2014年度後期 動学的マクロ経済分析 第11回 新古典派成長モデル 前2回の講義 • 消費のライフサイクルモデル(恒常所得モデル):二期間、多期間、無限期間モデル • 企業価値(あるいは利潤)最大化問題からの投資水準の導出 • 投資の調整費用が存在しないケース • 投資のQ理論:投資の調整費用を仮定 今回の講義 新古典派成長モデル(neoclassical growth model)[ラムゼーモデル(Ramsey model)]の構築と分析 • 前々回の講義では効用最大化問題を解き一消費者の消費・貯蓄行動を分析し、前回の講義で は企業価値(あるいは利潤)最大化問題を解き一企業の投資行動を分析した • この講義では個々の経済主体の行動を集計した市場均衡を考え、経済全体の消費、投資、資 本ストック、産出量の水準がどのように決まり、時間を通じてどのように変化していくかを 分析する • 新古典派成長モデルは、経済成長に限らずマクロ経済の様々なトピックスの分析に用いられ る、現代のマクロ経済学における最も重要なモデル • ソローモデル同様、技術進歩と人口成長は外生的に決まる • 以下の内容 • 人口成長率と技術進歩率がゼロのケース • 一般的ケース • まとめ 1 人口成長率と技術進歩率がゼロのケース • まず分析が比較的容易な人口成長率と技術進歩率がゼロのケースを考える モデルの設定 • 経済主体:無限期間生存する(子孫に対して完全な利他心を持つ)家計と家計の所有する企業 • 家計の効用関数: 時間に関して加法分離 ∞ 1 ∑ (1+ρ)t u(Ct ) , u ' (.)>0, u' '(.)<0 t =0 ρ>0: 時間選好率(time preference rate)、時間/主観的割引率(time/subjective discount rate) 1 ≡β : 時間/主観的割引因子(time/subjective discount factor) 1+ρ • 企業の生産関数 Y =F (K , N ), F K (K , N )>0, F N ( K , N )>0 • 規模に関して収穫一定 (constant returns to scale) λ Y = F(λ K , λ N ), λ≥0 • 資本と労働に関して収穫逓減 (decreasing returns to capital and labor) F KK (K , N )<0, F NN ( K , N )<0 • 稲田条件 (Inada conditions) (学生用は式なし)*投資のQ理論においてもこの条件を暗に課していた • コブ・ダグラス型関数はこれらの性質を全て満たす前二回の講義でも暗に完全競争市場を想定していた • 投資の調整費用はゼロ、資本の蓄積式は K t +1=(1−δ) K t +I t ,(0<δ<1) • 市場構造:全ての市場は完全競争的(perfectly competitive) *経済主体は価格を所与として意思決定を行う。 • このとき経済には1つの企業[代表的企業(representative firm)]のみが存在すると仮定してもマ クロレベルでの分析結果には影響しない*外部性がなく完全競争的であれば一般的に成立(Acemo p158)。 代表的家計と異なり所得効果がないために一般的に成立(p159)[完全市場の仮定も必要か?] *企業の異質性に焦点 を当てたいのであれば、異なる生産技術を持った企業をモデル化する必要がある • 代表的企業の生産関数はマクロ生産関数 • 他方経済に1つの家計[代表的家計(representative household)]のみが存在するという仮定が正当 化される(結果に影響しない)ためには、個々の家計の選好に強い制約を課す必要があるが、そ のような制約を課す*全ての家計が同質的であれば当然代表的家計は正当化される*βは通常全ての家計で等しいと仮定 • よく用いられるCRRA(constant relative risk aversion[相対的リスク回避度一定]、isoelastic[弾 力性一定])型の効用関数 u(C )= C 1 1− σ 1 1− σ , if σ>0,≠1,=ln (C ) if σ=1 は制約を満たす*間接効 用関数が所得について線形[よって需要関数も所得について線形でエンゲル曲線が線形]のゴーマン型で表現できれば(か つ各家計がすべての財に正の需要を有していれば)(Acemo, p151)、選好の分布に関わらず代表的家計が正当化される。ま た家計間の再分配によらず代表的家計が維持される(強い代表的家計)ためにはゴーマン型で表現できることが必要。これ らの条件が満たされていれば、代表的家計モデルで厚生分析を行う(normative代表的家計)ことが正当化される。 2 経済主体の最適化問題 • 代表的家計は 1 単位の労働を非弾力的に供給 *測度 1 の家計が存在し、各々 1 単位の労働を供給 • 第 10 回の講義より代表的家計の効用最大化問題は (学生用は式なし) *マクロ変数であることをあらわすため、大文字に *NPG condition:生涯予算制約=フロー予算制約+NPG より、 NPG が Arrow Debrew 均衡と sequential trading 経済の動学競争均衡の同等性を保証。 *NPG の代わりによく課されるのが natural debt limit。これは毎期以降の消費がゼロでも返済不能となるほど負債を増やせないという条件。これの T について極限をとった条件も 同等。ただし持続的に成長する経済ではこの条件がマイナスの無限大になり使えない。また Arrow Debrew 経済と sequential trading 経 済との直接的リンクが失われる。 ◦ 最大化問題の一階の条件よりオイラー方程式は (学生用は式なし) *”market value”version of TVC *時間があればCRRA関数を用いて異時点間の代替 弾力性と消費の成長率との関係を説明 ◦ 横断性条件(transversality condition)は (学生用は式なし) *無限先の資産の効用で測った価値の割引現在価値がゼロ。*横断性条件より NPG 条件と「生涯」の予算制約式が等号[上記]で 成立することを示すことができる(オイラー方程式を過去に向かって代入していき u'(0)>0 であることを利用) • 第10回の講義より代表的企業の静学的利潤最大化問題[=動学的企業価値最大化]は max K , N π t= F (K t , N t )−w t N t −(r t +δ) K t t t ◦ 最大化の一階の条件 F N ( K t , N t )=w t , F K ( K t , N t )=r t +δ *(r+δ)Kは資本の機会費用=資本 のレンタル価格。 労働と資本の需要関数 (CRSなので比K/Nしか決まらないが) 市場均衡 (学生用は式なし) • 労働市場の均衡条件 • 資本市場の均衡条件 *政府がないので公債ゼロ。idiosyncratic shockがないので家計間の貸借なし。 • 財市場の均衡条件 *ワルラスの法則 定常状態 (学生用は式なし) *オイラー方程式よりr=時間割引率 *利潤最大 化条件より*資本の蓄積式より *財市場の均衡条件と生産関数より *K*,C*,Y*はρ,δの減少関数、Aの増加関数(コブダグラスを考えよ)[I*=S*とδの関係は?であるがやはりρの減少関数、 Aの増加関数]。技術進歩を導入すると効用関数にも依存。 w*についてはF_{KN}の符号による *より貯蓄率は時間割引率ρとAの減少関数で、δにも依存した内生変数 3 非定常状態 (移行動学[transitional dynamics]) • 移行動学はKとCの時間的変化を表す二本の差分方程式によって決定される(学生用は式なし) 端点条件はTVCとK0>0 • グラフによる分析(学生用は軸のみ) ΔK=0:C=F(K,1)-δKは、FK>δ(Kが 小さい)のとき、Kの増加関数で FK<δのとき減少関数。よってΔK=0 は原点を通り、山形の曲線で、Cが ΔK=0より大きい(小さい)と、Kは減 少(増加)。 ΔC=0:u'()が減少関数であることに 注意すると、FK>(<)ρ+δのとき、 つまりK<(>)K*のとき、Cは増加(減 少) 。 *Sに収束する唯一の経路(鞍点)が 存在することを証明できる。当初の KがK0であるときC0がBの水準にある ときのみSに収束。C0がより高けれ ば(例えばC点)、いずれΔK=0を超え Kが減少し有限時間でK=0に達し、C が上昇していく。これはfeasible でない(ただしAcemoglu [p304,foot6]によれば、内点での一 階の条件に基づく議論なのでやや不 正確であるが、C=0にジャンプする ことが家計の効用最大化に反することを示すことができるので、問題ない)。他方C0がより低ければ(例えば A点)いずれΔC=0を超えCが低下し、Kが上昇し、有限時間でCが0に到達し、Kは最大値(ΔK=0と横軸との交 点)に達する。このときFK<δつまりr<0なのでTVCと整合的でない。*Kはstate variableで初期値が外生的 に定まっているが、Cはjump variableでTVCにより無限先の値が外生的に定まっており、C0は内生的に決ま る。 *K*(modeified golden rule)はC*を最大にするKg(FK=δ)よりも 小さくなる。これは時間割引のため(ρ<1) • CRRA型効用関数・コブ=ダグラス型生産関数のケース (学生用はこれらの関数以外の式なし) *K0<K*のとき、Kの上昇と共にCの変化率は低下していき、最終的にはC*に *K0<K*のときKの変化率(コブダグラスではなくても)そしてYの変化率も逓減していくことを示すことができる(連続時間 モデルの証明はBarro=Sala-i-Martin, 2.11 Appendix D)。 4 一般的ケース • 人口成長率と技術進歩率がゼロでないケース モデルの設定 • 人口成長率と技術進歩率がゼロのケースと異なる箇所のみ N t +1 =1+n , N 0 =1. Nt • 人口成長 • 代表的家計の効用関数:家計の構成員が毎期nの率で変化していくことと u' ' (.)< 0 から(学 生は式なし) 一人あたり消費。*N0=1であることに注意 であることが必要だが十分ではない(後述)。 Y t =F (K t , A t N t ) • 企業の生産関数 A t +1 =1+ g , A 0 >0. At • 技術進歩 • ソローモデル同様労働増大的(ハロッド中立的)技術進歩(labor-augmenting[Harrod-neutral] technological change)。均斉成長(balanced growth, BGP)が実現されるためには、ある期以 降の技術進歩は必ず労働増大的でなければならない *Acemoglu Chapter 2, Theorem 2.6 • ソローモデル同様実効労働(effective labor)あたりの生産関数を定義する(学生は式なし) • また利子率 r t が一定の均斉成長経路では、消費の異時点間の代替弾力性(intertemporal elasticity of substitution)が一定値に(無限期先において)収束しなければならない*(米の)利子率にト レンドは見られないので現実的制約。*このことはオイラー方程式を消費の変化率について解くと明らか(Acemo p 307)は分 () c u' (c t ) d t cs u' (cs ) 母 − ct u '(c t ) d cs u ' (c s) ( ) と分子でキャンセル)*一般に代替弾力性=等量曲線の傾きが1%変化した時二変数の比率が何%変 化するか。ここでは等量曲線(=無差別曲線)の傾き=限界代替率=効用で計った二つの期の消費の相対価格 • よって弾力性がσで常に一定のCRRA型(別名弾力性一定[isoelastic])効用関数が通常用いられる。 以下ではこの効用関数を用いて分析する u(C )= C 1 1− σ 1 1− σ , if σ>0,≠1,=ln (C ) if σ=1 5 *Stone-Geary型(Cの代わりに (C-定数))も条件を満たす 経済主体の最適化問題 • 人口成長率と技術進歩率がゼロのケースと異なる箇所のみ • 代表的家計の効用最大化問題は (学生用は目的関数のみ) max ∞ ∑ t =0 ( ) t 1+ n u(c t ) 1+ρ *NPG condition *A_tのままでも解けるが消費に合わせて資産も一人あたりに • ラグランジェ関数 (学生用は式なし) • 最大化の一階の条件は ( 学生用は式なし) • オイラー方程式(学生用は式なし) • CRRA型効用関数( σ≠1 )のとき • 実効労働あたりの変数で表わした利潤最大化の一階条件(労働に関する条件は省略)(学生用 は式なし)*FがCRS(一次同次)のときFの一階微分は0次同次*Fが一次同次のとき利潤が0になることを利用 定常状態 • 利潤最大化の資本に関する一階の条件より利子率が一定の均斉成長経路(BGP)では(学生用は 式なし)*tilde kが一定。 • 資本蓄積式と財市場の均衡条件より K t+1=F( K t , A t N t )+(1−δ) K t −C t となるが、これを実効 労働あたりの変数で表わすと(学生用は式なし) *したがってBGPではtilde cも一定。 6 • オイラー方程式より実効労働あたりの消費の変化率は(学生用は式なし) より *自然対数をとり近似すると連続時間モデルと同じ式に *一人あたり変数はg、元の変数はg+nで成長。 *rはρだけでなくgの増加関数(gが高いほどtilde{c}一定下での一人当たり消費の成長率が高くならねばなら ないので)。また異時点間の代替弾力性σの減少関数(σが高いほどrがρから乖離することによる一人あ たり消費の変化が大きくなるので)。よってtilde{k}とtilde{y}はδ,ρだけでなくgの減少関数でσの増 加関数。tilde{c}は次の仮定よりδ,ρだけでなくgとnの減少関数でσの増加関数。[tilde{i}とδ,g,nと の関係は?だが残りの変数はtilde{k}と同じ]。 • 「市場価値」版の横断性条件よりパラメターについて次の仮定を課す必要がある(学生用は式 なし)より近似的に • この仮定は効用を有限に保つための条件 *Acemo, Excercise 8.20。効用有限<=>この仮定 非定常状態 (移行動学[transitional dynamics]) • 移行動学は実効労働あたりの変数 ~ c の時間的変化を表す二本の差分方程式によって k と ~ 決定され、人口成長率と技術進歩率がゼロのケースで用いた図と同様の図で分析できる *tilde{k0}<tilde{k*}のときtilde{c}, tilde{k}の変化率(コブダグラスではなくても)そしてtilde{y}の変化率 が逓減していくことを示すことができる(連続時間モデルの証明はBarro=Sala-i-Martin, 2.11 Appendix D)。 まとめ • この講義で説明した新古典派成長モデルは最も基本的なバージョンであり、目的に応じて 様々な拡張が行われる(必要である)。例えば、 • 政策の効果を分析するために政府部門を導入 • 政策などの労働供給への影響を分析するために効用関数を「余暇」(総時間-労働時間)に依 存する形に修正して労働供給を内生化 • 投資の動きをより現実的にするために投資の調整費用を導入 • 発生が不確実な様々なショック(例えばオイルショック)のマクロ経済への影響を分析する ために、モデルにショックを導入し、不確実性に直面する経済主体がどのように消費・貯 蓄や投資に関する意思決定を行うかを定式化する • また経済成長のパートで説明した内生的成長モデルはシンプル版であり、実際には新古典派 成長モデル同様経済主体の最適化問題から出発してマクロレベルの変数の動きを導出する 7
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