九州工業大学学術機関リポジトリ Title 観測交通量を用いたOD交通量推計手法の実務適用に関す る研究 Author(s) 立石, 亮祐 Issue Date 2014-03-25 URL http://hdl.handle.net/10228/5226 Rights Kyushu Institute of Technology Academic Repository 氏 名 学 位 の種 類 学 位 記 番 号 学 位 授 与 の日 付 学 位 授 与 の条 件 学位論文題目 論文審査委員 立石 亮祐 博 士 (工 学 ) 工 博 甲 第 356号 平 成 26年 3月 25日 学 位 規 則 第 4条 第 1項 該 当 観 測 交 通 量 を用 いたOD交 通 量 推 計 手 法 の実 務 適 用 に関 する研 究 教 授 永瀬 英生 主 査 教 授 秋山 壽一郎 教 授 吉武 哲信 教 授 前田 博 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 都市内道路網等の計画・立案の際には、交通実態の把握や将来交通量推計の基礎データとし て、パーソントリップ調査(以下「PT調査」と記す。)や道路交通センサスによる自動車OD表(起 終 点 交 通 量 表 )が 一般的に 用 い ら れ て いる 。 しか し 、PT調査 は 、 調査実 施 に多 大 な費 用 と 労力 を要するため、比較的規模の大きな都市圏のみでしか実施されておらず、さらに、調査実施間 隔が20年以上である都市圏も多いため、簡易な手法でデータの修正・見直しを行う手法の確立 が求められている。 一 方 、PT調査 が実施 され て い ない 地 方都 市 では 、 道 路交 通 セン サ スのOD表が 用 いら れ てい るが、この際、概 ね市 区町村を1ゾーン とし たレベル(Bゾ ーン)のOD表をもとに、数個の 丁目 からなる小ゾーン (Cゾ ーン等)へ 人口規模等に 比例して分割したOD表 を用いて検討して いる 場 合が多い。しかし、分 割ゾーン数が多い場合 等は、分割OD表の精度に問題が生じ、そのOD表 を用いて推計したリンク(路線)交通量の現況再現性も低下する問題がある。 こ れ ら の 問 題 を 解消 す る た め に は 、 経 済 的 か つ 効 率 的 な OD交 通 量 推定 法 が 必要 で あ る が 、 こ れ に 対 して は 観 測交通 量 を 用 いて OD交通 量を 推 定 す る手 法 (OD逆推 定 )の研 究 が進 め られ、 様々なモデルが提案されている。しかしながら、実務においては、これらの手法は、ほとんど 適用されていないのが現状である。 以上の認識から本研究は、OD逆推定手法に着目して、実務適用上の課題解消策の検討及びO D逆推定の手法としての有効性、妥当性の検証を行ったものである。 本 論 文 は 、 6章 で 構成さ れ て お り 、 以下 に 、本 論 文 の 各 章に お け る研 究 内 容 及び結 果 の 総括 を示す。 第 1章 で は 、本 研究 の背 景 と 目 的 を 明ら か にす る と と も に、 既 往 研究 成 果 のレ ビュ ー 等 を通 じて、実務適用上の課題を整理し、各章の研究内容及び本論文の全体構成を示した。 第2章では、大都市・地方都市共通して実務適用上の重要な課題の一つとなっている「OD逆 推定手法を適用するための交通量観測地点の選定方法」について、観測地点数と推計精度の関 係分析、従来手法や既往研究による設定方法の精度検討及びそれらを踏まえた観測地点の選定 方法の検討を行うために、複数の観測地点選定ケースを設定し、推計精度の検証を行った。そ の 結 果 、 観 測 地 点 数の ODペ ア 網 羅 率 が 高 い ほど 精 度 が 高 く な る こ と を 確 認 し 、実 務 的 な 観 測 地 点 の 選 定 方 法 と して 、 OD網 羅 率 を 軸 と し た観 測 地 点 の 選 定 方 法 を 提 案 し た。 す な わ ち 、 従 来の交通調査で用いられているスクリーンライン・コードンライン調査をベースに、費用や労 力 を 勘 案 し 、 設 定 した リ ン ク で 捉 え き れ て い な い ODペ ア の 捕 捉 率 の高 い リ ンク か ら 順 次 加 え ていく方法を提案した。 第3章では、もう一つの、大都市・地方都市共通した実務適用上の課題であるOD交通量の時 点修正法としての残差平方和モデルの有効性及び前章で検討した交通量観測地点選定方法の 妥当性を検証した。具体的には、第3回北部九州圏PT調査(平成5年)による自動車OD表を残差平 方和モデルの適用により、平成17年に時点修正し、これと第4回北部九州圏PT調査による平成1 7年自動車OD表と を比 較している 。この結 果 、OD逆推定は、過 去の OD表を時点修正す る場 合 に有効な手法であること及び観測地点数を多くすることが必ずしも精度向上にはつながらず、 第2章で提案したOD網羅率を軸とした選定手法が有効であることを確認した。 第4章で は、PT調査や 道路 交通セ ンサ スに加 えて 、新た なデ ータ収 集法 として 注目 されて い る、いわゆるビッグデータである民間プローブデータのOD逆推定への適用可能性を検討した。 具 体 的 に は 、 プ ロ ーブ デ ー タ か ら 作 成 し た OD表 に 対 し て 、 道 路 に 設 置 さ れ てい る 車 両 感 知 器 によるデータを用いて OD逆推定を適用して修正OD交通量を推計した。その上で、修正された OD表 と 道 路 交 通 セ ン サ ス の OD表 と の 比 較 及 び 修 正 OD表 を 用 い て 推 計 し た区 間 交 通 量 と 観 測 交通量(車両感知器による)の比較等を通じて再現精度の検証を行った。その結果、今後、収 集可能なサンプル数が増加すれば分析精度の一層の向上が期待でき、あわせて民間プローブデ ータ調査により、調査のための費用と労力が軽減できる可能性を指摘できた。 第5章では、第2,3章で検討したOD逆推定法の道路整備に対する効果分析への適用可能性を検 証 し た 。 す な わ ち 、道 路 整 備 前 の 交 通 実 態 調 査 結 果 を も と に 、 道 路 整 備 前 に つい て OD逆 推定 を 適 用 し 、 得 ら れ た整 備 前 修 正 OD表 を 用 い て推 計 し た 道 路 整 備 後 リ ン ク 交 通量 と 、 道 路 整 備 後 実 測 リ ン ク 交 通 量と を 比 較 す る こ と に よ り 、 交 通 流 変 化 推 計 に 対 す る 整 備 前OD逆 推 定 適用 の 有 効 性 を 検 証 し た。 さ ら に 、 OD逆 推 定 を ベー ス に 得 ら れ た 交 通 量 を 既 存 の交 通 流 シ ミ ュ レ ーション手法に適用した結果、渋滞長等の精度が良好であることを確認した。このように本逆 推定手法は、既存の交通流シミュレーション手法との適合性があり、かつ比較的精度よく推計 が可能であるため、実務的に有益であると考えられる。 第6章では、各章で得られた知見及び今後の展望をまとめて全体の結論とした。 学 位 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 都 市 内 道 路 網 等 を 計 画・立 案 す る 際 に は 、交 通 実 態 の 把 握 や 将 来 交 通 量 推 計 の 基 礎 デ ー タ と し て 、パ ー ソ ン ト リ ッ プ 調 査 (以 下 「 P T調 査 」と 記 す 。) や 道 路 交 通 セ ン サ ス の 自 動 車 OD表 (起 終 点 交 通 量 表 )を 一 般 的 に 用 い る 。 し か し 、 こ れ ら の 調 査 は 実 施 に 多 大 な 費 用 と 労 力 を 要 す る と と も に 、 PT調 査 は 大 都 市 圏 に 実 施 が 限 定 さ れ 、 一 方 、 道 路 交 通 セ ン サ ス は 地 方 都 市 で も 実 施 さ れ る も の の 、概 ね 市 区 町 村 を 1 ゾ ー ン と し て い る た め に 丁目レベルの小ゾーンへの適用時には、路線別交通量の再現精度に問題がある。 こ れ ら の 問 題 を 解 消 す る た め に 、 経 済 的 か つ 効 率 的 な OD 交 通 量 推 定 法 と し て 観 測 交 通 量 を 用 い て O D 交 通 量 を 推 定 す る 手 法 (O D 逆 推 定 )の 研 究 が 進 め ら れ 、 様 々 な モ デ ル が こ れ ま で 提 案 さ れ て い る が 、実 務 に お い て は 、こ れ ら の 手 法 は ほ と ん ど 適 用 さ れ て い な い 。 こ の よ う な 現 状 に 対 し て 、 本 論 文 は 、 OD 逆 推 定 手 法 の 実 務 適 用 上 の 課 題 解 消 策 の 検 討 及 び OD逆 推 定 の 手 法 と し て の 有 効 性 、 妥 当 性 の 検 証 を 行 っ た も の で あ る 。 著 者 は 、ま ず 、大 都 市 ・地 方 都 市 に 共 通 し た 実 務 適 用 上 の 重 要 な 課 題 の 一 つ と な っ て い る 「 OD 逆 推 定 手 法 を 適 用 す る た め の 交 通 量 観 測 地 点 の 選 定 方 法 」 に つ い て 、 観 測 地 点 数 と 推 計 精 度 の 関 係 分 析 、既 往 の 設 定 方 法 の 精 度 検 討 及 び そ れ ら を 踏 ま え た 観 測 地 点 の 選 定 方 法 の 検 討 を 行 う た め に 、 複 数 の 観 測 地 点 選 定 ケ ー ス を 設 定 し 、 推計精度の 検証 を行っている。その結果、観測地点のODペア網羅率が高いほど精度が高くなることを確認し、 実 務 的 な 観 測 地 点 の選 定 方 法 と し て 、 OD網 羅率 を 軸 と し た 観 測 地 点 の 選 定 方法 を 提 案 し て い る。 次 に 、 も う 一 つ の、 大 都 市 ・ 地 方 都 市 に 共 通 し た 実 務 適 用 上 の 課 題 で あ るOD交 通 量 の 時 点 修正法としての残差平方和モデルの有効性に関する検証を、第3回北部九州圏PT調査(平成5年) と第4回北部九州圏PT調査(平成17年)の2時点のデータを用いて行っている。その結果、OD 逆 推 定 は 過 去 の OD表 を時 点 修 正 す る 場 合 に 有 効 な 手 法 で あ る こ と 、 及 び 観測 地 点 数 を 多 く す る こ と が 必 ず し も 精度 向 上 に は つ な が ら ず 、 先 に 提 案 し た OD網 羅 率を 軸 と し た観 測 地 点 選 定 手法が有効であることなどの知見を得ている。 さらに、PT調査や道路交通センサスに加えて、新たなデータ収集法として注目されている、 い わ ゆ る ビ ッ グ デ ータ で あ る 民 間 プ ロ ー ブ デ ー タ の 活 用 方 法 と し て の OD逆推 定 手 法 の 有 効性 を検討している。その結果、本研究で使用した民間プローブデータは、サンプル数が少ないに も か か わ ら ず 、 十 分に 使 用 に 耐 え う る 精 度 で OD交 通 量 の 推 計 が 可 能で あ る こと を 確 認 し て い る。その上で、今後、収集可能なサンプル数が増加すれば分析精度の一層の向上が期待でき、 あわせて民間プローブデータ調査により、調査のための費用と労力が軽減できる可能性を指摘 している。 ま た 、 OD逆 推 定法 の 道 路 整 備 に 対 す る 効 果 分 析 へ の 適 用 可 能 性 に つ い て、 道 路 整 備 前 の 交 通実態調査結果をもと に、道路整備前につい てOD逆推定を適用し、得られた整備前修正OD表 を用いて推計した道路整備後リンク交通量と、道路整備後実測リンク交通量とを比較すること により、交通流変化推 計に対する整備前OD逆推定適用の有効性を検 証している。さらに、 OD 逆推定をベースに得られた交通量を既存の交通流シミュレーション手法に適用して、渋滞長等 の 推 計 精 度 が 良 好 であ る こ と を 確 認 し て い る 。 こ の よ う に OD逆 推 定手 法 は 、 既存 の 交 通 流 シ ミュレーション手法との適合性があり、かつ比較的精度よく推計が可能であるため、実務的に 有益であることを指摘している。 以上要するに、本論文は、これまでに数多くの研究がなされているにもかかわらず研究段階 に留まっていた観測交 通量からOD交通量を推計するOD逆推定手法の実務適用に向けて有用 な 知見を与え、建設社会工学の発展に寄与するところ大である。よって、本論文は博士(工学) の学位論文に値するものと認められる。 また、審査委員および公聴会における出席者から多くの質問がなされたが、いずれも著者に より適切な説明がなされ、質問者の理解がえられた。 以上により、論文調査及び最終試験の結果に基づき、審査委員会において慎重に審査 した結果、本論文が、博士(工学)の学位に十分値するものであると判断した。
© Copyright 2024 ExpyDoc