2014年8月度 第 68 回 薬の相互作用 1 薬の相互作用 薬物相互作用、 薬の飲み合わせ 2種類以上の薬を併用した時、薬効が増強または減弱 したり、有害作用が起こること。 薬と薬だけでなく、薬と食べ物や飲み物の場合もある。 よく知られている相互作用 ワーファリン と ビタミン K(納豆、青汁、クロレラ) 降圧剤(ノルバスク等)と グレープフルーツジュース 併用しても問題ない場合が多いが、重大な事態が 起こることもある。 2 薬物相互作用で起こること 1.作用の増強; 薬が効きすぎる(副作用の原因となる) 2.作用の減弱; 薬が効きに く く なる 3.新たな副作用が生じる 時として致死的になる場合がある。 3 薬物相互作用の分類 1.薬力学的 相互作用 同じ、あるいは逆の薬理作用を持つ薬を併用すること により、互いの薬が作用点で協力的(拮抗的)に働き、 作用が増強(減弱)する。 (例) ワーファリン と ビタミン K (納豆、青汁、クロレラ) の併用で、ワーファリンの作用が減弱する。 2.薬物動態学的 相互作用 薬の体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)の いづれか の過程で薬物同士の相互作用が起こり、作用が増強 または減弱する。 薬物相互作用は 「代謝」 過程での相互作用が最も多い。 4 薬物動態学的相互作用 「吸収」「分布」「代謝」「排泄」の各過程で相互作用が起こる。 1.「吸収」 過程の場合 ・金属イオンと 難溶性の複合体(キレート)形成 (金属イオン;マグネシウム、鉄、カルシウム、アルミニウム等) 例) 酸化マグネシウム(マグミット等)と ニューキノロン 系の抗菌薬(バクシダール、クラビット、レボフロキサシン) ・吸着剤による吸収低下 ・胃内容排出速度の変化 2.「分布」 過程の場合 血中タンパク結合の競合 → 遊離型(フリー体)薬物の増加(→ 薬効の増強) 5 3.「代謝」 過程の場合 薬物A 代謝 代謝物B、C 薬物代謝酵素(P-450) 排泄 CYP3A4, CYP1A2, CYP2C9, ・・・ 他の薬物による薬物代謝酵素の阻害 (薬物Aの増加 → 薬効の増強) 例) 降圧剤(ノルバスク等)と グレープフルーツジュース (フラノクマリン等) 4.「排泄」 過程の場合 ・尿細管分泌の阻害 ・尿細管再吸収の阻害 6 過去の主な薬害 1.ペニシリン・ショック死事件 2.サリドマイド事件 1956年(昭和31年) 1958年(昭和33年)~1969年(昭和44年) 3.アンプル入り風邪薬事件 4.クロロキン事件 1965年(昭和40年) 1959年(昭和34年)~1975年(昭和50年) 5.スモン事件 6.薬害エイズ事件 1970年(昭和45年) 1970年代後半~1980年代 7.C型肝炎ウイルス感染 8.陣痛促進剤事件 9.解熱剤による四頭筋短縮症 1969年~1994年(平成5年) 1970年(昭和45年)~ 1973年(昭和48年)頃 10.ソリブジン事件 1993年(平成5年) 11.薬害イレッサ事件 2002年(平成14年)~ 7 ソリブジン事件 1993年(平成5年) 薬物相互作用によって死亡者が続出した事件 抗がん剤5-FUを服薬中の患者が、帯状疱疹治療薬 ソリブジンとの相互作用によって、ソリブジンの新発売 後、わずか2~3ヶ月間で15人が死亡した。 8 用語説明 1.帯状疱疹; 水疱瘡と同じウイルスによって起され、神経 に沿って帯状の水ぶくれが生じる。強い疼痛を伴い、 神経痛などの後遺症が残ることもある。 健康な人でも強いストレスや過労が続いて身体の 抵抗力が低下している時にかかり易い。 がん患者は免疫抵抗性が低下しているため、帯状 疱疹にかかり易い。 2.ソリブジン; 帯状疱疹に有効な画期的な新薬として平成 5年に新発売(商品名:ユースビル錠)された。 3.5-FU; 胃がん、結腸・直腸がん、乳がん、子宮頸がん などの、古くからある抗がん剤。 9 1993年(平成5年) 9月 3日 ユースビル錠(ソリブジン) 新発売 9月20日 1例目の死亡 ~ 10月12日までに 10月13日 ~ 11月下旬 7例の死亡 記者発表 緊急安全性情報(ドクターレター) 出荷停止 自主回収 新発売後2~3ヶ月で 15名の死者 (全て5-FU 服用のがん患者) ソルブジンと5-FU の相互作用(飲み合わせ) 10 ソリブジン と 5-FU の相互作用メカニズム (体内での代謝酵素阻害) 5-FU単独の場合 5-FUTP (活性本体・毒性も強い) 5-FU 5-FDHU (活性のない代謝物) ソリブジンとの併用の場合 多量の5-FUTP生成 5-FUTP 骨髄抑制などの 5-FU × 中毒症状 → 死亡 5-FDHU 11 このような事故が起こった背景 危険な相互作用が見逃された理由 1.がん患者は免疫抵抗力が低下し、帯状疱疹になりやすい。 2.がんの告知を受けていない がん患者 が多い(当時)。 (患者自身が抗がん剤を飲んでいることを知らない。) お薬手帳も普及していなかった。 3.臨床試験の段階では併用薬がなく(少なく)、相互作用に よる死亡例がなかった(死亡は癌起因と判定された)。 4.メーカーがこの相互作用の危険性を医師や薬剤師に 周知徹底させなかった。 5.医師や薬剤師が(この事件まで) 薬物相互作用を重く 受け止めていなかった。 12
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