CH3 CH3 C(CH3)3 + HCl CH3 C(CH3)3 CH3 C(CH3)3 CH3 C(CH3

次回の講義は 10 章の NMR 分光法を飛ばして、11 章から始める。10 章は、講義の進行を見て時
間的余裕が取れる場合に戻る(余裕が無ければ三年次の機器分析法の講義にゆだねる)。11 章以降
を予習してくること
(2014.11.20)
有機化学Ⅱ平常テスト⑧
1
次の有機分子の IUPAC 英名を示せ。
(1)
H
CH3
OCH3
C
(2) CH3SCH2CH2CHCH2OCH3
C(CH3)3
C
O
(3) Li+[CH3CH2CH(CH3)O]−
OH
(2) 1-methoxy-4-(methylthio)butan-2-ol
(3) lithium butan-2-olate
(1) (2R,3S)-2-(1,1-dimethylethyl)-2-methoxy-3-methyl-1-oxacyclopropane
Oxacyclopropane 環の 1-位は必ずヘテロ原子である酸素。
「1-oxacyclopropane」は、これで一揃いの化合物名
と覚えること。「1-oxacyclobutane」なども同様。
問(1)はかなり珍しい例で、2-位(三員環右上炭素)の最低位は tBu 基。
第①位と第②位は三順目で決定され、③と④は二順目で決定される
2-位の置換基
一順目
①位 下の-O-
二順目
三順目
O
C
H,C,O
②位 右奥の-OCH3
O
C
H,H,H
③位 左の-CH(CH3)-
C
H,C,O
④位 右手前-C(CH3)3
C
C,C,C
回り方の注意
下の O ⇒ 左上 C ⇒ H,CH3,右上 C
左の C ⇒ H,CH3,O
(3)は、説明したように、まずアルコール名を考える ⇒ butan-2-ol ⇒ アルコラートは butan-2-olate ⇒ カチオン名
は lithium、したがって答えは
2
lithium butan-2-olate。
上記1(1)の分子に次のような反応を行った。反応中間体を明示して、主反応式を完成させ、主生成物の
IUPAC 英名を示せ。
(1) HCl と反応させる
H
CH3
Cl−
OCH3
C
C
C(CH3)3
H
CH3
+ HCl
O
CH3
C
C
C(CH3)3
C
HO+
Cl
H
OCH3
C
中間体オキソニウム
OCH3
C(CH3)3
OH
中間体オキソニウム三員環は二等辺三角形ではない。左側炭素は 2sp3
であるが、Cl−が攻撃する右側炭素は 2sp2 に近く、こちらの C−+OH 結合が
(2S,3S)-3-chloro-3-methoxy-
解離しやすい。したがって Cl−による SN2 攻撃は右側炭素に対して行われ
-4,4-dimethylpentan-2-ol
るが、三員環が立体障害になるので上方からのみ攻撃できる。開環してアル
コールになると、命名が全く異なってしまう。優先順位の高い置換基である-OH が置換している炭素の番号を最
も小さくなるように命名するので、その炭素(先ほどまでの三員環左側炭素:3-位だった)が「2-位」と定まる。
(2) 1M-KOMe の MeOH 中、低温で反応させ、次に HCl 水溶液で処理して中和する。
K+ −OCH3
H
CH3
+
OCH3
C
C
O
C(CH3)3
CH3O
H
CH3
OCH3
C
C(CH3)3
C
K+
HCl 中和
略
O
−
中和して得られるアルコールは、(3R,4R)-3,4-dimethoxy-2,2-dimethylpentan-3-ol
[注意] methoxy は、本来 methyloxy で複合置換基であるはずなのだが【そうだとすると 3,4-dimethoxy は
3,4-bis(methoxy)であるはず】IUPAC の例を見ても複合置換基として扱っていない。炭素数4以下の置換基を持
たない単純アルコキシ基は methyloxy,ethyloxy,propyloxy,butyloxy とせず、複合置換基扱いでない methoxy,
ethoxy , propoxy , butoxy と 表 記 す る 。 他 方 、 た と え ば 枝 分 か れ が あ っ て 明 ら か に 複 合 置 換 基 で あ る
(CH3)2CHCH2O-が2つ置換するならば、bis(2-methylpropyloxy)でなければならない。
3
CH3CH2CH2OH を CH3CH2CH2Br に変換する反応式を2例以上示せ。ただし、HBr との反応は除外する。
出題文のとおり、一級アルコールと HX の反応: RCH2OH+HX ⇄ RCH2OH2+・X− → RCH2X+ OH2 はかなり
進みにくく、実用性が無い(アルコールの級数に関する HP のファイル参照)。
-OH 基のハロゲン化反応は、一般には無機エステルを経由する。
以下のうちのどれか2例を示せばよい。
(1) CH3CH2CH2OH + PBr3 → CH3CH2CH2O-PBr2 + HBr → CH3CH2CH2Br + HO-PBr2
(2) CH3CH2CH2OH + SOBr2 → CH3CH2CH2O-SOBr + HBr → CH3CH2CH2Br + SO2 + HBr
(3) CH3CH2CH2OH + ClSO2-C6H4-CH3 + Py → CH3CH2CH2O-SO2-C6H4-CH3 + PyH+・Cl―――(+KBr)――→
CH3CH2CH2Br
+ K+
OSO2-C6H4-CH3 + PyH+・Cl―
―
(1)式の下線部は、O=PBr + HBr でもよい。また教科書には
3 CH3CH2CH2OH + PBr3 → 3 CH3CH2CH2Br + P(OH)3
のように書いてある例も見受けられるが、3当量分確実に進むわけではない。実際に反応を行う際には、アルコ
ールに対して PBr3 を等物質量程度加えるのが普通。
(3)式の反応の CH3CH2CH2O-SO2-C6H4-CH3 + PyH+・Cl-までは、PyH+・Cl-が沈殿して系外に去るような(非極
性の)溶媒を用いる。PyH+・Cl-が均一に溶ける(極性の)溶媒を用いると、溶液中に共存する「対イオンの Cl-」
が 生 成 物 で あ る CH3CH2CH2O-SO2-C6H4-CH3 を 直 ち に 攻 撃 し て し ま い 、 KBr と 反 応 さ せ る 前 に
CH3CH2CH2O-SO2-C6H4-CH3 + PyH+・Cl-→ CH3CH2CH2Cl + PyH+・-OSO2-C6H4-CH3 のような反応が起きる
可能性がある。PyH+・Cl-沈殿をろ過などで取り去って CH3CH2CH2O-SO2-C6H4-CH3 を単離し、改めて KBr が
溶ける極性溶媒中(DMSO など)で反応させる。単純に見えて、手順を追わないと失敗する例。
4
次の反応の反応式を示せ: ジメチルスルフィドをヨードメタンと反応させ、生成物を KOMe で処理した。
CH3-S-CH3
+
CH3I → (CH3)3S+・I− ――(+KOCH3)――→ CH3OCH3 + CH3-S-CH3 + KI
dimethyl sulfide
trimethylsulfonium iodide
dimethyl ether
methylthiomethane
methoxymethane
CH3
CH3
S と C の電気陰性度を比較すると S の方がわずかに大
S
CH3 +
CH3I →
S+
CH3
I中央の S は
3sp3
sulfonium
CH3
きいが、イオン反応に与るほど電荷の偏りはない。
しかし、S+になれば電子吸引性が強くなり、周囲の C
から電子雲を奪うので C はδ+性になるので求核試薬
であるの-OCH3 などの攻撃を受ける。そのとき、中性
「良い脱離基」になる。
分子である (CH3)2S は脱離しやすく、
上記の sulfonium の構造は、ammonium に似ている。trimethylamine(CH3)3N:+ CH3I → (CH3)4N+・I−
(tetramethylammonium iodide)。ただしこちらは(CH3)2S と異なり、(CH3)3N は強塩基なので脱離基にならな
い。言い換えると、上記のような sulfonium 型を経た SN2 反応は、ammonium 型では起きない。