無機化学I 補足資料 2014-1 補足 1:元素はいかにつくられたか * , 2

無機化学 補足資料 2014-1
補足 1:元素はいかにつくられたか
研究室 HP に入る(http://futamatalab.chem.saitama-u.ac.jp/) 関係
者限定 無機化学 I 受講者ページパスワード入力ダウンロードし
たいファイル(例:”Inorg1SM-Chap1”)をクリックすると、その pdf ファイ
ルが開く自分の適切なホルダに名前を付けて保存または印刷する。
谷畑著「宇宙核物理学入門」講談社 B1378, 佐藤著「宇宙 137 億年の歴史」(角川書店)、野津著「朝倉化学体系 6 宇宙・地球化学」
インフレーション
10-43-10-34 s で 1030
倍。100 m
プランクの時代
0-10-43 s。
10-35 m
10-27 s
1000 km. 1023℃
地球から 137 億光年(9.5x1015 m),
宇宙は 1026 m の広がり
宇宙は
加速膨張
谷畑著書
NASA/WMAP (http://map.gsfc.nasa.gov/)
10-6 秒で陽子・中性子
3 分で 109K、原子核
38 万年、3000-10 万
K で原子(電子捕捉)
宇宙の晴れ上がり
7
密度揺らぎ
10 K で星が誕生:
HHe
(p-p チェイン)
7
8
10 -10 K
He 生成
1. 水素燃焼(>107K): p-p チェイン*。4 個の p4He (太陽)
谷畑著書
2. ヘリウム燃焼(2x108 K):トリプル・アルファ反応。3 個の
4
He12C, 12C+4He16O
3. 炭 素 燃 焼 (>8x108 K, 太 陽 の 8-10 倍 ) :
12
C+12C20Ne+4He, 24Mg+で、Ne, Mg 生成
4. ネ オ ン 燃 焼 、 酸 素 燃 焼 (>1.5x109 K) : 20Ne+16O+,
16
O+16O28Si+, 31P+p, 31S+n, 32S+
50 億年
過程e(平衡)過程>3.5x109K、太陽の 10 倍以上): 粒子
が次々と反応。色々な核種が存在し、平衡が成立するため、エ
ネルギー的に安定な Fe, Ti, V, Cr, Mn, Co, Ni が合成される。
28
Si+, +,+…32S, 36Ar, 40Ca, 44Ti, 48Cr, 52Fe,
56
Ni,…44Ca, 48Ti, 52Cr, 56Fe
5.鉄より重い元素合成:その核融合反応は吸熱過程なので、
進まない。中性子密度が低いとき、中性子捕獲+-壊変の繰
り返しで 209Bi まで生成(slow)。中性子密度が高いとき(超新星
>108K
中性子捕獲+崩壊 爆発)、Bi より重い元素ができる。
>108K で、Pb まで生成
Ne, Fe 生成
* p  pチェイン
p  p  2 H  e   e ,
2
3
元素の生成: >106 K の高温が必要
①ビッグバン、②恒星内部、③超新星
H  p  3He  
He  3He  4 He  2 p
4p  4He
補足資料は、すべて理解する必要は無く、参考にする程度でよい。
A-1
補足 1-2:元素はいかにつくられたか
谷畑著書
陽子・中性子ドリップライン:極限構
造。中性子数、または陽子数が決
まると、これ以上陽子または中性
子が多くなりえない限界の数。
Np/Nn=1
原子番号(=陽子数)が大きくな
ると、中性子が多い方が安定
陽子間静電反発
軽元素:11B まで
pn++
すべての質量数の元素が同じように安定ではない。
E, E , E , …
np+(丸内番号は、教科書 p.5 の 6 つ
の反応式に対応)
太陽系のでき方
(a) 分子雲コアの収縮と原子太陽の誕生:星間塵の密
度の揺らぎで、分子雲コア形成 104AU(1AU=1.5 億
km),太陽質量の数倍、温度 10 K、光度:現在の太陽の
10 倍、H2 分子密度 104 個/cm3何らかのきっかけで
重力収縮(分子雲が中心に集まり、高密度化)
原始太陽生成: 105 年で成長・形成。105 K(表面 103
K), 原始惑星系円盤ガスや塵の降着
(b) 降着円盤による太陽の成長:
(c) 円盤内のダストの沈殿と微惑星の形成;降着停止
自己重力天体:微惑星(大きさ数 km-数 10 km)形成
(d) 微惑星合体により原始惑星形成:塵の合体衝突
合体で原始惑星
(e) 円盤ガスの降着で木星型惑星の形成
ここまでで、大体3107 年
A-2
野津著書
表面温度一定で光度低下
光度再増加(108 K)主系列
星(1H4He 核融合開始)
補足 1-2 元素組成
教科書 p.4 参照 70%H, 28%He
地球型:金属コア+岩石表面
太陽系の全質量の 99.87%が太陽
太陽の元素組成が、太陽系の元素組成
しかし、個々の惑星(水、金、地…)の元
素組成は、太陽とは異なる。
宇宙のエネルギー
4%通常物質
20%ダークマター
木星型:岩石コア+氷マント
ル+H-He ガス層
76%ダークエネルギー
地球化学
地殻と地球全体の元素組成の違い
(重量%)
元素数比
O 1.790
Fe 0.644
Mg 0.557
Si 0.525
S 0.0517
Al 0.0489
外核:液体
(4000-7000K, 1000-1200 気圧)
内殻:固体(Fe-Ni)
クラーク数:地殻中の元素の重量%
O (49.5), Si(25.8), Al(7.56), Fe(4.70),
Ca(3.39), Na(2.63), K(2.40), Mg(1.93)
A-3
補足 2 核反応式
12
4
16
6 C  2  8 O  
12
1
13
6C  1 p  7O  
13
1
14
6C  1 p  7 N  
15
15

8 O  7 N  e 
 線:波長0.01nm  0.1 fmの電磁波
...(1)
....(2),
....(4),
.....(6),
13
13

7 N  6 C  e   .....(3)
14
1
15
7 N  1 p  8 O   .....(5)
15
1
12
4
7 N  1 p  6 C  2  .....(7)

崩壊:ヘリウム原子核生成(核分裂)重い元素 A(質量数) > 52 (Fe)でおきる。He 原子核運動エネルギー約 5
MeV(15000 km/s)
U →
Th
He
質量数 A は 4 減り、原子番号 z も 2 減る。
γ
このとき、 Heは、4.13 eV 励起状態 、4.18 eV 基底状態 のエネルギーを持つ。
このエネルギー差 0.05 eV のガンマ線
+
hν が放射される。

崩壊( ,  ): ①n/p が大きすぎて不安定な核種が、n p + e-+e (-壊変)で、n/p を減らす(n/p が小さすぎて不
安定な核種では陽電子 e+放射、電子捕獲 e-)。原子番号 z が 1 増加し、質量数 A は変化なし。
②逆に p/n が大きい原子核が、p n + e+ + e (+壊変), p + e-  n + e (EC:軌道電子捕獲)
In →
Sn
e
2.95 MeV
このとき電子の運動エネルギー1.00MeV で、残りはニュートリノ 1.95 MeV の運動エネルギー
電子の質量は、原子核の約 1/2000 なので、大部分の運動エネルギーは電子が担う(m1v1 = m2v2)。ニュートリノ
生成を伴う。原子番号 z は 1 減り、質量数 A は変化なし。
γ崩壊:α崩壊やβ崩壊のときに、原子核が励起されることがある。基底状態に緩和するとき、その励起エネルギ
ーが、γ線 (波長<10 pm: X 線(10 nm-10 pm)よりも短波長)として放射される(量子化された原子核のエネルギ
ーに従い、飛び飛びのエネルギーを持つ)。γ崩壊のみが起こることはない。
このほか、
(1) 核反応は、エネルギー的な起こりやすさと、速度論的な問題が重なり、簡単には予想できない。(質量と電荷
が保存されることから穴埋めはできる)
ニュートリノ、陽子、電子、陽電子などは粒子と見て、核反応式に従う個数生成・消滅する。線は、電磁波で、
波長エネルギー0.01 nm - 0.1 fm(0.1 MeV - 0.5 TeV)に幅を持つ(反応により高エネルギーが放出されるとき
に、電磁波として放出される部分。残りは,原子核、素粒子の運動エネルギーなど)。
核結合エネルギーとは、陽子・中性子が核を作ることにより安定化するエネルギーのこと(分子における結合
エネルギーと類似)。逆にもとの素粒子、原子核に分離するために必要なエネルギーといってもよい。
余談 1:核反応と質量欠損(cf. A-6):核反応の前後での質量の欠損分が、エネルギーとして放出される。
・核反応自体は、単に原子核を置いただけでは起こらない。熱エネルギー(加熱, kT)または運動エネルギー
(1/2mv2)を持った原子核・素粒子をターゲット原子核にぶつけることで、活性化エネルギーの山を越えると
(または量子トンネル効果で)、核反応が起こる。このとき、生成原子核と反応原子核の核子の結合エネルギ
ーの総和の差(=反応前後の質量差に相当するエネルギーmc2)が放出される。原子力発電所では、この
エネルギーが次の原子核の分裂反応を自動的に引き起こす。連鎖反応の制御:減速材・冷却材。
・特殊相対性理論(Maxwell 方程式において、光の速度が不変であること(=実験事実)を説明するために出て
くる位置と時間、運動量とエネルギーのローレンツ変換で説明される)による静止質量=エネルギー。
参考文献:講談社ブルーバックス B168 橋本修司「質量とはどのように生まれるのか」
A-4
・p.6 図 1.2 がなくても、反応前後の原子核の質量(原子量では不正確。核種毎の質量:理化学辞典、化学便
覧基礎編)が分かれば、放出されるエネルギーは計算可能原子量=同位体の重み付き平均。原子質量単
位 1.6605x10-27 Kg, 1 eV = 1.60910-19 J。止まっているもの(t0, m0, L0, E0=mc2)から見ると、動くものは、
①時間が遅くなる:
,
,
②質量が増える:
④エネルギーと質量の関係: E
壊変速度=
14
余談 2:放射性同位体による年代測定: C (半減期
5568 年)の大気中濃度は常に一定
N e
→N
③長さが縮む:
dN
dt
λN λ: 崩壊係数
, log N
log N
・宇宙線により生成される中性子で定常的に
14
N  n 
C  p が起きている。
14
・生体中の C は大気中の CO2 と平衡状態炭素 1g
当たりの比放射能は生物体も大気も等しい。
半減期とは、N
N
N
1
2
e
/
λt
2.3
1
N になる時間t
2
→ t
/
/
のこと
2.303
log 0.5
λ
0.693
λ
生物体が死ぬと、この交換が起きなくなるので、半減期に従い減る。
137
Cs=30 年(-)、131I=8 日(-)、235U=7 億年、238U=45 億年
Q:放射壊変の半減期を決めているのは、どのパラメータか?それは何によって決まると考えられるか?
補足 2-2:放射性同位体系列:つの系列。多くの崩壊が放射を伴っている(基本的には多いか少ないか
の問題)。壊変が入っても、質量数は変わらないので、系列は変わらない。系列に入らない同位体も(Na, K..)。
理化学辞典第4版
天然には+壊変は起こらない。
補足2-3 ウラン 235 とプルトニウム-239 の核分裂生成物
A-5
ネプツニウム(237Np)系列:半減期 2.1x106 y なので、地球生成時の 237Np は存在しない。宇
宙線あるいは人工的に生成されたもので見られる。
核分裂反応の例
U  n (熱中性子 kT  1eV ) 
235
235
U  n (高速中性子 5  6 MeV ) 
238
U ( Em  6.4 MeV )  95Y  139 I  2n (6.4 MeV )
236
92


U ( Em  4.8 MeV ) 

239
239


Np 

239
Pu
 十分な運動エネルギーのとき核分裂
 通常の原子炉では、後者の反応が起きないように中性子の減速材使用
U の主な核分裂生成物
Cs 6.8 % 安定
135
I
6.33
6.6 h
93
Zr
6.3
1.5 My
137
Cs
6.1
30 y
99
Tc
6.1
211 ky
133
余談:沸騰水型原子力発電
➀ウラン濃縮:天然 U235(0.7%), U238(99.3%) U235(4-5%) 
②熱中性子発生、連鎖反応
収率
③燃料棒(U)、減速材(H2O:中性子の減速沸騰・タービン回転。
2 次冷却水循環で液化・再循環)、制御材(CB, Cd 合金、インジ
ウム、銀:中性子の捕獲・反応の停止)
余談:放射能の強さの単位
放射線量ベクレル(Bq)と吸収線量グレイ(Gy)、等価線量シーベルト
質量数
(Sv)
1 Bq = 1 dps (= decay per second = 1秒当たりの壊変数)
「レベル7の根拠は、2号機が爆発した3月15日ごろの数時間、最大で毎時1万テラベクレル(テラは
1兆)の能力を持つ放射性物質が外部に放出されていたと報告されたことである。しかし、今はその1万
分の1に減っている。」1012 Bq = 1012 dps
(放射能汚染水漏洩:710 億 Bq  3.6x1013 Bq
1 Gy = 1 J/kg, 1 Sv = A  1Gy, (A: 生物学的効果係数 = 1 (X-ray, ,), 5 (p), 5-20 (n), 20 ())
放射線量吸収量(環境・吸収係数)シーベルト(放射線ごとの生物への影響の大きさの違い考慮)
Q: 1012 Bq の放射能が出ている時に、何個の放射性元素が壊変しているか?
参考:特殊相対性理論
佐藤勝彦監修「相対論を楽しむ本」(PHP 文庫), 竹内著「高校数学でわかる相対性理論」(講談社 BB-B1803)
「光の速さはだれ(動いているもの・静止しているもの)から見ても同じである」事実を説明するために考えられた。
「特殊」:観察者が等速直線運動している場合。「相対」=どちらも正しい。
動いているものは、
①時間が遅くなる。自分から見た相手の速度=(自分の速度+相手の速度)/{1+(自分の速度相手の速度)/光
速 2}。タイムマシン
②長さが縮む:動いている時の長さ=止まっている時の長さ{1-(動く速度/光速度)2}
③質量が重くなる:質量=止まっている時の質量/{1-(物質の速度/光速度)2}
エネルギー=mc2, 質量をもつものは光速を超えられない
・質量保存則、エネルギー保存則は近似的に正しい(厳密には正しくない。静止エネルギーを入れると正しい)。通
常の化学反応の条件では、質量変化は無視できるので、実際上正しい。
通常の化学反応のエネルギーの出入りも、質量変化に基づく。
Q:水素分子 H2 の結合が切れる化学反応式を立て、結合エンタルピー(~結合エネルギー)の表(p.59)から、反応
の前後のエネルギー差を求めよ。また、その時の質量変化を求めよ。
E=436 kJ/mol=mc2, m ={436103/(6.02x1023)}/(3.0108)2 = 8.010-33(g) = (8.0410-33)/(1.6710-24) = H 原子 1 個の 510-9
倍の質量増実際上無視できる。
A-6
補足3
量子力学の必要性
原子や分子の示す現象(下例)、エネルギー・存在状態の記述が、古典力学・電磁気学では不可能。
1)黒体輻射:温度 T の壁で囲まれた空洞からの放射光のエネルギーと強度の分布(エネルギー量子)
2)原子の発光スペクトルが、連続ではなくとびとびの輝線:エネルギーが量子化(とびとび)
3)原子の大きさが一定:水素原子核(陽子)と電子がクーロン力で結合し、電子は軌道上を回転して
いる。太陽の周りを地球が回るように。ニュートン力学は、電子の楕円軌道の大きさが一定であるこ
とに答えられない。電磁気学によると、回転数で回転する電子は,振動数の電磁波を放射するはず。
それにより、エネルギーを失うので、運動エネルギーが減少し、電子の軌道半径は減少し、最終的に
電子は陽子と結合するはず。
4)光電効果(下記)・コンプトン散乱(下図):光の2重性(波動であると同時に粒子)。
5)電子の干渉縞、回折:電子の2重性(粒子であると同時に波動)。
これらの現象を説明するために、量子力学(理論)が作られた。
補足3-2 量子力学の歴史
1897 電子の比電荷の測定(電子の発見):J.J. Thomson が陰極線を磁場で曲げて検電器検出。
原子は、静電荷の小さな核と多数の電子から。(ラザフォードのアルファ粒子の金属箔での反射・回折実験)
1900 光量子仮説:Planck は、黒体輻射短波長側の説明に、量子化された振動子エネルギー(プランク定数)。
統計力学に基づき、平衡条件で一定温度にある分子の持つ熱エネルギー分布が記述される。そこにエネルギ
ーの量子化を入れると、実測の温度-波長の関係を説明できる。
1905 光量子:Einstein の光電効果。マックスウェル電磁気学(光エネルギ-振幅 2)では説明できないp=h/
Km=E-W0=h-h0(Km:最大運動エネルギー、W0:仕事関数), eV0=h-h0 (0:限界振動数=光電効果を起こすた
めに必要な最低振動数)
h
光電効果:
①光の振動数が、金属固有の限界振動数0 より小さいと光電子は出ない。
弱くても、>0 なら光電子が出る。
②光電子の運動エネルギーは、照射光の振動数で決まる。
③単位時間に出る光電子数は、光の強さに比例(1 光子が 1 電子を出す)。
光子(X 線)
E=h
p=h/
電子
光子(X 線)
E=h'
p=h/'
'>
光子(1 個)が、あたかも粒子のように、金属内の電子(1 個)に衝突し、
はじき出す。このとき、運動量とエネルギーの総和が保存される。
コンプトン散乱
電子 E=he
p=h/e
1913 Bohr(ボーア)の原子模型:(中田、「量子化学基本の考え方」東京化学同人 4 章)
ボーア仮説:角運動量の量子化
・古典力学・電磁気学に基づく太陽系モデルでは、電子(荷電粒子)の運動は電磁波の放射を伴うので、次第に運
動エネルギーが低下し、核に近づき、ついには合体してしまう(510-11s, 陽子+電子=中性子生成の可能性)。
e2
4 0 r
A-7
2

me v 2
r
....(1)
0:誘電率, e:電子の電荷、me:電子の質量, v:電子の回転速度, r:電子の回転半径
・それを避けるために、角運動量(mvr=(h/2)n, n=自然数)の量子化を仮定した。角運動
量は、連続ではなく飛び飛び。しかも最低値 n=1 で限定。それに伴い、半径、エネルギーも量子化される。
一定のエネルギーのみが許される。異なる状態間で遷移するときエネルギーの放出・吸収が起こる。仮説) 
原子の線スペクトル(水素放電管、ナトリウム輝線、水銀、太陽のフラウンフォーファー線…)が、うまく説明できる
(このときは、まだなぜかはわからない)。Rydberg の式 (P.13、1.1 式)
1923 コンプトン散乱:X 線を金箔に照射し、放出される電子と非弾性散乱 X 線で、運動量とエネルギーの保存
1924 物質波:de Broglie(ド・ブロイ)波長。mv = h/2r = n物質波は一周すると元にもどるに代入 mvr =
m vr
r
2 式を 1 式に入れると n
n… 2
ε h
πm e
n … 3
n
1 のとき、最小半径r
1, 2, 3, …
ε h
πm e
: ボーア半径
0.052 nm
同様に電子のエネルギーは、 1 , 3 式を下式の r に代入して
E
1
m v
2
e
4πε r
e
8πε r
e
8πε
ε h
πm e
1
n
従って、n 番目とn 番目のエネルギー差は、ΔE
また、R
nh/2
1
hc
m e
8ε h
m e
… . p. 17, 1.5 式
8ε h c
m e
8ε h
E
1
n
E
hcRZ
hcRZ
1
n
1
n
教科書 p. 16, 1.4 式
1
…. 4
n
リュードベリ定数
量子条件の意味:粒子の波動化の表われ(この時、まだ物質波の伝搬は定式化されてない)
1927 電子線回折:Davidson Germer 電子ビームがニッケルで回折される(下図)。微小な粒子の波動性の証明
E
A-8
p2
h2

より  
2m 2m 2
h
2meV
d sin  = n回折・干渉条件
1926 Schrödinger(シュレディンガー)方程式:波動関数、固有値。古典的な波動方程式(定在波)に、量子条件を
取り入れた。
Ψ
2π
λ
Ψ
0….. 1
∙ 2m
(2)を(1)に代入すると、
∙ 2m E
Ψ
E
Ψ
… 2
運動エネルギー=全エネルギー-位置エネルギー
0 … 3 水素原子のシュレディンガー方程式
1926 波動関数の物理的意味:Born(ボルン)の解釈。の波形を持った何かが存在するのではなく、2 で粒子を
そこに見出す確率・ある現象が起こる確率が表わされる。
波動関数の二乗:電子の存在確率を示す。電子が雲のようなものとして分布しているわけではない。観測された
瞬間に、観測された場所に存在する。
1925-1926 行列形式:Heisenberg(ハイゼンベルグ), Dirac(ディラック), Pauli(パウリ)。量子化条件の一般化
(Dirac) px-xp = h/2i。量子論的数 q 数(積の順番を入れ替えると結果が異なる)c 数(classical.普通の物理
量)
1927 不確定性原理:Heisenberg。Dirac 条件x ph。E t h(粒子の波動性の表われ)
①量子力学、演算子の特性から数学的に導出される
②微小粒子の波としての性質からも説明
x/2(回折限界), ph/(光子の運動量) pxh/2
場の量子化:Dirac…
原子・分子の世界では、物質は粒子としても、波動
としてもふるまうその特性(運動・エネルギー)は、
量子力学により説明できる。
経験則がなぜ成り立つかを理解するために、
(化学現象の本質を解明するために)
量子力学(量子化学)や統計力学(熱力学)が必要
Bohr モデルが、Schrödinger 方程式に置き換えられなければいけない理由
1)電子の軌道は実際には円ではない。(sp, d, f)
2)水素以外の原子の発光スペクトルを再現できない
3)角運動量の量子化は、実際には ではなく、 l l
A-9
1
補足3-3
シュレディンガー方程式の導出(古典力学+運動量量子化。証明ではない)
(1) 古典力学に基づく波動方程式
参考:原康夫「量子力学」岩波書店, 中田「量子化学」東京化学同人
S:張力、:線密度
f  ma 
2 y 1 2 y

,
x 2 c 2 t 2
S
x

 v .....(a) , y ( x, t )  A cos 2   t  .....(a ')



c
(2) 電子の波動性、運動量 p の量子化

h
E
, 
.....(b)
p
h
(3) 複素数波動関数:
(b)を満足し((c)式)、かつ E=p2/2m を満足する量子力学的粒子の満たす波動方程式は(d)。(d)を書き
かえると、(e)式(古典力学での(a)式との違い)。H:ハミルトニアン(運動エネルギー+ポテンシャル項)
y
Ψ x, t
Ae
h ∂ Ψ
8π m ∂x
… c ,
c を d に代入して、左辺=
h ∂ Ψ
8π m ∂x
ih ∂Ψ
… d
2π ∂t
p Ψ
,
2m
右辺
ih
2π
2πiE
Ψ
h
EΨ
ih ∂
ih ∂
,E →
… e
2π ∂x
2π ∂t
→p
(4) シュレディンガー方程式: H(p, r)にポテンシャル項 V(x, y, z)を入れて一般化

2  2 

.....(d ')
 V ( x, y , z )   i 
2
2m x
t
(5) 時間項の分離
→ T Hu
dT t
dt
ih ∂
uT
2π ∂t
u x, y, z T t とおいて、H uT
Ψ x, y, z, t
u
ih ∂
T
2π ∂t
EuT → 両辺を uT で割ると、
2πiE
T t … g , Hu
h
h
8π m
u
V r u
H uT x, y, z
u x, y, z
ih 1 dT t
2π T t dt
E… f
Eu … h
(6) 水素原子のシュレディンガー方程式
e
とおいて、
4πε r
h 式で、V r
Hu
h
8π m
u
e
u
4πε r
Eu … h
この微分方程式を物理的意味を持つ条件で、数学的に解く。 → n, l, m など量子数が必要になる。
磁場に対する応答や、電子自身の固有磁場に対する実験結果から、電子スピンを取り入れる必要
→ s, m 等の量子数が出てくる。

A-10
補足4 角運動量の量子化
参考:小形正男「量子力学」裳華房
・古典力学(ケプラーの法則):エネルギー、角運動量の値と方向が一定、Bohr モデル
・量子力学では、角運動量角運動量演算子L 固有関数:Hのから、動径部分 R(r)を除いた角波動関数
Y
θ, φ 、固有値:ℓ(ℓ+1)h/2, l (z 軸成分)の固有値 mlh/2
電子は、(n, ℓ, m)であらわされる一定のエネルギー、角運動量、角運動量のz成分の値を持つ
Q:Bohr モデルでは、電子は一定半径の軌道(orbit)上を一定速度で回転するが、シュレディンがー方程式で
得られる原子軌道(atomic orbital))上の電子は回転しているのか?またそれはどのようにして確かめられる
か?





補足4 水素型原子の動径波動関数
n-ℓ-1 個の節(動径分布関数で ℓ=0 の点)
小形正男著「量子力学」
(裳華房)P.139
A-11
補足4-3 軌道の境界面の形
参考:小形正男「量子力学」裳華房
教科書 P.23 の pz 軌道はよいとして、px、py の軌道の形と波動関数(P.19)の関係:
Px, Pyは、Pz と等価なはずなので、元の関数の一次結合で、
px: -Y11+Y1-1=x/r=cos 2px:A x exp(-r/a0)
py: Y11+Y1-1=iy/r=isin  2py:A’ y exp(-r/a0)
pz: Y10=z/r 2pz:A’’ z exp(-r/a0)
と表すことができる。
同様に、d3z2-r2: Y20 の他に、
dxy: Y22-Y2-2=xy/r2,
dyz: Y21+Y2-1=yz/r2,
dzx: -Y21+Y2-1=zx/r2,
dx2-y2: Y22+Y2-2=(x2-y2)/r2














補足2-2 モル体積=単体モルの体積
原子半径(表)は、共有結合半径(分子における結合距離の半分)、金属半径をまとめた呼称。共有結合性固
体(半導体など)や金属固体では、モル体積は原子半径に比例するが、常温で気体、液体の場合は、分子間距離
は分子内原子間距離よりもずっと大きいため、モル体積は原子半径では単純に比較できない(モル体積は、原子
半径で見積もった値よりもずっと大きい)。そのため、同じ周期の元素のモル体積は、原子半径とは異なり、周期
表の右に行くと増大する。原子半径は、同一周期では、右に行くほど、主として遮蔽の不完全さのために半径は
低下する。





A-12
補足4-4 軌道の境界面の形
参考:西本吉助「量子化学のすすめ」化学同人
px、py の軌道の形と波動関数(P.19)の関係:
Px, Pyは、Pz と等価なはずなので、元の関数

の一次結合で、
px: -Y11+Y1-1=x/r=cos
 2px:A x exp(-r/a0)
py: Y11+Y1-1=iy/r=isin
 2py:A’ y exp(-r/a0)
pz: Y10=z/r 2pz:A’’ z exp(-r/a0)
と表すことができる。
同様に、d3z2-r2: Y20 の他に、
dxy: Y22-Y2-2=xy/r2,
極座標プロットの仕方: z/r=cos 
原点を中心として半径の円を書く。
dyz: Y21+Y2-1=yz/r2,
円周上で極角を変えながら cosの値をプロットr'cosする。右上図の
dzx: -Y21+Y2-1=zx/r2,
z>0 の小さな円は、直径の円周にあるので、原点からの距離は常に cos
dx2-y2: Y22+Y2-2=(x2-y2)/r2
同じプロットをまで行う。
p.21 4-5 動径分布関数
右図より、dx dy dz
= r2sindr dd
で積分して、動径の
みの分布とする。定数×r2×R(r2)2
A-13
参考: 中田宗隆「量子化学」東京化学同人
電子による核電荷の遮蔽が不完全な理由
電子の軌道が複雑で空間分布が球状ではないた
補足5 軌道近似と遮蔽
多電子原子の電子が、水素型原子の軌道と似た原子軌道を占めると仮定する
遮蔽:その電子の内側にある他の電子との反発を、核電荷の代わりに、eff(有効核電荷)で表したもの(他の電
子が存在せず、有効電荷 Zeff を持った原子核と、問題にしている電子 1 個の相互作用シュレディンガー方程式を
解けば得られるとみなす)。Zeff はスレーターの経験則または量子化学計算に基づく。
スレーターの遮蔽規則(経験則)
(1) 同じグループ(s, p は同じ n のもの、d, f は、同じ n の d, f)の電子は 0.35,
(2) s, p グループのとき、すぐ内側の電子殻から 0.85、さらに内側殻の電子から 1.0
(3) d, f グループのとき、同じグループから 0.35、内側(同じ n の s,p, およびさらに内側)から 1.0
例:Mg (Z = 12, 1s22s22p63s2)。Zeff = 12 − (1 × 0.35 + 8 × 0.85 + 2 × 1.00) = +2.85
Ni ( Z=28, (1s2)(2s22p6)(3s23p6)(3d8)(4s2) 。 3d 電 子 = 28-18x1-7x0.35=7.55, 4s 電 子 =
28-10x1-16x0.85-1x0.35=4.05 4s は 3d に比べ緩く保持されており、イオン化の際、第 1 に脱離する。
ランタノイド収縮:f 電子遮蔽小原子半径・イオン半径が原子番号とともに収縮。結果として第5周期の Y
と同じくらいの大きさ。


補足6 構成原理:Hund の規則、Pauli の排他原理
1.電子は、最も低くなるエネルギー準位に収まる。(n, l の小さい順)
2.Pauli の排他原理:個々の電子の量子数は異なる。
3.最大多重度(Hund の規則)。縮重準位に電子が入るとき、
同じ向きの電子スピンが最大となる。(スピン-スピン相互作用により、
エネルギー的により安定)


下から順に
入る
フェルミ粒子
スピンが半整数。電子、陽子、中性子及びそれらを奇
数個持つ原子など
ボーズ粒子
スピンが偶数の粒子。光子、フェルミ粒子が偶数個の
原子。4He, 3He の超流動
A-14
参考:友田修司「基礎量子化学」東京大学出版会
補足7 原子軌道エネルギー準位の計算値(ハートリーフォック法:平均ポテンシャル近似)
・同一周期では、原子番号とともに単調に低下(絶対値増加)。s のほうが p より低下幅大
・同族では、高周期では s, p とも上昇, s, p の差が減少
1)同一周期では、右の元素ほど有効核電荷
が増加し、より大きな負のエネルギー
アルカリ金属元素がごく小
C の 2p, 2s と、水素の 1s, N, O, X,P,S の
準位の近さ:安定な有機化合物
2)同族では、s, p とも上昇。第2と第3の差大
1)遷移金属:s より d が低い。
金属イオン(Ti2+: 3d24s0)
2) s 軌道エネルギーが高い
(-5.7-7.9 eV)酸化・還元し
やすい
3) 錯体形成:d 軌道エネルギ
ー(-6.8-21.3 eV)典型元素
の p 軌道(-5.4-19.9 eV)と近
いため
4s
3d
5s
4d
「基礎量子化学」友田修司(東大出版会)より

A-15

参考:友田修司「基礎量子化学」東京大学出版会
補足8 平均軌道半径
典型元素
➀同じ周期
・原子番号とともに s, p とも
単調減少:原子核電荷の増大
・原子番号とともに、s, p の差が減少
➁同族
・高周期ほど s, p とも増大
・第 2、第 3 周期の差が大きい
遷移元素
・原子番号とともに s, d とも
単調減少:原子核電荷の増大
・s の方が d より広がりが大きい
・同一周期では右ほど、s, d の差が少
・同族では、下ほど s,d の差が小
A-16
補足8-2 原子半径:d, f 電子の遮蔽と収縮
参考:友田修司「基礎量子化学」東京大学出版会
核電荷の遮蔽定数:d, f 電子とも 0.35
であるので、周期表の右の元素ほど有
効核電荷が増大し、核により強くひき
つけられる。内側の電子も同じ収縮
1
2
3
4

5

6


補足83 原子半径の相対論的収縮
ボーアモデルに基づいた説明:原子番号)大のとき、me大 Bohr 模型(補足 A-8 (3)式)より、半径
小
より、z → 大のとき、v → 大となり、相対論によると、光速に近い領域では
v
m
A-17
,静止
なので、v の増大とともにm も増大 → r は収縮

補足9 イオン化エネルギーと電子親和力、電気陰性度 (巻末付録 2 参照)
周期表の閉核構造(希ガス型電子配置)が安定であるために、
①アルカリ金属・アルカリ土類金属は、カチオン(陽イオン)になりやすい。
②ハロゲンや酸素族は、アニオン(陰イオン)になりやすい。
・電気陰性度は、「異種元素が結合を作ったときに、共有電子がどちらの原子の近くにより多く存在するか」な
ので、(I+EA)/2 (マリケンの定義)。右上のフッ素付近ほど大きい。
2s2, 2p3 のところで、段差が出ない(小さい:マリケンの値では出ているが、ポーリングでは出ていない)理
由は、I は 2s22p1, 2s22p4 で、
EA は 2s2, 2s22p3 で段差があり、
平均するとそれらが鈍る。
典型元素:遮蔽が不
完全核電荷が増大
右上がり
遷移元素:遮蔽が弱
い核電荷増大、収
縮右上がり
・電子親和力:イオン化エネル
ギーと同様に、電子親和力も 1
電子軌道エネルギーで定性的
に説明できる。同じ周期では右
側ほど大きく、下ほど小さい。付
加的に、電子間反発や s, p 軌
道の広がりの違いを反映。





補足9-2 イオン化エネルギーとイオン化エンタルピー
Q5 イオン化エンタルピー(5RT/2 の意味?): M (g)  M+ (g) + e- (g)
・イオン化エネルギーI は定温定積下で、気相で原子またはイオンから電子を奪うために必要な最小の熱・エネル
ギー。0 K を基準にすると、T (K)では、熱エネルギーのために(3/2)RT 余計に必要。
・イオン化エンタルピーHI は、(化学で一般的に用いる反応条件:)定温定圧下で電子を奪うために必要な熱・エネ
ルギー。任意の温度でのイオン化に必要なエネルギー。
T (K)では、熱エネルギー(3/2)RT+仕事(pV=nRT=RT)=(5/2)RT
n=1: M(g)1mol から M+(g)1mol
と e-(g)1mol が生成するので。
熱エネルギー (3/2)RT:気体分子運動論から得られる。
・圧力 P, n(vx):x 方向の速度 vx を持った粒子密度
イオン化エネルギーI(数 100-数 1000 kJ mol-1)に比べて、(5/2)RT(8.31298 Jmol-1=2.5 kJmol-1)は無視
できるので、イオン化エネルギーイオン化エンタルピーとしてよい。
A-18
補足9-3 イオン化エネルギーと電子親和力について
教科書 p.38-39:B と Be の違い、NとOのイオン化エネルギーのちがい
p.37 イオン化エネルギーの近似式
スレーターの遮蔽定数からは、ns と np の違いはないはずであるが、
1)実際には波動関数の空間的広がり(s 軌道が p 軌道よりも内側に貫入し p.21 図 1.14、p は s により強く遮蔽され
ているp が s よりも取れやすい)。
2)また、p4, p5, p6 では電子間反発のため、パウリの禁制原理に従い、電子のスピンが対になっている。p1, p2, p3 で
は、最外殻電子が対をつくっていないので、より大きなイオン化エネルギーが必要である。
実際上は、p3 にくらべ p4 の方が、イオン化エネルギーが小さい。
補足10 電気陰性度と結合特性
Pauling の定義は、教科書 p.62 参照
M 
1
 I  EA 
2
A  B結合形成において、
A  A  e  : I A , B  e   B  : EB 及びその逆を考える。
H tot (反応エンタルピー>0:吸熱)がより小さい正、またはより大きい負の方向に反応が進みやすい
(1) H tot  I A  EB
  E A  I B なら、共有結合形成  I A  E A  I B  E A
(2) H tot  I A  EB
  E A  I B なら、A -B のイオン結合形成  I A  E A  I B  E A
(3) H tot  I A  EB
  E A  I B なら、A -B のイオン結合形成  I A  E A  I B  EB
つまり、I A  E A が結合形成において、電子を引き寄せる度合いを示すパラメータとなる。
Mulliken の定義:
電子の失いにくさ(I:イオン化エネルギー)と受け入れやすさ(EA:電子親和力)の平均
外殻軌道のエネルギー準位
(2)
(1)
(3)
E
A--B+
A + B A+-B-
A-B
A+B
A-B
Allred-Rochow(オールレッド-ロコウ)の定義: AR = 0.744 + 3590Zeff/r2
A--B+
I 
A+B
A+-B-
Z eff2
n2
1) 異種元素間:電気陰性度の差が 1.7 より小さいとき、共有結合性1.7 より大きいときイオン性


1
1
N 2
P t   n  v x   v x  t  2mv x dv x   2n  v x  mv 2x t dv x  mt n0 v 2x  mt n0 v 2  mt
v
3
3
V
0
0
2 N
2
3
分極能増加
 PV   m v 2  E  RT ,  E  RT
3 2
3
2
2) 同じ元素間:電気陰性度(AR)  1.8 のとき金属、1.8  AR  2.1 のとき半導体、2.1  AR のとき非金属
A-19
電気陰性度が小さい:有効核電荷が小さく、軌道エ
ネルギーが高い(0 により近い)軌道が大きく広が
っている電子が非局在化しやすい。金属
電気陰性度が大きい:有効核電荷が大きく、軌道エ
ネルギーが低い(より大きな負の値)軌道が小さく
集中局在した共有結合をつくりやすい。絶縁体
 ケテラーの三角形 (p.63, 補足 12)
補足11 分極
(クーロン力が弱まり、共有結合強まる)
ファヤンス(Fajans)の規則
1) 静電パラメータ(Z+/r)の大きなカチオンは、分極
能(相手を分極する力)が高い
Al3+ > Na+, Mn2O7 > MnO2
2) 電荷が小さく、大きなアニオンは、分極しやすい(分極率が大きい=電子雲が変形し易い):
I->F-、AlI3(共有結合性)>AlF3(イオン結合性)
3) 希ガス配置でない電子構造のカチオンは分極しやすい:Ag+ ([Kr]4d10), Cu+([Ar]3d10), Sn2+, Pb2+。
例えば、AgCl(共有結合性)、KCl(イオン結合性)
カチオンが、アニオンの最高占有準位と最低空準位の波動関数をゆがめることで、安定な共有結合をつくる
補足12 結合の種類と性質
分子内: ケテラーの三角形(P.63)で分類
共有結合(2 章):。電気陰性度の差が小さい原子間で電子を共有。有機物、炭素、ケイ素、…
極性結合(イオン結合、3 章):電気陰性度の大きな違いのため、電子分布に偏り(CH x Cl4-x, NH3, SO3,
NO3-,…)、イオン性結晶:イオン間のクーロン力(Na+Cl-)。溶液中では溶媒和されたイオン間。
金属結合(P.154-157):電気陰性度の小さな単体金属、合金などで、内部を電子が自由に動き回れる。
配 位 結 合 ( 8 章 、 + 別 の 講 義 ) : 電 子 対 を 一 方 的 に 金 属 イ オ ン な ど に 供 与 す る 共 有 結 合 (Ni(CO)4,
[Co(NH3)6]Cl3, Fe(OH2)6,[ Fe(CN)6]3-,…)
ファンデルワールス相互作用:結合していない(離れた)分子・原子・イオン間の弱い相互作用。分子性結晶
で、分子間に働く弱い力。グラファイト層間(P.491)。有機分子の結晶、ヨウ素など。
水素結合:弱い共有結合、かつ極性相互作用(H+と電気陰性原子間。H2O, HF, NH3,たんぱく質のペプチド
カルボニルと N-H 水素)
局在結合近似(Lewis 構造、P.49-75):経験的、結合長・エネルギー的安定性(形式電荷、共鳴、混成)、分
子構造等の定性的説明。特に有機化学では、原子価結合法による捕らえ方で、多くの場合実験結果が説明
されている。複雑な系(超原子価、サブ原子価など、金属・半導体・イオン結晶)でも明快な説明。
分子軌道法計算(非局在電子軌道, P.75-101):原子間・イオン間結合について、強さ・エネルギー・電荷分
布などの定量的な説明。
A-20
補足13
1章のまとめ
量子力学:電子や原子の運動やエネルギーを正しく記述するために必要シュレディンガー方程式:波動方程式
に電子の波動性=h/p を入れた微分方程式。その解が波動関数、エネルギー固有値を与える。
・水素型原子の電子はとびとびの(量子化された)エネルギーを持つ:1.1 式、1.4 式、図 1.5、図 1.8
・電子の状態は、5 つの量子数(パラメータ)で表せる: n, l, ml, s, ms
n=主量子数、l=角運動量量子数、ml:磁気量子数の 3 つのパラメータで、電子の入るエネルギー準位(軌
道)が記述される。水素型原子では、n が同じで、ℓが異なる電子軌道のエネルギーは縮重。
・主量子数 n=1,2、.., l=0 (s),1 (p), 2(d),…n-1, ml=l, l-1,..,0,…-(l-1), -l の値をとり、合計 2n2 個
電子のエネルギー(1.4 式または、Z を Zeff に変えた式、図 1.21-1.22)を表す。電子のエネルギーは、n と l
により(ほぼ)決まっている。
同じエネルギーを持つ準位(縮重軌道)の数:n, l, ml がとりうる値から下記の通り。
l=0 (s 軌道)では、ml=0 のみ1 個 1s, 2s, 3s….など n が決まれば 1 個ずつ
l=1 (p 軌道)では、ml=+1, 0, -1 の 3 個px, py, pz (3 重縮重:3 つの順位が同じエネルギー)
l=2 (d 軌道)では、ml=+2, +1, 0, -1, -2 の 5 個dz2, dx2-y2, dxz, dyz, dxy (5 重縮重)
l=3 (f 軌道)では、ml=+3,+2, +1, 0, -1, -2, -3 の 7 個f5z3-3zr2, …..(7 重縮重)
これらのパラメータで表されるエネルギー準位は、1.4 の ZZeff にした式+電子間反発
・同時に、n, l, ml は、電子が空間的にどのように分布しているかを(波動関数により:表 1.2、図 1.11-1.12、
図 1.13-1.14、図 1.15-1.17、図 1.20)表す。
波動関数は、電子の空間的な分布(どの場所に電子が存在する確率が高いかを示す)=1.6 式、表 1.2 の
とおり、n, l, ml と r,,の関数で、動径波動関数 Rnl(r)×角波動関数 Ylm(,)に分けられる。有限、1価、連続。
規格・直交関数。直接観測できないが、電子の存在確率を支配。
動径分布関数:波動関数の広がり=角度依存性を平均化(積分)して、動径(r)部分のみを残したもの。
r2R*R・r は電子が r-r+r に存在する確率を示す。図 1.13-1.14 は n, l による違い節の数 n-ℓ-1
角波動関数:r=一定での波動関数の形 Ylm(,)、極角()と方位角():図 1.15-1.17 n に依存しない
多電子原子の電子配置:1電子近似で、水素型原子と同様に扱う(Hartree-Fock)。多電子原子では水素
型原子とは異なり、同じ n でもℓが異なる軌道は縮重していない貫入と遮蔽
構成原理:原子番号(=陽子の数=電子の数)の順番に、一番下のエネルギー準位(1s 軌道)から入る。
Pauli の排他原理:1 個の軌道に 2 個まで電子が入る(この時、電子スピンが対になる:フェルミ粒子である
電子は、同じ量子数を持つことはできないBose 粒子ならよい。光子、フォノン、…)。
Hund の規則:縮重した複数の軌道に電子が入る場合は、できるだけ異なる軌道に分かれて入る。
例) H=1s1, He=1s2, Li=1s22s1=[He]2s1, Be=1s22s2=[He]2s2, B=1s22s22p1=[He]2s22p1,
…F=[He]2s22p5, Ne=[He]2s22p6=[Ne] (付録 2 参照)
同族では同じ電子配置を持つ(主量子数は、周期とともに1ずつ増加)ため化学的性質が類似。
・電子を図 1.21 のエネルギー準位に下から順番に入れていった結果、電子が入っている一番上の準位=
最高被占軌道=最高占有軌道といい(Be では 2s, B では 2p, C では 2p)、電子が入っていない一番下の準位
=最低空軌道(Be では 2p, B では 2p, C では 2p)と呼ぶ。イオン化エネルギーは、最高占有軌道の電子を取り
去るために必要な最小エネルギー、電子親和力は最低空軌道に電子を入れるときに放出されるエネルギー
・イオン化エネルギー、電子親和力とも、同じ周期で右から左に進むと、有効核電荷の増加に伴い値が増加
する。
A-21