10/25 土 アカデミック講演会 - in Okayama - 毎回大好評のアカデミック講演会。今回は立命館大学校友会との共同企画 「オール立命館校友大会」の一貫として、岡山県で開催されました。立命館 大学名誉教授、白川静先生の文化勲章受章 10 周年を記念した今回の講演会。 白川静研究の第一人者である加地伸行先生や名誉漢字教育士の武田鉄矢氏 など、漢字教育の専門家 6 名にご講演いただきました。当日は校友や父母 を中心に約 1500 人が参加され、皆さん白川先生の功績や漢字のおもしろさ についての講演に熱心に聞き入っておられました。 岡山シンフォニーホール 開場前か 受付に ら 多くの人は が ! 大人気 物販も 父母教育 後援会 常任委員 多く参加 の方々も されまし た 第1部 漢字教育のこれから まったく新しい観点から漢字を研究し、漢字の魅力を打ち出した白川静 連した漢字が次々に出てくるので、子どもたちは興味を持って学びをすす 先生。第 1 部では加地伸行先生の司会のもと、白川先生が提唱した漢 めることができるのです」と語られました。 字教育の魅力について、漢字教育の専門家によるディスカッションがおこ また同じ教育者の立場から戸川さんは「漢文を理解してこそ日本語が正 なわれました。パネラーは白川先生のご長女である津崎史さん、朝日塾中 しく読めるというもの。漢文を訓読することに注目して、教育をすすめて 等教育学校講師の戸川英雄さん、福井県教育委員会教育長の林雅則さ います」と、漢字教育の重要性を強調されました。 「助詞や助動詞と違い、 ん、山陽新聞社取締役編集主幹の木山博雅さんの 5 名です。 日本語の文章の骨となる漢字・漢語は長い歴史のなかでその形を変えて はじめに、津崎さんには「白川文字学」の誕生について語っていただき いません。現代文を読むためにも、漢字・漢語が読めなければ文章は理 ました。 「父が漢字の源である甲骨文字に出会ったのは 23 歳のとき。父 解されないでしょう。訓読文というものは、先人が漢字一つひとつの意味 はこの文字を 1 字ずつトレースして、資料のどの部分に出てくるかの分類 や役割をよく理解していたからこそできたこと。生徒には漢字の訓読を通 をしました。漢字のもつ意味、役割を系統的に読み解くことで、これまで じて先人の追体験をすることで、漢字への知識を深め、語彙を増やしても の学説を覆す白川文字学を確立させていったのです」。例えば 「右」と 「左」 らいたいです」。 という漢字。 「『右』は、祝詞を入れる器『口』を持つ様子、 『左』は神を 現在、新聞社では NIE (ニュースペーパー・イン・エデュケーション)といっ 呼び降ろす呪具『工』を持つ様子を表している。そして『尋』という字は、 て、80 年代の半ばから教育に新聞を活用する動きが本格化しています。 右手と左手にそれぞれ「口」と「工」を持って、神のいる場所を探す意味だ」 1 日 30 ページ前後ある新聞。含まれる文字の量は新書約 1 冊分、漢字 と白川先生は解読されたそうです。このように、白川先生はひとつの漢字 が占める割合は約 40% です。新聞社の立場として、木山さんからは「文 から派生する文字を読み解いていくことで、原点となる文字の意味を確立 章力や判断力(メディアリテラシー)をつけるため、NIE に取り組んでい させていきました。 ます。わが社も専門のセクションをつくり、出前講座や就活ゼミなどをお 漢字の丸暗記ではない、系統的な理解を訴えた白川先生の教育方針 こなっています。その運動のひとつとして、子ども新聞『さん太タイムズ』 は、多くの教育者に感銘を与えています。白川先生の出身地、福井県では、 に連載している白川文字学のコーナーは大好評。子どもたちが漢字を楽し 白川文字学に基づく体系的な漢字教育を推進しています。林さんは「福井 く学べるよう工夫をしています。今後も学校教育、生涯教育のためにでき 県が白河文字学の教育方針を取り入れてから約 10 年。今ではほとんどの ることを、どんどんやっていきたいと思っています」と報告がありました。 小学校が白川文字学を導入しています。最初は教員が白川文字学を研修 最後に司会の加地先生が「国語はものごとを学ぶときに欠かせません。 会で学び、次にカリキュラムや指導書、教材などを揃え、段階的にその活 そのなかの大きな柱として漢字があります。漢字とは本来体系的に楽しく 動をすすめてきました。こうした活動が福井県の学力アップにつながって 学べるものだと思うのです。私たちも白河文字学を広く伝えていきたいと いるのだと思います。漢字教育の例を挙げると美、善という字。 『羊』の 思います」と話され、第 1 部のしめくくりとされました。 字形が入っている意味を、歴史的背景とあわせて教えます。他にも羊に関 福井県教育委員会教育長 林雅則さん 白川先生のご長女 津崎史さん 山陽新聞社取締役編集主幹 木山博雅さん 朝日塾中等教育学校講師 戸川英雄さん 第2部 白川静と私 第 2 部では、テレビドラマ「金八先生」でおなじみの武田鉄矢さんを講師に迎え、白川文字学の魅力について語っていただきま した。ユーモアあふれる講演に、和やかなムードの第 2 部となりました。 数々のヒット曲を作詞され、国語に造詣が深い武田さんが漢字に興味 す。私はこの話を聞いて白 を持ちはじめたきっかけは 20 代の頃。 「失恋で落ち込んだとき、太宰治 川先生の衣にまつわる話を の名文集で“優”という字の説明を読みました。優しいという字は、人の 思い出したのです。このよ 横に憂えるという字があります。人の寂しさ、つらさに敏感なこと、これ うに、白川先生の学説には が優しさであり、また人間として一番優れているのではないか、というこ 人間の力に成りうる話があ とばに感銘を受けたのです」と漢字のおもしろさを覚えられたきっかけを ると思うのです」 。 語られました。 武田さんが一番惚れ惚れ 武田さんと白川先生との出会いは「知人から、学生運動が活発化するな した漢字は「遊」 。白川先 か、だまって研究を続ける老教授の話を聞いたことがありました。これはわ 生の「遊字論」には「遊ぶ たしが 50 代になってわかったことですが、その人こそが白川静先生だった ものは神である。神のみが、 のです」と意外なもの。 遊ぶことができた。遊は絶 このように昔から白川先生に縁があった武田さんが、金八先生で国語の 対の自由と、ゆたかな創造 教師を演じることとなりました。 「はじめは自己流の解釈で漢字語源説を唱 の世界である。それは神の えていましたが、次第に漢字について学びを深めるようになりました。その 世界に他ならない。この世界にかかわるとき、人もともに遊ぶことができた」 なかで出会ったのが白川文字学。 “道”という字には、たたりに遭わないよ とあります。この解釈の雄大さが好きだと、武田さんはおっしゃいます。白 うに異族の生首を持って歩くという意味がある、など少し驚いてしまうこと 川先生の生誕地にある記念碑に刻まれた文字も「遊」という漢字。白川先 もありましたが、次第に漢字の世界に魅了されていきました」 。 また、白川先生の 生が好きな文字だったのでは、と加地先生は話されます。 漢字語源説には、生活に思い当たる節がある、とも。 「例えば、 “哀”とい 武田さんは「白川文字学は単なる学問ではなく、人間のなまなましい生 う字。神への祝詞を入れる器“口” を死者の “衣” の襟元に置いた字です。こ 活に根付くものではないでしょうか。先生の学説には日常で思い当たること れには死者に生き返ってください、と願う気持ちがこめられています。また が多く、吸い込まれるような魅力があります」とされ、また加地先生は武 “懐”という字にも衣は出てきます。これは人の襟元に涙を落としてなつか 田さんを「金八先生をきっかけに白川静について学び、さまざまな場所でご しむ様を表しています。衣という字は人間の情感にとって大切なことだとい 解説くださっています。白川先生の第一号につづき、昨年武田さんに名誉 うことがわかりますね。フィ 漢字教育士の称号を授与しました」と称えられ、武田さんの功績に感謝の ギアスケートの荒川静香さ 意をのべられました。 んはフィギアを始めたきっ 立命館大学白川静記念東洋文学文化研究所 副研究所長 加地伸行さん 名誉漢字教育士 武田鉄矢さん 最後に武田さんからは「白川説岡山版」と題して「浮」という字の説明が。 かけを、衣装には魔力があ 「なぜこの字に“子”が関係しているのかがずっと不思議でした。白川先生 るから、と教えてくれまし によると、これは生命力を試すため、川に子どもを投げ込む儀式の様子を た。また浅田真央さんも、 表しているそうなのです。それでもなお浮く力があるかを人々は試したとい 大会のときは尊敬する選手 います。また“流”いう字は、子どもが川に逆さに流れている様子を表して が 着た衣 装の一部を身に います。こちらもまた、生命力を試すための儀式です。この漢字の持つ意 付ける習慣があるそうです。 味の残酷さに驚く一方、なるほどとも思ってしまいます。なぜかというと、 この間、それをやめた途端 私たちの昔話に川に流された子どもがいます。桃太郎です。彼は鬼を退治 にショートプログラムでつま するほどの生命力にあふれていました。このように、白川説には深々と納得 ずいたのだとか。ここにも、 させてくれる魅力があるのです」と白川文字学と岡山県の民話が鮮やかに 衣が持つ魔力が隠れていま つながり、大盛況のうちに講演会は終了しました。
© Copyright 2024 ExpyDoc