有機反応の基礎(第4回)
薬化学教室
伊藤 喬
8 アルケンの反応と合成
アルケンを用いる
付加反応
極めて多くの化合
物の合成に使用
することができる。
生成物は多様だ
が反応機構には
共通性がある。
二重結合のπ電子
アルコール
アルカン
ハロヒドリン
1,2-ジハロゲン化合物
ハロゲン化物
1,2-ジオール
アルケン
エポキシド
カルボニル
化合物
シクロプロパン
8 アルケンの反応と合成
アルケンを用いる
付加反応
極めて多くの化合
物の合成に使用
することができる。
生成物は多様だ
が反応機構には
共通性がある。
二重結合のπ電子
アルコール
アルカン
ハロヒドリン
1,2-ジハロゲン化合物
ハロゲン化物
1,2-ジオール
アルケン
エポキシド
カルボニル
化合物
シクロプロパン
8 アルケンの反応と合成
アルケンを用いる
付加反応
極めて多くの化合
物の合成に使用
することができる。
生成物は多様だ
が反応機構には
共通性がある。
二重結合のπ電子
アルコール
アルカン
ハロヒドリン
1,2-ジハロゲン化合物
ハロゲン化物
1,2-ジオール
アルケン
エポキシド
カルボニル
化合物
シクロプロパン
8.1 アルケンの製法
原料となるアルケンはどのようにして獲得するか。
付加反応
脱離反応
アルケンは、これから学ぶ付加反応の逆反応(脱離反応)を用いて合成される。
8.2 アルケンへのハロゲンの付加
塩素Cl2と臭素Br2はアルケンに付加して1,2-ジハロゲン化合物
を生成する。
塩素はCl+Cl-として、臭素はBr+Br-として反応する。
フッ素F2は反応性が高すぎ、ヨウ素I2は反応性が低すぎる。
エテン(エチレン)
1,2-ジクロロエタン
(1,2-ジハロゲン化合物)
臭素(Br2)の付加 反応
H
H
C
C
H
H
H
+
Br
Br
CCl4
H
Br
C
Br
C
H
H
Br2自体は茶褐色の液体だが、アルケンと付加すると無色になる
アルケンの検出法として用いることが出来る。
想定される反応機構
臭素はBr+Br-として反応する
H+Br-が付加する場合と同じ反応機構?
Br+が先に付加
カルボカチオン
中間体
1,2-ジハロゲン化合物
臭素Br2付加の立体化学
(A)
H
-
H
Br
+
Br
(B)
H
+
H
Br
H
Br
H
Br
from (A)
Br
Br
from (B)
カルボカチオン中間体を経由すると、経路(A)由来の生成物(trans体)
と経路B由来の生成物(cis体)が混合物として得られるはず
実際にはtrans体のみが生成する → なぜか?
単一の生成物
cis-体は全く生成しない
臭素Br2付加の立体化学
Br+はアルケンに付加して環状イオン(ブロモニウムイオン)を生成する。
bromonium=bromo(臭素) + nium(正のイオン)
塩素の場合にもクロロニウム(chloronium)イオンが生成する。
アルケンと臭素が接近
電子対移動が起こる
ブロモニウムイオン
脱離した
臭化物イオン
ブロモニウムイオンを経由する反応
Br(赤)の反対側からの攻撃が優先
trans
付加体
下からのBr-の付加はBr(赤)により阻害される
bromonium ion
H
H
Br
2
臭素の原子半径が大きいため、SP 混成の2つの炭素原子と
相互作用してできる
生成物の立体構造
(A)'
Br
+
H (A) Br
H
Br
H
R
(B)
bromonium ion
Br
Br
Br
R
+
H
1 50% from (A)
H
S
H
S
Br
2 50% from (A)'
(A)から得られる生成物1は(1R,2R)化合物
(A’)から得られる生成物2は(1S,2S)化合物 ラセミ体が生成する。
シクロペンテンから得られるブロモニウム
イオンの静電ポテンシャル図
構造式では+(青)はBr上にあるが、
実際には環の上面が電子不足。
問題1

1,2-ジメチルシクロヘキセンに塩素Cl2を付加させると、
どんな生成物が得られるか。また、生成物の立体配置
を示しなさい。
1)
CH3
CH3
Cl2
問題1ー解答
1)
CH3
Cl
Cl2
S
CH3
(A)
S
Cl
Cl
CH3
CH3
+
R
CH3
(B)
R
Cl
CH3
塩素Cl2がトランス付加した生成物(A)、(B)が得られる。
(A)と(B)は鏡像異性体であり、それぞれ50%ずつ生成する。
ClH3C
(A)
(B)
CH3
Cl
クロロニウムイオン中間体
自然界で起こっているハロゲン化
ハロゲン化物に富んだ環境で生育している海洋生物には、
アルケンのハロゲン化を用いて生存しているものがいる。
ハロモンhalomon
紅藻の一種 Portieria hornemanniiから単離された。紅藻はハロモ
ンの毒性で捕食者である魚や海生生物から身を守っている。
腫瘍細胞に対して選択的に毒性を示すことが見いだされた。
8.3 HOXの付加:ハロヒドリン
H
H
C
H
H
H
C
+
Br
Br
H
OH
C
H 2O
C
Br
H
H
水中でハロゲン化すると1,2-ハロアルコール(ハロヒドリン)が生成
溶媒として水が大過剰存在するため
水との反応が優先して起こる
H2 O
+
Br
H
-
OH
Br
R
H
R
(A)
O
Br
H
Br
H
Br bromonium ion
H
H
HO
H
H
+ H-Br
H
H
S
(B)
S
Br
(A):(B) = 1:1
Br-
OH以外の求核剤を添加した例
+ Br2 + Cl
Br2
CCl4
Cl
Cl
H
Br
H
+
Br
H
Br
H
Br
Br
+ Br2
MeOH
Br
H
+
OMe
H
鏡像異性体
問題2

次の反応の生成物(複数のこともある)を示しな
さい。
問題2ー1)解答
1)
3
2
2
3
3
2
3
Cl+が末端の炭素に結合し、CH3O-が内側に結合する。
クロロニウムイオンを経由しても,マルコウニコフ則に従っている。
3
3
2
クロロニウムイオン
クロロニウムイオンの炭素原子上の
電子密度は、カルボカチオンを安定
化できる炭素上でより欠損(δ+)し
ている。
問題2-2)解答
S
R
S
R
(A)と(B)は互いに鏡像異性体
R
S
S
S
R
S
R
(A‘)と(B’)が等量生成し、これにOHーが反応する。
OHーが反応した炭素は立体反転している。
R
Br2の代わりに用いる試薬:NBS
Br2は反応性が高く取り扱いにくいので代わりにNBSを用いることがある。
ゆっくりとBr+を発生
NBS = N-ブロモコハク酸イミド(N-bromosuccinimide)
NBSの分解による
Br+の発生
8.4 アルケンの水和:水の付加反応
H
H
H
C
C
H
H
H
+
H
H
X=
H2PO4-
HO
C
H
H
C
C
H
H
carbocation
X-
H
C
HSO4-,
H
H
X
H2O
溶媒として水が大過剰存在するため
水との反応が優先して起こる
HClを用いると二段階目でCl-が付加するが、HSO4-は付加反応を起こさない。
上記の反応は高温(250℃)、強酸性条件を必要とするため、
実用的ではない。
実用的な方法:オキシ水銀化反応
オキシ水銀化反応
Hg(OAC)2 : 酢酸水銀
アルケンに付加反応を起こす。
NaBH4 : 水素化ホウ素ナトリウム 還元剤
THF : テトラヒドロフラン tetrahydrofuran
furan
Hが4個
結合
オキシ水銀化反応の特徴
カルボカチオンを経由しないため転位反応が起こらない
THF
中間体:マーキュリニウムイオン
マーキュリニウムイオン
①Hg2+の求電子付加
②H2Oの求核付加
③NaBH4による還元
Hg2+はHg(水銀)として回収される。
Mercurinium = Mercury (水銀)+nium (正のイオン)
問題3

次のアルケンのオキシ水銀化によって得られる
生成物を書きなさい。
問題3 解答
いずれもマルコウニコフ型付加を起こす。
8.5 ヒドロホウ素化-酸化反応
ボランBH3 最外殻に6電子しか持っていない
→ 求電子試薬 (カルボカチオンと等電子構造)
 常温で気体であるが、エーテル系の溶媒には錯体
を作って溶解する

空のp軌道
酸素の非共有電子対
が配位する
BH3
求電子試薬として
の反応性を持つ
ヒドロホウ素化-酸化反応の特徴
H
OH
1) BH3
CH3
2) H2O2, NaOH
H
CH3
強酸やオキシ水銀化による水の付加反応とは、水素と水酸
基の結合する位置が逆になっている。
→ 非Markovnikov型付加反応
また、新しく導入された水素と水酸基は、二重結合の同じ側
から付加する。
→ シス付加
ヒドロホウ素化-酸化反応の
位置選択性および立体選択性
a) ヒドロホウ素化の過程
 立体障害の小さい側にホウ素が、大きい側に水
素が付加する
 導入される基は、同じ側から付加する(シス付加)
H
BH3
H
H
CH3
H
CH3
CH3
B
H
H
4中心遷移状態
H2B
H
ヒドロホウ素化の反応機構
BH2とHは同じ側から付加
Bは置換基のない方に付加
1-メチルシクロ
ペンテン
立体的に
混み合う
生成しない
trans-2-メチル
シクロペンタノール
酸化の過程では立体配置は変化しない
H
CH 3
H
H 2B
H
H
H
B
CH 3
H
O
OH
O-O-H
H
OH
CH3
H
CH3
H2O
O
BH2
H
HO
HO
H
B
H
H
ヒドロホウ素化の化学量論
BH3:3等量のアルケンと反応できる
(B-H結合1個につき1つのアルケンと反応できる)
CH3
H
3
CH3
+ BH3
H
H
H
H3C
OH
H2O2
NaOH
H
3
CH3
(B)
+ B(OH)3
H
B
H
H CH3
(A)
問題4
2,4-ジメチル-2-ペンテンに(a)、(b)の条件で反応を行ったとき、
どんな生成物が得られるか。
2,4-ジメチル-2-ペンテン
問題4の解答
(a)からは非マルコウニコフ型
(b)からはマルコウニコフ型
の生成物が得られる。
2,4-ジメチル-3-ペンタノール
2,4-ジメチル-2-ペンタノール