放射線副読本の利用にあたり(PDF版)

「放射線副読本」の利用にあたり
いしかわ教育総合研究所
はじめに
環境教育部会
部会長:谷内
昭慶
文部 科学 省は福 島の 原発事 故直 後、子 供た ちに放 射線 を理解 させ るため の副 読本を 発行 した。
しかし、多くの問 題点 があるとの 指摘を受 け 、再編集 し、2014 年 に改めて学 校に配布 し た。それ
が「放射 線副読本 」~ 放射線につ いて考え て みよう~ /~放射線 に ついて学ぼ う~ で 、い しかわ総
合教育研究 所では、 そ の中身を検 討してき た 。
2011 年 10 月 13 日 、東京世田 谷区の区 道 の一部から 高い放射 線 量が検出さ れたこと を 受け、
世田谷 区が 専門の 業者 に委託 して 隣接す る住 宅を調 べた 結果、 家の 床下に 置か れてい た段 ボール
箱の中にあ った瓶か ら 極めて高い 放射線量 が 、・・・という報道 が あった。そ この住 人 は 95 歳ま
で存命だっ たという。また、放射線を 多く浴 びる宇宙飛 行士は健 康 体そのもの であると か 。何故、
100mSv に拘るの か、1000mSv 浴びても 人 は死ないと いう学者 も いる。日 本には 、放射 線 を当て、
突然変 異を 促し品 種改 良に役 立て ようと して いる研 究者 がいる 。分 子生物 学の 知見で は、 人間だ
けでな く、 生命体 は基 本、流 動体 である とし ている 。つ まり、 食物 をとる こと で代謝 によ って、
分子レ ベル で細胞 が新 しい物 質と 入れ替 わり 、それ を一 生繰り 返す という こと だ。た とえ ば、身
体の細胞は 各部位に よ って違うが 、肌の細 胞 は 28 日、心臓は 22 日、胃腸は 3 日 ~7 日 、骨は 2
年など と決 まって いる 。適切 なサ イクル で生 まれ変 わり 、便や 汗 で 老廃物 を体 外に排 出す るのが
新陳代 謝な のであ る。 だから 、放 射線を 浴び ても、 放射 性物質 を内 部に取 り込 んでも 、そ れなり
に生命 体は 修復、 排出 を繰り 返し 、生命 維持 ができ ると いう理 屈だ 。そし て、 巷でお 世話 になっ
ている のが 、レン トゲ ンやM RI はじめ 、多 くの医 療機 器であ る。 これら の技 術発展 で放 射線は
治療だ けで なく、 予防 医療な どに も貢献 して いるこ とを みれば 、放 射線そ のも のを否 定す る必要
はなく、敏 感体質に お いての考慮 はあって も 、全面否定 には当た ら ないはずだ 。
しか し、 放射性 物質 のヨウ 素は 甲状腺 で溜 まるこ とは よく知 られ ており 、上 記の理 屈か ら事前
に安定 ヨウ 素を飲 用す れば、 化学 元素で 同族 関係に ある ヨウ素 は甲 状腺で 溜ま る放射 性ヨ ウ素の
進入を ブロ ックし てく れるこ とか ら、通 常、 どこで も安 定ヨウ 素は 常備さ れて いる。 同様 に、カ
リウム とセ シウム 、カ ルシウ ムと ストロ ンチ ウムは 体内 で入れ 替わ る可能 性が あると され 、内部
被曝の 悪影 響が懸 念さ れるが 、こ れに対 して は、残 念な がら、 代用 物が高 額で あるこ とや 、まだ
影響に関す る研究も 少 なく、確定 されてい な いのが現状 である。
そもそも、放 射性物 質を扱う原 発が「絶対 安全」と言って きたこ とに間違い があった の である。
ノーベ ル賞 を受賞 した キュリ ー夫 妻の長 女イ レーヌ ・キ ュリー も夫 と共に 安定 同位体 から 放射性
同位体 が生 成する 「放 射化」 を確 認した 功績 でノー ベル 化学賞 を受 賞して いる が、母 娘と も放射
線の影 響で 亡くな った とされ てい る。長 寿と 放射線 の関 係は解 明さ れてい ない が、生 命に とって
危険である ことには 間 違いないの である。
こうして 事故が起 こ ってみると 、とかく「 安全」と「安心 」を一 緒にして語 られるこ と が多い。
「安全 」と は科学 的根 拠に基 づく もので 、基 準が設 けら れてい る数 値から どれ だけず れて いるか
で、その度 合をみる も のであり 、
「安 心」と はまさに個 人的感覚 で ある。この 両方を満 た す条件と
は何か とい うこと を示 す必要 があ り、明 確に 区別し て述 べるべ きで ある。 でな いと、 事故 後の保
障とい って も天井 知ら ずにな って しまい 、 補 償額 す ら決 定でき ない という 不合 理が生 まれ てしま
う。
さら に、 放射線 の外 部被曝 の脅 威より も、 内部被 曝を どう防 ぐか 、除染 のあ り方が いま いち説
得力に欠け る取り組 み になってい る現状を み ると、
「絶対安 全」神 話 で進めてき た原発立 地 は明ら
かに間違い だったし 、 福島原発事 故におけ る 対応で、問 題は山積 し ていること が露呈し た 。
最大 の問 題点は 、低 レベル で あ ろうが 、高 レベル であ ろうが 、排 出する 放射 性物質 処理 におい
て、わ が国 におけ る安 全レベ ルで 手法が 確立 されて いな いとい うこ とであ る。 一部の 処理 を外国
にやっ ても らうと いう 中途半 端な やり方 のま ま、今 に至 ってい ると いう現 状は 見逃す べき ではな
いだろう 。完結 してい ないリスク の高いシ ス テムを簡単 に商業レ ベ ルで稼動し てきたと い う点が、
政府の 政策 に対す る問 題点で あり 、それ も「 絶対安 全」 という 神話 のもと で行 ってき たと いう嘘
は許しがた いもので あ る。
しかしな がら、福 島 原発事故直 後、まだ 放 射線レベル が高いに も 関わらず 4 号機に入 っ て 肉眼
で見て きた という 、た だ一人 の、 元ジャ ーナ リスト で現 危機管 理の 専門家 、青 山繁晴 氏の 報告で
は、原子炉 建屋は想 定 通り軽微に 作ってあ っ たので、 1 号機と 3 号 機はいずれ も水素爆 発 で建屋
の上部 が吹 っ飛ん だわ けだが 、4 号機の 内部 をみる 限り 、原子 炉に 繋がっ た多 くのパ イプ 類は外
れていなか ったとい う 。
確かに、原 発技術 と しては世界 一を誇っ て もいいのか もしれな い が、運営と対 応とい う 面では、
まさに安全 神話にあ ぐ らをかいて いたとい う ことがよく わかる事 態 になってい たのであ る 。
文科 省は 、この 副読 本を学 校に 配布し たと いって いる が、 積 極的 に読む よう 促して いな い。こ
ちらで調べ てみると 、 下表で示す ように県 内 の配布状況 をみても わ かる。
この期に 及んでも 、 国はなお事 実を隠そ う とする気配 を感じる の は悲しい限 りである 。
石川県にお ける「放 射 線副読本」 の配布な ら びに使用状 況
学校
小学校
配布状況
全校児童
30%
高学年のみ
40%
・理科の 授業
6年生のみ
10%
・避難訓 練事前事 後
1クラス分 のみ
中学校
高校
使用状況
5%
学校用とし て数冊
15%
全生徒
60%
3年のみ
10%
1学級のみ
10%
学校用とし て数冊
20%
物理選択者
数名分
高学年
・学活
低学年
・家に持 ち帰り
3年理科の 授業
物理の授業
原発事故 で、文科 省 は少し反省 したのか 、 以前に比べ ると、内 容 はより明確 になって 分 かりや
すくなって いると判 断 したことか ら、むし ろ 、これを確 実に子供 た ちに読ませ た方がい い のでは
ないかとい う結論に 至 った。ただ 、内容で 気 になる点は 、こちら で 指摘してお いたので 、 参考に
して欲しい 。以下、 こ こにその結 果を報告 し たい。
2015 年 2 月
・ 分 析 の 対 象 と し た の は 、「 中 学 生 高 校 生 の た め の 放 射 線 読 本 」 で す 。
・ 文 部 科 学 省 発 行 の 「 放 射 線 副 読 本 」 に つ い て は 、 文 部 科 学 省 の HP か ら ダ ウ ン ロ ー ド
可能です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/attach/1344729.htm
・評価欄について
○:評価できる
×: 問 題 が あ る
◇:提案あり
・ こ の リ ー フ レ ッ ト は 、 い し か わ 総 研 HP に も ア ッ プ ロ ー ド し て あ り ま す 。 ご 活 用 く だ
さい。
頁 行
評価
本文中の表記
問題点およびに考察
は
16 ○
×
17
1
×
20
26 ○
ひとたび原子力発電所等の放射性物
質を扱う施設で事故が起これば、極め
て長期間かつ広範囲にわたって甚大
な被害をもたらします。
の利用における課題について学ぶた
め……
ともに社会に生きる一員として、一人一
人が事故を他人事とせず、真摯に向き
合って、……考えるきっかけになること
を願っています。
1-1
×
×
4
12
・
右
×
下
資
料
に
放射性物質がもたらす危険性が極めて長期間、広範囲にわたって甚
大なものになることを明らかにしている。具体的な被害の実態をできる
だけ丁寧に伝えていくことが大切になる。
福島だけのこととするのではなく、共に生きる一員である、共に考える
一員であると受け止め、真摯に向き合うことは重要なスタンスである。
原 子 力 発 電 所 事 故 に つ い て
福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 事 故
安全対策が不十分であった福島第一
原子力発電所……
安全対策が十分であれば事故は起こらなかったかのような印象を与え
る表現。
核燃料の取り出しや汚染水の問題、作
業要員の確保及び作業環境の改善な
どの課題が……解決に向けた努力が
必要となって
課題は努力によって解決可能と言える状態なのか疑問である。 核燃
料の取り出しについてはどういう方法が可能なのか皆目見通しがない
状態であり、それ以前に核燃料がどういう状態になっているのかすら
全く分かっていない状態である。また、汚染水についても依然として垂
れ流しが続いており、タンクがたまるいっぽうである。国及び東電は汚
染水は浄化後海へ放出する方向を打ち出している。地下水からは濃
度が50倍以上の汚染水が今も測定されている。
・放射性物質の放出‣
最も深刻な事故であることを示す「レベ
ル7」と判断されています。
〔右下 「原子力災害の影響 国際原子
力事象評価」〕
3
め
現在、様々な分野で放射線が利用され
ていますが、原子力や放射線の利用に
あたっては、……
原子力や放射線は利用されるものであるとの前提にたった表現で、原
この副読本では、原子力や放射線とそ 子力発電所もその一つであるという印象を与える。
第 1 章
1
じ
福島第一原発事故はその深刻度から、チェルノブイリ原発事故(1986
年)と同規模の「レベル7」となっている。しかし、放射性物質の放出量
は1/7程度(~77 万 Tbq、~の意味が不明)と国は発表しており、これ
でもセシウム換算でヒロシマ原爆の168個分となる。ただ正確な数字
は確定していないのが事実で、放出された放射性物質の種類に対す
る換算方法があり、実際より小さくできることから、この数字となってい
る。毎時 1000 万Bqが今も大気中に出続けている(東京電力発表)こと
や、増え続ける汚染水による海洋汚染を加えると、チェルノブイリ事故
をはるかに越えると予想される。
※新たな課題 汚染水問題
溶け落ちた核燃料を冷やすため1~3号機では1時間約4.5ト
ンの水を流し込んでいる。その水は、圧力容器の底が抜けてい
ることからタービン建屋の地下に流れ込んでいる。すでにその
汚染水が大量に海に流れ出したことが発覚(2011.4)、今も1万ト
ンがたまっている。また、その水とは別に1日 400 ㌧の地下水が
流れ込んでいることも分かり、その対策に追われている。
頁 行
本文中の表記
評価
1-2
問題点およびに考察
原 子 力 事 故 に よ る 被 害
(1)事故に伴う住民の避難
26
×
4
・子供たちの就学の状況・
平成 25 年 5 月時点で、福島県外の幼
稚園・学校に通っている幼児・児童・生
徒は約 1 万 1 千人、……となっていま
す。
(2)風評被害、いわれのない偏見、差別
〔放射線被ばくについての風評被害
に関する緊急メッセージ〕
福島県からの避難者がホテルで宿泊を
囲
拒否されたり……避難先の小学校でい
み ○
じめられるなどの事案があったとされて
1
おります。……根拠のない思い込みや
偏見で差別することは人権侵害につな
5
がります。
×
下
◇
★全国の原子力発電所で運転が停止
されたことにともなって、企業や家庭に
おいて電力の使用が制限されるなど、
大きな影響が生じるとともに、節電に対
する意識が高まりました。
1-3
単に数字を並べた、全体的な状況について概略的に述べただけ。生
きて日々を送っている子どもたち一人ひとりを見つめた言葉はない。
※2014 年公開講座での日野さんのレジュメで明らかにされた学校
の、子どもたちの状況はぜひとも知らせたい内容である。(いし
かわ教育総研 HP 参照)
いわれのない風評、偏見、差別、いじめが
「人権侵害につながる」としている。原発事
故による被災者が事実とは異なるうわさや伝
聞による思い込みで差別を受けたり、いじめ
にあったりするということを身近のものとして
うけとめ、一人ひとりが大切な存在であること
を確認しておきたい。
「原発運転停止が大きな影響を生じさせる」と表現することで、運転再
開がその影響を減じることになるかのように印象づけることになる。
2011.3.11 以降現在に至るまで原発は 1 基も稼働されていないが、
電力需給で大きな影響と言えるものはない。
また「節電」については身近な問題として論議をする材料になる。
◇原子力発電所と電力・節電などを課題として議論をしてみましょう。
事 故 か ら の 復 興 ・ 再 生 に 向 け た 取 組
(2)放射性物質に関する検査体制の構築
×
「指導・助言」ということは、放射線測定が行われないこともありうるとい
工業製品等についても、放射線量測定
うこと。そして、「工業製品等」とあることからは食品以外の様々な製品
を行う企業等への指導・助言が行われ
が考えられ、身近に使う製品の中に放射線量のレベルが通常以上の
ています。
ものもあり得るということになる。
×
学校給食の安全・安心の確保
主として出荷段階での検査が行われて
います。より一層の安心を確保する観
点から、学校給食において、食材の事
前検査や調理後の一食全体の検査な
どを行っているところもあり、結果は県
市町村のホームページ等で公表され
ています。
×
6
×
3
今の検査体制では一つひとつの食品に含まれる放射性物質の量は
知ることができないし、表示もされていないことから、産地を目安に選
出荷前を中心に検査をし、基準値を超 ぶしかない。国は一辺が2㎞区画の汚染マップを公表しているが、そ
える食品が市場に出回ることのない体 の中に汚染度の高い農地が混ざっていることが明らかにされた。現状
制がとられています。
では検査漏れが多い、という。(小山良太・福島大准教授)特に子どもた
ちへの被害が心配されることから、学校給食食材の放射能測定ができ
る体制を自治体に求める必要がある。
[写真] 学校給食を食べる南相馬市 子どもたちが笑顔で給食を食べている様子は、学校給食には問題
の子供たち
はないという印象を与える。
6
囲
み
「ところもあり」ということは行っていない、行えないところもあることにな
る。「主として出荷段階での検査」が行われているということであるが、
それだけでは子どもたちが口にするものであり、安全・安心の確保と
は言い難い。
頁 行
本文中の表記
評価
問題点およびに考察
(4)除染の取組
「除染」について
×
1
※中間貯蔵施設 最終処分場
福島第一原発事故に伴う福島県内の汚染土や高い放射性濃度
の焼却灰などを最長30年保管する施設。政府は大熊、双葉両
町の事故原発周辺約16k㎡に設置する方針で、建設費用は1兆
1千億円を見込み、2015 年1月から運び込みを開始する計画。
また、すでに発生した使用済み燃料を再処理して出た廃液をガ
ラスで固め、金属容器に入れたものを「ガラス固化体」という。現
在保管中の使用済み燃料の分も合わせると約 25000 本になる。
地下 300m以下に埋め立てる計画だが、候補地も決まらず、仮
に決まっても操業まで 30 年かかると言われている。想定建設費
は 2.8 兆円、10 万年は管理が必要となる。
7
×
下
×
2
取り除くわけではなく、掃除して放射性物質を遠ざけていることから、
正確に表現すると「移染」が適切。また、除染をして放射線量が低減し
ても時間が経てば放射線量がまた上がっている例がいくつも報告され
ている。(2013 年公開講座 浅田さんの報告にも例がある)
さらに、山林は除染されておらず、従って高い放射線量がそのまま放
置されていて、その土壌や水が除染した地域に流れ込んでくる。住宅
地でも、屋根やホットスポットの側溝を洗い流しても、その水が用水や
海に流れ込み、地下水にも入り込んだりしている。また、土を削り取っ
ても、保管場所が決まっておらず、仮置き場に野積みされている。30
年後までは中間貯蔵施設で保管しても、最終処分場は決定していな
い。
国は県や市町村と連携しながら、それ
らの汚染された土や草木などを取り除
く除染作業によって、放射線量の低減
に努めています。
[写真]
除染作業
25000 立方メートルの汚染土壌については、環境省は中間貯蔵施設
への搬入対象外としていて仮置き場で一時保管ということになる。汚
染土壌を包んでいるフレコンバックから草が生え、破れまた包み直さな
ければならない。あちこちにあるフレコンの山はそのまま置きっ放しと
いうのが国の方針。
除染作業があちこちで行われていて、放射線量の低減が進んでいる
かのように印象づける。実際には2回目、3回目の除染が必要なところ
があるのが現実である。
(5)地域の復興・再生に向けて
×
8 右
下
再生可能エネルギーによる地域の復
興・再生
国は、福島県の沖合約 20 ㎞に大型の
浮体式洋上風力発電施設を設置し、世
界初となる事業化を目指して実証研究
を進めています。……再生可能エネル
ギーを活用した地域の復興が期待され
ています。
再生可能エネルギーの活用を推進する方向性がここでは強調されて
いる。ただ、国は原発再開の方向を強く打ち出しており、再生可能エ
ネルギーの推進はどこに行ったのか。現在の状況からみると推進して
いるとは考えられない。 また再生可能エネルギーの固定価格買取制
度の中断、見直しを打ち出しており、ここで述べている方向とは逆の方
向を打ち出しているようだ。
頁 行
評価
○
◇
本文中の表記
問題点およびに考察
(5)地域の復興・再生に向けて
★持続可能な社会を実現するために、
日本の資源・エネルギー開発と環境保
全などをどのように進めていくのかに
ついて考えてみよう。
8 下
◇持続可能な社会というのはどのような社会なのか、そして資源、エ
ネルギー問題や環境保全などについての論議を作り上げていくため
の絶好の課題である。
2014.5.21 関西電力大飯原発3、4号機運転差し止めを求めた裁判
で福井地裁は原告住民側の主張を認める判決を言い渡した。その中
で、被告(関西電力)側の主張に対し、「原発稼働が電力供給の安定
性、コストの低減につながると主張するが、多数の人の生存そのもの
に関わる権利と電気代の高い低いという問題を並べて議論することは
法的に許されない」「原発停止で多額の貿易赤字が出るとしても、豊か
な国土に国民が根を下ろして生活していることが国益であり、これを取
り戻すことができなくなることが国富の損失だ」「原発稼働が CO2排出
削減に資すると主張するが、福島原発事故は我が国始まって以来最
大の環境汚染であり、原発の運転継続の根拠とすることは甚だしく筋
違いだ」
◇将来にわたってより豊かな社会を作るために原発稼働がいかに問
題なのか、子供たちに議論を投げかけ、最後に福井地裁判決の意味
を考えてみたい。
◇
※発電電力量は火力、水力、原子力が大きい。再生可能エネルギ
ーによる発電がすすまないのは予算のほとんどが原発関連に
使われているためである。例えば現在停止しているもんじゅに
は 2015 年度予算では 301 億円の概算要求がなされている。こ
れまでも維持費として毎年約 200 億円の予算が振り向けられて
いる。
第 2 章
放 射 性 物 質 、 放 射 線 、 放 射 能 と は ?
2-2
放 射 線 の 種 類 と 性 質
(4)放射性物質の半減期
1
×
10
例示として、ヨウ素 131 の8日間、セシウム 137 の 30 年が挙げられ、
炭素14の考古学における年代推定への活用を挙げている。しかし、
セシウム 137 の場合でも、30年経っても半分は残っていると考えるべ
き。「生物学的半減期」という考え方もある。体内に取り込まれた放射性
物質の半分の量が尿などに混じって体外に出ていく時間のことで、セ
シウム137の場合、1歳未満で約9日、9歳までは38日、30 歳までは
半減期は、考古学などの年代測定に利 70 日と言われている。その間に内部被曝が続くことになる。特に原発
由来の最も危険なプルトニウム 239 の半減期 24000 年の紹介がなく、
用されています。
影響が遠い将来まで続くことは知らせるべきだ。
放射性物質の量は時間が経つにつれ
て減り、……例えば、ヨウ素 131 は8日
間で最初の半分の量に減りますが、セ
シウム137は半分の量に減るまでに 30
年かかります。
2-3
放 射 線 に よ る 影 響
(1)外部被曝と内部被曝
9
×
11
放射性物質がいったん体内に取り込ま
れると、洗い流すように簡単には取り除
くことができませんので、その意味では 極めて簡単な触れ方でしかない。内部被曝が重要なこととは思われな
外部被曝よりも注意する必要がありま いような記述である。「徐々に体外に排出されます」という記述は、時
す。体内に取り込まれた放射性物質は 間が経てば問題はなくなるような印象を与える表現である。
徐々に体外に排出されます(種類によ
って排出の速さが違います)。
頁 行
×
11 14
評価
本文中の表記
問題点およびに考察
不必要な内部被曝を防ぐには、原子力
事故由来の放射性セシウムのような、
放射性物質の摂取量をできるだけ少な
くすることが大切です。なお、カリウム
は生物に必要な元素で、……原子力
事故以前からほとんどの食品に含まれ
ています。体の中のカリウム濃度は一
定に保たれているので、カリウムをたく
さん食べたからといって、余計に体に
蓄積するものではありません。
単に「大切」と述べるだけで、そのための手立てについては一切触れ
ていない。さらに、カリウムの例をあげているが、他の放射性物質も同
じであるかのような印象を与える。また、例えばセシウムはカルシウム
と間違えられて体内=骨に取り込まれるがここでは一切触れられてい
ない。
(3)放射線量と健康との関係
1
×
3
×
6
×
7
×
12
放射線が人の健康に及ぼす悪影響に
ついては、まだ科学的に十分な解明が
なされていません。
「まだ十分な解明がなされていない」、「様々な見解」、「まだ明確な結
論はでていない」、「確かな証拠も得られていない」とどの表現も健康
に対する問題はないかのように述べている。
けれども、「がんになる確率が高くなる。」、「子孫への影響がないとは
100mSv 以下の低い放射線量を受ける 言い切れない。」という見解が「出されている。
ことで将来がんなどの病気になるかどう ICRPの公式見解によれば、被ばく量がどんなに小さくても、がんにな
る確率の「上乗せ」は被ばくした量(Sv)に比例する、としている。特に、
かについては、様々な見解がありま
被ばく量が 100mSv 以下なら影響はない、という考え方は誤りとする論
す。
文や報告書が3年前から多く出され、そうならば被ばく量には「境目」
(閾値)がないということになる。
少しの放射線が原因で……未だ明確
また、放射線影響研究所(ABCCと国立予防衛生研究所を再編したも
な結論は出ていません。
の)は調査結果について「影響がないということではない」としている。
ヒロシマ・ナガサキの被曝者の二世、三世の方々への調査ということだ
が、比較的近年になって行われた調査で、ありまだ不確かなこととして
被曝をした人の子孫に放射線の影響
いる。また、なくなった方々の調査はできず、従って不十分な調査を
が伝わるといった確かな証拠も得られ
基にしたものである。
ていません。
×
低線量被ばくによる度合いが、大人と
子どもでどれだけ違うかはっきりとはわ
かっていません。
12
◇
×
14
放射線は、成長過程で栄養素の取り込みが活発なものや細胞分裂が
活発なものに大きな影響を与える。よって、大人よりも子ども、子どもよ
り胎児、植物なら種子、となる。特に放射性ヨウ素による被ばくは、甲状
腺機能の成長期にある幼児期に顕著であり、ヨウ素剤の投与も40歳
以下とされている。
◇問題点を明らかにしながら子どもたちに議論をさせたい。
このデータの根拠は、原爆被ばく者の追跡データが元になっており、
ICRPでは、100mSv を受けたとする
一瞬の外部被ばくのデータである。よって、この数値を内部被ばくに
と・・・・・受ける放射線量が同じであれ
そのまま当てはめるには無理がないのか、また、子どもへのリスクはよ
ば人体への影響の度合いは同じです。 り大きいはずだ。仮に 0.5%であっても、事故により無用な被ばくを受
けることは不当なことだ。
※内容についての、ご意見・ご質問がございましたら、いしかわ教育総合研究所までお願いします。
いしかわ教育総合研究所
〒920-0961 石川県金沢市香林坊1丁目 2-40
TEL 076-263-2368 FAX 076-222-0217
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