その6(a5版 pdf file)

微積分 II 2014
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13 関係の中に隠れている関数 (陰関数)
2 変数関数 z = h(x, y) の等値線 h(x, y) = c を考える.実数の組 (a, b)
は h(a, b) を計算しその値が c に等しいとき h(x, y) = c の関係にあると
いう.たとえば,h(x, y) = x2 + y のとき,(2, 0) や (1, 3) は x2 + y = 4
の関係にあるが,(0, 2) は x2 + y = 4 の関係にはない.R2 の部分集合
H = {(x, y) : x2 + y = 4} を考えると,(a, b) が x2 + y = 4 の関係にあるこ
とと (a, b) が集合 H に属すること,即ち,(a, b) ∈ H が成立することは同じ
ことである.この集合 H を座標平面に図示すると以下のようである.
y
4
3
−2
1
2
x
図 1 関係 x2 + y = 4 のグラフ
この図あるいは集合 H を関係 x2 + y = 4 のグラフという.この図は関数
y = −x2 + 4 のグラフでもあることは明らかだろう.一方,y を独立変数,x
√
を従属変数とみなすと,H の右半分は関数 x = 4 − y のグラフでもある.
√
同様に左半分は関数 x = − 4 − y のグラフでもある.このように,関係 H
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に三つの 1 変数関数
y = −x2 + 4,
x=
√
4 − y,
√
x=− 4−y
が隠れていることに注意しよう.一般に,2 変数関数の等値線には 1 変数関数
が内在している場合がよくある.このとき,この 1 変数関数を陰関数という.
1 変数関数 y = f (x) の x = a における微分係数を問題にするときには,a
を含む開区間上で関数 y = f (x) が定義されていればよいので,これからは
関係 h(x, y) = c のグラフ上の点 (a, b) で,a を含む開区間が存在し,それを
定義域とする関数でそのグラフが関係のグラフと一致するようなものをみつ
ける問題を考える.それと同時に b を含む開区間を定義域とするような関数
x = g(y) をみつける問題も考える.
先の図で (1, 3) は x2 + y = 4 の関係にあるので,そのグラフ H の上にのっ
ている.この点の近くで H をグラフとする関数は何だろうか.ひとつは式
y = −x2 + 4 で表される x を独立変数し,定義域は 1/2 を含む小さな開区間
√
である関数で,もうひとつは式 x = 4 − y で表される y を独立変数とし,
定義域は 3 を含む小さな開区間である関数である.y = 3 のとき x = −1 と
√
なってしまうので関数 x = − 4 − y は対象外となる.
x2 + y = 4 の関係にある (0, 4) についてはどうだろうか.この点の近くの
H をグラフとする関数は,x を独立変数とする y = −x2 + 4 ひとつだけであ
√
る.y を独立変数とする関数は考えることができない.実際,x = 4 − y ま
√
たは x = − 4 − y を考えようとしてもどちらも 4 を含む開区間で定義され
ていない.4 より少しでも大きい y を考えると,いかなる x の値をとっても
√
√
(x, y) は H に属さない. 4 − y や − 4 − y の y に 4 より大きい値を代入す
ると根号の中が負の数となり定義できないのである.
問 6 (−2, 0) は H に属すが,この点の近くの H をグラフとする関数をすべ
てあげなさい.
問 7 関係 x2 + y 2 = 2 を満たす (x, y) = (1, 1) と (0,
√
2) のそれぞれについ
て,その近くで関係 x2 + y 2 = 2 に対応する関数をすべて求めなさい.
以上の考察をすべて折り込んだ定理として次の陰関数定理がある.
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定理 7 [陰関数定理] 2 変数関数 z = h(x, y) の等値線 h(x, y) = c とその上
の点 (a, b) を考える.もし hy (a, b) ̸= 0 ならば,a を含む開区間 (α, α′ ) と
y = f (x) ⇔ h(x, y) = c,
x ∈ (α, α′ )
を満たす関数 f : (α, α′ ) → R が存在する.これより必然的に,
b = f (a)
が成立する.もし hx (a, b) ̸= 0 ならば,b を含む開区間 (β, β ′ ) と
x = g(y) ⇔ h(x, y) = c,
y ∈ (β, β ′ )
を満たす関数 g : (β, β ′ ) → R が存在する.これより必然的に,
a = g(b)
が成立する.
14 陰関数定理と合成関数の微分:
接線,法線ベクトル,ラグランジュの未定乗数
第 13 節では陰関数定理を第 11 節では 2 変数関数の合成関数の微分法を学
んだ.どちらも重要な定理なのでもう一度記しておく.
定理 8 [陰関数定理] 2 変数関数 z = h(x, y) の等値線 h(x, y) = c とその上
の点 (a, b) を考える.もし hy (a, b) ̸= 0 ならば,a を含む開区間 (α, α′ ) と
y = f (x) ⇔ h(x, y) = c,
x ∈ (α, α′ )
を満たす関数 f : (α, α′ ) → R が存在する.これより必然的に,
b = f (a)
が成立する.もし hx (a, b) ̸= 0 ならば,b を含む開区間 (β, β ′ ) と
x = g(y) ⇔ h(x, y) = c,
y ∈ (β, β ′ )
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を満たす関数 g : (β, β ′ ) → R が存在する.これより必然的に,
a = g(b)
が成立する.
定理 9 [合成関数の微分] 三つの関数 z = h(x, y),x = f (t),y = g(t) の合
成関数
z = (h ◦ (f, g))(t) = h(f (t), g(t))
の導関数は以下の式で与えられる.
z ′ (t) = hx (f (t), g(t))f ′ (t) + hy (f (t), g(t))g ′ (t)
∂z dx ∂z dy
dz
=
+
dt
∂x dt
∂y dt
これらふたつの定理を組み合わせることにより陰関数の導関数を求める公
式を導くことができる.
今 y = f (x) を陰関数定理に表われる陰関数としよう.開区間 (α, α′ ) 上で
その導関数を求めることにする.陰関数定理から
h(x, f (x)) = c
がすべての x ∈ (α, α′ ) に対して成立している.左辺は上記の合成関数の微分
法の定理に表われた形をしているので,両辺を x で微分すると,
hx (x, f (x)) + fy (x, f (x))f ′ (x) = 0
(67)
となる.これを変形すると,
f ′ (x) = −
hx (x, f (x))
hx (x, y)
=−
hy (x, f (x))
hy (x, y)
を得る.
陰関数 x = g(y) についても全く同様に議論を進めることができるので,開
区間 (β, β ′ ) 上でその導関数は
g ′ (y) = −
hy (g(y), y)
hy (x, y)
=−
hx (g(y), y)
hx (x, y)
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と求まる.
一般に陰関数定理とはこれらの事実まで含めたものをいうのでまとめて
おく.
定理 10 [陰関数定理最終版] 2 変数関数 z = h(x, y) の等値線 h(x, y) = c と
その上の点 (a, b) を考える.
もし hy (a, b) ̸= 0 ならば,a を含む開区間 (α, α′ ) と
y = f (x) ⇔ h(x, y) = c,
x ∈ (α, α′ )
を満たす関数 f : (α, α′ ) → R が存在する.これより必然的に,
b = f (a)
が成立する.そして,開区間 (α, α′ ) 上で
f ′ (x) = −
hx (x, y)
hx (x, f (x))
=−
hy (x, f (x))
hy (x, y)
が成立する.
もし hx (a, b) ̸= 0 ならば,b を含む開区間 (β, β ′ ) と
x = g(y) ⇔ h(x, y) = c,
y ∈ (β, β ′ )
を満たす関数 g : (β, β ′ ) → R が存在する.これより必然的に,
a = g(b)
が成立する.そして,開区間 (β, β ′ ) 上で
g ′ (y) = −
hy (g(y), y)
hy (x, y)
=−
hx (g(y), y)
hx (x, y)
が成立する.
次に等式 (67) に注目してみよう.この式をベクトルの内積で書き直してみ
ると
(hx (x, f (x)), hy (x, f (x)) · (1, f ′ (x)) = 0
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となる.h′ (x, y) = (hx (x, y), hy (x, y)) であることを思い出すと,
h′ (x, f (x)) · (1, f ′ (x)) = 0
と書き直せる.f (x) を y と書きかえて (点 (x, y) は等値線 h(x, y) = c 上の
点であるということ) 議論を進めると,h′ (x, y) と (1, f ′ (x)) は直交している
が,(1, f ′ (x)) は (x, y) における等値線すなわち y = f (x) のグラフの接線に
沿ったベクトルである.従って,h′ (x, y) はこの接線に垂直なベクトルである
ので,(x, y) において等値線 h(x, y) = c に垂直なベクトルと考えることがで
きる.第 8 節で学んだように,このベクトルを法線ベクトルというのであっ
た.第 8 節では微分式を使い法線ベクトルの考察を進めたが,陰関数定理を
使うこの議論の方が数学的には厳密なものである.しかし,どちらでも自分
が納得しやすい方で理解すればよい.
問 8 関係すなわち等値線 h(x, y) = y 2 − x3 − x2 = 0 に隠れている陰関数
について考える.x = a を含む開区間上で陰関数が定義されない可能性のあ
る a の値を求めなさい.この a を除いた x について陰関数の導関数を求めな
さい.同様に,y = b を含む開区間上で陰関数が定義されない可能性のある b
の値を求めなさい.この b を除いた y について陰関数の導関数を求めなさい.
第 9 節で学んだラグランジュの未定乗数に関する定理も陰関数定理を使い数
学的に厳密に証明することができる.それを以下に示すが,これについても
自分の理解しやすい方を取ればよい.
定理 11 2 変数関数 f (x, y) が制約 g(x, y) = c の下で,(x.y) = (a, b) にお
いて極値をもち,gy (a, b) ̸= 0 ならば,λ ∈ R が存在し,
f ′ (a, b) = λg ′ (a, b)
が成立する.
証明 これから定理 10(陰関数定理最終版) を使って証明を進めるが,f ,g ,h
の記号の使い方が異っているので注意しよう.等値線 g(x, y) = c に対して定
理 10 を適用すると,a を含む開区間で定義された関数 h : (α, α′ ) → R が存
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在し,h(a) = b,g(x, h(x)) = c が成立しており,さらに
h′ (a) = −
gx (a, b)
gy (a, b)
(68)
が成立している.一方,開区間 (α, α′ ) 上の関数 F を
F (x) = f (x, h(x))
で定義すると,これは x = a で極値をとる.合成関数の微分法を使い導関数
を求めると,
F ′ (x) = fx (x, h(x)) + fy (x, h(x))h′ (x)
だから,条件無し極値問題の一階の必要条件より
0 = F ′ (a) = fx (a, h(a)) + fy (a, h(a))h′ (a) = fx (a, b) + fy (a, b)h′ (a)
が成立する.式 (68) をこれに代入すると,
fx (a, b) − fy (a, b)
gx (a, b)
=0
gy (a, b)
となる.ここで,λ = fy (a, b)/gy (a, b) とおくと,fx (a, b) = λgx (a, b) が成立
する.また,λ の定義そのものより,fy (a, b) = λgy (a, b) が成立する.以上
をまとめると,
がでる.Q.E.D.
f ′ (a, b) = λg ′ (a, b)