K15. 供給熱量と放熱量の差がすべて仕事に変換される

埼玉工業大学
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
テーマ K15:
供給熱量と放熱量の差がすべて仕事に変換される理由-1/3
供給熱量と放熱量の差がすべて仕事に変換される理由
熱力学では,サイクルに供給された熱量とサイクルからの放熱量の差がすべて仕事に変
換させることを学びます.でも,よく考えると,
「状態変化には付き物の“内部エネルギー”
を考慮しなくてもよいのか?」という疑問が生じます.ここでは,内部エネルギーが関与
しないことを解説します.
熱力学の第一法則は,系全体に関して
J
dQ  dU  pdV
単位 mol 当たりでは
dq  du  pdv
J/mol
と表され,系に供給された熱量 dQ は,一部は内部エネルギーの変化 dU と,仕事 pdV に変
換されることになります.dU と pdV の比率は,気体の状態変化の種類によって異なります.
代表的な状態変化について整理すると,次のようになり,供給熱量がすべて仕事に変換さ
れるのは,状態変化が①の等温変化の場合だけであることがわかります.
① 等温変化
dU  0, dW  dQ [J]
② 等圧変化
dQ
 1
dU 
, dW 
dQ [J]

ただし,比熱比  

cp
cv
③
等容変化
dU  dQ, dW  0 [J]
④ 断熱変化
断熱変化では,供給熱量はない( dQ  0 )ので,
0  dU  pdV
となり,系の内部エネルギーを仕事に変換することになります.
等温変化と断熱変化でサイクルが構成されるのは,カルノーサイクルだけです.一般的
なサイクルは,より複雑な状態変化で構成されます.
カルノーサイクルを含む全てのサイクルに関して,熱効率は,
W Q  Q2
  1
Q1
Q1
と表され,第 2 法則より高熱源から熱量 Q1 を得て,低熱源に熱量 Q2 を捨てるとき,第 1
法則より熱量差 Q1  Q2 を仕事 W に変換できることになります.供給熱量 Q1 と放熱量 Q2
の差が全て仕事 W に変換されることを意味していますが,上述のように内部エネルギーが
関与するために供給熱量がすべて仕事に変換されるわけではないことを考えるとやはり矛
盾があるように思えます.
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供給熱量と放熱量の差がすべて仕事に変換される理由-2/3
では,
「供給熱量と放熱量の差が全て仕事に変換される理由」を考えてみましょう.図 1
に示すように,サイクルが膨張行程(1→2)と圧縮行程(2→1)で構成されるものとしま
す.
膨張行程
圧力 p
1
仕事
2
圧縮行程
容積 V
図1
熱機関のサイクル
図 1 に示す熱機関のサイクルで,状態 1 から 2 の膨張行程で,気体が膨張変化する間に,
dQ1  dU12  pdV
が成立します.積分すると
2
Q1  U 2  U1   pdV  0
1u
(1)
2
外部に取り出せる仕事は,  pdV の分だけです.一方,状態 2 から 1 の圧縮行程では,放
1u
熱により気体が圧縮されるため,
dQ2  dU 2 1  pdV
dQ2  0
が成立します.積分すると
1
Q2  U1  U 2   pdV  0
2d
1

2d
(2)
pdV  0 は圧縮仕事です.
(1)式と(2)式の辺々を足し合わせると,
2
1
2
1
1u
2d
1u
2d
Q1  Q2  U 2  U1   pdV  U1  U 2   pdV   pdV   pdV   pdV
(3)
となることがわかります.(3)式の Q1  Q2 は,Q2 を正数で表せば,Q1  Q2 と表記できます.
 pdV はサイクルが描く面積(図 1 の網掛け部分)であり,膨張仕事と圧縮仕事の差であ
るため,1 サイクル分に外部に取り出せる仕事 W になります.すなわち,(3)式より
Q1  Q2  W
という関係が得られます.この式は,
「供給熱量と放熱量の差が全て仕事に変換される」こ
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供給熱量と放熱量の差がすべて仕事に変換される理由-3/3
とを示しています.
実は,状態 1 から 2(もしくは 2 から 1)への一方通行の状態変化だけを考えると,内部
エネルギーの関与が問題となりますが,サイクルでは,2 からまた同じ 1 の状態に戻って
くるため,内部エネルギーの変化は相殺されことになるのです.
http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/HeatConversionToWorkInCycle.pdf
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