮説とは、条件付き補助金の
フライベーバー効果とは、地方政府の支出に与える無条
件補助金の効果が、地方政府の支出に与える地方の私的
860
(137) ファンジピリティー仮説とフライペーパー効果
一一 モデル
︵6No。︶一墨唱幅冒︵筍o。α︶に従っている。
ここでは、補助を受けているx財と補助を受けていな
いア財の二財のみを考え、財の生産においては規模の収
位を定義している。地方政府の自主財源は、卜H+■﹃で
穫一定を仮定し、総費用と消費される量が等しくなる単
ファンジビリティー仮説は、旨oΩ巨冨︵SN仰岩葛︶
が提唱し、s目鶉旨︵岩o。α︶によって再ぴ取り上げられ
1
γ
夏I1一’^’一11−1
0G・B’“†…
■\. ㌔、 、. 、. 、
A
x
X
=
α■
。
−↓.月
;
…
、、、、、 、、
十
...五......
DE F
≡
←一1二。一斗←GHl
÷
、
、
、
=,
≡I
1、・1’
Lr
、
︵Ts︶茅 岸十牟
卜H+sΩH
X財の実際の価格、Hは、、−1l I一1
代替可能な総財源のうち、卜■十sQHを犠牲にするから、
総費用がト■十QHであるx財の量を消費するために、
の下でも成立することになる。そのとき、地方政府は、
説︶とするならば、λ点は曽線で示される予算制約
^3︺
代替可能な財源に転換できる︵ファンジビリティー仮
政府がx財に対する条件付き補助金QHの一定割含¢を
によって決定されるものとしよう。ここで、もし地方
にシフトする。その結果、五財とr財の支出配分がλ点
^2︺
れたとすると、理論上、地方政府の予算制約線は■、線
こで、x財に対し補助率Qミo句の定率補助金が支出さ
あり、補助金交付前の予算線は、bQ線で示される。こ
たが、問題の本質を理解するために、ファンジピリティ
ー仮説を図示することにする。図1がファンジビリティ
、‘
、。 ミミミ、
、一
、
Lズ
\.
1
0
となる。ただし、この場合の価格は、補助
金が誘発した価格のことであり、補助金が価格変化を引
卜H+QH
き起こさなけれぱ、1である。
861
。1仮説を図示したものであるが、この図は、峯oO巨冨
図1
第99巻 第6号(138)
一橋論叢
もしS1−oならば︵理論的に考えられているケースで.
代替可能な財源に転換されていると結論し、s昌電≡
に対する連邦補助金の四〇%から七〇%が代替可能な財
︵;o。α︶は、大都市の社会サービスと都市援助サービス
源に転換されていると結論した。
あり、ファンジビリティー仮説が否定されるケースであ
QH 、
低下する。そのときの予算線は由、線である。
る︶、、HlI− となり 、Hは法定補助率分だけ
トH+QH
従って、アメリカの場合、一般的に、ファンジビリテ
ィー仮説が成立していると考えられるが、日本において,
また、sH一ならぱ︵条件付き補助金が全て代替可能
な財源に転換されるケース︶、、11一となり、X財の価格
もファンジビリティー仮説が成立しているか否かを以下
に考えられるほど低下しないことになる。ただし、sQ■
し、ここで示すアメリカ型のモデルは、峯oΩ巨屋︵6凄︶
し、次に、それを修正した日本型のモデルを示す。ただ
とぎ昌潟冒︵−湯α︶に従い、アメリカ型のモデルを示
を導出する必要があるが、まず初めに、呂8巨鳥︵5葛︶
で検討してみたい。そのために、計量可能な実証モデル
変化は起こらない。そのときの予算線は曽線である。
そして、o︿s︿−ならぱ︵条件付き補助金の一部が代
︵−ls︶睾
替可能な財源に転換されるケース︶、、H”H
、︵H−s︶矛 亭 、 卜H+亭
となり く であるカら、、Hは理論的
だけ地方政府の代替可能な財源が増えるので、条件付き
とs昌潟⋮︵−湯α︶が使用したモデルと異なるが、本
ト ー 十 Q H 卜 H + Q ■
補助金QHのうち、sQ申が財源補填の効果を生み、
ができない。
いるのかの結論は、実証分析に委ねなければ、得ること
るが、地方政府が実際にどのような予算制約に直面して
以上が、図によるファンジビリティー仮説の説明であ
と地方公共サービスの配分割合を決定できると考えられ
源と公的部門の財源の合計︶を制約条件として、私的財
ているので、地方政府は、地方の総財源︵私的部門の財
ァメリカにおいて、地方議会が地方税の決定権をもっ
①アメリカ型モデル
質には変わりがない。
ちなみに、アメリカの実証分析において、峯oΩ邑篶
る。ここでは、地方政府が、地方の総財源を制約条件と
︵一1S︶ΩHが価格変化の効果を生むことになる。
︵岩富︶は、地方政府に対する教育補助金の約七〇%が
862
(139) ファンジピリティー仮説とフライペーパー効果
けている五財とそれを受けていない3財の二財を考え、
ただし、地方公共サービスとして、条件付き補助金を受
共サービスと私的財の支出額を決定するケースを考える。
して、地方政府の効用関数を最大化するように、地方公
数をつくると、
導出を行なう。そのために、次のようなラグランジュ関
ω式の制約下で、㈹式を最大化して、λ財の支出関数の
ただし、β十b+﹃11Hとする。
qlI己ooq曾十?oo目め宙十、ooqざ ︵ω︶
用関数をもつものとすると、
卜“§−oo日oト十壇o胴め﹄十、o㎝めo+宍民−
地方の総財源を次のように示す。
旬H“のト⊥−、宙め由十“めo1−■ト十■b+SQト
、トのトー“め由1,oめo︶
私的財として、.o財のみを考える。
十旨吻十5 ︵一︶
最大化のための一階の条件は、次の連立方程式によって
8由亭
ド“トー事H。 ︵一一
8﹄e
ー1IIl㌧、トーIo ︵企︶
①ト ミ
示される。
^5︺
ただし、射”地方の総財源、、卜1−∠財の価椿、竃11∠
財の量、饒1−刀財の価格、S1−刀財の量、“1−0財の
価楮、ぎ“0財の量、ど1−地方政府の自主財源で賄う
λ財に対する支出、卜由11地方政府の自主財源で賄う3
財に対する支出、sH∠財に対する条件付き補助金のう
−1111㌧、o”o ︵ひ︶
竃 ﹃
豊
8oざ
る条件付き補助金、お⑦11無条件祢助金、5H地方.税の
^4︺
税引き後の地方の私的可処分所得、である。
ω式と㈲式からλを消去し、それに例式を代入した式に、
ち代替可能な財源に転換される割合、ε11∠財に対す
地方税の税引き前の地方の私的所得をγとすれぱ、﹃
ω式と㈹式から1消去した式を代入し、整理すると、
尉1−、トめ﹄十、由め出十、o雨oHぺ十SΩ﹄十あ吻 ︵N︶
ここで、無条件補助金のうちψの割合がλ財に振り向
、トめ﹄uβ︵ぺ十sQト十由吻︶
①卜
11−お−、﹄めトー“の由1きめo”o ︵N︶
11卜﹄十卜宙十5であるから、ω式は次のように示せる。
次に、地方政府が、次のようなコブ・ダグラス型の効
863
一橋論叢 第99巻 第6号 (140)
︵“北肺︷賄禍一・εま・婁一
化を考慮すると、上式は、
けられると仮定し、五財の条件付き補助金による価格変
②日本型モデル
^7︺
によってなされている。
トト十Qト十§り1−負ぺ十︷−IS︵Hーミ︶︸Qト十員由⑦
卜卜十SQ﹄十§吻十QトーQトー−ミ︵ぺ十SQ﹄十射り︶
決定すると考えられる。ここでは、地方公共サービスと
関数を最大化するように、地方公共サービスの支出額を
政府は、所与の公的な予算制約の下で、地方政府の効用
税の自主的な決定権が。与えられていない。従って、地方
日本の場合、アメリカと違って、地方議会に対し地方
左辺は観察できる∠財への支出を示すから、これを
して、条件付き補助金を受けている∠財とそれを受けて
刊負︵﹃十sQ﹄十畠吻︶
タとおくと、
いない3財の二財のみを考える。
地方政府の公的予算を次のように示す。
掌Hβぺ十青1S︵Hーミ︶−Ωト十ミ5吻 ︵oo︶
㈱式が∠財に対する支出関数であり、㈹式を実際のデ
ータを使って推定ずれば、αとψの推定値を得ることが
まない︶、その他の変数の定義は、ω式における定義と
ただし、由“地方政府の公的予算︵私的部門の財源は含
blIさQ卜十“Q宙H卜﹄十卜宙十SQト十由⑦ ︵o︶
ファンジビリティー仮説が支持されたことになる。また、
同じである。
できる。もしo︿s帆−の推定値を得ることができれぱ、
モデルが示すように、理論的には、r︵地方の私的所
地方政府の自圭財源を地方の私的所得rの一定割合π
とすると、−十卜■H司ぺとなる。この式をω式に代入
得︶と鶉吻︵地方に対する無条件補助金︶のλ財の支出
に与える効果は、同じ︵いずれもα︶でなけれぱならな
すると、
︷6︶ ・
用関数をもつとすると
次に、地方政府が、次のようなコブ・ダグラス型の効
由H、﹄④ト十まめb11司ぺ十SQト十鶉吻 ︵Ho︶
いが、しばしぱγよりも昂吻の係数の方が大きいという
実証結果が得られている。これが、いわゆるフライペー
パー効果という現象であるが、それに対する理論的な説
明を与える試みが、Oま8︵S葛︶や峯巨睾︵岩o。い︶ら
864
(141) ファンジピリティー仮説とフライペーバー効果
q阯己ooq奮十モooo$ ︵旨︶
卜﹄十Q﹄十§吻“ミ司■十青1S︵−−員︶︸Ωト十負お⑦
トト十SΩ﹄十竃⑦十Q﹄lQ■1−員︵司\十SQト十射⑦︶
左辺は観察できる∠財への支出を示すから、これを
ただし、員十bH−とする。
連とおくと、
㈹式の制約下で、ω式を最大化して、∠財の支出関数の
肉﹄”員目ぺ十青1S︵−ーミ︶−Qト十員由吻 ︵旨︶
㈹式がλ財に対する支出関数であり、㈹式に誤差項を
数をつくると、
卜1−己ooq竃十モooqめ宙十宍■1、も﹄1、晃自︶
加えたものを推定式とし、次節では、それを日本の地方
導出を行なう。そのために、次のようなラグランジュ関
最犬化のための一階の条件は、次の連立方程式によって
自治体に適用して、実証分析を行なう。
三 実証分析
示される。
^畠︺
①卜 β
111−1㌧、トー−o ︵嵩︶
8﹄書
き b
−”−−㌧、由1−◎ ︵ご︶
、も﹄Hミ︵曽㌣十sQ卜十お⑦︶ ︵ご︶
理す る と 、
豊
胸式とω式からλを消去し、それにω式を代入して、整
ち生活保護費負担金、児童保護費負担金、老人保護費負
に対する国庫支出金のうち民生費に関わる部分、すなわ
市における市民税所得割の課税対象所得額︵5、②各市
対象年度は昭和五九年度である。説明変数として、①各
本節では、東京都における二六市の民生費︵向﹄︶を対
^9︶
象とするo卜吻によるクロ又セクシ目ン分析を試みる。
ここで、無条件補助金のうちψの割合がλ財に振り向
を使用した。
担金、の合計額︵3︶、③各市に対する地方交付税︵5吻︶、
8■寄
憎n㌣、も、、晃、o .︵ε
けられると仮定し、λ財の条件付き補助金による価格変
一“北閑︷請吻一・一早睾婁一
■﹄1−o.ε胃8ぺ十H.竃ごΩ﹄十〇.室葛一射⑦
推定結果は次のとおりである。
^m︶
化を考慮すると、上式は、
H具司、十忠3+お勿︶
865
第6号(142)・
第99巻
一橋論叢
︵◎−8sおo︶︵o.8o竃︶︵o−ミ等ひ︶
は否定されたことになる。
^娑
o。睾哀旨であるので、γの係数から求められるαの値は、
として用いることにする。昭和五九年度のπの値は、
て市民税個人分の二六市の合計額を分子としたものをπ
の二六市の合計額を分母とし、それに対応する収入とし
て市民税所得割の課税対象額を用いているので、この額
源の比率を示すものである。推定式では、γの指標とし
こで、πは、地方の私的所得に対する地方政府の自主財
うと、推定式のγの係数は、㈹式の§に相当する。こ
全て五%水準で有意である。.次に、推定値の解釈を行な
は不適当ということであり、理論的に意味のあるパラメ
化したモデルは、ファンジビリティー仮説を検討するに
なけれぱならないからである。それゆえ、第二節で定式
ならぱ、理論的には、¢の値は、o帆s仏一の範囲をとら
ずれの値も、理論的に予想される値に反している。なぜ
o.SNごを採用すると、¢の値は、1H・肯oまになる。い
o・睾s−を採用すると、¢の値は、1−、竃osとなり、
として、o・宝N旨とo・s冒ωの二つが考えられるが、
ることによって、¢の値を求めることができる。αの値
青Is︵−1β︶︸に対応しているから、αの値を代入す
葭島−射舳1Iob淳P︹118
o.sNごとなる。この値は、お防の係数から求められるα
ーターが得られるように、モデルを再定式化しなけれぱ
検討を行なう。推定式の3の係数、−.遣ごは、胴式の
の値、o・ωミ淳と比べて小さいので、7ヲイベーパー効
ならない。従って、次節では、日本の特殊事情を考慮し
次に、・ファンジビリティー仮説が成立するか否かの
果が存在ナるように思える。ところが、o・家N淳の九
て、日本型モデルの修正を行ない、そして、そのモデル
ただし、カヅコ内は標準誤差である。三つの説明変数は、
五%信頼区間は、9oま簑からo・αももまでの範囲をと
から得られるインプリケーションに基づいて、実証分析
^11︺
るので、その中にo・暑Nごの値は含まれる。従って、γ
の再解釈を試みる。
四 日本型モデルの修正
の係数から求められるαの値、o・s冒ωとお⑦の係数か
ら求められるαの値、9室葛Hとの間に統計的に有意な
差が見られない。それゆえ、フライペーパー効果の存在
866
(143) ファンジピリティー仮説とフライペーパー効果
ジピリティー仮説と呼ぷ︶を立て、議論を。進めていきた
ないか、という仮説︵以後、本稿では、これを逆ファン
ファンジビリティー仮説と逆の現象が起きているのでは
ナスの値をとった。そこで、本節では、日本において、
前節の実証分析において、¢の値が予想に反してマイ
業額が下回る場合に発生するものであり、その差額のこ
支出した額よりも、国庫支出金の交付の基準となる総事
支出金が交付される事業について、地方自治体が実際に
地方自治体の超過負担問題である。超過負担とは、国庫
地方自治体において確認されている。すなわち、それは、
逆ファンジビリティー仮説と考えられる現象が︷.日本の
∫
\、 、
x
↓._
Lア
→
01
←ム。一共G。去Z曽
01DlFl∬1
0=
まず始めに、超過負担問題、すなわち逆ファンジビリ
のか、を検討していきたいと考えている。
ジピリティー仮説が、実証モデルによって支持されうる
そこで、本節では、超過負担問題、すなわち逆ファン
には解消されないというのが実情である。
ようになり、国もその解消にカを入れつつあるが、すぐ
訟を起こしている。その後、超過負撞問題は注目される
^μ︺
り、昭和四八年には大阪府の摂津市が国を相手に行政訴
である。趨過負担問題は、地方自治体にとって深刻であ
替可能な財源を使って埋め合わさなけれぱならないもの
とである。そして、その差額は、地方自治体が自己の代
^旭︶
いと恩う。逆ファンジピリティー仮説とは、代替可能な
財源の一部が、条件付き補助金、すなわち使途を特定化
、、
工x
ティー仮説を図によって示すことにする。それを示した
のが図2である。
ここでは、地方公共サーピスとして、国庫補助を受け
867
された財源、に転換されているという仮説である。事実、
図2
一橘諭叢第99巻第6号(144)
え、財の生産においては規模の収穫一定を仮定し、総費
ているx財とそれを受けていないγ財のみのケースを考
逆ファンジビリティー仮説そのものに他ならないのであ
使途を特。定化された財源に転換されることであるから、
て、補助率.Qミobの定率補助金を交付するものとしよ
自治体がx財に対してobの支出を行なうものと想定し
の予算線は、亀線で示される。ここでは、国は、地方
方自治体の自主財源は、卜H+卜﹃であり、補助金交付前
sQトをーNに置き換えれぱよいから、㈲式は次のよう
るためには、日本型モデルで示した公約予算のうち、
とにする。逆ファンジビリティー仮説の可能性を考慮す
ビリティー仮説の可能性を考慮した実証モデルを示すこ
次に、第二節の日本型モデルを修正して、逆ファンジ
る。
う。このとき、国は、obを越える支出に対しては、
になる。
用と消費される量が等しくなる単位を定義している。地
Qbを越える金額を交付しないので、補助金交付後の予
サービス水準を供給するためには、国はX財の支出が
ここで、法的に定められた国庫補助事業が、ある一定の
λ財の条件付き補助金およぴ趨過負担の存在による価格
お⑦のうちψの割合がλ財に振り向けられると仮定し、
ただし、NH超過負担額とする。ここで、無条件補助金
、﹄の﹄1−ミ︵司㌣1N+お吻︶ ︵ζ︶
obでよいと考える一方で、地方自治体はx財の支出が
変化を考慮すると、帥式は、
算線はλ点で折れ曲がって、§↑纏によって示される。
o、でなけれぱならないと考えるものとしよう。このと
一ぎ外︸鞭卵し・一辛睾婁・s
§的︶、λ財に対する条件付き補助金e、∠財に対す
左辺は、λ財に対する地方自治体のウラ負担額︵ど十
卜﹄十§⑦十Q﹄十Nl1負司ぺ十︵H1負︶、十Q﹄十ミお⑦
トト十§⑦十N+①トーNlQ﹄1−ミ︵司ぺIN+お⑦︶
H負︵司ぺ1N+、吻︶
き、x財とγ財の支出配分が3点によって決定されるも
のとすれぱ、x財の支出において、b弓の超過負担が発
生することになる。ここで、超過負担の額をzとすると、
地方自治体は、代替可能な財源︵使途を特定化されない
財源︶の一部zをx財に振り向けなけれぱならなくなる。
それゆえ、超過負担間題とは、代替可能な財源の一部が
868
(145) ファンジピリティー仮説とフヲイペーパー効果
体の総支出額を示すものである。それゆえ、左辺をb﹄
る超過負担額、、から成るので、λ財に対する地方自治
ると、αの値がo・宝6−のとき、②の値は二86をと
は支持されたことになる。αの値からψの値を求めてみ
とる。従って、東京都の二六市において、民生費の超過
り、αの値がo・s曽ωのとき、¢の値は−・含oまの値を
bト”ミ詞﹃十︵一−ミ︶N+Ωト十員由⑦ ︵Hoo︶
とおくと、上式は、
ここで、∠財に対する超過負担額が、λ財に対する条
対する支出関数である。次に、㈹式に基づいて、第三節
㈹式が、逆ファンジービリティー仮説を考慮したλ財に
肉﹄“ミ司ぺ十青十s︵Hl負︶︸Q﹄十ミ亀り ︵s︶
上式を㈱式に代入し、整理すると、
NlIS3
仮定すると、
老人保護費負担金、の合計額︶の比率は約○二一九であ
支出金の合計額︵生活保護費負担金、児童保護費負担金、
において、民生費の合計額に占める民生費に対する国庫
のと予想される。ちなみに、昭和五九年度の東京二六市
なり、しかも、超過負担額はかなり大きな額に達するも
存在は、本稿で示した実証モデルでも確証されたことに
地方財政の分野で、しぱしぱ取り上げられる超過負担の
一・五倍に相当する金額であるセ考えられる。それゆえ、
負担額は、民生費に対する国庫支出金の約一・四から
件付き補助金の一定割合¢である.︵ただし、swo︶と
の推定結果を解釈し 直 す こ と に す る 。
るので、民生費に占める超過負担額の比率は約○・四一
^b︶
第一に、フ.ーイペーパー効果に関する結論は、胸式を
からO・四四に達するものと考えられる。
証されているファンジピリティー仮説とフライペーバー
効果について議論を進めてきたが、アメリカにおいて実
本稿では、ファンジビリティー仮説とフライペーパー
五 結論
用いた場合でも、先に述べた結論と全く同じである。
もし逆ファンジピリ㌧アィー仮説が成立しないのであるな
第二に、逆ファンジビリティー仮説についてであるが、
らぱ、S“oとなるから、eの係数は1になるはずで
ある。ところが、εの係数、H・遣ごは、五%水準で1
よりも有意に犬であるので、逆ファンジビリティー仮説
869
一橘論叢 第99巻 第6号 (146〕
効果が、日本においては、いずれも実証されないことが
明らかになった。そして、日本では、むしろ逆ファンジ
ビリティー仮説の存在が実証される結果となった。この
ことは、アメリカにおいて、補助金が地方政府の行動に
与える影響は、理論的に考えられるほど地方政府の行動.
に制約を課していないことを示すものであり、逆に、,日
本においては、補助金が地方政府の行動に過度の制約を
課していることを示すものである。今後、日本において、
地方分権化を推進するのが望ましいのであれぱ、地方財
政を大きく圧迫する現行の補助金のあり方は、再考の余
地のあるものと考えられよう。
最後に、本稿で展開した主張の分析上の問題点を指摘
しておく。
まず第一に、¢の値を一定と仮定していることである。
しかし、東京都の二六市全てが、昭和五九年度において、
同じψの値をとっているという保証はない。
おそらく、¢の値は、地方政府と中央政府との交渉カ、
地方政府や中央政府の財政状態、中央政府の政策スタン
ス、等の関数として示せるであろう。しかし、峯oΩ巨8
︵岩ごLミo。︶一s昌喝旨︵Hゆo。ひ︶、等の論文でも、ψは外
生的に扱われており、ψを内生的に扱うのは今後の課題
である。
第二の問題点として、実証分析において、民生費金体
を分析対象としたことである。実際には、民生費に合ま
れる個々の事萎ことに、異なった補助率が適用され、超
分析対象とすれば、作業が煩雑になり、また、データの
過負担にも大小の差が見られる。しかし、個々の事業を
入手も困難である。従って、民生費全体を分析対象とせ
ざるをえなかった。それゆえ、本稿の分析結果は、民生
費全体について妥当するのであって、個々の事業には必
ずしも妥当するものではないことに注意すべきである。
︵1︶ フライペーバーとは、元来、 ハエ取り紙のことであり、
公的部門が受け取った貨幣は公的部門にとどまる傾向をも
ち、私的部門が受け取った貨幣は私的部門にとどまる傾向
をもっ、という意味で用いられている。アメリカにおける
H目目顯目︵老遣︶一ヨ旨胃︵宅o0N︶がある。
フライペーバー効果の実証分析を整理したものとして、
︵2︶様々なタイプの補助金が地方政府の支出行動に与え
る効果を理論的な観点。から整理したものとして、峯旨o
︵§H︶とΩ昌きg︵尋N︶がある。
︵3︶ 条件付き補助金を代替可能な財源に転換する際の具体
榊
フライペーバー効果の究極的な原因を地方住民の財政錯覚
に求めている。ここでは、地方住民の財政錯覚がどのよう
たかのように感じ・ると主張した。二人の主張は、い、ずれも、
にしてフライペーパー効果を発生させるのかを見るために、
的な方法として、旨oo巨冨︵這N少H等o。︶は、補助を受け
あげている。
定率補助金を得る手段としてのプロジ呂クトの利用、等を
ルは、㈹式との比較のため、o津$の使用したモデルとは
◎黒鶴のモデルを取り上げることにする。以下で示すモデ
ている財の転売、支出項目の再定義、間接費用の再配分、
︵4︶ 本稿では、補助金を外生変数として扱う。補助金が外
異なるが、本質には変わりはない。
生変数であることを支持する証拠は、O,零−昌︵宅曽︶に
ょって与えられている。他方で、補助金を内生変数として
まず、正の値をとるイルージ目ン・パラメーターθを使
、トoトー1負N+︷HIS︵H1員︶石﹄十︵員十助︶鶉吻
一、トW沌、Jξ、阜干、一;一一睾婁
③1−⑮ものとき、上式は、
、トめ﹄11員ぺ十ローS︵一−負︶︸Q﹄十員射吻
③H③ミヘとき、上式は、
出に向けられる割合とする。
、トo﹄
である。ただし、δはお吻のうち、λ財の支
、トΦ﹄1∼お吻
場合は、②ミーlHであり、財政錯覚のある甥合は、③弓1−
ために、肉トを、﹄とΦトに分けている。財政錯覚がない
ただし、ここでは、財政錆覚が、トに与える効果を見る
①、トめト刊負ぺ十︷H1S︵H1員︶−Q﹄十良お吻
って、㈹式を表現すると、
扱った論文として、ωサ津︵6ooo︶がある。ただし、2竃岸
︵岩o.o︶は、無条件補助金を記述する式がアドホヅクであ
るという欠点がある。
o㌧oo咄 ⑥㌧Φ㌔
︵5︶最大化のための二階の条件が満たされているのかを縁
専、㌧
付きヘシアンの符号から判断すれば、それは、
め叱寄咄
ミ、叱 βb、、
︿oとなるので、最犬化のための二階
︵6︶ このことは、︸単巨−﹄oプ目8目胆■ρ4く豊︸−o自岸o︵宅ooo︶
の条件が満たされていることがわかる。
においても指摘され て い る 。
︵7︶ Oき雷︵も遣︶は、フライペーバー効果の説明として、
地方の住民が補助金の存在を知覚しないので、彼らがあた
ことに、その原因を求めている。他方で、≠ぎ宵︵岩o。い︶
かも地方公共サ■ピスの価楕が低下したかのよづに感じる
①、トoト ①、﹄め﹄ 、
それゆえ、 11員く 1−亀十∼となり 財政錯
①ぺ ①お吻
覚によって、フライペーバー効果が説明される。
は、地方の住民が補助金の存在を知っていることを認める
じているので、あたかも地方公共サーピスの価楮が低下し
が、彼らは補助金が他の住民によって負担されていると信
871
ファンジピリティー仮説とフライペーパー効果
(147)
第99巻第6号(148j
一橋論叢
︵8︶ 最大化のための二階の条件が満たされているのかを
馬㌧
縁付きヘシアンの符号から判断すれぱ、それは、1+
め㌔
負、㌔
1﹀oとなるので、最大化のための二階の条件が満たさ
︵11︶ 市民税個人分のデータは、﹁昭和五九年度 市町村別
決算状況調﹂、地方財政調査研究会編集、地方財務協会発
︵12︶ イギリスの地方政府を対象にした実証分析でも、フラ
行に拠る。
︵u︶ ここで示した超過負担の定義は、広義の意味での超過
句o篶目竃由o鼻竃ρΩユ寝一易︵Hoo。一︶を参照せよ。
イペーパー効果の存在は否定されている。O目罧亭呂誌昌一
民生費の比率が大きいが、補助金との対応が容易であると
際に支出した総事業額から国の評価した総事糞額を引き、
負担である。厳密な意味での超過負担は、地方自治体が実
︵9︶ 市町村における目的別支出のうち、土木費、教育費、
の㌧
れていることがわかる。 。 ,
いう理由で、民生費を分析の斌象とした。また、東京都の
さらに、この額から地方自治体のつぎ足し単独分やデラヅ
二三区は、税源配分において、他の市町村と異なった扱い
︵10︶ 都からの支出は比重が小さいので、分析の対象から外
がなされているの で 、 分 析 の 対 象 か ら 外 し た 。
基準と地方自治体から見た塞準は異なっているので、どこ
クス部分の金額を引いたものである。しかし、国から見た
までが超過負担かを客観的に決めることは困難である。従
した。
使用した変数のデータ︵単位は千円︶の出所は次のとおり
えることにする。
︵14︶ 摂津市の起こした行政訴訟とは、同市が昭和四四年か
って、ここでは、超過負掴を広義の意味での超過負担と考
ら四六年の間に設置した四つの保育所の経費九二七三万円
である。
保謹費負担金、地方交付税は、﹁昭和五九年度 市町村
に対し、国は二つの保育所に対し二五〇万円の補助しか行
i、昆生費、生活保護費負掴金、児童保誰費負担金、老人
会発行に拠る。
別決算状況調﹂、地方財政調査研究会編集、地方財務協
2、市民税所得割の課税対象所得額は、﹁昭和六〇年度版
掴割合である二分の一に相当する金額と国が実際に支出し
た負担金との差額四三八六万円およぴその利息を国庫支出
なわなかったので、同市が設置した保育所の経費の法定負
ィング教育センター編集に拠る。ただし、掲載データは、
である。
金の交付不足分として国が支払うぺきことを請求したもの
個人所得指標﹂、市町村税務研究所監修、目本マーケテ
昭和五九年度の市民税所樽割の課税対象所得額である。
︵∬︶。この仮定を用いる﹁﹄とにょoて、第三節の推定式の再
なお、推定式の計算に当たっては、一橋大学憎報処理
センターの電子計算機を利用させていただいた。
872
(149) ファンジピリティー仮説とフヲイペーパー効果
﹁巴Ω﹃串目涼固箏o■oo巴句肘o巴内o蜆申o目8、.,ぎ峯一〇甲
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解釈が可能になる。
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参考文献
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彗篶’ω1︵H謁い︶一.♂暮穿募9①昌旨O塁OO;二ぎ
○邑き邑茸零鶉蜆.
ぎs︸§専§§募一田臼巨−目o篶一Hま−o旨畠︸o冨一冨
霊寿o義医豊o声津量竃ブ9昌.&餉’oミミミ豪婁雨餉
竃oΩ巨景芦︵老饒︶、>目向8旨昌o巨o峯oま−9雰ま−
873
一橋論叢 第99巻 第6号 (150)
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霊﹃向黒g一彗ら掌o向岩昌含旨冨−昌雷〇一〇︷?胃宥
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︵一橋大学助手︶
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