無機化学I - 二又研究室

無機化学
H25 年度講義ノート 1 二又 政之
はじめに
0. 無機化学とは?
・有機化学:炭化水素とその誘導体に関する化学。
・無機化学:”その他”の化学。炭素(同素体:ダイヤモンド、アモルファス炭素、結晶性炭素、カーボン
ナノチューブ、フラーレン C60)を含む周期表全部の化学。
・化合物で分けると、有機化学(生物化学)・無機化学。研究方法で分けると、物理化学・電気化学・放射
化学・表面化学・分析化学、….。
高校化学のうち
無機化学:原子の構造と電子配置、イオン、分子、物質量、溶液の濃度、酸と塩基、酸化還元、電池と電
気分解、無機物質、熱化学方程式、金属とセラミックス
 物理化学:化学反応式、化学平衡、原子・分子、量子力学、熱力学
有機化学:有機化合物、糖・たんぱく質、衣料・合成樹脂、生命と物質
教科書「シュライバー・アトキンス 無機化学 第 4 版」をもとに解説する。随時参考図書紹介。
参考書「基本無機化学」第2版、荻野博ほか著、東京化学同人:簡略にまとめてある。
無機化学 I(二又)1 年生必修:第 1 部 3 章まで 1 章「原子構造」、2 章「分子構造と結合」、3 章「固体
の構造」
・量子力学:分子、結合➠定性的な結合モデルで説明
 物理化学 I(1 年後期)、化学結合論(2 年)、物理化学 III(2 年)、量子化学(3 年)と重複する部
分は、あまり深入りしない。
無機化学 II(二又)2 年生必修:4 章「酸と塩基」、5 章「酸化と還元」、7 章「分子の対称性と群論」
・化学とはどういう学問か?
仮説:「経験に基づいて、物質を分類し、特性を解析し、理解するとともに、新しい・より高機能・新機
能を持つ無機物質を合成する。」 物理との違い
・大学での勉強:天下り的に教科書の記述を覚えるのではでなく、体系的な理解
将来、「化学」で仕事をするための基礎・そのための方法、考え方を身につける
 詳しい情報が必要なとき、自分で、適切な資料:教科書や参考書・文献などを見つける方法(理化学
辞典(岩波)、実験化学便覧(丸善)、実験化学講座(丸善)、専門書、雑誌論文など)研究室での研究
 高校までの化学(断片的)と大学の化学の違い:より体系的(合理的、複雑)その時に理解できなくても、
問題意識を持っておく(量子力学など:オープンクエスチョン)。化学現象・原理の完全な理解は難しい
定性的な理解・大枠の理解深める
ものごとを疑いの目で見る(自分の知識・理解・経験に基づき判断):例
地球温暖化
・「知識」ではなく「教養」を身につける自分の頭でものを考える習慣をつける
・将来にわたり、必要に応じて「自習」する力を付ける。
・教科書に欠けている記述のうち重要と思われるものの追加(他の科目や、後の方で詳しく勉強すること
は、あまり深入りしない)。
・Q:小問題(前回の復習と出席確認を兼ねる)講義中に配布講義終了時に提出
1
P.2-3
1.原子構造: 原子の大きさ=直径0.1nm、原子核の大きさ=原子の大きさx10-5、周りに電子
・原子の構造・識別法、元素と原子の区別:原子の種類。同じ元素でも質量数の異なる物性の異なる原子が存在
質量数
原子番号
元素記号 
A
Z
元素記号
原子番号=陽子の数
質量数=陽子の数+中性子の数(ほぼ同じ質量。核子)、質量ではなく数であり、原子の相対質量を表す。
同位体=同じ元素で質量数(中性子数)の異なるもの(1H,
2
D,
3
T)。原子番号(陽子数)が異なれば別の原子。
(同素体:同じ元素からなる単体で構造の異なる。酸素とオゾン、炭素・ダイヤモンド・カーボンナノチューブ…)。
P.3 元素の起源:宇宙の生成(化学とのつながり)
ビッグバン:極端に凝縮されたエネルギーを持つごく小さな空間から 1.8x1010 年前に誕生
巨大爆発➠中性子(n, 半減期 11.3 分)➠陽子(p)、電子(e-)、反ニュートリノ に分解・減衰
109K に下がって(10 万年後)、1H 原子、2He 生成など、26Fe より重い元素(92U まで)は超新星爆発(中性子捕獲と
壊変で原子番号が増大)による(43Tc:テクネチウム(98Tc:400 万年)、61Pm:プロメチウム(146Pm:5.5 年)が抜けてい
るのは安定同位体がないため。地球の年齢:数 10 億年の間に壊変し消失)。
・宇宙における元素の存在比:地球と太陽での元素比
でこぼこは、各核種の安定性(結合エネルギー)や核反応の起こりやすさによる(偶数原子番号の安定性>奇数。
原子番号が小さいときは、n と p の数が等しい方が安定(「強い力」)。大きくなると n が大きい方が安定:陽子間の
クーロン反発)。
・コップの水水分子酸素原子と水素原子電子と原子核核子(陽子・中性子)・素粒子(電子、陽電子、ニュ
ートリノ(小柴、カミオカンデ、チェレンコフ光)、中間子…)クォーク(陽子や中性子を構成するもので 6 つ。益川・
小林)原子核物理、放射改変(核反応)、核化学:原子が変化、
236
U、238U の寿命は数 10 億年
参考図書:江尻著「絵で見る物質の究極」(講談社ブルーバックス B1550)、谷畑著「宇宙核物理学入門」(同
B1378)、野本著「元素はいかにつくられたか」(岩波書店)、富永他著「放射化学概論」(東大出版会)。竹内著「ざ
っくりわかる宇宙論」(ちくま新書)
1.1 軽元素の原子核合成
・水素とヘリウムから核反応でできた。(P.3 タイトル下)
・原子核反応(核融合と核分裂:駆動力は、質量の差によるエネルギー放出):
E = mc2 核結合エネルギー:個々の核子の質量と、結合したときの質量の差。化学反応(数 eV, 1 eV = 1.60 ×
10-19 J=1.6010-196.021023105J/mol=102 kJ/mol)の 100 万倍くらい大きい(MeV - GeV)。例:2H の原子質
量は 2.014102 u (12C の 1/12 を原子質量単位 1 u=1.66053886x10-27 kg と呼ぶ)であるが、1 mp + 1 mn =
2.016490 u, m = -2.388 x 10-3 x 1.6605 x10-27 kg  2.22 MeV
軽元素・重元素の生成反応と温度の相関(軽元素から次第に重い元素ができた。高温ほど重い元素)
P.4-5 図 1-1 元素存在比
・原子・核子(=陽子、中性子)1 個あたりのエネルギー:
もとの元素分布・核子分布、その反応がエネルギー的に起こりやすいこと・温度(核子に衝突エネルギーを与えて、
反応が起こりやすくなる)で、存在比が決まっている。水素:ヘリウム=12:1
注意:反応が起こりやすいかどうかは、反応自体に依存し、元素のみでは決まらない。(例:P.5 と P.6 の炭素)
cf.素粒子(物質を構成する最小単位の要素):陽子、電子、中性子、ニュートリノ、中間子、クォーク、グルーオン、
光子、グラビトンなど (陽子・中性子は、それより小さなクォーク・グルーオンなどからなるので、核子)
・核反応による核各種の形成:太陽系、地球、月では、同じ起源なので、一部を除いて(H, He)、元素組成は同じ。
cf.クラーク数:地殻の元素の存在度(O:55wt%, Si:25wt%, Al, Fe, Ca, Mg, Na, K, Ti, H… )太陽系全体では、
2
水素・ヘリウムが 98%(太陽系全体の 99.87%が太陽の質量)
・でこぼこの理由:それぞれの原子核の安定性(核子間の結合エネルギー)の違い。陽子数・中性子数が偶数のと
き安定、マジックナンバー(2, 8, 20, 28, 50, 82, 126, 182) 電子数のマジックナンバー(2, 10, 18, 36, 54, 86,..)
Q1:図 1.1 の見方:太陽と地殻での元素の存在比は類似?(ヒント:補足 1-2)
Q1-2:太陽の元素組成をどうやって調べるか?(ヒント:p.12-)
P.6 図 1-2 核結合エネルギー(核子 1 個あたり):P.6-7
核結合エネルギーと原子番号の関係:自然がそうなっている。原子核内部での核子同士の相互作用によって、
安定性が決まっている(強い力:核力、色の力)。
核結合エネルギーが低い原子ができる理由:温度と反応性(超新星爆発後に星生成後の温度+個々の原子の
安定性だけでなく他の核子・原子を含めた反応全体の起こり易さ)、同一核種でも反応により起こりやすさが異な
る。
cf.「標準理論」:4 つの力の統一理論。「重力相互作用」「電磁相互作用」「強い力(陽子と中性子間及びクオーク
間グルーオン)」「弱い力(中性子・陽子とニュートリノ・電子間のウィークボゾン)」
Q2:結合エネルギーの意味?E = Zmp + Nmn - m(Z,N)。原子間で結合ができ安定化するように、核子間で結合
ができ安定化する(エネルギーを放出=原子内の核子をばらばらにするために必要なエネルギー)。陽子が少な
いときは、中性子-陽子間引力が最も強いので、n, p 同数のとき安定。陽子数が多くなると、中性子が多い方が安
定になる(強い力、電磁相互作用などが総合的に働いて、原子核のエネルギーが決まる)。どの元素についても、
安定な原子核の質量は構成核子の質量の総和より小さい
Q3:なぜこのような曲線になるのか?陽子が多くなると、陽子同士の反発のため結合エネルギーが低下中性子
の数が相対的に増える。
なぜ鉄(質量数 56)の存在比が圧倒的な最大とならないか?無限に核反応が続けば Fe が支配的になる。しかし、
超新星爆発後、温度の低下に伴い、反応が止まり Fe など、より軽い元素への核分裂が止まった(重い元素残る)。
P.7 BOX1.1 核融合と核分裂
化学反応と同様に、核子間の結合により、よりエネルギー的に安定な状態ができる。クーロン障壁(活性化エネ
ルギー)を超えるために 106-108 K のような高温にして(人工的には、高温プラズマまたは加速器で運動エネルギー
を与える)、原子核の運動エネルギーを十分大きくする必要がある。
P.7 上 ・重要な特性:質量数 56 より小さい二つの原子核が一緒になり、新しい原子核を生成するとき、反応物
(原料)より大きな核結合エネルギー(より安定ということ)を有すると、あまったエネルギーが放出される:すべての
原子で起こることではない。質量数 56 より大きな原子核の融合では、必ずエネルギー的に低くなり、融合反応が
起きない。反応前と後で、エネルギーと質量を一緒にしたものが保存される。
(1) 核融合
2
20
10
Ne 
40
20
Ca
反応物(左辺)=2208.0=320 MeV,
生成物(右辺)= 408.6=344 MeV のとき、344-320=24 MeV が放
出される(質量からの計算では約 21 MeV:
1/(6.021023)
20
Ne=19.992435 u,
40
Ca=39.962591 u), 1 u (原子質量単位) =
g。
P.7-下 (2) 核分裂 (熱中性子誘起)
・質量数 56 より大きな原子核が、より大きな核結合エネルギーを持つ軽い原
子核に分裂しうる。
U 
236
140
54
Xe 
93
38
Sr  3n
放出されるエネルギーは、8.4  140 + 8.7  93 - 7.6  236 = 191.5
MeV
3
P.8-簡略に 放出されるエネルギーは、165 + 5 + 7 + 23 + 10 – 10 – 1 = 199 MeV  200 MeV=32 pJ=
3210-126.021023=21013J/mol
これは、0℃の水 100 万トンを 100℃に沸騰させる熱(100/4.181012)。
1 W = 1 Js-1 = 1 / (32 × 10-12) = 3  1010 s-1, 3 GW = 3  109 W = 3  109  3  1010  3600  24 = 77.8 
1023  8  1024 個の U(235) = (8  1024) / (6.02  1023)  14 mol = 14  235 = 3.3 Kg
U  n  核分裂生成物 + 2.5n
235
92
異なる質量数の核が、分布を持って生成される。
平均として2.5個の中性子が得られ、それが次の核分裂を引き起こす。
P.8 1.2 重元素の原子核合成:重い核種は中性子捕獲(重い同位体になる)と崩壊(中性子が電子を出し、陽子
が増える:原子番号 1 ずつ増える)
P.8-中段:Mo から Tc への変化
問題 1.1
80
35
Br  n 
81
35
P.8-例題。上と同じような反応:Zn から Ga へ
Br (安定で自然に存在する 3582 Br は壊変する, 壊変)
まとめ
・壊変(崩壊)の種類:不安定核種が、最終的に安定な核種に変化する。
壊変:ヘリウムの原子核( 24 He )を出す。原子量 82 以上の元素で一般的。原子番号-2, 質量数-4。
壊変:原子核から電子または陽電子が 1 個失われる(中性子が 1 個減り、原子番号=陽子の数が 1 増える)。
壊変:陽子が中性子に変化し、電荷の保存のために陽電子、エネルギーとモーメントの保存のためにニュー
トリノ放出。原子番号が-1。質量数不変
壊変:中性子が陽子に変化し、電子、反ニュートリノが放出。原子番号が+1。質量数不変
壊変:電磁波(ガンマ線)放射。核のパリティ保存により壊変できないときにおこる。
・核反応自体は色々なものが考えられる。そのうちのエネルギー的に起こりやすいものを使って、核融合や核分裂
により、エネルギーを取り出す。
・原発での反応:ウラン 235 の分裂反応(P.7)
・核融合:D+T=He + n
(太陽:4p + 2e−  4He 。温度が十分高いので核反応が自然に起こる。加速器研究所:普通の条件では足りない
エネルギーを、電場や磁場をかけて核子や原子・イオンを加速してやることで与える。これにより十分な運動エネ
ルギーがあれば、核反応を起こせる。核融合:数秒間、数億度に保つ必要。実用化はまだ。)
P.9-11
1.3 元素の分類
無機化学の歴史:
・紀元後:中国・エジプトなどで錬金術:卑金属(空気中で容易に酸化される金属、アルカリ金属やアルカリ土類
金属)を金に変える。その過程で、蒸留、昇華、結晶化などの技術を開発。
化学的方法(錬金術)では、原子間・分子間の結合を変えることはできるが、原子核そのものを変えることはで
きない。原子核反応には高温 or 加速器が必要
現代の錬金術は、加速器実験( 198
80 Hg 
9
4
Be 
197
79
Au 
9
4
Be  11 p :金はできるが、0.00018g/年程度)。
都市鉱山(電子機器からの金の回収、6800 トン~現有埋蔵量の 16%)、112 コペルニシウム、113 番元素理研
(H16, ウンウントリウム, 2 秒), 114 番フレロビウム(Fl), 116 番リバモリウム(Lv, 2012 年 5 月)
・17 世紀:強酸、色々な塩。定量実験法、原子量・分子量の決定
ボイルの法則、ラボアジェ化学反応における質量保存、ドルトン気体分圧の法則、倍数比例の法則(CO, CO2 質
量比が整数比)、原子説、ゲイリュサック気体反応則(体積比が整数比)、アボガドロの法則(同温同圧下で同体
積の気体は同数の分子を含む)
4
・19 世紀:メンデレーフ(1869), Meyer の周期表:質量の順に並べ、似た性質の元素を同じ族に組分け。
・1896:ベックレルの放射能発見,
・1898:キュリー夫妻ラジウム発見,
・Balmer 系列,
・1897:Thomson の電子の発見、1909: Millikan 電子の電荷測定
・1911:Rutherford 原子核の発見, 1913: Moseley 原子核の電荷
・1913:ボーアの原子理論,
・1926-1927:Schrödinger, Heisenberg 量子力学
・20 世紀初頭:アンモニア、硫酸、硝酸、苛性ソーダなどの大型製造装置、錯体化学
・第二次大戦:核爆弾(原爆(核分裂):235U(広島型)、239Pr(長崎型)、水爆(核融合):D-T、D-D)
・1950 年代:負イオンに囲まれた金属イオンに関する結晶場理論、分子軌道法による錯体の配位子場理論
・1955:ジーグラー・ナッタのポリエチレン合成のための触媒
(a)傾向と周期性 P.9-下から P.10 上
まとめ
金属:光沢、延性、展性、電気伝導性、非金属:気体、液体、電気伝導性低い、半金属:B, Si, As, Te。金属と非
金属の中間的性質。
Q4:金属元素は何故金属か?アルカリ金属、アルカリ土類、遷移金属、13 族のうちなぜ B は非金属で Al, Ga,
In Tl は金属か?
P.10-下 Q5:図 1.3 モル体積の周期性の説明?(P.33 原子半径の図と単体の構造を基に考えよ。)
(b)現代の周期表 (文科省「一家に 1 枚周期表」、ニュートン別冊「完全図解周期表」、講談社ブルーバックス「元
素 111 の知識」)
・周期表(横が周期と縦が属、原子番号順に並べたもの):まさに「化学そのもの」(メンデレーフ:原子量順)
周期(period)
族(group):類似性(同族元素)=例えば水素と同じ組成の分子を作るものが同じ族、4 種のブロック(s,p,d,f)
図 1.4 典型元素:s, p ブロック、遷移元素:d ブロック、d 電子殻が不十分に満たされたイオンを生じる元素
f ブロック:ランタノイド、アクチノイド
P.12-13
水素型原子の構造(電子 1 個の原子、H, He+, C5+など)
原子スペクトルで、元素が光あるいは熱で励起され、発光する。その波長は連続的ではなく、離散的(輝線スペク
トル。とびとび。花火の色=炎色反応)
エネルギーの離散性(量子化)
実験的表式:リュードベリ定数 R(= 1.097×107 m-1。実験的に決められた定数)
 1
1 
 R  2  2  :エネルギーの差に相当。水素型原子の電子エネルギーがこの式で関連付け(1.4 式)。

 n1 n2 
1
ライマン系列:n1=1 紫外光領域(<400 nm, 高エネルギー)、バルマー系列: n1 = 2 可視光領域(400-800 nm)
パッシェン系列、ブラケット系列:n1 = 3, 4 赤外領域(>800 nm)
・ボーア模型(量子論の初め。正電荷核の周りを電子が円軌道回転。水素についてはうまく合うが、より複雑な系
ではあわない)
エネルギーの量子化:黒体輻射の温度とスペクトルの関係を説明するために Planck の量子化が必要(エネルギ
ーが連続しているとすると、紫外部で発散しなければならない実験結果と合わない。量子化すると、熱的に励
起されない準位からの放射はないために、特に高エネルギーの紫外部で放射強度が抑制される。)
P.14-16
参考図書:中田宗隆著「量子化学 基本の考え方 16 章」(東京化学同人)第2章
1.5 量子力学的原理
(詳しくは、後期以降の「物理化学」、「量子化学」の講義で。経験に基づいて分類された原
5
子や分子の性質を、量子力学に基づいて理論的に説明) 補足資料参照
・量子力学:必要性「ニュートン力学では、普通の物体や惑星など大きなものの運動を記述できるが、原子・分子
の記述には適用できない(実験結果:黒体輻射、水素ランプの輝線、光電効果、電子線回折など)」、
Schrödinger, Heisenberg
要点
a)古典力学:ある時間の粒子の位置と運動量を規定することで、運動を正確に記述。運動エネルギーは連続
量子力学:存在確率、エネルギーは不連続(量子化)。
・シュレディンガー方程式(1.2 式):古典力学の波動方程式に、運動量の量子化条件(ド・ブローイ)を入れた。
-{(h/2)2/2me} (∂2/∂x2+∂2/∂y2+∂2/∂z2) + V= H= E
➠運動エネルギー+位置エネルギー=全エネルギー
b)粒子性と波動性(電子など微小な粒子は、粒子としての性質と波動としての性質を持つ)
・量子化されたエネルギーを持った粒子(光電効果):nh
・波動性:結晶による電子線の回折、ド・ブローイの関係式(粒子性と波動性をつなぐ。= h/p, :波長、p=運動
量)➠波長、運動量、(箱の中の粒子の)エネルギーの量子化
c)不確定性原理: Heisenberg,電子の運動量と位置(または、エネルギーと時間。これらはお互いに可換な物理量
ではない)を完全に知ることはできない。不確定さ = h/4程度(h:プランク定数)。
d)エネルギーの量子化:黒体輻射の実験結果の説明のために必要(紫外部破綻)
E = nh(n=0,1,2,3,..、 :振動数)
e)波動関数:その二乗は確率密度 2dは、体積 d中に電子を見出す確率。
P.15-16
図 1.6 波動関数の模式図:赤線が波動関数(, 正・負の値)。緑:確率密度(2=20)。=0 の点を節。最大
振幅=腹。
図 1.7 波としての波動関数の干渉: (a)波 1 と 2 が同位相のため、合成波はより強い。(b)位相が 180 度ずれて
いる(反位相)のため、打ち消しあう。
P.16-18
1.6 原子軌道:電子の波動関数(ポイント:原子の記述=その電子の波動関数・エネルギーを記述すること)
(a) 水素型原子のエネルギー準位
量子数の種類と意味
・n = 主量子数、エネルギーを決める(水素型原子のみ。多電子原子では状況が異なる p.25)。
水素型原子の電子のエネルギー
・En = -hcRZ2/n2 , h:プランク定数 = 6.6310-34Js, c: 光速 = 3.0108ms-1,
・R(リュードベリ定数)= mee4/(8h3c02 = 1.097105 cm-1, Z:原子番号。水素原子では、En = -h/n2
・l=軌道角運動量量子数、方位量子数,回転の速さ(E=Jz2/2mr2, Jz=pr, p=h/=2r/ml Jz=mlh, ml=0, 1,
2,..), 軌道角運動量=[l(l+1)]1/2h (l=0,1,2,…), ml=磁気量子数、回転の向き原子の内部構造を示すだけでな
く、分子を形成する結合の方向性を示す。
P.17 原子核電荷と電子の静電引力
(b)電子殻(n)、副殻(l)、軌道(m)
・縮重、縮退:n(=エネルギー)が同じでも l(=0(s),1(p),2(d),3(f),…,n-1)の異なるもの
・ml=+l, +l-1,..,-l (2l+1 個):軌道角運動量成分を決める。
5 個の 3d、ml = +2,+1,0,-1,-2
P.18 上: s, p, d, f の区別
6